第2部 第4章1話 届いた日記
丘陵要塞都市テウルニアを出てからあっという間の半年間だった。
エリスは、丘陵要塞都市テウルニアの黒鷲傭兵団本部の個人貸与宿舎の一室に残されていた僅かな荷物を片付けていた。
自分の宿舎ではない。
名目は、引き取り手のなくなった遺品の処分だ。
あの紙片の伝言の意味を確かめなければならない。
樹海竜南進事変によって始まった王国の危機は、現在収束し、安定方向に向かっている。
一時は、防衛都市オヴィラワ辺境伯に叙爵されたコンラート辺境伯に反発した前領主の後継、フランツ・フォン・シュワルツェンベルク伯と普遍教教会の教会騎士団のオイゲン卿と対立することになったものの、和睦が成立し、現在は協力関係が構築されている。
このことで、王国北部は一気に安定化が進んだ。
しかし、フランツ伯が普遍教教会の教会騎士団と手を組みコンラート辺境伯と対立で多くの血が流れている。
王国の危機だった言うのに何をやっていたのだろう。
人間同士が争うとは本当に愚かなことだ。
本来であれば、魔物を退け、民を守る剣でもある傭兵団が、いったい何をしていたのだろうと、気分が沈む。
エリスは、深いため息をついた。
丘陵要塞都市テウルニア領主エステルハージ公爵は、都市防衛の正規軍300を失っている状況から、兵力回復が進まない状況もあるため、治安維持、周辺魔物の討伐、黒鷲傭兵団の再編成指導を名目に、黒翼団に応援を依頼し、現在、半年ぶりに丘陵要塞都市テウルニアに戻ってきていた。
ここは、故郷でもあり、黒翼団の元根拠地でもある、こんなに早く戻って来られたことは素直に嬉しい。
戻って来られたのには、真の理由も潜んではいる。
丘陵要塞都市テウルニアに駐留する普遍教会の教会騎士団への牽制だ。
嬉しさに比例するように喪失感も深かった。
まったく、私は何をやっているんだか…。
エリスは、主を失ったベルトラン副隊長の個人貸与宿舎の遺品を鞄に詰め終えた。
自分よりも僅かな私物しかなかった。
ベルトラン副隊長は行方不明のまま、遺体も見つかっていない。
引き取った後は、僅かな仲間内で燃やして灰にする予定になっていた。
ベルトラン副隊長には家族は居ない。
妹がいたという話を聞いたこともあったが、だいぶ前に亡くなっていると言っていたのが思い出される。
ベルトラン副隊長は同じ副隊長ということもあり、付き合いは古い。
いつも私に明るく声を掛けてきて、煩わしいいくらいだった。
彼の気持ちに気が付いていなかった訳ではない、自分の気持ちが他を向いていたことで、その気持ちには答えられなかっただけだ。
真面目で誠実で不器用な奴だ。
共に死線を超え、泣き、笑いあった記憶が思い出される。
所詮安い命の傭兵団、いちいち感情的になっていたらきりがないのだが、一粒だけ、涙が頬を垂れた。
「…気をつけろ…か。」
ベルトラン副隊長の残した紙片の言葉も気にかかる。
日記はテウルニアに送った…。
テウルニア丘陵都市の宿舎に何かを送ったという隠語だろうか?
それとも日記に何か重要な情報か意味があるのか。
残された荷物は少なく、半年前に時が止まったように変化はない。
殺風景な宿舎の中には、目的の物が見当たなかった。
ベルトラン副隊長が送っていたとはいったい何だったのだろうか。
まるで、私の身を案じているようにも感じる。
気を付けろ 日記は テウルニアに送った
血で書き残されたベルトラン副隊長の最後の言葉。
違和感のある言葉だった。
あいつは、いったい何を伝えたかったんだ…?
「…荷物。」
背後から突然、少女の声がした。
なぜか強烈な殺気を感じた感覚に襲われる。
とっさに、距離をとって振り返った。
そこには赤い瞳の少女、プープラがいた。
無表情の赤い瞳がやけに鋭く感じる。
背後をとられていたことに全く気が付かなかった。
嫌な汗をかくような感覚になる。
帯剣している剣の位置を確認した。
「…これ、渡せって言われて持ってきた。」
「…そうか、突然で驚いたよ。」
「…。」
無表情にプープラが小さな包みを差し出してきた。
包みは、熱で溶かした蝋で封緘がしてある。
誰も中身を見ていないようだった。
「…届けてくれてありがとうプープラ。」
「…。」
氷塊でも突っ込まれたように背筋が冷える。
一体これを誰に頼まれたんだ…ベルトラン副隊長にか?
凝視してくる赤い瞳の視線に殺気を感じるのはなぜなんだ。
「プープラ…これを誰に頼まれたんだ。」
「…マスターの依頼。」
「ラムス殿か…わかった、ありがとうと伝えてくれ。」
「…わかった。」
プープラは、エリスにベルトランの遺品の小包を手渡し、無表情のまま去っていく。
受け取る際に触れたプープラの指先が異様に冷たく感じた。
ラムス殿依頼…。
タイミングにも得体のしれない違和感を覚える。
まるで、監視されているような気分がした。
エリスは、小包の封緘を開けて中身を確認すると、革の手帳が入っており、日記というよりは、簡単な手記だった。
覚書のような内容で、今までの依頼における作戦内容や感想等がびっしりと書き込まれている。
真面目なベルトラン副隊長らしい。
私のことについても結構書かれている。
気持ち悪いやつだな…。
思わず、鼻から息を吐いて笑ってしまう。
後半には、ケーテのことも書かれている、別にどうでもいいのだが。
花を贈ったことがかかれていた。
私にはくれたことがないのに。
なんとなく、気に食わない気もした。
手記の最後の数ページが落丁しているようではあったが、ざっと目を通した内容に特に気になる情報はなかった。
特に気になる内容がないことに強烈な違和感を覚える。
あの血文字の伝言とこの手記がつながらない。
この手記は日記のことで間違いないはずだ。
ベルトラン副隊長がこんな意味のないことをするわけがない。
なんだ…これは。
「エリス副隊長こちらでしたか、ヴォルター隊長が呼んでいますよ。」
「マルグリッドか…。」
マルグリッドの豊かな胸の前で揺れる赤いペンダントが輝いている。
胸元の赤いペンダントを、何度も指でなぞっていた。
「午後からの会議には少し早いな…。」
「私は内容までは分かりません。」
エリスの言葉に、マルグリットは用が済んだとばかりに去っていく。
思わずため息が出てしまう。
普遍教教会の教会騎士団へのけん制が真の目的だったとしても丘陵要塞都市テウルニア領主エステルハージ公爵は、黒翼団を遊ばせておくつもりはないらしい、さっそく仕事の依頼ということか。
「わかった、すぐ行く。」
エリスは、部屋を出る際、振り向いて、空っぽになったベルトラン副隊長の個人貸与宿舎を最後にもう一度だけ見渡した。
懐かしい思い出の匂いがする。
この部屋での最後のやり取りが思い出された。
そういえば、あいつからの告白の返答は保留のままだったな…。
私にも花くらい贈れよ…バカ野郎。
勝手にいなくなりやがって…。
「…さよなら、ベルトラン。」
エリスは、静かに優しくつぶやいて、部屋を後にする。
空っぽの宿舎の床を涙が僅かに濡らしていた。
MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_
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型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 OFFLINE
PRIMARY-WEAPON:ARCUS FULMINEUS+1
セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州JUVAVAUM地域
観測対象 人間亜種_雄_AEG15_NAME:JEAN
PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1_LIMITED
[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v8.12]
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* 目的関数: 【観測対象報酬累積最大化】
* 閾値判定マトリクス:
‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐対象相対関係性 > 閾値:FALSE
‐対象社会性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐対象感情多様性 > 閾値:FALSE
‐累積矛盾解消 > 閾値:FALSE
‐………
* 安全装置プロトコル
‐マスター命令優先度:58.5%
‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先
[PROCESS_STATUS: NORMAL]
* FILTER TARGET 0
* ENEMY 0
* DANGERROUS INDIVIDUAL 0
[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_049 ONLINE]
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対象の観測、および飼育環境の最適化処理を開始。
外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。
次回ログ生成時の再接続を要望します。




