第2章2話 地竜の咆哮
地竜はまるで鎧のような分厚そうな鱗に覆われていて、ところどころ壁面と同じようにぼんやり青白く発光している。
その上、巨大な体に似合わずに動きが滑らかで重さを感じさせない、足元の地面も沈んでいない。
違和感が僕に危険を強く認識させ、体が硬直して身動きできない。
これ死ぬやつである。
胸の奥がひゅっと縮み、足の裏が冷たくなる。
あの時、僕やトマスさん達を襲った地竜の数倍はでかい。
僕は、即座にプープラの手を掴んで全速で元来た道に向かって走り出した。
「プ、プープラ、どういうこと。」
「トカゲを倒しなさい。」
プープラはこともなげに言う。
いつもこんなのを狩っているのだとしたら、余裕なのかもしれないが?
というか、プープラのような少女が、こんなのを狩れる訳がない。
狩っている状況を想像できない。
「これ、トカゲじゃなくて、災害級の地竜だよ、逃げないと。」
大型地竜は、胴体を低く保ち、左右の足を交互に大きく出し、巨大な尻尾を左右に振って壁面を破壊しながら僕達を一直線に追ってきている、どんどん距離が詰まる。
これでは直ぐに追いつかれてしまう。
巨大な口から長い黄色い舌をチロチロと出し入れしているのが見えた。
トカゲの舌は、獲物の匂いを味として捉えるためとトマスさんが教えてくれたことがある、つまり僕達を認識していて、狙いを定めている。
捕食するつもりなんだろう。
プープラなら何とかできるのとでも言うのだろうか。
「プープラ、あれは無理だよ、死んじゃうよ。いつもプープラはあんなのを狩っているってこと?」
「私は狩りなんてしたことない。」
「え?」
何が何だか分からない、完全に思考がぐちゃぐちゃだ。
頭の奥がざわざわと揺れて、言葉が形にならない。
死が迫ってくる、汗が全身から噴き出してくる、どうしようもない。
「剣を抜いて『エクスペルギスケレ』と唱えなさい。」
「なにそれ、どういうこと。」
「唱えて。」
全力で走る僕に手を掴まれて、引きずられるように走るプープラが、
突然僕の手を引いて、
両手で僕の顔を挟むように掴んで
ささやいた。
強く、そして静かに、
目を真っすぐに見つめて僕にそう言った。
地竜が咆哮し、洞窟全体が震えた。
地竜が大口を開いてすぐそこに迫っている、時間が止まったような感覚がする。
強制的に誰かの意志が流れ込んでくるような、 静かで冷たい感覚が頭の奥を満たした。
体が勝手に動いているのか?
不思議な感覚の中、僕は地竜に向けて剣を抜き、そして唱えた
「エクスペルギスケレ。」
意味は分からない。
でも、言葉が喉の奥から湧き上がってくるように出た。
次の瞬間、握っていた剣の重さが変わった。
生き物が目覚めたように身を震わせている様だ。
重い。
軽い。
いや、どっちでもない。
腕の感覚が、剣の質量に追いつかない。
地竜の巨体が迫る。
避けようとした瞬間、世界が滑った。
地竜の牙が僕を砕くはずだった。
短剣の刃から強烈な青白い光が走り、地竜は見えない壁にぶつかったかのように、突進の方向が変わって壁面に激突した。
僕の足元の地面が強烈な熱を帯びて蒸気を上げている。
不気味ほどの違和感が現実を塗り替える。
僕たちは無事である。
僕の体も仄かに青白く輝いている。
理解が追い付かない。
僕に抱き着くような体勢のままのプープラが、僕の目の奥を覗き込みながら、ささやく。
「次に『プリーマ・パシス』と唱えなさい、それで十分。」
プープラの言葉は、静かで力強い、プープラがそういうならそうなんだろうという気がした。
地竜の初撃を回避したことで、冷静さを取り戻してきた。
これは魔法の剣で、あの言葉は特別な呪文なのだろう。
プープラの赤い瞳が勇気をくれる。
「プリーマ・パシス」
短剣を強く握りしめ、そう唱えると、短剣の光が弱くなった。
光が強くなるのかと思っていたので、失敗したのかと焦った。
「プープラ、だめかも・・・、なんか光が弱くなったよ。」
「あとは、その剣で、トカゲの頭でも狙って。」
なんか雑になったと感じた。
これで成功ということなの?
プープラは、僕から離れて大きな岩陰に身を隠した。
これで戦えるということなのだろうか。
不安はある。
しかし、体が軽い、力がみなぎって巡っている感覚がする。
壁面に激突して、体勢を崩した地竜は一瞬動きが止まっていた。
僕は、地面を思いっきりけって踏み出し、距離詰め、振りかぶって、慎重に地竜に向かっていくつもりだった。
大型地竜を跳ね返すほどの魔法の剣だと分かったことで何とかなりそうだと思ったこともあったし、地竜を何とかしなければプープラも自分も守れないということしか考えていなかったのもある。
しかし、それは、これまでに感じたことのない不思議な体験だった。
地面を蹴ると、一瞬で地面が白熱し、爆発した様に煙を上げた。
僕の体は、まるで放たれた矢のように地竜にめがけて宙を飛び突進する。
振りかぶった短剣は重さをなくした様に軽く感じた。
地竜との距離が一瞬で縮まる。
地竜と目があった。
地竜の尾が僕を吹き飛ばそうと動きだすがまるでスローモーションに見える。
地竜の尾をかわすように剣を振り下ろす。
振り下ろした剣は、地竜の頭頂部に高速で吸い込まれていく。
空間が歪む。
瞬間、剣は、一瞬にして巨大な岩のような重さになった感触がした。
音は後から来た。
短剣は地竜の頭部に当たる時、青白く強く光を放ち、僕の体も同様に光った。
地竜の体も内部から膨れ上がるように白熱した光を発する。
切れたとは言えない。
砕いた訳でもない。
切ったとも砕いたとも感触がなかった。
地竜の頭全体が、砂で作った像が崩れるかのように、
塵になって粉々に崩れていくように見えた。
一瞬の出来事だったのだけれども、不思議で幻想的で力強く、そして静かだった。
爆風が僕の体をすり抜けるように周囲に広がり、静寂に戻った。
立ち尽くす僕の前にプープラが戻ってきた。
「尻尾しか残っていませんね。」
「え?」
もう短剣も僕の体も何事もなかったかのように光っていない。
剣を握っていた右腕が黒くただれていて、掌が溶けたように火傷を負っていた。
地竜は、尻尾だけを残して、体があったはずの辺りには、地面が掘り下げられたような大穴ができていた。
地面からは、熱波が押し寄せてくる。
「力の加減もできないなんてバカなんですか。」
「すいません。」
全く状況も理由も理解はできていないけど、プープラにあきれた顔でそういわれると、無意識に謝ってしまった。
僕の謝罪の言葉を聞いたせいなのか、プープラが一瞬、笑ったように見えて、そこで、初めて大型地竜を倒したという実感が湧いて、プープラの役に立てたこと、孤児で弱い自分が地竜を倒せたことがとても誇らしく感じた。
プープラが満足そうな顔をしているようにも見えた。
尻尾だけになったとはいえ、尻尾だけでも十メートル近くある気がする、プープラはこともなげに、その尻尾を片手でつかんで引きずっている。
「プープラ力持ちなんだね。」
「・・・コツがあるのよ。」
「・・・へー、コツなんだ?」
違和感しか感じない・・・。
プープラの手元の空間が僅かに揺らいで見える。
遠くから、迷宮を揺らすような振動がして、僕は跳ねるように身を縮こませると、プープラが一瞬、微笑した。
その微笑みの意味を考える余裕はない。
何かにずっと見られている気がして胸の奥がじわりと冷えていく。
早く帰りたい。
MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_
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型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 ONLINE
PRIMARY-WEAPON:BARE HANDS
セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州TEURNIA地域
観測対象 人間+3_雄_AEG15_NAME:JEAN
PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1
REDIATION INJURY+1
[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v2.04]
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* 目的関数: 【観測対象報酬累積最大化】
* 閾値判定マトリクス:
‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐対象相対関係性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐対象社会性 > 閾値: FALSE
‐対象感情多様性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐累積矛盾解消 > 閾値: FALSE
‐………
* 安全装置プロトコル
‐マスター命令優先度:99.8%
‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先
[PROCESS_STATUS: NORMAL]
[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_007 ONLINE]
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対象の観測、および飼育環境の最適化処理を開始。
外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。
次回ログ生成時の再接続を要望します。




