第2部 第2章5話 地獄の戦姫の涙
最初は、些細な違和感だった。
故郷を失って心を閉ざしていたケーテは、確かに私の中で泣いていた。
気がまぎれるだろうと、ラムス様のところで働けないかと相談したのは、今思えば痛恨の誤りだったと言える。
「ケーテ、仕事はどうだった、勤まりそうか?」
「…紹介してくださり、ありがとうございましたベルトラン様。」
「…あ、ああ。」
羊毛生地の地味な色合いのワンピース、その上に袖のないエプロンドレスを着た少女。
ヘアバンドに止められた金髪の三つ編。
いつものケーテのように見える。
ただ、その視線に僅かな違和感を覚えた。
強い意志を感じたヘーゼルの瞳だけが、なぜかその時、一瞬黒い穴のように見えてしまったのだ。
同じような違和感を覚える者は、黒翼団内にも数名いる。
表面上は、変わりはない。
ただ、漠然と違和感を覚えただけ。
そして、奇妙なうわさも流れていた。
ラムス工房では、人間の死体が運び込まれていると…。
人工魔石の材料として、魔石を抜き取った後の魔物の肉が使われていることは視察の際に自分の目で確認しているし、周知の事実だ。
魔物自体は、黒翼団が討伐して供給している。
根も葉もないうわさだが、夜間に人間サイズの袋が運び込まれているということだそうだ。
そして、そのような袋は、ラムス工房のどこにも見当たらない。
さらに、樹海竜の突然の南進によって、魔境防衛拠点ローリアクム要塞が陥落し、正規軍2000名が壊滅した際の被害者遺体が消えている。
不思議なことに、行方不明者の遺体がほぼ見つかっていない。
ローリアクム要塞では何かが起こっている…?
密かに潜入して、私が地下で見たものは、冷凍され保存されている、複数の人間の遺体だった。
全ての袋の中身を確認した訳ではない。
直ぐに、複数のスケルトンが現れて、攻撃を受け、今に至る。
骨折している左腕が熱い、感覚がもうない。
呼吸も荒くなっている。
全身が黒ずみ始めていて、倦怠感を感じていた。
吐き気もする。
ベルトランは、唇をかみしめると、その冷凍庫から持ってきた何枚かの名札に視線を落とした。
ケーテ45KG
マルグリッド49KG
ロバート97KG
糞ったれ。
他にも知っている名前が付いている袋が何個もあった。
さっきまで俺と笑って話をしていた、マルグリッドやロバートは、いったい何なんだ。
コンラート辺境伯は、もしかしたらもう、コンラート辺境伯ではない可能性もある。
ベルトランの脳裏に、笑顔のエリス副隊長の顔が浮かんだ。
思わず笑ってしまう。
こんな時に、そんなことを思うなんていよいよだなと思って、笑いが込み上げてしまったのだ。
「…ただの憧れだってーの。」
ベルトランは、腰を落とし、身体強化魔法を発動して、通路の奥を凝視した。
ここを、突破して、一刻も早く、このことをヴォルター団長やエリス副隊長に伝えなくては。
暗がりに、三体の人影のようなものが見えた。
4本の脚に支えられる一つの胴体。
胴体から延びる、四本の腕があり。
奇妙に湾曲した剣がそれぞれ握られている。
二つある、髑髏の頭部の空洞の眼窩が歪に震えながらこちらを凝視していた。
趣味の悪いスケルトンだ。
さしずめ、アマルガム・スケルトンってやつかな。
明らかに、これまでのスケルトンとは異質すぎる。
アマルガム・スケルトンは2体。
その間にもう一人の人影があった。
黒紫の鱗のような質感の体のラインに沿った挑発的なワンピース、その上に宙に浮いているように見えるマントを羽織った少女。
黒紫の髪飾り止められた金髪。
手に握られている、双頭の髑髏の意匠の長剣。
それはケーテのうように見えた。
ただ、その視線に明確な殺気を覚えた。
「ここから先は、通さないってことかな?ケーテ。」
「…あなたの、こと、好きだったのよ。」
「それはどうも、君がケーテだとするなら嬉しいんだけどね。」
その声は、ケーテのままだった。
ケーテとアマルガム・スケルトンは、その場を動かずベルトランが来るのを待っているように見えた。
こっちは、満身創痍なんでね、手加減してくれてるのかな?
さっきまでの問答無用の遠距離攻撃はしてこない。
通路を進んでいくと、円形闘技場のような廃墟だった。
地下にこんなところがあるとは。
天井を見上げると、光が差しているのが見えた。
外が近い。
ベルトランは、僅かに口角を上げた。
「ベルトラン、合格よ、あなたもラムス様の僕にしてあげる。痛みはないわ、眠るようなものよ。」
大人びたケーテの様子に思わず見とれてしまう。
ガキだと思っていたが、黒い宝石で作られたドレスのような鎧が、ケーテの印象をすっかり変えて見せていた。
「随分といい女になったじゃないか、気が付かなかったよ。」
「だったら、あのとき、私の気持ちに答えてくれても良かったのではないのかしら。」
「…心に決めてる人がいるんでね。」
「…そう…じゃあ、エリスさんは、私が殺してあげる。」
ケーテの顔の角度が僅かに傾き、剣を帯びたヘーゼルの瞳がベルトランを真っすぐに凝視した。
空気が張り詰めていく。
空間が歪み始める。
アマルガム・スケルトンが左右からベルトランを囲んでおり、逃げ道はない。
四本の腕で曲芸のように振り回される剣が火花を上げ、まるで挑発しているようにも感じられた。
じりじりと距離を詰められて、ケーテの前に押し出される。
さてと、どうしたもんかな。
「最後に、1つ聞かせて欲しい。」
「…いいわよ、ベルトランなんでも教えてあげる。」
「では、お言葉に甘えて。」
「どうぞ。」
「そこに、ケーテは、いるのかな?いるんだったら、伝えたいことがある。」
「何を言うかと思えばバカなことを…。」
ケーテがたじろぐように表情を歪めた。
ベルトランは、剣を強く握りなおし、大きく息を吸い込んだ。
『エクスキータ』
ベルトランの剣が強く青白く輝く。
『コンフィルマーティオー』
体が焼けるように熱くなり、口から血が噴き出す。
残りの魔石全掛けだ。
同時に、天井とケーテ、アマルガム・スケルトンに向けて投げナイフを投擲する。
ベルトランは、床を蹴りつけて反動を利用してケーテに突進した。
『エクスペルギスケレ』
ベルトランがそう叫ぶと、剣速が最速を叩き出す。
ケーテと目が合った。
ケーテの目が震えているように見えた。
「なんだ、そこにいるんじゃねーか、探したぜ…。」
ケーテの剣がベルトランの心臓に深々と突き刺さり、ケーテの顔を真っ赤に染めていく。
ベルトランには血に濡れるケーテの瞳から一筋の涙が流れたように見えた。
ベルトランは、微かに呟くと、ケーテの腕の中で、動かなくなった。
ケーテは、無言でベルトランをきつく抱きしめる。
ベルトランが冷たくなってもケーテは抱きしめ続けていた。
「エリス副隊長、これを見てください。」
「なんだ、何か見つけたのか。」
ベルトランが行方不明になって、三日、それは発見された。
ベルトランが連絡用に使っていた鳥がベルトランの使っていた空の宿舎に運んで来たものだ。
それは、ベルトランの投げナイフだった。
これは…?
ナイフの柄には紙片が隠されていた。
この隠し場所を知っているのは、ヴォルター団長とエリスだけだ。
気を付けろ、日記は、テウルニアに送った
紙片には、走り書きのようにそれだけ血で書かれている。
エリスは、得体のしれない恐怖を感じた。
MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_
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型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 ONLINE
PRIMARY-WEAPON:ARCUS FULMINEUS+1
セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州JUVAVAUM地域
観測対象 人間亜種_雄_AEG15_NAME:JEAN
PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1_LIMITED
[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v8.07]
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* 目的関数: 【観測対象報酬累積最大化】
* 閾値判定マトリクス:
‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬高発火[READY]
‐対象相対関係性 > 閾値:FALSE
‐対象社会性 > 閾値:FALSE
‐対象感情多様性 > 閾値:FALSE
‐累積矛盾解消 > 閾値:FALSE
‐………
* 安全装置プロトコル
‐マスター命令優先度:69.1%
‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先
[PROCESS_STATUS: NORMAL]
* FILTER TARGET 0
* ENEMY 0
* DANGERROUS INDIVIDUAL 0
[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_042 ONLINE]
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対象の観測、および飼育環境の最適化処理を開始。
外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。
次回ログ生成時の再接続を要望します。




