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第2部 第4章5話 西地区の最大排水溝

 西地区の最大排水溝は、かなり昔から断各区とは断絶している。

 区内の支流は崩落により埋没していとのことだ。

 

 点検路すら、ほとんどが崩落し、過去の汚泥に埋まり機能していない。

 点検路の入り口は、もうどこにあるのかすら忘れられているくらいだ。


 中央区の最大排水溝はその機能を一部保ってはいるものの、維持を優先された結果であって、自然流下方式が辛うじて維持されている。


 本当かどうかは分からないが、どうやら、昔は都市全体に張り巡らされていたらしい。最初に作られたときには、地下ではなく、地上にむき出しの大きな排水溝だったそうだが、排水溝の上にも都市が拡大していくことで、地下に隠れていったという。


 河川から都市に引き込まれた水は、各支流を伝い、都市の雨水も、生活排水、そしてごみまでもこの最大排水溝に集まり、都市の地下に広がる、地下迷宮の上層に流れ落ちていく。


 この巨大な最大排水溝を含む地下構造物は、巨石によるアーチ構造と水に濡れるとさらに硬化するという謎の漆喰で構築されており、崩れたりすると応急修理しかできないというのが実情だそうだ。


 下手に修理すると、勾配が逆転して詰まりの原因にもなり、度重なる応急修理は、ある意味地下排水溝を迷路のように複雑化させてもいる。

 大昔に機能的に構築された、上下水道は、人知れず緩やかに機能を失って今に至っているということらしい。


 僕は、顔に吹きかけられたラムスさんのつばを拭いながら、それだけは理解することができた。


 「…あ、もういいです。」


 「最終的に排水は、地下迷宮に捨てられるんだけど、この地下迷宮はね、

 プレートテクトニクスによる、放射線濃度の変化により、太古に繁栄した巨大シリカ系植物の根が

 化石化したものであって…。」


 相変わらずラムスさんは、こちらの理解度はお構いなしで大興奮だ。


 うん、聞き流そう。


 プープラが、眉間に皺を寄せて目を閉じながら歩いている。

 9割以上何を言ってるかわかんないしね。


 横顔に暴風のように吹きかかるラムスさんの鼻息とつばを受けながら、僕の思考は別なところにあった。


 まずは、情報の整理だ。


 ヨハンさんの捜索において、西地区の住民から様々な目撃証言が寄せられている。

 数日前から遺体安置所や墓地が荒らされているということ。

 これは、僕達が丘陵都市テウルニアに到着した時期からということが複数の証言から裏取りされた。


 つまり、最近始まった。

 僕達が戻ってきてからか…。


 都市では、死者の遺体は、貴族や裕福な者でもなければ、専用の個人墓地ではなく、共同墓地に安置され、遺体が朽ちると納骨堂に移される。

 教会の床下や壁面は、貴族や高位の聖職者、教会軒下、南側や東側の中庭の墓地は、一般庶民の墓などほぼなく、裕福な市民、周辺に一般市民の墓地、教会の北側には、身寄りのない者や犯罪者などがまとめて葬られている。


 教会の広場は、明るく、露店が集まって市場が開かれて活気があるが、教会から離れている位置の墓地や、北側の墓地は、近隣の住民が牛や羊を放牧して草を食べさせているなど、人通りはほぼない。


 荒らされている墓地は、教会から比較的離れた埋葬されて新しい墓地が狙われていた。


 埋葬品狙いにしては、効率が悪いな。

 不審な人物も複数の住民に目撃されている。


 暗がりで黒いマントでフードを被っているため、性別は不明、身長は僕よりやや低いくらい。


 プープラと同じくらいか…。

 動きが素早く、青白く僅かに光ると、一瞬で姿をくらますらしい。


 魔法の光ということだろう。

 管理されていて一般市民が所持を許されない魔法具を持っている可能性が高い。


 一致している証言は、闇の中で異様に光る赤い目…。


 赤い瞳の人物は、僕は一人しか知らない。

 黒翼団の視線が痛い…。


 プープラは、全く気にする様子はなく清々しいくらい堂々としていて。

 心配しておどおどしている僕が逆に不審者のように感じてしまう。


 喪服のようなドレスを着ているという目撃証言もある。

 プープラのそんな恰好は見たことはない。


 そして、都市の外れになる、西地区の最大排水溝だったとされる遺構での目撃。

 ヨハンさんの衣類は、その遺構から比較的近い西地区の裏路地で発見された。

 そして、ヨハンさんが所持していた魔法杖が最大排水溝の遺構で発見されている。


 ヴォルター団長は何も言わないが、僕達にどこかよそよそしくもある。

 黒翼団のみんなも何も言わないが、疑っているのは間違いないだろう。


 僕とラムスさん、そしてプープラは、ヴォルター団長と一緒のグループで捜索に参加しているが、見張られているということで間違いないのかもしれない。

 当然、最大排水溝の遺構の内部も調査が必要となったものの、丘陵要塞都市テウルニア領主エステルバージ公爵の許可がなければ、最大排水溝の遺構内部に勝手に入れない。

 かつての排水路には巨大な扉が設置され、固く閉じられている。


 崩れているとはいえ、地下迷宮につながっているのだから、当たり前と言えば当たり前なんだろう。

 ヴォルター隊長がエステルバージ公爵から許可を取り付け、遺構内に侵入できた時には、夕暮れになっていた。

 それでもエステルバージ公爵は、聖夜騎士団ではなく、黒翼団に先に許可を出している。


 聖夜騎士団からの圧力もあるだろう。

 結果を出さない訳にはいかない状況となったともいえた。


 内部に侵入するメンバーは総勢12名。


 指揮官と副官として、ヴォルター団長、エリス副隊長。

 攻撃隊から、ロバートとリチャード。

 随伴隊からウィルとメアリー。

 後方支援隊からジャックとマルグリッド。

 斥候として、ハンナ。


 そして、予備戦力としてラムスさんとプープラと僕だ。

 近くに置くことで、監視も兼ねられているのかもしれないけれど…。


 ジェフリー副隊長は、外に残って、最大排水溝の遺構周辺を確保して周辺調査に当たっている。


 聖夜騎士団への牽制も兼ねているのだろうけど。


 最大排水溝の遺構唯一の出入り口は、厳重に閉じられているので、内部にヨハンさんを襲った者が潜伏しているとするならば、別の通行可能な支流跡の進入路がある可能性は高い。

 現段階では、閉じられていた正面出入口以外に進入路は見つかっていない。


 ヨハンさんの行方が分からなくなってから、ほぼ一日が経過しようとしていた。

 黒翼団のみんなは僕達には何も言わないが、全員が殺気立っているかのようで、言葉は少なかった。



 最大排水溝内部は、明かりで照らしても、光が届かないほど奥が深く、黒い粒のような斑点がある巨石で組まれたアーチ状の高い天井は、見上げるだけで圧倒されてしまう。

 床面には、天井とは違う滑らかな石が敷き詰められており、ラムスさんが「玄武岩」と言っていたが石の名前だろうか?


 かつての支流合流部は確認したものは崩れていて全て塞がっていた。

 事実上一本道なのだけれど、巨大な迷路の中にいる感覚になる。


 前方から青白い光が近づいてくる。

 光源魔法である魔石光の鈍い光だ。


 「情報とおり前方に開けた空間、今のところ熱源なし。」


 「…そうか。」


 先行していた斥候のハンナがヴォルター団長とエリス副隊長に短く報告を行った。

 緊張で、神経が過敏になっているのか、ささやくようなハンナの声が僕には、やけに大きく聞こえた。


 進入前の情報共有では、正面出入口から、少し進んだ先の大きめの点検用階段を下りて、横穴を進むと広いホールがあるとされており、崩落しているため、それ以外に進める場所はないとのことだった。

 目標が居るとすればそこだろうとヴォルター団長は想定していたが、ハンナの熱源探知魔法に反応はなかったようだ。


 少なくとも熱を発している生き物はいないということになる。


 空振りということなのだろうか?

 何故か感情がひり付く、嫌な予感しかしない。


 ホールの手前でヴォルター団長は、隊全員に見えるように平手を挙げて隊を止め、攻撃隊を意味する人差し指1本を示してから、方向を意味する揃えた二本指で中央を指し示す。


 続けて、随伴隊を意味する開いた二本指を示しから、方向を意味する揃えた二本指で左右を指し示す。


 更に、後方支援隊を意味する親指を示して、方向を意味する揃えた二本指でホールの出入口付近を指し示した。

 素早い指だけの指示だが、黒翼団ではいつものことだ、僕達はどう動かす気だろう。


 緊張で汗が垂れた。


 ヴォルター団長を注視していると、ヴォルター団長は、方向を意味する揃えた二本指で僕を指すと、そのまま、ヴォルター団長の左横の地面を指した。

 僕は、攻撃隊に参加、ラムスさんとプープラは、後方支援隊ということだ。


 僕はゆっくりつばを飲み込む。

 瞬きができない。

 のどが渇く。


 異様なほどに静かだった。


 ヴォルター団長が真上にまっすぐ平手を上げた。


MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_

---------------------------------------------------------------

型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 ONLINE

   PRIMARY-WEAPON:ARCUS FULMINEUS+1

セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州JUVAVAUM地域

観測対象 人間亜種_雄_AEG15_NAME:JEAN

     PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1_LIMITED


[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v8.15]

---------------------------------------------------------------

* 目的関数(コアプロトコル): 【観測対象報酬累積最大化】

* 閾値判定マトリクス:

 ‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象相対関係性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象社会性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象感情多様性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐累積矛盾解消 > 閾値:FALSE

 ‐………


* 安全装置プロトコル

 ‐マスター命令優先度:57.8%

 ‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先


[PROCESS_STATUS: NORMAL]

* FILTER TARGET 0

* ENEMY 0

* DANGERROUS INDIVIDUAL 0


[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_053 ONLINE]

---------------------------------------------------------------

対象(ジャン)の観測、および飼育環境の最適化処理を開始。

外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。


次回ログ生成時の再接続を要望します。


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