第2部 第4章6話 見えない攻撃
ヴォルター団長が真上にまっすぐ平手を上げた。
攻撃隊と随伴隊が、静かに素早く、剣を構えて小声で囁く。
『エクスペルギスケレ』
『コンフィルマーティオー』
攻撃隊と随伴隊の体がほんのわずかに青白く輝き出す。
強化魔法が発動している。
その瞬間、ヴォルター団長は、無言で掲げていた右手で親指を立て、直ぐに平手に戻して振り下ろす様に前方のホールを指し示した。
『フルグル』
『トニトル』
後方支援隊のジャックとマルグリットがホール内の左右に閃光魔法を、エリス副隊長がホール中央目がけて雷鳴魔法を放った。
一瞬でホール内に光と音が飽和する。
しまった。
目を閉じるタイミングがずれた。
視界が真っ白だ。
心臓が止まりそうになりながら、僕は、みんなと同時に、ホール内に突入した。
ホールに入った瞬間、ドサりと重い砂袋が落ちるような鈍い音がした。
なんの音だ?
目がまだ眩惑されていて、視界がおぼつかない、耳鳴りも止まらない。
状況が把握できない。
恐怖で全身が硬直する。
だが、戦闘が始まった気配はない。
緩やかに視界が戻ってきて、最初に目に入ったものは、床に転がるロバートさんの頭?
そして、床に倒れた頭のないロバートさん胴体。
僕は、恐怖で息が詰まって声も出ない。
全員が、顔面蒼白で剣を構えて臨戦態勢のまま硬直している。
ホールは、静まりかえっていて、生き物の気配はしなかった。
ロバートさんの胴体が横たわる、人の首の高さで血が滴っている。
なんだこれは、細い糸が張ってある?
ロバートさんの首の高さに張られた糸は、まるで誰かが彼の動線を正確に予測していたかのようだった。
崩れた天井や外壁の瓦礫のほか、ところどころに、ネズミの死骸が転がっているが、先ほどの魔法で舞い上がったほこり以外に動いているものはない。
突入で埃が舞ったせいか、ホール全体に細い糸が張り巡らされているのがうっすら見えてきた。
何が起こった。
思考がまとまらない。
全身の毛穴から恐怖が汗となって噴き出してくる。
「カーボンワイヤートラップですね。ご丁寧に炭素14入り、接触時発熱型とはやられましたね。
かなり高度な罠ですよ…。」
「…。」
「閃光魔法が裏目になりましたか。」
理解が及ばずに動けないでいた、僕達に柔らかい笑みを浮かべたラムスさんの声が静かに響いた。
「ヴォルター団長殿…ここで当たりのようですが、いったん引きますか。」
「くっ…。」
ラムスさんの穏やで迅速な問いに、ヴォルター団長は、呻くように歯噛みしている。
ここで当たりなのに何で引くんだ?
ますます混乱してくる。
ラムスさんの隣に立つプープラが素早く無表情に冷たくホール内の各所を凝視している。
「…撤退する。通路まで後退。」
ヴォルター団長が苦虫をすりつぶしたような声で素早く指示を出した。
「さすが、ヴォルター団長殿、いい判断ですが…どうやら次が来るようですよ。」
「…くそ、急げ。」
全員がもと来た通路方向に移動し始めた瞬間、床が青白く輝き、ホール全体が光に包まれ、激しい振動とともに轟音を立てて床が崩落した。
なんなんだこれ?
足場が消えたことで、全身を浮遊感が包み、天地が逆転する。
『コンフィルマーティオー』
マルグリッドさんが強化魔法を大声で叫ぶのが聞こえた。
かなり地下まで崩落したようだったが、埃が立ち込めて周囲の状況が分からない、落下の衝撃で全身から激しい痛みがするが、骨折や挫滅の感覚はなかった。
瓦礫が降り注ぐような音が小さくなっていく。
マルグリッドさんの強化魔法のおかげだろう、僕は、ほぼ無傷だった。
みんなは?
埃が舞い上がっていてまるで視界がない。
視界が効かないなか、瓦礫が崩れる音と混じって、砂袋に何かがぶつかるような鈍い音と瓦礫に金属がぶつかる音が複数回聞こえた。
僅かなうめき声も聞こえた気がする。
服の擦れる音も…。
砂袋の音…人間に何かが衝突したような音にも思える。
攻撃を受けているのか…?
今度は、何が起こっている?
全身の毛が逆立つような恐怖がして、素早く身をかがめた。
徐々に、視界を遮る土埃が薄れてくる。
「ヴォルター団長。」
上方からエリス副隊長の声が微かに聞こえてくるが、声の反響の状況から、そこそこの距離を感じる。
ホール出入口付近にいた、エリス隊長、ラムスさん、プープラ、ハンナさん、ジャックさん、マルグリッドさんの6人は、落下を免れたのかもしれない。
落下したのは、ホール内に突入した、攻撃隊、随伴隊と僕の6名、そして、ロバートさんは、既にやられている。
あれは、いったいどういうことなんだ?
完全に分断された…。
しかも、いつもの黒翼団の誘引撃滅作戦のような周到さを感じる。
敵の攻撃なのは間違いない…。
みんなは無事なのか?
金属音は聞こえなくなっていた。
土埃で視界が悪いままだが多少は周囲が確認できるようになってきた。
起き上がり、周囲を確認しようと顔を上げた瞬間、風切り音がしたかと思うと、鼻先で、金属製の投げ槍がぴたりと止まった。
「…あ…う。」
状況が分からず、声にならないうめき声だけがでた。
「ジャン、うかつ。」
プープラの声に僕の身体が違和感を覚えて跳ねた。
一緒に落下していたってこと?
プープラが、僕の顔面に突き刺さろうとしていた投げ槍を寸前で捕まえたように握りしめていた。
プープラも落下の衝撃を受けたはずなのに、無表情のままであり、衣類もまるで乱れていなかった。
強烈な恐怖感に全身から汗が噴き出す。
プープラは、投げ槍を無造作に地面に放り投げると、僕の手を引いて、比較的大き目な瓦礫の隙間に、僕を放り込んだ。
身体が無意識に震えていた。
こんな状況初めてだ。
こんなのまるで、狩られる側みたいじゃないか…。
「…ひとまず隠れて。」
プープラが僕に聞こえるようにだけ小さく囁いた。
僕は、瓦礫に激しく頭をぶつけたが、恐怖で感覚が麻痺しているせいかあまり痛みを感じなかった。
何が起こっているんだ。
みんなはどうなった?
状況が全く分からない。
この崩落は偶然ではない。
僕達がこの位置に落ちることまで計算されている。
僕の汗が地面に垂れた。
MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_
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型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 ONLINE
PRIMARY-WEAPON:ARCUS FULMINEUS+1
セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州JUVAVAUM地域
観測対象 人間亜種_雄_AEG15_NAME:JEAN
PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1_LIMITED
[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v8.16]
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* 目的関数: 【観測対象報酬累積最大化】
* 閾値判定マトリクス:
‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐対象相対関係性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐対象社会性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐対象感情多様性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐累積矛盾解消 > 閾値:FALSE
‐………
* 安全装置プロトコル
‐マスター命令優先度:57.7%
‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先
[PROCESS_STATUS: CAUTION]
* FILTER TARGET 0
* ENEMY 1
-STATUA-3A: SISTER MODEL
* DANGERROUS INDIVIDUAL 0
[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_054 ONLINE]
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対象の観測、および飼育環境の最適化処理を開始。
外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。
次回ログ生成時の再接続を要望します。




