第180話 通路には危険がいっぱい
俺達は微妙な気分で材料貯蔵庫を出た。
次の目標地点は近くにある品質管理室だ。先程大量に倒したせいか、あまり敵は出てこなかった。レベルはあれば有るほど良い。なので死ぬほど出てくるのは困るが、全く出てこないのもまた困る。
何より生き物と違ってここに出てくるのはゴツゴツした無骨なメカで、壊してるだけだ。
殺したわけじゃないので罪悪感が低くて良い。しかも強くて倒しがいがあり、経験値も高い。俺の良い餌だ。適度にいっぱいくれ。
先程から皆なんとなく口を開く気にならず、テキストチャットが続く。
(品質管理室は大丈夫なのであろうな?)
(知らん……何もわからん)
(普通の部屋だと良いのだけれど……)
文字を読む手間はあるが、口を動かさなくても喋れるのは便利だ。
品質管理室に到着すると、ある意味当然なのだが部屋にロックが掛かっていた。
『パスワードを入力してください』
……いや、まさかね?
でも俺には嫌な直感がある。パスワードの使い回しはセキュリティ的によくないって言うけど、でも万が一があるからな。
「前と同じパスワード入れてみるか、インテ……」
「はい……」
前と同じパスワード=『神々しく美しいサラ』である。
ピーっという音が流れ、自動ドアは開いた。ドアが開いてこんなにがっかりしたことは生まれて初めてかもしれない……。開いた事自体は喜ぶべきことなんだが。
『内務庁ってパスワード使いまわしなんだ……嘘だろ』
『姫、この国やばくないっすか、国は一体税金で何をしてるんすか、本当にテオネリア大丈夫なんすよね?!』
『どうしよう、何も否定できない……たった十五年のんびりしてたらこんなにカスな国になってたなんて……死にたい……』
『姫、お気を確かに……それを是正するのが我らの職務でございますよ……』
俺達の様子をチラ見しながら作業していたエト姫達が衝撃を受け、珍しく弱気になっている。
「なあ、未来の技術の割にセキュリティクソ雑魚すぎない?」
『星間司法庁と司法府と王室全部でセキュリティチェックをさせよう……本来なら身分証と生体認証を併用しているはずなんだが……どうしてパスワードだけなんて、そんな……』
エト姫が過去一弱々しい声を出しているが、やむを得ないだろう。国の重要施設がセキュリティ弱々で、しかもこんなウンコみたいなパスワード使いまわしてるとかあまりに悲惨だ……。
「要するにそのうんざりする言葉がマスターキーなのか?」
「らしいな……」
「ゔぇれるとやらが自己顕示欲の化生だって言うことは、私にもわかるわね……」
おタヒも相当自己顕示欲は強い方だと思うが、ここまでではない。
というか、ヴェレルより自己顕示欲が強いやつを見たことがない。何がヴェレルをそこまで駆り立てているのだろうか……。
中に入ると俺達にはよくわからない検査機器がたくさんあったが、薄っすらとホコリが積もっていた。しばらく使われていないらしい。中にあった書類を確保して、無事部屋を出た。
次は分析室に向かう。
また何もないのかと思いきや今度は久々にエリアキーパーが出てきた。
『警告:ここから先、一般の収監者の立ち入りは禁止されています』
という表示が出て、狭い通路を塞ぐサイズの巨大な球体がドスン、と虚無から数個落ちてきた。運動会の大玉転がしの玉のようだ。
俺とおタヒの身長よりも高く、グリセルダよりも低いから直径150、60センチくらいかな……。
カラフルで巨大なボールに、小さな目が二つ着いている。
「何だこりゃ、ボール?」
「何だこれは……巨大にした子供の玩具のようだが」
「色は絹で作った鞠みたいで綺麗ね」
一見ただのボールだが、あまりにも巨大で怪しいので鑑定する。
『ラバーゴーレム/ 弾力があり、ありとあらゆる物理攻撃を跳ね返す宇宙ゴム製のゴーレム。溶剤・炎が効くが有毒ガスを発生する。重量:1.2トン』
「げえっ、ゴーレム! 面倒くせえ敵出してきたな! 重量なんだよ、1.2トンって!」
「1.2トンとはどのくらいだ?」
「ヤード・ポンド法で2645ポンド、尺貫法で320貫でございます」
「……なんだそれは……巨石ではないか」
「庭の石のように重いわね……まあ襲ってこないから良いのではないのかしら?」
とおタヒが口にした瞬間、ぼよん! とラバーゴーレムが跳ねた。三匹いるゴーレムは互いにぶつかり合い、縁日で買えるスーパーボールのように跳ね返りつつこちらに襲ってくる。
俺達はまだ戦闘態勢を取れていなかった。
油断がすぎるがどうしようもない。
「うわああああ! おタヒが余計なこと言うからああああ!」
「絶対関係ないわよ!」
「いいから一旦引くぞチケンとおタヒ!」
とりあえず逃げる。逃げながら俺は思わずナイフを投げるが、逆に跳ね返っておタヒに当たりそうになり、自分で白刃取りして止めた。あぶねえ。素早さと幸運のお陰でおタヒは守れた。
グリセルダは剣で思いっきり殴りつけたものの巨大なゴムの塊である。衝撃は吸収される上に、剣は半ばで埋まり取り出せなくなった。
「あああああ、私の剣が!」
珍しく慌てふためくグリセルダの叫びは俺得ではあるが、後で回収しないといけないな……。
考えている間にもラバーゴーレムは跳ねる。
俺は完全回避で避けることが出来たが牛頭くんが思いっきり直撃し潰れて叫びを上げた。ゴーレムはさらに無軌道に跳ね続ける。
「にょわーーーーー!」
「ぐっ……!」
グリセルダもゴーレムの突進に跳ね飛ばされた。1.2トンのゴムボールがすごい勢いで体当りしてきたのだ。流石に無事では済まない。
今まで順調にやってきたけど、こんなアホみたいな敵に苦戦することある?!
試しに電磁パルスのナイフも投げたが、ドローンには効いたがあれには全然効かなかった。魔法で動いているのか、分厚いゴムが電磁パルスを吸収しているのか……。
銃も検討したが万が一跳弾したら俺とインテでも守りきれない可能性があるので却下だ。
俺達はとりあえず襲ってこないところまで慌てて逃げ出した。曲がり角を曲がると追ってこなかったので本当によかった……。
「……ミノタウロスの突進を食らったかのようで中々応えるな……」
グリセルダは痛そうな顔をしながらインテに応急手当パッチを貼ってもらっていた。
おっさんがかけてくれた【軽減障壁】のお陰で打撲で済んでいたが、なかったら骨や内臓までいってたかもしれないな……。
「質量ってあるだけで武器になるからな……逆にドラゴンみたいに意思がある方が楽まである」
「無軌道に跳ねるから避けようもないしな……」
「なによあれ! 牛頭くん達がぺちゃんこじゃない! 元が紙だから再度召喚すれば良いんだけども……こんなに平らになると思わなかったわね……」
「にょわ……」
「きゅ……」
よく見れば風伯もラバーゴーレムに襲われてぺちゃんこになって、牛頭くんと揃ってカートゥーンアニメのようにまっ平らな外見になっていた。
まるで金持ちの家にある虎やクマの敷物のようだが、見た目がゆるキャラなのでそう言うグッズにも見える。とりあえず撫でておこう。生きているのは幸いである。
「うーん、想定してないパターンのモンスターが出るな、さすが宇宙は広いぜ……。インテ、これなんか攻略法ないの?」
「データベースには存在もございませんねえ」
まじかよ、定番モンスターじゃないのか、あれ。一応エト姫たちにも聞いてみるか……。
『え、そのモンスターなんすか、初めて見たっす怖……』
『姫、あれ殴りに行きたいです! 初見のモンスター倒したーい!』
『時間の無駄だからやめとけ』
珍しい。エト姫が吉田さんを止める方になることあるんだ。
『ヨシュア、作業に戻りましょう……姫も頑張ってるんですよ』
『体が動かしたいんです! あんな意味不明な物殴ってみたいに決まってるじゃないですかー、もー、事務作業が憎い!』
珍しく吉田さんが自我を出していた。まあでも、傍から見ると楽しそうに見えるかもしれない。俺も吉田さんがこれと戦うのはちょっと見てみたいが……。




