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第2部 第3章3話 作戦開始の咆哮

 「あ、あの、ラムスさんちょっといいですか?」


 「なんだい、ジャン君?」


 ラムスさんが僕の方を向き、優しく微笑んだ。

 森が深くなっている、これ以上は進めなそうだ。

 馬の速度が落ちていいく。

 

 ずっと、気になっていたことがあるのだ。


 僕の剣には、現在出力制限がかかっていて、樹海竜を倒した時のような高威力は出ない、でも、出力制限を解けば、簡単に勝てるんじゃないの?

 素人考えかもしれないけど、おかしな発想ではないはずだ。


 敵の中心に突っ込んで、一撃を放てば、かなり有利に戦えるのでは?

 こんなまどろっこしい作戦をとる必要なんてないんじゃないのか…。


 「ジャン、馬から降りて。」


 「あ、ああ…。」


 「歩きながら、質問を聞かせてもらうよ。」


 ラムスさんが僕の顔を見て、流れるように右手で頬を軽くなぞると、優しく微笑した。

 何か理由でもあるんだろうか?


 「ラムスさん、僕の剣の出力制限を解除するのはダメなんですか?」


 「それも、いい作戦なんだけどね。」


 森を進みながらラムスさんが楽しそうに笑っている。

 いい作戦なら、その方がいいじゃないか。

 不満げな僕の顔をプープラが無表情に横目で見ている。


 「フランツ伯が、教会騎士団から“アイギス”という魔道具の貸し出しを受けている

 という情報があってね。」


 「…アイギス?」


 「そう、アイギス、別名“イージス”とも言われる魔道具さ。」


 「それが、問題なんですか?」


 教会が秘匿している禁忌武具の一つなんだろう、ラムスさんがやけに慎重なのはそのせいということはわかるけど、そんなに、厄介なものなのかだろうか?

 そもそも、強力な魔道具を使えば、強力な呪を受ける。

 ごり押しでいけば、最終的に押し勝てるんじゃないのか?


 「アイギスにもいろいろ種類があってね、君が考えてる武具とは少し違くてさ、

 性質としては、魔道具と言えるかな。」


 「武具ではなくて、魔道具ということですか?」


 「そのとおり、“アイギス・アショア”と呼ばれる、広域に“味方強化・敵弱体化”を

 同時に発生させる戦場支配型の魔道具なんだよ。

 これが、厄介でね、SM3とかTHAADとかは、ないだろうけど

 半径100キロは、広域戦闘構造場展開ができる、

 敵は、魔道具に同調されて構造場強度が上昇して強化されるし、

 逆にこちらは、位相を乱されて、魔法の効果が激減する。」


 また、なんだか分からないことを…。


「つまり、どういうことなんですか?」


「君の一撃は確かに重いが、魔石消費も重いんだよ、効果が限定的になるから、

何度も攻撃する必要が出てしまう。さらに、オヴィラワ防衛都市とローリアクム要塞との距離は

40キロメートル、これが近すぎる。

アイギス・アショアの効果は、距離に反比例するから、分が悪いと言えるね。」


 どうにも、分からない、僕の攻撃は強力だけど、効果がおちる?

 魔石の消費が激しいことは何か問題なのか…。

 アイギス・アショアはそんなにやばい魔道具なのか?


 「あはは、ジャン君は途中から作戦会議聞いているようできいていなかったからなあ、無理もない。

 分かるように教えてあげるよ。」


 「…お願いします。」


 ラムスさんが楽しそうにしている。

 確かに会議の場に僕はいた。

 しかし、いたからと言って話の内容が分かるかは別問題だ。

 そもそも、話に出てくる単語の意味も分からない。


 横目でプープラを見ると、弓を構えながら歩いており、周囲を警戒している。

 視線が合うが、無表情のままだ、呆れているのだろうか?

 情けない気分になってしまう。


 ラムスさんは、僕にも分かるように優しく説明してくれた。


 ラムスさんの説明では、どうやらオヴィラワ防衛都市に厄介な魔道具アイギス・アショアがあるらしい。

 このアイギス・アショアのせいで、僕達は弱くなり、敵が強くなる。

 そのため、有利な地形で戦うにしても、それは、遅滞戦闘らしい。

 僕達が誘引する魔物を横側にぶつけて、数を削りながらしのいで、敵の注意を引くのがヴォルター団長たちの役目らしい。


 そして、僕達の役目は、魔物の誘引が本当の目的ではないそうだ。

 そんな話聞いてないんですけど。


 「シャン君にジャブジャブ魔石遣わせれば、

 オヴィラワ防衛都市から進行してきている300は撃滅できるけど、そこで魔石切れ、

 こちらにも3割くらいは損害出るだろうしね。

 つまり、オヴィラワ防衛都市から新手が来たら詰んじゃうよ。」


 「…はあ?」


 どこが簡単な話なんだよ。

 そろそろ、何を言っているか付いていけないんですけど。


 「魔物誘引後、私たちは、オヴィラワ防衛都市に行くからね。斬首作戦ってやつだね。」


 はあああ?


 オヴィラワ防衛都市って、フランツ伯の根拠地でガチガチに防護を固めた要塞なんじゃないの?

 フランツ伯のところにたどり着くどころか、防衛都市内に潜入することすらできそうな気がしない。

 そんなの無理に決まってる。


 「敵の司令部の場所が分かってるんだ、こんなに楽な戦いはないよね。」


 「そんなの、無理に決まってますよ。」


 「大丈夫だよ、余裕、余裕。」


 ラムスさんは、相変わらず楽しそうに微笑していて、まるで大したことではないかのように僕の肩を軽く叩いていた。

 プープラは、僕達の様子に呆れているのだろうか、無表情で僕に視線を合わせると、無言で右手の人差し指を口の前に立てた。


 どうやら、うるさかったみたいだ。



 森の奥に進むと、しばらくして、プープラがワイルド・ボアの群れを発見した。

 どうやらこれが目的の魔物らしい。

 しかし、ワイルド・ボアなんてそんなに強力な魔物ではない。

 これを、敵にけしかけても、役に立たないんじゃないのか?


 ワイルド・ボアの群れは5頭。

 体長2メートルくらいの大きな個体が1頭。

 1メートルくらいの個体が3頭。

 そして、まだ、背中に白い斑点のある、いわゆる『ウリ坊』と呼ばれる個体が2頭である。


 1メートルくらいの個体も、ウリ坊と大して変わらないくらい幼い。

 魔物なんだろうけど、見ていて思わず可愛いと思ってしまうくらいだ。


 プープラは、素早く矢を放ち、一瞬にしてワイルド・ボアの群れを倒してしまった。

 あれ、倒したら誘引できないじゃないか?

 妙な違和感がした。


 倒したワイルド・ボアに近づくと、多分母親なのだろう、1番大きなワイルド・ボアは、額を打ち抜かれて絶命していた。

 1メートル程度の若いワイルド・ボアも同様に絶命している。

 何故か、2頭のウリ坊は、眠っているように見えた。


 「プープラ、これは?」


 「…。」


 プープラは、僕の質問に答えることなく、ワイルド・ボアを片手で持ち上げると、勢いよく投擲してしまった。

 放物線を描いて、ワイルド・ボアが遥か彼方に飛んでいき視界から消えてしまった。

 なんなんだこれは?


 ウリ坊2匹がすやすやと寝ている…。


 「さて、これで準備万端だね、プープラさん。」


 ラムスさんが優しく微笑してプープラを見た。

 これのどこが準備万端なんだよ。

 意味が分からない。


 「時間合わせ、5、4、3、2、1、0、作戦を開始します。」


 え?


 プープラは両手でウリ坊の頭をそれぞれ掴み上げると、高々と掲げた。

 無表情のまま、まるで物でも扱うようにウリ坊を持ち上げる。

 ウリ坊2匹が目を覚まして、悲鳴を上げる。


 キィィィィアアア。


 プギィィィ。


 ウリ坊2匹が、高く激しく、耳を突き刺すような叫び声をあげた。

 何をやってるんだ、プープラ、かわいそうだよ、止めてくれ。


 その瞬間だった、僕達の目の前の森の木々が大きく揺れたかと思うと、吹き飛ぶようになぎ倒された。

 爆風のような土煙が僕の脇をすり抜けて行く。


 なんだ、あれは…。


 地面に届くほどの大人の胴体よりも太い腕。

 腕には、岩をやすやすと削っている鋭い爪。

 

 背中には全面に硬質な角質突起が無数に並んでいる。

 強靭な後ろ足が地面を掘る様に蹴っている。

 筋肉と分厚い脂肪が盛り上がっているような猫背の姿勢。


 二本足で地面に立つ巨躯は3メートルをゆうに超えている。

 鋭い牙に発達した豚のような鼻、赤黒く鋭い小さな眼の猪の頭部。


 なんなんだよ…これ…。


 「おお、釣れた、釣れた。」


 ラムスさんが楽しそうに笑っている。

 二本足の巨大な猪頭の魔物、いや魔獣が複数こちらを凝視し、つんざくような怒りの咆哮を上げている、相当に興奮しているのは間違いない。

 森が怒りの咆哮に塗りつぶされていく。


 「…なんなんですか…あれ。」


 「スラウチ・ボア・ウォーカーという魔物だよ、ワイルド・ボアと幼体の鳴き声が同じなんだよ、

 彼らは、いま、子供を奪われたと思って、さぞ頭に血が上っていることだろう。」


 スラウチ・ボア・ウォーカーが前傾姿勢になっていく。

 全身の筋肉に力をためているのだろう。


 次の瞬間、まるで巨大な城壁が動き出したかのように複数のスラウチ・ボア・ウォーカーが突進を開始した。


 爆発のような衝撃音が森を裂いた。

 視界が揺れ、肺が一瞬止まる。


 僕は、全身が硬直してしまっていた。


MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_

---------------------------------------------------------------

型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 ONLINE

   PRIMARY-WEAPON:ARCUS FULMINEUS+1

セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州JUVAVAUM地域

観測対象 人間亜種_雄_AEG15_NAME:JEAN

     PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1_LIMITED


[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v8.09]

---------------------------------------------------------------

* 目的関数(コアプロトコル): 【観測対象報酬累積最大化】

* 閾値判定マトリクス:

 ‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬高発火[READY]

 ‐対象相対関係性 > 閾値:FALSE

 ‐対象社会性 > 閾値:FALSE

 ‐対象感情多様性 > 閾値:FALSE

 ‐累積矛盾解消 > 閾値:FALSE

 ‐………


* 安全装置プロトコル

 ‐マスター命令優先度:68.8%

 ‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先


[PROCESS_STATUS: NORMAL]

* FILTER TARGET 0

* ENEMY 0

* DANGERROUS INDIVIDUAL 0


[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_045 ONLINE]

---------------------------------------------------------------

対象(ジャン)の観測、および飼育環境の最適化処理を開始。

外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。


次回ログ生成時の再接続を要望します。


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