第2部 第4章4話 噂話の種明かし
噂話で変な連想をしてしまったのを馬鹿らしく思う。
プープラがそんなことをしている訳がない、そう思った。
仮にそうだと言ってなんだというのだ。
僕はもう化け物に片足を突っ込んでいる。
プープラがどんなことをしていたとしても僕が守る、そう思っている。
僕にとっては、ある意味それが今の世界の全てかもしれない。
夕食は、パテ・ド・カンパーニュというらしい、挽肉等とスパイスを合わせて型に入れて湯煎焼きにして、数日熟成させた料理だそうだ。
強めのスパイスが鮮烈だ。
吹っ切れたからだろうか、久しぶりに食事が美味しい。
「ジャン、私にも一口頂戴。」
「…。」
「俺にもくれよ。」
「…駄目。」
プープラは、マルグリッドさんに甘い、しかし、ヴォルター団長が料理に近づこうにも、プープラの絶対防衛により、料理には近づけない。
プープラは、料理を基本的に僕以外には絶対に食べさせないのだ。
マルグリッドさんだけは例外になったのが謎だけど。
無表情のプープラの髪を撫でてクスクスとマルグリッドさんが笑っているのが、不思議に見える。
いつの間にかだいぶ仲が良くなったのだろうか?
みんなと一緒に食事をとるときは、せめて、香草とかスパイスを押さえてくれれば、匂いで注目を引かないのにとも思う。
いままで考えたことはなかったけど、匂いを誤魔化しているのだろう。
食材の匂いが独特なのだろうと思う。
いちいち考えてはだめだ。
「みんな、食事を取りながら聞いてくれ。」
ヴォルター団長がビショフを飲みながら、立ち上がって声を上げた。
食堂に居た何人かの黒翼団のメンバーが夕食を取りながらヴォルター団長の言葉に聞き耳を立て始める。
プープラは、相変わらず、無表情で僕の食事の様子を赤い瞳で見ているが、僕は何事が始まったのかと目線をヴォルター団長に送った。
赤い瞳が今日はやけに鋭く感じた。
「久しぶりに面白い仕事が来たぜ、なんと人食い退治だ。」
人食い…。
人食い、その言葉に昼間のアンナの噂話も思い出される、根拠のない噂話の類ではないのか?
一瞬体が硬直し、無意識に手元のパテを見た。
人食い…。
肉の出所、匂いを誤魔化す調理、正にそれは僕自身ではないのか…奇妙な感覚がしてくる。
頭から雑念を振り払え、全ては今更だ、黙っていれば分からない。
金属音がした、プープラの左手のバンクルが何かにぶつかった音だろう、今のヴォルター団長の話に、プープラも反応しているのだろうか?
今の話に反応しているのか、赤い瞳が僅かに揺らめいて見えた。
動揺している?
赤い瞳が僅かに揺らめいている。
「墓場が荒らされて、遺体が損壊されたり、遺体安置所の遺体が盗まれたりしているそうだ。」
「団長、食事中ですよ。」
ゴブレットのビショフを飲みながら、何人かの団員が大声で笑いながら野次を飛ばす。
「そこで、依頼が来たわけだ、犯人を見つけろとね。」
「人食いじゃないんですか団長。」
「そんなもんいるか、都市の中だぞ、埋葬品狙いのコソ泥だろ。」
ヴォルター団長の言葉に笑いが起こる。
「夜間見回りして来いってことですか。」
「分かってるじゃねぇかヨハン。」
「しかも俺に行けってことですか?。」
「聖夜騎士団が動いてるらしいが、エステルバージ公爵様は、教会に借りを作りたくないんだと。」
「公爵に貸しを作りたいんですね。」
「ほんと、わかってるねヨハン。それにだ、教会騎士団はまた何か裏でやってる可能性もある。
奴らの動向を探る意味もある。」
ヴォルター団長が後方支援隊の魔法士ヨハンの肩に手をまわして、ニヤニヤ笑っている。
エリス副隊長が呆れた顔をしながらその様子を眺めている。
エリス副隊長の様子を目で追うと、エリス副隊長はプープラをちらりと見ていた。
疑っているのか?
赤い瞳は、僕を見ていて何も語らない。
嫌な緊張感がする。
「順番で夜間巡警してもらうことになるが、武器の携行は許可を取ってある、油断すんなよ。」
「…わかりましたよ。」
瞬間的に真面目な圧のあるヴォルター団長の言い回しに魔法士ヨハンが降参したような表情をして本日の夜間巡警を了承させられたようだ。
これは、いつもの光景でもある。
ヴォルター団長は、埋葬品狙いのコソ泥と言っていたが、どこかヴォルター団長の言葉になぜか違和感を感じて居心地が悪い。
明らかに情報を伏せている。
僕は食事を全て食べ終えて、無意識に立っているプープラに視線を向けると、冷たいプープラの赤い瞳が異様に光って見えたように感じた。
赤い眼のという噂のはずだ。
なんで、この場では言わない?
思考が冷たくなっていく。
もしかして、プープラなのか、僕の食事のために遺体を集めている?
僕達は疑われているのか?
「食べたなら、拭身して寝なさい。」
プープラの声に、体が反射的に反応して、一瞬硬直した。
嫌な汗をかいている気がした。
プープラは、片付けのために、食堂を無言で出て行った。
アンナは、人食いは、光る赤い目をしていると言っていたのに、ヴォルター団長は最後までこの場では言わなかった。
アンナの言っていたことは、枝が生えた噂話ということなのだろうか?
それとも、ヴォルター団長は意図的に赤い目の部分を避けた?
僕達がこの場にいたからか?
教会騎士団が関係しているということは匂わせていたな?
何かを隠している気がした。
エリス副隊長が食堂を出ていくプープラを鋭い視線で凝視している?
ヴォルター団長もエリス副隊長もプープラを疑っている?
胸がざわつく。
食堂を出ていくプープラの左手首に、丸バングルがちらりと見えて、ますます感情が整理できなくなる。
考えたくない。
僕のためにプープラがそんなことをしていたということなのか?
僕は、なんか精神的につかれたので、深く考えることは止めて、さっさと寝ることにした。
何も考えたくなかっただけだ。
早く寝たせいで、深夜目が覚めた。
何気なく窓の外に視線を向けると何かが視界に入った。
黒いマントを羽織ったプープラの様に見える。
夜陰に紛れるように出かけていく姿を目撃してしまった。
「…プープラ?」
その動きは、素早く、重さを感じさせない幽鬼のような動きで一瞬のうちに黒いマントの影が暗闇に消えていった。
現実とは思わず夢の続きとしか思えなかった。
夢でも見たんだろう。
考えすぎていて錯覚を見たんだ。
その時は眠気もあって見間違いと自分を納得させて、眠りに戻った。
大したことではないと思っていたのだ。
翌日、後を追うべきだったと僕は、深く後悔することになる。
気づかされたのだ。
何の肉、何の匂い、赤い瞳、二人の疑い、情報の秘匿、聖夜騎士団、そして深夜の外出、僕がもう人ではないという事実。
いつの間にか、僕の感覚さえも狂ってきていたことに。
そして、決定的に…。
翌日、夜間巡警に出ていた魔法士ヨハンは昼になっても帰ってこなかったのだ。
黒翼隊みんなでの捜索で西区の裏路地に魔法士ヨハンの血痕が付いた衣類だけが発見された。
その瞬間、胸の奥で何かが音を立てて崩れた。
心が引き裂かれそうになる。
僕は確かめる必要があった。
僕がまだ、心が人間のままでいるかどうかについて…。
自分では、とっくに答えは知っているのだけれど。
MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_
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型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 ONLINE
PRIMARY-WEAPON:ARCUS FULMINEUS+1
セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州JUVAVAUM地域
観測対象 人間亜種_雄_AEG15_NAME:JEAN
PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1_LIMITED
[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v8.15]
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* 目的関数: 【観測対象報酬累積最大化】
* 閾値判定マトリクス:
‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐対象相対関係性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐対象社会性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐対象感情多様性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐累積矛盾解消 > 閾値:FALSE
‐………
* 安全装置プロトコル
‐マスター命令優先度:57.9%
‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先
[PROCESS_STATUS: NORMAL]
* FILTER TARGET 0
* ENEMY 0
* DANGERROUS INDIVIDUAL 0
[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_052 ONLINE]
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対象の観測、および飼育環境の最適化処理を開始。
外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。
次回ログ生成時の再接続を要望します。




