第2部 第3章4話 両軍激突
スラウチ・ボア・ウォーカーは、猪の頭をした巨人だ。
それが十数体僕達に向けて森を粉砕しながら突進してくる。
僕は、全速力で逃げるしかなかった。
「ジャン、一匹持って。」
プープラが、物でもつかむように首を絞めているウリ坊の一匹を僕に無造作に差し出してきた。
ウリ坊がジタバタと暴れながら、甲高い鳴き声を上げている。
プギィィィ。
キィィィィアアア。
ウリ坊が悲鳴を上げるたびに、スラウチ・ボア・ウォーカーの怒号のような咆哮が大きくなっていく。
絶対に、僕達を殺すまで止まることはないだろう。
「プープラ、逃がしてあげてよ、このままじゃこっちが危ないよ。」
「だめ、これは作戦。」
プープラが無表情のまま抑揚のないしゃべり方で僕にウリ坊を押し付けてくる。
スラウチ・ボア・ウォーカーとの距離はもうほとんどない。
作戦どころじゃない、これは死んでしまう。
「ジャン君、忘れたのかい、あれを使うんだよ。」
「えええ、あれって、何ですかあああ。」
ラムスさんとプープラの足元が青白く光を発しているのが見えた。
そういえば、樹海竜と戦った時に、教えてもらっていた…。
『アムブラティオー・イン・アエレ』
僕は、同時に同じ呪文を唱えた。
空中に地面が現れたかのように、僕の見えない地面を足場に空中を掛けていく。
不整地な森の地面と異なり走りやすい。
『コンフィルマーティオー』
体が熱くなり、力がみなぎり身体能力があがる、空中を飛ぶように走り、僕は一気に加速し、スラウチ・ボア・ウォーカーとの距離がぐんぐん開いていった。
僕は、空中を風のように疾走している。
最初からちゃんと説明してくれよ。
スラウチ・ボア・ウォーカーの怒号のような咆哮がますます大きくなり、森林を破壊しながら僕達を追ってきているのが見える。
これで、何とか誘引は成功なのか?
僕の手の中でウリ坊が甲高い悲鳴を上げている。
作戦とはいえ、こんなやり方しかないのだろうか。
僕は最悪感で胸がチクリと痛んだ。
「ヴォルター団長、何とか間に合いましたね。」
「ああ、先手はこちらが取れたな、
あいつらは、こっちがここで待ち構えているとは思ってなかったのだろう。」
「そうでしょうね、こちらは150、あちらは300ですから。
ローリアクム要塞に立て籠もると思っていたでしょうね。」
ヴォルター団長は、即席の塹壕の中でエリスに目線を移した。
背後で爆発が起こり、土柱が上がる。
振動が伝わり、土砂が頭に降りかかってきた。
ラムスの旦那のいうとおり、こちらから奇襲攻撃を掛けず、敵が到着すまでの間に隘路において、数本の簡易塹壕を魔法で急増したのは正解だったのかもしれない。
巨大な岩も、十数個設置し、竜の牙の様に配置されている。
頭上を複数の榴弾魔法が通りすぎていく。
塹壕に身を隠しながら、杖だけを相手に向けて、閃光魔法、爆裂魔法、瓦礫加速投擲魔法をひたすら打ち続ける。
今回は、攻撃隊は防御特化で、塹壕の上方の防御に徹している。
塹壕陣地の前方には、地面に隠蔽して接触型爆裂魔法を広範囲に設置してある。
敵は接触型爆裂魔法原に引っかかり、目論見どおり、混乱し、前進できないでいるようである。
今のところは、上手くいっている。
遅滞戦闘としては、上々だ。
「ちっ、いけすかねえ作戦だな…。」
「敵の防御力と攻撃力が異常です、
やはり、“アイギス・アショア”が貸し出されているという情報は間違いないようですね。」
「そのようだな…。」
「ラムスの旦那は、魔石のほとんどを俺たちに回してくれた、
魔石をジャブジャブ使っても足止めがやっととはな。
どうにも信じられねえ、これが敵の魔道具の力ってやつか…。」
「陣地構築せずに奇襲攻撃なんてしていたら、全滅していたかもしれませんね。」
塹壕を移動しながら、エリス副隊長がヴォルター団長の肩に降り積もった土砂を払っていた。
ヴォルター団長は、忌々しそうに鼻から息を吐いた。
ヴォルター団長としては、こんな戦法は不本意なのだ。
本来であれば戦士として突撃し、剣を交えて雌雄を決したい。
それが、モグラの真似事とは…。
敵は、巨大な岩で構築された竜の牙、接触型爆裂魔法原、上方からの榴弾魔法、塹壕から水平に撃ち込まれる閃光魔法、爆裂魔法、瓦礫加速投擲魔法により、完全に足止めされていた。
こちらは、簡易塹壕とはいえ、身を隠す場所があり、攻撃隊による強固な防御魔法により、防御力が底上げされている。
潤沢な魔石あっての作戦だ。
贅沢な戦い方だな…しかし、魔石の消費が激しすぎる。
そして、呪の蓄積も重いという代償付きだが…。
これだけの密度の攻撃を受けているのにも関わらず、相手の損耗が少なすぎる、正規軍100はほぼ無傷だ。
市民兵200はそこそこ数を減らしている、2割程度ってところか。
足は止めれているが、こちらの攻撃の効きが悪い。
敵には、遠距離魔法を使えるものが少ないのだろう。
遠距離魔法攻撃の密度はこちらの三分の1以下なのは行幸だ。
そもそも、市民兵には、大した魔法武具が支給されていないのかもしれない。
それでも敵の攻撃が重すぎる。
魔石を節約している余裕はない、そんなことをしたら、陣地ごと吹き飛ばされそうな威力の攻撃が時折飛んでくる。
「これでもじり貧なのかよ…。」
「敵が接触型爆裂魔法原の一角を突破しそうですね。」
「右翼の援護に回ってくれ…第二塹壕に後退だ。」
「わかりました、そろそろ、時間のはずです。
それまでは、我慢していてくださいねヴォルター団長。」
「ああ、分かってる、俺が突っ込んだら、後の指揮は任せる。」
「…はい。」
周囲で複数の爆発音が響き渡り、地面と空気が震えている。
魔物と戦っている方がよっぽど楽だな。
右掌を見ると黒ずみが始まっている。
呪の蓄積が進んでいる、残り時間はわずかということか…。
無意識に舌打ちをしてしまっていた。
ヴォルター団長は、腰に差している新型の魔法剣に目を移す。
「さて、間にあってくれよ…。」
ヴォルター団長は、新型の魔法剣の柄に手をかけ小さく呟いた。
「ジャン、このまま、高度15メートル、時速100キロを維持。」
「…分かった。」
空中を走っているとは言え、樹木はよけなければならない。
枝が僕の顔にぶつかり、粉々になって弾けていく。
ラムスさんは、遥か上空にいて、余裕の表情だ。
僕とプープラは、スラウチ・ボア・ウォーカーを誘引するため、低空を疾走しているのだ、緊張と恐怖で胃がひっくり返りそうだ。
「ジャン、間もなく森を抜ける、高度30メートルまで上昇、
速度を時速300キロまで増速、敵中央に急降下後、誘引源を投下して。」
プープラが機械のように冷たく指示してきた。
風切り音に混じって前方から激しい爆発音が響いてくる。
手元でウリ坊が甲高く泣いている。
そんな…。
考える暇もなく、森を抜けた。
目の前に黒翼団の塹壕陣地に突撃していく敵軍の背が見えた。
複数の光弾が降り注ぎ火柱や土柱が上がり、爆発音が響いている。
無数の煙が立ち上り、地形がえぐれて歪に変形していた。
こんな異様な光景を見るのは初めてだ。
全身の毛穴が開いて、汗が噴き出した。
誘引源…。
僕は速度を上げて上昇した。
敵が僕とプープラの接近に気が付き、矢や魔法を打ち込んでくる。
かわした光弾が背後で破裂して、爆風の圧が感じられた。
敵軍中央に到達と同時に、一気に急降下する。
地面と敵軍が迫ってくる。
「投擲。」
ウリ坊が悲鳴を上げた。
ウリ坊と視線が合って、震えながら僕を悲しそうに見つめている。
僕は胸の奥がひどく痛み、手が止まってしまう。
あ…。
プープラは、無言で僕が持っていたウリ坊を取り上げて、地面に放り投げてしまった。
無造作にあっけなく。
ウリ坊の悲鳴のような甲高い鳴き声が耳にこびりつく。
「ジャン、離脱して…。」
「…わかった…。」
森の樹木が爆発したように宙に舞い上がり、スラウチ・ボア・ウォーカーが怒号のような咆哮を上げ、敵軍の後背に突っ込んでいくのが見えた。
敵軍の兵士が紙きれのように吹き飛ばされていく。
これで、良かったんだよな…。
僕は、罪悪感で胸が苦しくてたまらなかった。
MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_
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型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 ONLINE
PRIMARY-WEAPON:ARCUS FULMINEUS+1
セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州JUVAVAUM地域
観測対象 人間亜種_雄_AEG15_NAME:JEAN
PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1_LIMITED
[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v8.10]
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* 目的関数: 【観測対象報酬累積最大化】
* 閾値判定マトリクス:
‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬高発火[READY]
‐対象相対関係性 > 閾値:FALSE
‐対象社会性 > 閾値:FALSE
‐対象感情多様性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐累積矛盾解消 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐………
* 安全装置プロトコル
‐マスター命令優先度:68.7%
‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先
[PROCESS_STATUS: NORMAL]
* FILTER TARGET 0
* ENEMY 0
* DANGERROUS INDIVIDUAL 0
[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_046 ONLINE]
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対象の観測、および飼育環境の最適化処理を開始。
外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。
次回ログ生成時の再接続を要望します。




