第175話 メタゲーム
俺達三人はエト姫御一行に残りの仕事を任せ、寝ることにした。
何も手伝えそうもなかったので。
二段ベッドが分割されて三つのベッドとして繋げられている。俺は二段ベッドの上の方でいい、と言ったが許可されなかった。
まあこの部屋ちょっと肌寒いからいいか……。一人で布団にくるまって寝たほうが絶対落ち着くんだが……。
美少女二人に挟まれて寝るなんて、一年前の俺にとってはご褒美どころか死ぬまでに一生味わってみたい極上のイベントだったはずだが、慣れてしまうともう駄目だ。
こういうイベントはたまに起きるからいい。正直俺は人と暮らすのに向いてないのかもしれない。
ベッドの上に行くと、外から見たのとは違い明るさも音も届かない寝付きやすい空間になっている。このへんはさすが異星の技術でできたベッドだな……。
ベッドに入るとおタヒは早々に寝てしまったが、俺にはまだ少し寝るのに早い。まだ夜の十時前だ。
俺はせっかくなのでステータス画面を開き、実は先程カンストしていた隠密行動の熟練度で何かが発生したのを見てみることにした。こういうのは一人でじっくり考えたい。
あと、レベルが上ったのでステータスも振りたい。まだ、素早さと幸運以外のステータスを全く振っておらず、いくつかステータスポイントも残っているのだ。
とりあえず、先に見るのはスキルの方だな。
『隠密行動/LvMAX』という表示が出ている。
二層にいたときは熟練度Lv5だった隠密行動が、ここに来てカンストした。
七層での祭りの時と、お客様の対応のときにゴリゴリ上がっているのは気がついていた。それでもまだ八層についたときはLv8だったのだが、先程の全力ソロ活動でカンストしたようだった。
どうやら、実際にどれだけの人数や機械を誤魔化し、監視の目がある中で出し抜いたのかが熟練度アップの基準になるようだった。
隠密行動LvMAXに通知ポップが出ているので、それを押すと、表示が変化した。
『隠密行動( パッシブスキル)/ 自由にオンオフを切り替えることができる』
うお……これは驚く。今までの30分ですら大分恵まれてるスキルなのに、それがパッシブになるとは……。これ、一応エト姫とかにも教えたほうがいいかなあ。
そして、もう一つ現れた表示を読む。
『インヴィジブル/ 隠密行動の上位スキル。ありとあらゆるセンサーを無効化し、効果時間中は物理干渉も無効化する。□を10消費する。MP15消費。10分持続』
……ええ。究極の陰キャスキルと言えなくもないが、これつけたらインテと連絡取れなくなったりしないだろうか。不安だ。
明日ちょっと皆に頼んで実験してみようか。でも、謎の□を使うんだよな……。なんなんだ、これ。
というか、上位スキルはいいけど謎の□を消費しないスキルが取りたい。もしくは□の数字を確認させてほしい。
俺が悩んでいると、左隣に寝ていたはずのグリセルダが、白い光を指から放った。前も見たことがある、防音結界の魔法だ。
「ごめん。起こしたか?」
「寝ていなかったが、お前が動揺しているようなので気になったのだ」
よく見てるな、俺を。そんなに過保護にしなくてもいいんだが。
俺は一応先程出てきたスキルの話をすると、グリセルダは少し考え込んだ。
「……そうだな、そのスキルを使うのはよほどの緊急事態だけにするのが良かろう。治安維持を生業にしているものからすればお前のスキルは欲しいものであろうし、恐怖でもあろうな……あまり彼らの前では多様しないほうが良いのかもしれぬ」
「確かに……本格的に犯罪者になれるし、何か謎の物質を消費するしな……。しかし、物理干渉を受けないってことは魔法は受けるのかな」
「試してみるしかなかろうが、どの様な魔法で試せばいいものか……ああ、一つだけあるな。お前を傷つけない魔法が」
おお、そんな都合の良い魔法があるのか。
「えっ、じゃあ俺、ここで動かずにスキルを発動するから、見えなくなったらその魔法をかけてみてくれるか?」
「承知した」
「【インヴィジブル】!」
発動と同時に、布団にくるまっていたはずなのに布団はふわりと地面に落ち、先程まで俺がいたはずの場所は空虚になっていた。もちろん俺はゴロゴロしたままである。
グリセルダが俺のいる場所を触るが、その手は俺を突き抜けてベッドに触れている。マジで物理は突き抜けるらしいな……。
「ふむ、全く見えぬし、触れぬな……」
グリセルダの言葉に、俺も~と返したのだが、声も聞こえなくなっているらしい。そりゃそうか。グリセルダの手に触ってみたけど、なんの感触もない。こちらからも干渉できないのか。
「ではチケン、使うぞ。【灰は灰に】」
あ、あのスキルだ。
一瞬だけグリセルダの手が薄っすらと光ると同時に、俺の【インヴィジブル】は解除されていた。なるほど、魔法の干渉は受けるのか。納得だ。
しかし、この魔法どういう効果なんだ。
「ふむ、やはり効いたか。よかった、お前が戻ってきて」
「いやどこにも行ってなかった、ここにいたからな!」
「布団も手もすり抜けていたな……本当にここにいたのか?」
グリセルダが俺の頭や顔を楽しそうにワシャワシャと触る。くすぐったくて俺は思わず身をよじるが、それをグリセルダは楽しそうに見ていた。
「いや、それよりも、何なんだそのスキル。エロ大臣の小さい太陽みたいなの消したり、俺のスキルを解除したり。あれ? でも社長のスキルは解除されてないな」
「……先程のあの者たちの説明によれば、ユニークスキルだろうな。我が家系に伝わり、亡き兄達と私が引き継いだ。どうということはない、魔法で出来たもの、形無き者を、選んで無に帰すだけの魔法だ。きちんと親の腹から生まれたような生き物や、物理的に作られたものは消せぬ」
サラッと言うが、いや、それ良スキルじゃね? 魔法で作られたバリアなんかも解除できるってことだし……。
「……使いようによっては激強スキルじゃね?」
「持っていると知られれば対策されるからな。お陰で我が国近辺では、魔法戦が下火になり、物理的な武器が発達してきた。銃や大砲等だ。だから私も辺境伯に嫁に出されそうになったり、士官学校に通う羽目になった」
ああ、そういうメタになれば、そりゃ対策されるか……。
てか、ローレンツェンって相当やばい国だったんじゃないか。王家の【千里眼】に、リーフェンシュタール家の【灰は灰に】。魔法で戦う国ならトップメタになって世界有数の強国になれるだろう。
そして、トップメタはいつかは対策される。
そのいつかが、グリセルダの生きた時代だった、ということか……。
メタに対策するために、グリセルダは自分を鍛えざるを得なかったのだろう。強いスキルを持っているだけでは生き残れない。その苦労は俺には理解できないレベルのものだろうな……。
グリセルダは布団ごと俺を引き寄せ、まるでぬいぐるみのように頭を撫で、抱きしめた。
「知られていなければこそ生きるスキルなのだ。お前もそのスキルは隠したほうが良かろう。お互いの秘密としよう、いいな?」
囁くグリセルダに、俺は頷いた。拒否できるわけがない。
俺はともかく、グリセルダのスキルは確かにこの世界ではかなりの強スキルだ。対策がされなければ、の話だが。
エト姫や吉田さん達の口が軽いとは思わない。それでもこのスキルは、知らせないことが一番の強みになるだろうことは、俺にも理解できた。
「おタヒには?」
「機会があれば話すのが良かろうが、今ではないな……寝ているのを起こすのは偲びないし、お前たち以外の誰にも聞かれたくはない」
おタヒはすやすやと、湯たんぽ代わりの牛頭くんを抱きしめ爆睡している。
確かに、起こしたくないな。
寝ているおタヒはまるでぬいぐるみを抱く天使のようだった。
俺はなんとなく抱えていたものがスッキリし、その後すぐに寝落ちした。
良いよな、この体質。俺の数少ない美点の一つだ。
ステータスはまあ困ってから振ればいいや。




