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第2章3話 魔剣の代償

 神殿に戻ると、入り口でラムスさんが僕達を待っていたようで、笑顔で出迎えてくれた。

 まるで帰りが待ちきれなかったかのようにも見える。


 「うまくいったようだね。プープラさん、倉庫に運んでおいてくださいね。」


 「わかりました。」


 「君の活躍はね、実は見えてはいたのだけどね。どんな感じだった。」

 

 「・・・見えていた。」

 

 ラムスさんは、色んな方向から、僕の体を観察していて、気味が悪い。

 いったいどこから見えていたのだろう、妙な違和感がする。

 でも、尻尾だけではあるが依頼を達成できたことは誇らしい。

 そして、色々聞きたいことがある。

 

 「あの、・・・ラムスさん。」

 

 「疲れたろう、お茶でも飲みながら、話を聞かせてくれないかい。

 ボロボロじゃないか、ちゃんと手当もしないとね。」

 

 僕は、言葉を飲み込み、ご機嫌のラムスさんに促されて、食堂のテーブルについた。



 尻尾をしまってきたプープラが、お茶を運んできてくれた。


 「右腕の表面が壊死しているね、それに掌が焦げてる。」


 応急手当をしてもらった時に見たそれは、教会が言う呪と同じものだった。


 「・・・これって呪ですか。」


 「呪?そんなものではないし、

 君にとっては大した問題はないのだけれど、体が放射線で全体的にやられているね。

 まだ同位体崩壊オルガネラの活性が低いから、常人よりはマシだけど、

 放射線耐性自体は低いといえるからね。」

 

 プープラが僕の黒くただれた右腕に軟膏のような液体を塗って包帯を巻き直してくれた。

 取り替えて捨てた包帯に光る砂のような結晶の粒が付いている。


 火傷などの傷は痛みなど全くなく、包帯を巻く際に僕の体に触れるプープラの柔らかい手の感触が心地良い。

 僕は、プープラが手当てをしやすいように身を任せて座っていた。

 プープラは無言で作業のように手当をしてくれた。

 高揚した気分のまま右腕を見下ろすと、包帯の奥で微かに光が揺れた気がした。


 気のせいだと思いたかった。

 

 「強力な魔法の武具ですもんね、呪われても仕方ないですよ。

 でもこれがなければ勝てませんでした。お役に立ててうれしいです。」

 

 強力な魔法の力は、その代償として呪を受ける、当たり前のことなのだ、程度によっては死ぬ場合もある。

 これまでに、呪を受けて倒れていく探索者を多く見てきていた。

 探索者は、戦闘で死ななくても、大体呪で早死にするのだ。

 

 教会でも蓄積した呪を完全に浄化することはできない。

 探索採集を生業とするものとしては、避けられない運命と言える。

 

 それにしても、あれだけの威力があったにも関わらず、腕だけとは?

 本来なら死んでいてもおかしくないほどの威力だと思うのに、呪がこの程度しかないことがなんとも不思議だった。

 

 この短剣は本当に不思議な魔剣だと感じて、ただれた右腕をみた。

 

 満足感はある。

 後悔はない。

 なにより、僕は生きている。

 

 命の恩人の依頼を達成できたことは、よかったと思っている。

 孤児の自分は、これくらいの価値しかないということは昔から知っている。

 足掻くように生きて、そしてその他大勢のように死んでいく。

 

 昔から見てきた世界は、どこもかしこもそんなもんだった。

 爛れた右腕が足掻いた証、そう思って、少し感傷的な気分になってしまった。


 「かなり強めにチェレンコフ発光していたんじゃない、どうかな、プープラさん?」

 

 「その通りですマスター。」

 

 「ジャン君、エネルギー効率が悪いよ、必要な時に必要なだけ使わないとだよ。

 構造場内での慣性テンソル変形での質量変化はいいとして、

 熱は構造場に全部バッファしなきゃだし、放射線の進入軸もずらして被曝量減らさないと、

 初回にしてはまあまあだけど、反省点も多いなあ。」

 

 「・・・はい?」

 

 感傷的な気分は吹き飛んだ。

 まただ・・・魔法の呪文か何かなのか・・・。

 何を言っているのやら?

 これは、いつものやつが始まりそうな気がする。

 

 呪の話でいいのかな?

 

 心なしか、また、プープラが嫌そうな顔をしている気がする。

 まずは、お礼をしなくてはと思った。

 

 「この短剣すごい魔剣だったんですね、これがなければ何もできませんでした。

 このようなすごいものをいただく訳にはいきません。」

 

 この短剣は、僕には分不相応なものと感じたのだ、呪がこわいということもあるし、孤児の僕が持っていていいものではない。

 なにより、個人での武器所有なんて、国からの承認がいるし、貴族の保証が必要だ。

 

 そんなお金なんて払える訳もない。

 

 「そんなことないよ、

 オーマ時代の軍団兵の標準装備だよ、珍しいものではないよ。

 スクトゥム(盾)も一緒にと思ったんだけど仰々しいかなって思ってね。

 グラディウス(剣)だけにしたんだよ。十分だったでしょ。

 貰ってくれてかまわないよ。」


 「マスター、渡すときには使い方の説明もしてください。」

 

 ラムスさんとは話がかみ合わないが、プープラのいうことはよくわかる。

 話は長いけど、説明不足なんだよ。


 というか『スクトゥム』ってなに?

 この短剣、『グラディウス』っていうんだ?

 

 つまり何?

 スクトゥム?

 聞いたこともない言葉だ。

 武器の名前だろうか?


 剣の名前ということかな?

 

 意味解らない単語を意味が伝わっている前提で話をするのは、やめてもらいたい。

 プープラが心なしかイラついているような表情をしているな。


 「使い方は、プープラが教えてくれたから問題ないです。」


 「それにしてもさすが深層ですね、あんな巨大な地竜が居るんですね。」


 「それをトカゲとか、ラムスさんもプープラもとても強いんですね。」

 

 そんな巨大地竜を魔剣のおかげとは言え、倒せた自分が誇らしい、神話の英雄になった気がして気分が高揚している。

 しかし、巨大地竜をトカゲと言うラムスさんも、巨大な尻尾を軽々と運ぶプープラも相当な実力者なのだろう、プープラは狩りをしたことがないと言っていたけど、実力がありすぎて狩りというふうに思ってないのかもしれないな。

 

 ラムスさんにしても、プープラにしても、エルフってすごいんだな、改めて伝説の種族と一緒にいるという実感が湧いてきた。

 

 僕は神話の中に迷い込んでしまったのだろうか?

 

 その瞬間、呪の痛みだと・・・そう思い込みたかった。

 

 包帯の下で、僕の右腕が仄かに青白く光り、ひとつ脈打った。



MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_

---------------------------------------------------------------

型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 OFFLINE

   PRIMARY-WEAPON:

セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州TEURNIA地域

観測対象 人間+3_雄_AEG15_NAME:JEAN

PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1

REDIATION INJURY+1


[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v2.05]

---------------------------------------------------------------

* 目的関数コアプロトコル: 【観測対象報酬累積最大化】

* 閾値判定マトリクス:

 ‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象相対関係性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象社会性 > 閾値: FALSE

 ‐対象感情多様性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐累積矛盾解消 > 閾値: FALSE

 ‐………


* 安全装置プロトコル

 ‐マスター命令優先度:99.7%

 ‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先


[PROCESS_STATUS: NORMAL]


[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_008 ONLINE]

---------------------------------------------------------------

対象ジャンの観測、および飼育環境の最適化処理を開始。

外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。


次回ログ生成時の再接続を要望します。


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