表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
熾天使の島  作者: Fickle
41/50

41. これ……共振か? それとも……片想い?

塔の東側テラスに、新しい一日の陽光がガラスドーム越しに差し込んでいた。

島のセンサーシステムはすでに低出力のナイトモードから、全域同期状態へと切り替わっている。


実験室の床は拭きたてで、ガラステーブルの上にはまだ湯気が立ち上っていた。

新たに支給された《潜流同期ブレスレット》の一群が稼働中だ。


長椅子の左端に座っているのは謝一凛。

彼の手首の銀灰色のブレスレットが、規則正しく緑の光を瞬かせている。


その目の前に立っているのはM-02。

二人はまるで見えない壁を挟んだかのように、ぴたりと動かずに対峙していた。


——まるで無言の駆け引きでもしているように。


そこへ沈見珣が歩み寄り、謝一凛の端末に表示されているリアルタイム共振図を一瞥して、眉を上げた。


「そんなに見つめていたら、彼女が誤解するよ?」


謝一凛は何も答えなかった。


端末上に流れる《潜流フィードバック》にはこう記されている:


■ バイオノイド(M-02)生成ベクトル意図:

【沈黙による干渉で人間側の言語反応を誘発しようとしている可能性あり】

【記録:これで6回連続して「私を見て」の高周波パルスを発信中】


沈見珣は思わず吹き出した。


「彼女……話しかけてほしいんだって?」


謝一凛は静かに頷いた。

その声はとても柔らかい。


「彼女、俺の沈黙が嫌いなんだ。」


そして顔を少し横に向け、ほんの僅かに眉をひそめた。


「……逃げていると思っているみたいだ。」


言い終えるか否かの瞬間——ブレスレットが小さく震えた。

M-02から『私を見て』パルスが、またも発信された。


「……これ、ほんと何でもバレるな。」


謝一凛は少し困ったように腕を胸の前に持ち上げた。


そのときだった。

ほとんど気づかぬほど微かに、M-02の睫毛が震え、身体が半寸ほど前に傾いた。

まるで次に発される言葉を一言も漏らさぬよう耳を澄ませているかのように。


——空気の中にほのかなミントの香りが漂った。

それは彼女の皮下感情シミュレーター腺が作動し、最小限の慰め分子を放出した合図だった。


喉を鳴らしつつ、謝一凛はとうとう微笑を浮かべた。


「……わかった、話すよ。だから、そんなに見つめるな。」


***


沈見珣は隣に腰掛け、自分の端末を開いた。


少し離れた場所では、A-13——まだ少年の面影が残るバイオノイド——がしゃがみ込み、電子ペットモジュールをいじっていた。

少年は俯き加減に、黒髪が額を隠し、細くしなやかな指先が忙しなくタッチポイントを撫でている。

まるでその安物玩具に本気で夢中になっているように見えた。


共振図をひと目見て、沈見珣はため息をついた。


「……こっちはもっと厄介だ。」


「さっき俺が茶を飲む仕草を真似しようとしてきた。

システムはそれを『社会的同化の試み』と判断したよ。」


「でもな、真似しながら内心こう考えていたんだ——

『彼は本当は茶を楽しんでいない。ただ社交マナーを保つための振る舞いだ』ってな。」


「……評価されてるな?」


謝一凛がクスリと笑う。


沈見珣は肩を竦めた。


「それだけじゃないさ。次にこう思ったらしい——

 『それでも、俺は彼の好む姿になりたい』ってな。」


「ぷっ……」

謝一凛は思わず吹き出して端末を置いた。


「そっちのバイオノイド、感情投影のペースが速すぎるだろ。」


「これ……共振か? それとも……片想い?」


沈見珣は何も言わず、ただ静かに茶をひと口飲んだのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ