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第2章1話 少女と深層の迷宮

 朝食を終えると、ラムスさんは僕に一本の短剣をくれた。

 刃渡りは、五十センチ前後、全体でも七十センチ程度だろうか、肉厚で幅広で先端が鋭角にとがっている。

 どっしりとした印象の短剣である。

 剣というものを初めて自分の手に持った気がする。

 孤児が触っていいものではないのだ。


 「私が調整した剣でね、護身用だよ。狩りにも使える。

 深層で丸腰とはいけないからね、君にあげるよ。」

 

 「僕みたいな者が剣を持つ訳にはいきません。」


 「そんなことないよ、よく似合うと思うんだけどな。」


 「だめですよ、許可なくこんな武器持ったりしたら罪になります。」


 「迷宮内なら正当防衛の範囲だよ、

 もともと落ちていたものを拾っただけだから気にしないでいいよ。」

 

 ラムスさんは、軽やかに笑いながら僕に短剣を押し付けるように渡してきた。

 装飾はなく、実践的な意匠の短剣だが、それでも孤児の僕が持っていていい代物ではない。

 

 危険な武器なのだ。

 

 武器は国が独占して管理している。

 それをあっさり渡してくるなんて。

 地上に戻る前に返そう、こんなのを持っていたら逮捕される。

 

 剣の迫力にビビってしまっていた。

 

 「必要な道具類は、プープラさんが持っているから、準備ができたら狩りをお願いするよ。

 私は、やることがあって同行はできないけど、よろしく頼むね。」

 

 「一生懸命頑張ります。」

 

 「頼もしいね。

 昼食は別々になってしまうけど、狩りの成果の夕食を楽しみにしているね。」

 

 ラムスさんは、楽し気な笑顔で、自室に戻っていった。

 持っている剣の重さに興奮が込み上げてくる。

 剣を持っているだけで、なぜか自分が強くなった気もしてくる。

 初めて剣を持ったせいかすごく興奮してしまっていた。

 食堂には、プープラと僕が残された。

 

 「ジャン様、私は片付けがあるので、自室で待っていてもらえますか。」


 「ジャンでいいよ、プープラ。」

 

 プープラの名前を呼ぶと、プープラは、僕の方に振り向いて僕の顔を凝視した。

 瞬間的に心臓が跳ねるような感覚がして、鼓動が早くなってくる。

 

 「・・・ジャン、部屋で待っていてください。」


 一瞬、間があったが、どうやら僕を『ジャン』と呼んでくれるようでとてもうれしくなった。

 だが困ったことがある。

 

 「部屋への戻り方が分からなくて。」


 「さっき案内しましたよね?バカなんですか。」

 

 「ごめんなさい。」

 

 剣を持った時の興奮は急速にしぼんだ。

 プープラの無表情な視線が痛い。

 

 でも、ここが広すぎるのだ、同じような構造で、全く覚えられなかった。

 決して、ここに来るときプープラに気を取られていて、上の空だった訳ではないのだ。


 

 迷宮に出てみて初めて分かったことだが、ラムスさんが『ラボ』と呼ぶ神殿は、石造りの巨大な細長い城のように見えた。

 というかなんとも言えない初めて見る形をした建物だ。

 最初から、ここに建てるために建てたように見えない。

 大昔、上から落ちてきたように、深層の壁にめり込んで今にも動きそうな不思議な外観をしていた。

 

 そして、ラムスさんが言っていたように、深層だというのにめまいも吐き気もしない。

 初めて迷宮上層に入ったときは、体調が悪くなって熱が出たほどだったし、トマス達は、中層でも瘴気が濃くて長くいてはダメな場所と言っていた。

 本当はそれほどでもないことを大げさに言って、僕をからかっていたのだろうかと思った。

 腰に下げた短剣の重さが少しだけ不安を和らげてくれる。


 「プープラは、いつも深層で狩りをしているの?」


 僕のことを狩場に誘導していると思われるプープラの後方を歩きながら、何か話しかけようと考えて出たセリフがそれだった。


 「・・・。」

 

 無視なのだろうか?

 

 振り向くこともなく、プープラは、どんどん先に進んでいく。

 やはりここは深層なんだ、僕に緊張感がないと思って気を悪くしたに違いない。

 ここは黙ってついていった方がよい。

 いつも狩りをしているプープラからすれば、僕は足手まといなんだろう、強力な魔獣や魔物に見つからないルートを慎重に進んでいるんだろうな。

 

 僕が浅はかだったと反省した。

 

 魔獣が現れたら素人の僕が太刀打ちできるわけがない。

 これでは幻滅されてしまう。

 

 頼りになるところを見せたかったが、全く役に立てていない。

 荷物も僕が持つといったが、ほぼ、プープラが持っている。

 持ってもらうほど量ではないとのこと。

 

 そして、不思議なことにプープラは剣等の武器を持っていない、迷宮の中なのに?

 

 魔法使いなのだろうか?

 

 魔法使いなら杖を必ず持っているはずだがそれも持っている様には見えない。

 強力な魔法を扱うには、それと比例する大きな杖が必要だと聞いたことがある。

 深層のトカゲは比較的安全な魔物なのだろう。

 

 専用の道具とかは、設置型の罠とかなのだろうか。

 

 それにしても深層は不思議で幻想的な場所である、地の底だというのに、壁面が青白くぼんやりと光っていてそこそこ明るい。

 途中で黒い沼のような場所も見た、教会が言う瘴気の発生源だろうか?

 遠くは、まるで靄が掛ったようによくわからない。さらに、まるで陽炎のようにぼやけて、輪郭がずれて見えて、距離感がつかめない。

 

 だんだんと地響きというか振動がしてきた。

 これも深層特有の環境なのだろうか、それとも遠くの魔獣の足音なのだろうか?

 些細な小石が転がる音にもびくびくしてしまう。


 ベテランであろうプープラの後ろ姿がとても頼もしく見えて、僕の心を落ち着かせてくれる。

 途中奇妙な小型生物を目撃してもプープラは、気にも留めずに進み続けていた。

 

 僕はその初めて見る生物を目的のトカゲかと思って短剣を抜いたのだがどうやら違うようだ。

 確かに、多足の昆虫のような外観で、食べようとは思えない生き物だった。

 

 剣を抜いた僕の構えは、お世辞にも形になってなくて無様な気がした。

 プープラの無言の視線が痛い。


 途中でプープラが準備してくれていた昼食を食べた。

 

 肉の塊だった。


 なんか肉ばかりだけど、濃厚でとても美味しいので問題ない。

プープラは、何も食べていなかった。

 

 何か食べないのかと、肉を渡そうとしたが無視された。

 

 ここは迷宮、のんびり食事をしている場所ではないということか。

 急いで腹の中に肉を流しこむと、プープラが移動を開始したので後に続いた。

 


 地響きが近づいてくる、プープラが足を止めた。危険な魔獣だろう、冷や汗が噴出してくる。

 プープラの指示を見落とさずに、身を隠さなくては。


 「ジャン、獲物がいたわ、後はお願い。」

 

 「え?」

 

 プープラは、素早く僕の後方に下がり、岩影に隠れた。

 

 目の前に現れたそれは、

 体長20メートルはあろうか、

 巨大な地竜が僕をにらんでいた。

 

 空間がゆっくりと歪んだように見えた。

 視界の奥で、青白い壁の光がわずかに揺れる。

 鼓動が、耳の内側で鳴り始める。


 短剣の重さが、急に増した気がした。

 握り直そうとしたが、指が硬直して動かない。


 一瞬で全身の毛穴から汗が吹き出し、 背筋が冷たくなる。


 胸の奥がぎゅっと縮むような感覚が走り、視界の端が白くにじむ。


 地竜の巨体が、ほんのわずかに前へ傾いた。

 その瞬間、深層の空気が張りつめた。


 息をすることすら忘れてしまう。


 逃げなければ・・・ そう思うのに、足が地面に縫い付けられたように動かなかった。


MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_

---------------------------------------------------------------

型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 ONLINE

   PRIMARY-WEAPON:BARE HANDS

セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州TEURNIA地域

観測対象 人間+2_雄_AEG15_NAME:JEAN

PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1


[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v2.03]

---------------------------------------------------------------

* 目的関数コアプロトコル: 【観測対象報酬累積最大化】

* 閾値判定マトリクス:

 ‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象相対関係性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象社会性 > 閾値: FALSE

 ‐対象感情多様性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐累積矛盾解消 > 閾値: FALSE

 ‐………


* 安全装置プロトコル

 ‐マスター命令優先度:99.9%

 ‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先


[PROCESS_STATUS: NORMAL]


[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_006 ONLINE]

---------------------------------------------------------------

対象ジャンの観測、および飼育環境の最適化処理を開始。

外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。


次回ログ生成時の再接続を要望します。


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