第2章4話 疲れるエルフ
「プープラもいつもあんな巨大地竜を倒しているんだね。」
プープラに視線を向けると、プープラは、僕に無表情に視線を合わせた。
「私は、巨大地竜を倒したことも、狩りをしたこともありません。」
「あれ?」
確かにそういっていた気がするけど、なんか違和感がする。
「マスターが以前に狩ったとする食材で百年は持ちますが
ジャン様を狩りに行かせる必要があったのですか?」
プープラは、僕のために抗議してくれているのだろうか?
百年もつって、なかなか面白いこと言うなぁ、冗談なのかな?
右腕全体の呪は確かにそこそこ重い。
プープラが僕のことを心配してくれているのがとても嬉しかった。
「そんなのしばらくしか持たないじゃないか、不安じゃない?
ちょうどいいと思ったんだよ。色々確認するのに。」
ん?
しばらくしかもたない?
百年もつって話じゃなかったっけ?
テーブルの脇に立つプープラとラムスさんの会話がかみ合っていない気もする。
プープラは、無表情でありながらイラついているようにも感じる。
なんとなく険悪なような気もして居心地が悪い。
命を助けてもらったことの対価なのだ、生きているだけで孤児には十分だ、ラムスさんの気を悪くするわけにはいかない。
話を変えなくては。
「それにしても、深層には見たこともない魔物がいるんですね、
暗いのかと思ったら洞窟全体が光ってるし不思議なところですね。」
ラムスさんが満面の笑顔になった。
話はそれたとは思う。
一瞬にしてプープラの眉間にしわが寄った。
刺すような目線が痛い。
やってしまったのだろうか。
「君は、いいところに気が付くね、この惑星はできたころから各所で放射線が強くてね、
海ができた段階の原始惑星状態が進んで大気が安定した際に、原始生命が発生するんだが。」
あああああ。
やっちまった。
どんどん早口になっていく・・・。
「放射線からエネルギー代謝を行う、同位体崩壊エネルギーを補足する生体ナノ構造原始生命が・・・
・・・これが我々の進化の起源だよ。」
始まってしまった。
つばが飛び始めている。
顔を寄せるな。
「原始生命は、放射線エネルギーの他に、
太陽光エネルギーも代謝に利用するタイプも存在していてね・・・。」
プープラの表情は、無表情といえるのだろうか?
めっちゃ怖い。
「・・・ATP代謝と並行して、炭素14の崩壊を利用した代謝も
このころから始まったと考えられているよ。」
早口で話すな。
何言ってるか、ますますわからない。
「この惑星には、プレートテクトニクスが働くからね、
当然、放射線物質、同位体、メタ安定同位体の分布にはムラができる。」
プレートメイルがどうしたって?
惑星ってそもそもなに?
「同位体崩壊放射線代謝生物、光合成代謝生物等の系統が生まれて、
放射線耐性の進化圧によって・・・。」
「マスター、うるさいです。」
プープラさん?
ストレート過ぎない・・・。
「・・・2重螺旋DNA、4重螺旋DNA、それに2重螺旋RNAバックアップを持つ・・・。」
つまり何の話をしたいんだろうこの人は?
進化圧、それより鼻息圧とつば圧何とかしてくれ。
「面白いことにね、4重螺旋DNAの場合は・・・。」
「マスター、直ちにやめてください。」
あわわわ。
おいおい、言い方きつ過ぎるよプープラさん。
「・・・リング状の酵素がね・・・2本ずつRNAを局所展開転写していくんだよね・・・
大きく展開されないことで・・・ほんと美しいよね。」
こっちはこっちで、うっとりしてやがる。
美しいどころか、気持ち悪いという言葉しか思いつかない。
プープラの声聞こえてないんだろうな・・・。
一瞬目を閉じて恍惚の表情をすると、僕の目を覗き込むように見据えてマシンガントークが再開される。
「アルファ線、ベータ線の遮断能力を持つ、ナノ構造膜を持つ生物が表れてね・・・。」
アルファ?
ベータ?
「マスター、止めてください。最終警告です。」
眼がマジなんですけど・・・。
無表情でゆっくりにじり寄るの止めて。
「・・・同位体崩壊MHD代謝を行う真核生物が他の
真核生物内に取り込まれて細胞内共生を行うことで・・・ATP代謝の過給で達成したり。」
呪文の詠唱にしかきこえないよ。
「この放射線遮断能力やガンマ線、重粒子の進入軸ずらし能力、
細胞核を守るオルガネラ配置とか・・・。」
ラムスさんの早口と同時に鈍器で砂袋を叩くような大きな鈍い音が響く。
ラムスさんの頭部が激しく振動した。
え?
殴ったの?
やっちゃったよ本当に。
「ちっ・・・。」
プープラが苦々しく舌打ちをしている。
マジかよ・・・。
「・・・電子雲による同位体崩壊方向制御による
スカラー場利用生物とか多様な進化が進んでいくんだよ。」
止まらない、すごく高揚している。
なんか頭から血が流れていませんか・・・。
やばい、やばすぎる。
プープラがラムスさんの背後で目をとじて小刻みに揺れているのは怒っているのだろうか?
話を振ってしまった僕に対してじゃないよね。
ほんとごめんなさい。
「同位体、メタ同位体、放射性物質が多い地域では、
高エネルギー代謝、質量制御や慣性テンソル変形などで、
超大型化したシリカ系生物が繁栄し・・・・。」
プープラが、静かに僕の剣に手を掛けようとしている。
僕はそっと位置をずらした。
さすがにだめだよ、ラムスさんも止めてください。
命があぶないですよ。
「・・・少ない地域では、ATP代謝炭素生物が繁栄して、中間地点では、知ってのとおり、
どちらの代謝系も持つ中間生物が繁栄しているね。」
知ってのとおり?
知らないよ。
動かなくなった無表情のプープラが怖い。
絶対、もうやめた方がいいってば。
「火山地帯とか同位体や放射性物質が豊富な高放射線地帯では、
巨大シリカ系植物が繁殖してるんだけどね、
最大種においては、全長五百メートル級にもなってるんだよ。」
ラムスさんの早口に連動した身振り手振りが、なんか踊りを踊っているようにも見えなくもないかも?
早く終わってくれ・・・。
プープラの眉間のしわがとんでもなく深くなってる気がする。
「その地下には巨大な根が形成されることになるから、
放射線濃度の変遷やシリカ系植物の上方成長により、
地下千メートルの化石化した広大な地下迷宮が出来上がっているんだよ。
ここは、地下八百メートルくらいかな。」
何を言っているんだ。
迷宮の話?
地下迷宮は神様が試練と修練のために作ったところだろ。
教会の言っていることとまるで違うよ。
でも黙って聞かないとなんだろうな。
おや、プープラが部屋から出て行った?
下手に突っ込んではいけない。
笑顔で聞き流そう。
聞いてないけど。
「そんな環境の中、
体が小さく、ひ弱な炭素生物哺乳類は、細々と進化していき、
やがて、放射線が低いサバンナの荒野で・・・
二足歩行のサヘラントロプスとかに進化を果たしたんだよ。
アウストラロピテクスとかも有名だよね。」
迷宮の話じゃないのか?
話がどんどんそれていってる。
何が有名だって、知らねーよ。
サイクロプス?
お伽話に出てくる魔獣の話なのか。
「恐竜とかの大型爬虫類は、
高濃度放射線地帯において、
地上の最強巨大生物として進化を続けてね。」
恐竜ってなに?
ドラゴンのことなのか。
どうして、話がそうなったんだ?
「頂点個体は、4重螺旋遺伝子とその内部に4重螺旋RNAを持ち、
シリカ系光子演算脳、シリカ骨格にシリカ外皮・・・・。」
プープラが戻ってきた・・・。
持ってるのはなんだろう、・・・斧に見えるんだけど?
「・・・慣性テンソル変形による、見かけの質量変化による
自重制御と運動能力を獲得した百メートル級の生物にも進化しているんだよ。
古竜とかほんと動く山に見えるよ。」
変人の頬が紅潮している、そのかわり、僕の顔は飛んできたつばでべたべただ。
無表情にプープラが斧を振り下ろそうとしていた。
僕の心臓が止まりそうになる。
いや、全てが静止した。
ラムスさんは満足したのだろう、鼻息が止まっている。
ひとまず止まった。
息の根は止まらなくて良かった。
・・・長かった。
感想はそれだけだ。
そして、何一つ頭に残っていない。
「夕食まで、部屋で少し休むといい。おや?
顔が汗で汚れているね、着替えもした方がよいかもだね。」
ラムスさんはとても満足そうだ、だが、顔は汗で汚れている訳ではない、飛んできたあなたのつばだよ。
そして、あなたは頭から血が流れているよ・・・。
プープラは背に斧を素早く隠すと何事もなかったかのように無表情で立っている。
色んな意味でドン引きだ。
「は、はい、ありがとうございます。」
解放してくれてありがとうございますだよ、ほんと。
それにしても煙に巻かれた感覚だ。
僕の話を聞かせてくれと言った割には、見ていたとも言っていたし、変な話ばかりで何か質問してくる訳でもなかった。
違和感がある。
色々と質問したいのは僕の方なのだけれども、下手に質問するとまた変な話を一方的に聞かされる羽目になりそうだ。
プープラに視線を向けると。
プープラは、部屋に行けと言わんばかりに、満面の笑顔のご機嫌ラムスさんに見えないように顎で指図してきた。
ここはいったん部屋に戻って出直そう。
というか顔を洗いたい。
もう一度、プープラの顔を見た。
プープラがじろりと睨んだ気がする。
一人で行けということか?
大丈夫部屋へのルートは何とか覚えたので、一人で帰れます。
僕が席を立つのを見て、プープラがフンスと鼻を鳴らした。
ラムスさんもプープラも極端すぎる、夕食がどうなるか不安でたまらずため息が出てしまう。
タイミングがそれて何も聞けなかった。
僕は部屋を出ながら、包帯の巻かれた右腕に視線を落とした。
止まらない・・・。
包帯の下で、右腕が仄かに青白く光り、疼くように脈打ち続けている。
なんだろう、今日は、やけにお腹がすいている。
MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_
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型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 OFFLINE
PRIMARY-WEAPON:
セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州TEURNIA地域
観測対象 人間+3_雄_AEG15_NAME:JEAN
PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1
REDIATION INJURY+1
[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v2.06]
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* 目的関数: 【観測対象報酬累積最大化】
* 閾値判定マトリクス:
‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐対象相対関係性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐対象社会性 > 閾値: FALSE
‐対象感情多様性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐累積矛盾解消 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐………
* 安全装置プロトコル
‐マスター命令優先度:98.7%
‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先
[PROCESS_STATUS: NORMAL]
[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_009 ONLINE]
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対象の観測、および飼育環境の最適化処理を開始。
外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。
次回ログ生成時の再接続を要望します。




