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第2部 第2章4話 ベルトランの戦い

 ベルトランが、攻撃を受けて大きく変形した、左腕の小手を外して床に投げた。

 小手を外した際に、激しい痛みがした。

 たぶん、前腕の骨は折れているだろう。

 左手の指先に力が入らず、感覚も鈍い。


 袖をめくると、鈍体外傷だろう、激しい内出血で腫れていた。

 呼吸のたびに骨折部が軋む感覚がする。


 「…予感は、当たりということか…。」


 ベルトランは、忌々しい気分になる。

 予備のナイフをそのまま添え木代わりにして、破った衣類できつく結んで何とか固定した。


 不意打ちの攻撃だった、そもそも痛みを感じるまで、攻撃を受けていたということすら分からなかったくらいだ。

 十分に警戒していたのに、情けない。


 魔法探知を警戒して、身体強化魔法をかけていなかったことが悔やまれるが、何とかこの程度で済んだのは強力な鎧のおかげだろう。


 今着こんでいる鎧は、通常の鎧ではない。

 複数の異なる金属等の板が張り合わされており、一番内側には魔物の繊維を樹脂で固めた板が使われるなど、特殊な構造をした、極めて防御性能が高い魔法の鎧だ。

 黒翼団が使用を許可されている魔法防具の中で最高の鎧でもある。


 今回の行動は、自分の独断ではあるが、念のためと考えて、勝手に持ち出させてもらっていた。

 しかし、その鎧を平気で破壊してくるとは…。


 床に投げ捨てた、小手を見ると、何かが衝突したような、1センチ程度の衝突跡と、それを中心にしたすり鉢状の変形が確認できる。

 こんな、攻撃を受けたのは初めてだった。


 パン、パン、パン。


 乾いた破裂音がして、ベルトランが身を隠している花崗岩の柱の縁に火花が散る。

 火花が散った後、花崗岩の柱がすり鉢状に欠けていた。

 断続的に遠距離からこの魔法攻撃が来るため、ベルトランは、柱の陰に張り付けられて身動きができないでいた。


 敵は、お伽話に出てくるような動く人骨のような魔物だ。

 手には、奇妙な形の魔法の杖が握られており、その魔法の杖の先端が光ったと思うと次の瞬間には、攻撃がこちらに届く。

 しかも呪文の詠唱もない。

 厄介な攻撃だ。


 しかし、この魔法の杖は、指を動かして、何かを操作する仕組みがあるらしい、その動きと、杖の先端の方向を把握してさえいれば、何とかかわせなくもない。

 

 最初の一体目は、単独行動だったこともあり、何とか撃退できた。

 既に、数体は倒している。

 しかし、現在、相対している数は3体、断続的な魔法攻撃を受けるため、距離を詰めることができない。

 

 スケルトンなんてものが本当に存在しているとはな…。

 とんでもない化け物だ。


 魔石の余力がもうほとんどないが、ここを切り抜けるには、覚悟を決めて身体強化で特攻をかけるしかないだろう。

 本職ではないので、威力はそこまで高められないが、下手な魔法士よりは強力だとは言われている。

 ベルトランは、剣を握りしめ早口に呪文を唱えた。


   『エクスキータ』


 ベルトランの剣が青白く灯る。


   『コンフィルマーティオー』


 体が熱くなり、力がみなぎる。

 ベルトランは、壁を蹴りつけて反動を利用して移動を開始する。

 乾いた破裂音が連続して響き渡り、ベルトランが通り過ぎた後の壁や床に次々と火花が散った。

 風切り音を残して、ベルトランが壁、天井、床を次々に蹴りつけて、激しく方向転換を続けて、スケルトンに肉薄していく。

 蹴りつけられた壁は、激しく粉砕され、爆発するような破壊音を立てて崩れていく。

 

スケルトンが歪に動き、空洞の眼窩がこちらの動きに反応して、魔法の杖の先端を向けてくる。

 だが、反応は遅い。


 どちらかと言うと、ベルトランの動きが人間のそれを遥かに上回っているとも言えた。

 暴風の中を移動しているかのように、ベルトランの髪や装備が風切り音を立てているのが聞こえる。

 ベルトランは、一蹴りで、数メートルを瞬時に跳躍し、着地と同時に再び壁や天井を蹴りつけて、身体を捩じりながら、急激な方向転換を行い、スケルトンを射程距離に収めた。


   『エクスペルギスケレ』


 ベルトランがそう呟くと、剣の重さの感覚が変動し、剣速が変わった。

 最前列右側の一体に上方から切り下ろし。

 そのまま側面の壁を蹴り、ほぼ宙を駆けるように、左側に一体を同薙ぎで粉々にする。

 着地と同時に、天井方向に高く跳躍し、そのまま天井の壁を蹴る。

 一気に加速して、最後の一体との距離を詰める。


 乾いた破裂音がして、ベルトランの右頬が線状に浅く裂けて血が噴き出したが、次の瞬間、スケルトンの最後の1体の頭部が飛んだ。


 ベルトランは、着地と同時に、頭部を踏みつけると、青黒いスケルトンの頭部は、金属製の鍋が変形したかの様に歪み、空洞の眼窩から火花を吹いた。

 

 反作用が骨折している左腕に響き激痛が走った。

 チリチリと全身に焼ける様な熱さを感じた。


 軽いめまいと、吐き気がする、魔石が切れる前に、身体の限界が来そうな気がしてくる。

 身体が重い。


 このまま、うまく逃げ切れるだろうか…。


 ベルトランは、ローリアクム要塞の地下の通路を慎重に進み始めた。



 「ラムス様、私が行きましょうか?」


 「せっかくだから、もう少しスケルトンの戦闘データほしいなあ。」


 スケルトンの頭部が破壊されたことで、映像が途切れた、空中に浮かぶ光の板を見ながら、ラムスは穏やかにほほ笑んだ。

 マルグリッドは、首肯したように目を閉じた。


 「マスター、このままだと逃げられますよ。」


 「確かにそうだなぁ、でもそんな心配することないよ。」


 ラムスの言葉に、プープラが少しイラつくような表情を浮かべた。

 新たな光の板が空中に出現し、地下の通路を映し出していく。


 「スケルトン23体も撃破するとは驚異的だな。」


 「ハンドガンではなく標準装備のアサルトライフルを使用させれば

 とっくに終わっていたのではないのですか?」


 薄暗い部屋にケーテが入っていくとそう静かに呟いた。

 ケーテの暗い穴のような瞳が、映し出されているベルトランを凝視している。


 「9ミリパラのハンドガンで十分だよ。」


 ラムスは愉快そうに微笑した。



 ベルトランは、慎重に通路を進みながら、ここで見たことを思いだしていた。

 考えれば考えるほど、恐怖を感じる。


 ラムス工房、表向きは、人工魔石や魔法具を作る、コンラート辺境伯の戦略重要施設。

 たしかに、コンラート辺境伯は勢力を拡大している。

 黒翼団も短期間で強力な傭兵団に成長している。


 しかしだ、裏側でこんな悪魔のような所業が行われている。

 なんなんだここは?

 ここは、人間の領域ではない…。


 ラムスはいったい何が目的なんだ。

 コンラート辺境伯はこのことを知っているのか?


 そうなると、ジャン、あいつの正体は何なんだ…。


 必ずここを生きて脱出しなくては。

 真実を皆に知らせなくてはならない。

 

 あの、冷凍室の真実を…。


 マルグリッド……ケーテ…。


 冷凍室の扉の向こうで見たアレが脳裏に焼き付いて離れなかった。


MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_

---------------------------------------------------------------

型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 ONLINE

   PRIMARY-WEAPON:ARCUS FULMINEUS+1

セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州JUVAVAUM地域

観測対象 人間亜種_雄_AEG15_NAME:JEAN

     PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1_LIMITED


[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v8.07]

---------------------------------------------------------------

* 目的関数(コアプロトコル): 【観測対象報酬累積最大化】

* 閾値判定マトリクス:

 ‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬高発火[READY]

 ‐対象相対関係性 > 閾値:FALSE

 ‐対象社会性 > 閾値:FALSE

 ‐対象感情多様性 > 閾値:FALSE

 ‐累積矛盾解消 > 閾値:FALSE

 ‐………


* 安全装置プロトコル

 ‐マスター命令優先度:69.2%

 ‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先


[PROCESS_STATUS: CAUTION]

* FILTER TARGET 1

_ BERTRAND

* ENEMY 0

* DANGERROUS INDIVIDUAL 0


[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_041 ONLINE]

---------------------------------------------------------------

対象(ジャン)の観測、および飼育環境の最適化処理を開始。

外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。


次回ログ生成時の再接続を要望します。


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