第2部 第2章3話 コンラート辺境伯の隆盛
ラムスさんから、取扱商品の説明が行われていく。
ひとつ目は、『白蝋石』という人口魔石だ。
「これはねジャン君、ナフタレン系でね、常温個体で安定させつつ
分子構造が平面で制御しやすいんだよ…でね…。」
「よく、分からないんで、細かくは結構です。」
ラムスさんの説明は、意味が分からないので省略するとして、『白蝋石』は、青白いというか、紫みたいな蛍光色な淡い透明感を持ち。
蝋のような滑らかで、軽くて柔らかい光沢をもつ魔石だった。
これは、確かに武器や防具の素材としては、強度不足だが、エネルギー源としての汎用性が高く、魔法による都市機能の維持を向上させる。
また、魔法武具の機能を維持し、高位魔法の行使にも利用できるため、正規軍の再建の深刻な足かせとなっていた魔石不足の代替品として、北部地域から急速に全国に需要が拡大していくこととなる。
傭兵団が壊滅的被害を受けたことによる、傭兵団が組織する探索小隊の活動率が低下を十分に下支えし始めたことになった。
二つ目は、『黒虹石』という人口魔石だ。
黒、深緑で金属光沢の虹色をしている。
硬質で、鋭く、金属のように光を反射する魔石だった。
「これはねジャン君、炭化物、いわゆるカーバイト系でね、
特定の金属と結合させて硬い常温個体を形成させてるんだ。
進入型炭化物なんで、原子レベルで極めて均一な構造を…。」
「もういいです、大丈夫ですから…。」
直ぐ、鼻息を荒くして説明しようとするので、今回は間髪入れずに制止させている。
説明はいらない、結果だけで十分だ。
『黒虹石』は細かくは、何種類かあり、その性能によって、生産できる数は異なるが、高い硬度を持ち、ものによっては数千度を耐えるような強い耐久性があった。
そのため、武器や防具の材料に利用され、既存の魔法武器等の効果を高める性能を有していたため、正規軍や傭兵団の能力を底上げすることになっていった。
結果として、北部での正規軍、傭兵団の絶対数が不足を補う形となり、都市間の街道の安全が保たれ始め、南部農業都市アクイレイアから北部への食糧の輸送が担保されるようになり、物価安定に寄与していくこととなっていった。
三つめは、魔法の武具だ。
魔法の武具は、迷宮から時折見つかるものであって、今の人類ではその製法すら失われている神代の奇跡の遺物だった。
そのため、その所有権は、ほとんどを国と教会が独占しており、借り受けて使用しなければならない、傭兵団しては、痛い出費であった。
魔法の武具の生産は正に奇跡としか言いようがなかった。
「高圧力一体形成した物に、『白蝋石』と『黒虹石』と
ゲルマニア大森林から採取できるシリカ系植物の実、
つまり光子演算核をパーツとして組み立てすることで、性能は規格的に低いものの、
生産性と再現性の高い、効率的な生産できるんだよ…でね…。」
「はい、ありがとうございます。もう結構です。」
ラムスさんの説明は置いておきます。
性能は低いものの、同一性能の魔法武具を大量に確保できるようになったことで、新兵訓練が容易になり、コンラート辺境伯が再編成するローリアクム要塞防衛軍は、極めて強力な軍隊として、装備、数、練度と共に急速に拡大していくこととなる。
このことは、都市間回廊の流通安定を加速させ、物価安定に寄与し、魔物の脅威排除に大きく貢献していくこととなる。
僅か1か月足らずでローリアクム要塞の戦力は、首都ウィルナムに迫る勢いを見せており、潤沢な資金を得たコンラート辺境伯は、北部における、覇権をほぼ掌握するに至っていた。
それに応じて、しこりを残していた防衛都市オヴィラワとの関係は悪化の一途をたどっており、事実上防衛都市オヴィラワを統治する、前領主シュワルツェンベルク伯爵家の後継、フランツ・フォン・シュワルツェンベルク伯との関係修復は絶望的であると言えた。
それなのに、最初は、フランツ陣営であったはずの普遍教教会の教会騎士団のオイゲン卿がちょくちょく、ローリアクム要塞に来て、コンラート辺境伯と仲良く話をしているようだ。
ほんと、大人の世界は複雑だ…。
黒翼団の一員として、魔石の材料として魔物を討伐する日々を送っていた僕には、偉い人たちの考えることはよくわからない。
僕は、様々な魔物を討伐することで、技術を磨き、魔法の細かい制御を身に着ける勉強にただただ没頭していた。
でも、なぜだろう。
些細なことで、気にしすぎなだけかもしれない。
嫌な感じがする違和感がどうしてもぬぐえない。
ラムス商会を取り仕切るケーテが以前のケーテとまるで別人のように感じること。
理由は分からない、しいて言うなら、初めて見た時の強い意志を感じたケーテのヘーゼルの瞳が、時折、光をうしなったかのように、 淡褐色ではない、黒い穴のように見える瞬間がある。
考えすぎかな…気のせいだろう。
それだけではない、ラムス工房お披露目会の日から、翌日まで行方不明になっていた、マルグリッドさんもどこか、別人のような気がしてならない。
そして、僕の食べている食事の出所…。
プープラは、僕にはいつものように優しく変わりなく見えるものの、ここ最近、プープラが時折やけに殺気交じりの視線を他人に向けている気もする。
そんな、胸の奥に刺さって抜けない棘のように、どうしても違和感を感じてしまう。
今日も魔物討伐を終えて宿舎に戻った時のことだった。
「今日も頑張ったわね、ジャン様。」
「マルグリッドさん、お疲れ様です。お出かけするんですか?」
僕が食堂を抜けて、自分の部屋に行こうとしていたとき、廊下でマルグリッドさんとすれ違った。
豊かな胸の前で揺れる赤いペンダントがキラキラと輝いていた。
「これから、ラムス工房でお手伝いがあるの。」
「そうなんですね、大変ですよねいつもお疲れ様です。」
「そうそう、ベルトラン副隊長を見なかった?ちょっと話があったのだけれど、
どこに行ったか知らない、ジャン様。」
マルグリッドさんは僕のことを以前は『ジャン様』なんて、呼ぶことはなかったのに、あの日以来、そう呼ぶようになっている。
それ以外には、特に変わった様子はない。
胸の奥に刺さった棘がチクリと痛む気がした。
「魔物討伐から戻ってすぐにどこかに出かけたみたいですけど、どこに行ったかまでは分かりません。
役に建てなくてすいません。」
「いいの、いいの、気にしないでありがとうね。」
マルグリッドさんは、優しく微笑むと宿舎を出て行った。
前にも増して、赤いペンダントをいじくる癖が奇妙に見えた。
夕焼けの中をマルグリッドさんが、ラムス工房に向かっていく後ろ姿が窓越しに見える。
胸元の赤いペンダントを、何度も指でなぞっていた。
夕焼けに照らされて、マルグリッドさんの姿は、やけに赤く見える。
まるで血の色のように見えてしまう。
考えすぎだな…。
僕が宿舎に移動しようとして振り向くと目の前にプープラがいた。
僕の目を、深く綺麗な赤い瞳で見つめてくる。
「…ジャン、出かけてくるから、少しご飯遅くなる。」
「…ああ、別に構わないよ、昨日、プープラがくれた作り置きでも食べて待っているよ。」
「…わかった。」
プープラが優しく微笑むように笑い、僕の頬に右手を伸ばす。
頬に触れた指がやけに冷たかった。
MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_
---------------------------------------------------------------
型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 ONLINE
PRIMARY-WEAPON:ARCUS FULMINEUS+1
セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州JUVAVAUM地域
観測対象 人間亜種_雄_AEG15_NAME:JEAN
PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1_LIMITED
[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v8.07]
---------------------------------------------------------------
* 目的関数: 【観測対象報酬累積最大化】
* 閾値判定マトリクス:
‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬高発火[READY]
‐対象相対関係性 > 閾値:FALSE
‐対象社会性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐対象感情多様性 > 閾値:FALSE
‐累積矛盾解消 > 閾値:FALSE
‐………
* 安全装置プロトコル
‐マスター命令優先度:69.7%
‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先
[PROCESS_STATUS: CAUTION]
* FILTER TARGET 1
_ BERTRAND
* ENEMY 0
* DANGERROUS INDIVIDUAL 0
[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_040 ONLINE]
---------------------------------------------------------------
対象の観測、および飼育環境の最適化処理を開始。
外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。
次回ログ生成時の再接続を要望します。




