第2部 第3章2話 会議の行方
「包囲されているようで、実はね全く包囲されてないんだよ。」
ラムスさんが優しく微笑む。
エリス隊長が思案するようにラムスさんを見ている。
ヴォルター団長が大きく股を開いて、膝の上に肘を置き、組んだ両手に顎を乗せて上半身を前のめりにして、ラムスさんを凝視した。
また、ピリピリしてきた気がする。
ユヴァウム交易都市とローリアクム要塞間に構築された、簡易砦は、テウルニア丘陵都市、王都ウィルナムとも接続する交通の要衝でもある。
テウルニア丘陵都市は、そもそも黒翼傭兵団の母体である、黒鷲傭兵団の根拠地であり、コンラート辺境伯の後ろ盾でもある、エステルハージ公爵の領地でもあるのだ。
樹海竜南進事変により、テウルニア丘陵都市領主エステルハージ公爵は、都市防衛の正規軍300を失い、兵力は減少しているものの、黒鷲団を擁し、コンラート辺境伯の尽力により、正規軍を再編成しつつあるため、傭兵団と合わせて200程度の兵力を有している。
エステルハージ公爵が王都ウィルナムからの援軍を取り付けたとしても、動いてくれるのは良くて正規軍の半数250、都市防衛にも兵力を残す必要があるので、簡易砦200に対して、動員できる兵力は、せいぜい300というところだろう。
これでは、簡易砦を落とすには、時間がかかる上、被害が大きい。
フランツ伯としては、エステルハージ公爵との連携を封じるためにも、ユヴァウム交易都市の教会騎士団100も簡易砦の200も現段階では直ぐには動かせないというのだ。
まあ、ラムスさんがそういうならそうなんだろう。
もう僕には何が何やら…。
「フランツ伯は、欲が深い、全兵力700をローリアクム要塞に振り向ければ、
こちらもほぼ手がなくなるのに、ローリアクム要塞攻略後、
エステルハージ公爵が王都ウィルナムと拮抗状態を作るための兵力を温存したのだろう。」
「…そうも取れなくもないが、確証はないのではないか?」
「そう、確証はないよ、あくまでも推論の話、でもフランツ伯は
こちらに正規軍100と市民兵200の合計300の混成軍しか差し向けなかった、
ここが肝心なところだよ。」
エリス副隊長の懸念の問いにラムスさんが微笑しながら答えた。
つまり、どういうことなのだろうか?
「防衛都市オヴィラワとローリアクム要塞間は、なだらかな平地と、トラウン川沿いの多段段丘地帯、
距離は40キロメートル程度、相手は混成軍で1日の移動距離は、15キロメートル程度、
橋を落とされて分断されないためにも、相手は、トラウン川の南側から進軍してくるだろう。」
「何か、作戦があるのですかラムス殿…。」
「みなさん、これを見てくれますか。」
ラムスさんは、粉々に砕けたテーブルの上に、地図を広げると、ローリアクム要塞の東方向10キロメートル程度、ドナウ川からトラウン川が分かれる支流部分のやや南方向を指し示した。
最近、ヒュドラ討伐に行ったばかりの所だ。
確か、トラウン川の近くまで森林が迫っていて、平地が狭くなっている魔物の多発地帯のひとつだ。
そこで何をするつもりなんだ?
僕には全く理解が及ばない。
「隘路伏撃戦術の応用と行きましょうか。」
「ラムス殿、その場所は、そこそこ強力な魔物の出現も多く、
身を隠す方も危険となるのではないですか?」
ラムスさんは、エリスさんの指摘を受けて、にっこりと微笑んだ。
どうにも嫌な予感がする。
「そう、都合のいいことに魔物がいっぱいいるんだよ。
地形だけじゃなくて、使えるものは、なんでも使わないとね。」
ラムスさんが楽しそうにケラケラと笑っている。
ヴォルター団長は、僕と同じく意図が分からないのか険しい顔をしてたが、エリス副団長は、何か思い悩んでいるようにも見える。
「…そんなことが可能なのですか。」
「やってみる価値はあるんじゃないかな、上手くいけば、こちらの損害は、かなり抑えられるしね。
つまり、敵は必ず魔物の密集する狭隘地帯を通る。
そこを利用して敵の隊列を分断し、魔物と地形で殲滅するって感じかな。
それが狙いだよ」
「魔物の誘引が鍵ですか…誰がその役をやるのですか?」
「私とジャン君、プープラでやるとしようかな。どうだい?。」
「…。」
「どのみち、開けたところでは、数で負けるし、
後は、籠城するだけだけど、兵站がないからさ、それも無理でしょ。」
「おおむね、方針はわかりました…それしかないかもしれませんね。」
エリス副隊長は、目を閉じて、椅子に深く座りなおした。
ヴォルター団長が、ラムスさんと僕を交互に凝視する。
殺気が漲っているようでとても怖い。
「隘路で遅滞戦闘しろってことでいいんだな。」
「簡単にいうと、お願いしたいことはそれだけです。」
「細かいことを詰めるとするか。」
ヴォルター団長が、地図に目線を落としてそう呟くと、大きく息を吸い込んだように見えた。
一拍おいて、ヴォルター団長が声を張り上げる。
「てめえら、準備にとりかかれ、1時間後に出撃する。」
食堂兼会議室に鬨の声が響き渡った。
あまりの声量にびりびりと建物が揺れているように感じた。
これまでは、魔物相手に戦ってきた。
でも、今回の相手は同じ、人間だ…。
人間同士が殺し合うなんて馬鹿げてる。
なんなんだよこれ、何で人間同士でこんなことするんだよ。
傭兵団や冒険者は、みんなを魔物から守るのが仕事なんじゃないのか?
それでも、これが現実なのだと、胸の奥が冷えていく。
僕には、これから起こることに全く現実感覚が湧かない。
ただただ、怖かった。
1時間後、僕は、黒翼隊の本体とは別に、馬で別行動を開始した。
練習はしているんだけど、上手く馬にまだ乗れない。
そのため、馬をプープラが操り、僕は背にしがみついている。
どうにも、カッコ悪いが仕方がない。
ラムスさんも颯爽と馬を操っている。
ラムスさん馬乗れたんだ…。
乗れないのは、僕だけか。
もっと、練習しなくては。
馬がどんどん加速して駆けていく。
僕の頬を風が吹き抜けていくのを感じる。
流れる景色がものすごく綺麗に見えた。
プープラの背にしがみついているせいか、プープラの髪が僕の顔にかかっていい匂いがしてくる。
密着しているプープラの体温が心地よかった。
「すごいなプープラって、馬も乗れるんだね。」
「…今回が初めて。」
「そ、そうなんだ…。」
無表情のプープラがどこかとても楽しげに見えた。
こんなに上手に馬を操れるなら…初めてなわけがない。
珍しく、僕のことをからかっているのだろうか?
「ジャン、もっとちゃんと掴まって。」
「わ、わかった。」
プープラに密着し続けていると、柔らかな感触がして照れてしまう。
僕は何を考えているんだ。
これは、戦争なんだ。
切り替えないと、僕は、前方に迫ってくる魔物の森を凝視した。
プープラが、手綱を僅かに緩め、同時に引き締めた両足で馬腹を強く圧迫する。
馬が魔物の森へ向かって疾走する。
風が頬を裂くように吹き抜けていく、心臓が痛いほど鳴っていた。
森はどこまでも深く、僕を飲み込むように真っ黒に見える。
僕は、唇を強くかみしめた。
MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_
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型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 ONLINE
PRIMARY-WEAPON:ARCUS FULMINEUS+1
セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州JUVAVAUM地域
観測対象 人間亜種_雄_AEG15_NAME:JEAN
PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1_LIMITED
[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v8.08]
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* 目的関数: 【観測対象報酬累積最大化】
* 閾値判定マトリクス:
‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬高発火[READY]
‐対象相対関係性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐対象社会性 > 閾値:FALSE
‐対象感情多様性 > 閾値:FALSE
‐累積矛盾解消 > 閾値:FALSE
‐………
* 安全装置プロトコル
‐マスター命令優先度:68.9%
‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先
[PROCESS_STATUS: NORMAL]
* FILTER TARGET 0
* ENEMY 0
* DANGERROUS INDIVIDUAL 0
[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_044 ONLINE]
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対象の観測、および飼育環境の最適化処理を開始。
外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。
次回ログ生成時の再接続を要望します。




