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見えない守り手

 11階層は、静かだった。これまでの10階層とは、明らかに空気が違い、岩の色が濃くなり、燐光が深い赤に近づいていて、ひんやりとした空気の中に何かが混じっている気がした。

「……ブラックウルフがいます。左前方、二匹」

 フェンが低い声で言った。

「カレン、まずは見てて。フェンと二人でやってみる」

「分かった。ただ——」

 カレンが、フェンをちらりと見た。

「……私、準備はできてるわよ」

「……把握しました」

 プリムが星紋に触れた。

「アーティア」

 「……んっ」と声が漏れて、長剣が形成された。二匹が同時に動いた。一匹が正面から、もう一匹が右から回り込んでくる。

「きゅるっ(……右はフェン)」

「はい」

 フェンが右の一匹を遮断する。プリムが正面から一匹を受けて、左に踏み込んで躱し、剣を横に払った。手応えがあって、そのまま押し込むと——消えた。

「きゅるるっ(……もう一匹)」

 振り返ったとき、フェンがすでに仕留めていた。

「早い……!」

 プリムが息を整える。後ろからカレンが来た。

「次は私に任せなさい」

「カレン、アーティアしてから入って」

「分かってる」

 カレンが星紋に触れた。

「アーティア」

 右腕のあたりで光が弾けて——大型のランスが現れた。重そうに見えるが、カレンの腕に収まると嘘みたいに安定している。左手には体の半分近くを覆える大型のカイトシールドが展開された。

「シルバーガーディアン」

 つぶやいて、カレンは前を向いた。

「守護型だから、攻撃より防御が本領よ。でも——」

 ランスの穂先が、銀色に光った。

「行けるところまでは行くわ」

 次のブラックウルフが来た。今度は二匹、狭い通路の左右から同時に。カレンが、通路の幅いっぱいに盾を広げた。

「そこ、通さない」

 シールドが、通路を壁のように完全に塞いだ。二匹のウルフが同時に体当たりしたが、びくともしない。カレンはランスを持ち替えず、盾の縁を返して一匹を弾き飛ばした。体勢を崩したウルフの喉元へ、ランスの穂先が正確に突き込まれる。もう一匹が隙を突こうとした瞬間には、既にカレンの視線がそちらへ向いていた。

「あっちも、はい」

 盾を斜めに滑らせて、二匹目を叩き落とす。地に伏せたところへ、追撃の一突き。二匹とも、光になって消え、竜姫メイルの装甲の継ぎ目に、赤い光の筋が一瞬走った。

『カレンさん強すぎ!』

『盾役の動き綺麗すぎない?』

『新しい人めちゃくちゃ頼もしい』

『カレンさんナイス!』

(……カレンに向けられた感情まで、余に流れ込んでいる?)

 以前は違った。フェンが初めて配信に姿を見せた時、視聴者がどれほど騒いでも、それは余の糧にはならなかった。

 だが今は違う。カレンの手際に沸いた感情が、確かに余の回路へ流れ込んでいる。

(……余の力も、少しずつ戻っているということか)

「……手際がいいです」

 フェンが、静かに言った。コメント欄が動いていた。だが——いつもとは、明らかに違った。

『アムリタ103倍って本当なの??』

『昨日のニュース見た。世界中が騒いでる』

『エリシアのクランまで動いたって』

『プリムちゃん本人は全然気にしてなさそうなのが逆にこわい』

『同接がいきなり多い。昨日の発表で新規が一気に来てる』

『初見です。これが例のアムリタの人?』

『そう。あの胸からとんでもない回復薬が出る』

『103倍って何と比べて103倍なの』

『既存最高級ポーションと比較して103倍』

『は????』

『ソーマは最高級聖水比232倍らしい』

『は????????』

『ミナりん:今日も来てくれた……! 昨日からずっと心配してたんですけど、本人は普通にダンジョン入ってて……プリムちゃんらしくて泣けてきます(泣)』

『ミナりんは現場の人だから余計心配してたよな』

『世界が大騒ぎしてる中で本人が普通にダンジョン入ってるの笑う』

『でも今日なんか人多くない? カレンさんいる!?』

『あの赤い髪の人、カレンさん? 初めて映った!?』

『カレンって学院首席候補だった人?』

『Olivia_G:カレラス学院の在校生記録を確認した。カレン・スラッシュ、現在も在学中で、成績は学年3位。銀級・守護型アーティファクト「シルバーガーディアン」、ランスとカイトシールドの組み合わせで間違いなさそうだ。——なお、本配信の同接の伸び方が通常の三倍を超えている。昨日の公式発表による新規流入と見て間違いない。アムリタ・ソーマ目当てで来た視聴者が、プリムちゃん本人を初めて見ている状況だろう』

『脱がし屋が状況を整理してくれた』

『確かに初見勢めちゃくちゃ多い』

『初見さんへ:この人は普段からこんな感じです』

『普段からこんな感じってどんな感じだよ』

『胸からアムリタ出しながら戦う』

『は???』

『見てれば分かる』

「きゅるっ(……カレン、来るぞ)」

 通路の奥から、また気配が来た。カレンが前に出た。プリムのようにはっきりと言葉になって届いたわけではない。フェンほど自然に意図を汲み取れたわけでもない。それでも、何かに急かされるような感覚が確かにあって、体が勝手に動いていた。シールドを構えて、ランスを脇に引いた構えは——無駄がなかった。学院のトップ層として積み上げてきた、知識と経験の戦い方だった。一匹を盾で受け止めながらランスで突き、もう一匹をプリムに流す。

「プリム、そっち!」

「もらった!」

 プリムの剣と、カレンのランスが、ほぼ同時に走った。だが、脇道からもう一匹、三匹目のブラックウルフが飛び出してきた。カレンもフェンも、目の前の敵で手が離せない。

「きゅるっ(……そちらは余が)」

 余は竜尾バニーテールから黒雷を放った。漆黒の稲妻が、三匹目のブラックウルフを正確に撃ち抜く。一瞬で、光になって消えた。

「エロスちゃんの雷、久しぶりに見た!」

 プリムが、嬉しそうに声を上げた。

「きゅるる(……剣だけが余の武器ではない)」

『エロスちゃんの雷キター!』

『尻尾から出るやつ懐かしい』

『一撃で消し飛んだ』

『初見だけどスライム強すぎない?』

 通路が、また静かになり、竜姫メイルの装甲を、細い赤のラインが一瞬だけ駆け抜けた。カレンへの応援も、確かに力になる。どうやら余の感情回収そのものが、以前より広がっているらしい。

「……ねえ」

 カレンが、少し戸惑った顔でこちらを見た。

「何か今、エロスの言いたいことが、ふんわり伝わってきたんだけど……何かした?」

「きゅるっ(……気のせいだ)」

「絶対気のせいじゃない感じだったんだけど」

「きゅるる(……気にするな)」

「気にするわよそんなの!」

「カレンとエロスちゃん、仲良くなってる〜」

 プリムが、のんびりした声で言った。

「……仲良くなってない!」

「きゅるるっ(……そうだ、断じてなっていない)」

「息ぴったりじゃん」

「なってません!」

「きゅるるっ(……なっていない!)」

 しばらく、言い合いが続いた。

「……連携が取れています、カレン」

 フェンが、話を戻すように言った。

「当然よ。伊達に学院のトップ層にいたわけじゃない」

「きゅるる(……なかなかやる)」

「エロスちゃんにも認められた! カレン最高!」

「浮かれない。まだ11階層よ」

『フェンちゃんとカレンさんもう息合ってる』

『新加入とは思えない連携』

『この四人体制強すぎでは』

『銅級とは思えん』

 カレンが、通路の奥を見た。目線は前に向いているが、口の端がわずかに上がっていた。

 プリムが、ブラックウルフの消えた場所に散らばった魔石を拾い集めた。小さく黒みがかった石が、いくつか。カートの布袋へ手早くしまう。

「ブラックウルフの魔石、11階層だとまだ安いけど、数がまとまれば馬鹿にできないわね」

 カレンが言いながら、自分の分もカートへ足した。

「先、行きましょ」

 四人が、11階層の奥へ踏み出した。

 その少し前、コメント欄の隅に、一件だけ違う色の書き込みが流れていた。

『銅級になった途端に仲間増やして、完全に調子乗ってるな』

 すぐに他のコメントに埋もれて流れていったが、谷間の奥で、余はその一瞬の感情を確かに感知していた。刺々しい、粘つくような気配だ。

(……この感情。昨夜と、同じか)

 余は流れ込む感情エネルギーを確認していた。

(……今夜、あの男はまた見るのだろう)

 核の奥で、光が一瞬だけ強く脈打った。

 だが——今はいい。今日から、四人だ。

「きゅるっ(……行くぞ)」

 余は、前を向いた。

    *

 ギルドの最上階。ギルドマスター執務室。

 瀬川壮は、扉の前に立っていた。ノックして、3秒待つ。

「入れ」

 グラント・ゼファーの声は、静かだった。部屋に入ると、窓を背にした男が書類から顔を上げ、深い青の瞳で、壮をまっすぐに見据えた。

「座れ」

「失礼します」

 壮は向かいの椅子に腰を下ろした。余計な所作はしない。グラントも余計な前置きをしない。それが二人の間のやり方だった。

「プリム・ミルクホワイトを知っているな」

「名前と顔は。配信も確認しました」

「虹金級だ」

 壮は、少し間を置いた。

「……世界で4人目、ですか」

「ああ。昨日、ミナが鑑定した。本物だ」

 グラントが、書類をテーブルの端に寄せて、代わりに薄いファイルを壮の前に置いた。

「アムリタとソーマの公式発表は昨日の15時に出した。今頃、世界中が動き始めている」

 壮はファイルを開いた。プリム・ミルクホワイト。年齢、ライセンス、アーティファクトの概要、居住地、行動パターン。昨日から今朝にかけて、ミナが整理したものだ。写真には、ミルク色の髪の小柄な女性が映っていた。

「護衛か」

「影護衛だ。本人に気づかせるな」

「理由は」

「知ればあの子が気を遣う。護衛を意識して動きが硬くなる」

 グラントが、窓の外に目を向けた。

「今のあの子には、自由に動いてもらう必要がある。ただし——外から来る危険は先に潰す」

 壮は、ファイルを閉じた。

「了解しました。編成は」

「お前を含めて五人。金級で揃えろ。人選は任せる。フェンという獣人がすでに傍についているが、あれはあれで別枠だ。お前たちは外周を固める」

「フェンについて、情報は」

「動きは白金相当。敵意はない。ギルドの存在に気づいた時点で黙認する可能性が高い」

「……扱いは」

「同じ守る側として認識しろ。余計な摩擦はいらない」

 壮は頷いた。グラントが立ち上がり、窓の外を見た。

「一つだけ言っておく」

「はい」

「護衛対象に、護衛を意識させるな」

 それだけだった。壮も立ち上がり、一礼した。

「見られた時点で失敗です」

「分かってるから、お前に頼む」

 扉を閉める前に、壮は振り返った。

「配信は、見ていますか」

 グラントが、少し間を置いた。

「……見ている」

「どう思いましたか」

「あの子が自分で決めた。それだけだ」

 扉が、静かに閉まった。

    *

 ギルドの地下、訓練場に隣接した小部屋。壮が入ると、四人が既に揃っていた。ガルンが壁際に立ち、腕を組んでいる。リアが椅子に座ってファイルを読んでいた。コトが部屋の隅に、存在感を消したままいる。その肩に、緑色に光る羽の隼——シルフィードが止まっていた。イザがテーブルに肘をついて、壮を見上げた。

「遅い」

「3分だ」

「隊長が3分遅れるのは遅い」

「イザ、黙れ」

「はーい」

 壮はテーブルの中央にファイルを置いた。

「任務だ。プリム・ミルクホワイト、銅級探索者の影護衛。グラントからの直命」

 イザが、ファイルに挟まれた写真を覗き込んだ。黒いレザーのボンテージ風の衣装に身を包んだ、女王様めいた出で立ちの女だ。世間一般の基準で言えば、彼女自身の露出度も相当に高い。プリムには及ばないにしても。

「……これが、この娘? 竜姫メイルってやつ、写真で見ても密度すごいわね」

「イザ」

「褒めてるのよ。あの子自身のアーティファクトを活かすには合理的な形なんでしょうけど……」

 イザが、腕を組んだ。

「なんか、負けた気がする」

「何の勝負だ」

「分からない。でも負けた」

 イザが、もう一度ファイルへ目を落とした。

「……Hカップ」

「個人情報を口にするな」

 壮が即座に止めた。

「だってHよ? この身長で?」

「だから読むな」

「数字で見せられると余計に負けた気がする……」

 部屋の隅から、コトが静かに言った。

「……たぶん、違います」

「何が?」

「……通常時がHカップ。アーティア後は、たぶんJカップくらいです」

 沈黙した。

 イザが、がっくりと肩を落とした。

「……二段階で負けた」

「だから何の勝負だ」

「もう分からない……」

「……悲しみ」

「コト、お前はどっちの味方だ」

「……事実を報告しただけです」

 イザが、深いため息をついた。

「前は、露出のことなら私が一番言われてたのよ。視聴者にも、際どいとかエロいとか、散々。それが今や、あの子の谷間の話題で持ちきりじゃない」

「羨ましいのか」

「悔しいのよ!」

 イザが、テーブルに突っ伏した。

「しかもこの間、マイクロ水着型の新装備を申請したら却下されたし。防御力が足りないって。なんでなの。あの竜姫メイルだって布面積で言えば似たようなものじゃない」

「あれは戦闘機能があるからだ。お前のは露出だけだろう」

「露出だって立派な戦術よ!」

 壮は、それ以上追及しなかった。追及すると長くなることを、経験で知っていた。

 リアが、静かに顔を上げた。

「……プリム・ミルクホワイトさん、ですね」

「知っているのか」

「はい。イレギュラーモンスター戦の翌日、輸血処置を担当しました。血液成分の消耗が、想定より早く進んでいた方です」

「面識があるということか」

「一度だけですが」

 コトが、部屋の隅から静かに言った。

「……配信、見ました」

「全員見ている前提で話す」

(……エロスちゃん、今日も谷間。……可愛い)

 コトは、それ以上何も言わなかった。表情も変えなかった。だが、口の端が、ほんのわずかに緩んでいた。誰も気づかなかった。

 イザが口を挟んだ。

「正直に言うと、護衛が必要なの? フェンという獣人がついてるって話だけど」

「フェンは内側。我々は外周だ。アムリタとソーマの発表で、外から来る勢力の接触リスクが上がった。ギルドとして正式に対応する」

「なるほど」

 壮は、全員の顔を見た。

「三つだけ確認する。一つ目。本人に気づかせるな。知れば動きが変わる」

 全員が頷いた。

「二つ目。無名の刃としての顔は、もう割れている。護衛中は、無名の刃名義のテールドローンは使うな。ギルド支給のダミー配信テールに切り替えろ。位置情報も顔も映らない設定になっている。ガルンとイザは一組で、荷物持ちの探索者を装え。リアは単独で、流しの治癒師を装え。コトは先行索敵、単独で構わない。俺は全体を見る。介入が必要な場面以外は動くな」

「基準は」

 ガルンが低い声で言った。

「本人たちが処理できない状況だ。重傷、多数の強敵、罠。それ以外は観察」

「了解」

「それと——護衛期間中は、無名の刃としての配信は組むな。全員この任務に専念しろ」

「表向きの顔と使い分けろってことね」

「そうだ。同じ五人だと気づかれるのが一番まずい」

「三つ目」

 壮は、声のトーンを一段落とした。

「フェンと、あの谷間のスライムは、おそらく我々の存在に気づく。その時は、敵対するな。目礼で済ませろ。余計な言葉はいらない」

 リアが手を挙げた。

「一つ聞いていいですか」

「どうぞ」

「プリムさんとは、以前の縁があります。医療という名目で、自然に接触できると思いますが」

「それは好都合だ。ただし——あくまで自然な範囲で。押しつけるな」

 リアが頷いた。眼鏡の奥の目が、少し光っていた。

(……あの時の、血液成分の急激な消耗。あれがどういう生理的機序で起きているのか、継続して観察できる。医学的に、非常に興味深い……できれば、採血させていただきたい……分泌の前後で血液成分を比較したい……マンモグラフィーも撮らせていただければ、内部構造の変化まで追える……乳腺エコーなら、生成中のリアルタイムな変化も追えるかもしれない……断面図で、乳腺の状態も見てみたい……できれば、生成中の血流変化や生体反応も測定したい……)

「リア」

「は、はい」

「仕事だ」

「……分かっています」

「分かってない顔をしている」

「……努力します」

「今、何を考えていた」

「……何も」

「嘘をつけ」

「……純粋な学術的興味です。断じて、それ以外の意味はありません」

「聞いてもいないのに否定するな」

 コトが、静かに言った。

「……配信、引き続き見ます。行動パターンを把握します」

「頼む。翌日の探索ルートを事前に押さえておけ」

「……了解です」

 コトは、それだけ言うと、また部屋の隅の気配に戻った。


(……3人だった頃から、見ている)

 誰かに話したことはなかった。狙って見つけたわけでもない。配信を漁っていた深夜、たまたま流れてきた無名のチャンネルだった。同接3人。鎧を着た小柄な探索者が、慣れない手つきで挨拶をしていた。その谷間に、小さな黒いスライムがいた。

(……あの頃から、変わっていない。あの子は)

 コメントは、ほとんど打ったことがない。ただ見ているだけの視聴者だった。それで構わない、と思っていた。


(……エロスちゃん、可愛い。……私の胸にも、乗せたい。……私のおっぱいも、玉座にしてほしい)

 コトは、自分の胸元へ、一瞬だけ視線を落とした。Bカップだった。

 肩の上で、シルフィードが、嘴でその胸元をつん、とつついた。それから、首をゆっくりと横に振った。この胸では、無理ではないか——そう言いたげな仕草だった。

「……悲しみ。……残念」

 コトは、小さくそう呟くと、肩を少しだけ落とした。シルフィードは、慰めるでもなく、また元の位置で羽を整え始めた。


 それが今、世界中が名前を騒ぐチャンネルになっている。

(……あの黒雷、良かった。……尾の一撃も。……あの二人も、強くなった)

 エロスの黒雷が敵を貫く瞬間も、フェンが気配を殺して間合いを詰める動きも、配信越しに何度も見てきた。見るたびに、素直に感心する。

(……エロスちゃん。今日も、可愛かった)

 コトは、気配を消したまま、小さく息を吐いた。表情は変わらない。ただ、口の端だけが、ほんのわずかに緩んでいた。


 イザが立ち上がり、両手をテーブルについた。

「一個だけ確認。あの配信、露出がすごいじゃないですか」

「任務と関係ない」

「いやでもほら、護衛対象として、その……あの露出度は」

「イザ」

「はい」

「次にその話をしたら、訓練を二倍にする」

「…………了解です」

 ガルンが、静かに口を開いた。

「一つだけ」

「何だ」

「あの子は——強いのか」

 壮は、ファイルの写真を見た。ミルク色の髪。翠色の瞳。漆黒の鎧。

「銅級とは思えない動きをする。ただし——」

 少し間を置いた。

「守るのが任務だ。強さは関係ない」

 ガルンが、頷いた。それ以上は言わなかった。


「明日から始める。今日の午後にそれぞれ配置と動線を確認しろ。以上だ」

 全員が立ち上がった。イザがドアに向かいながら、小声でコトに言った。

「ねえ、あの配信のアーティア発動の時の声、聞いた?」

「……聞いた」

「なんか、その」

「……任務だよ、イザ」

「分かってる。分かってるけど」

「……分かってない」

 壮は聞こえていたが、何も言わなかった。部屋が空になってから、一人でファイルを閉じた。写真のプリムを、もう一度だけ見た。

(……虹金級)

 この世界に今、4人しかいない。

(……守る。それだけだ)

 ファイルを懐に入れて、壮は部屋を出た。

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