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第1章3話 赤い瞳の少女

 「おはよう。ジャン君。体調はどうかな。」

 

 

 「おはようございます?」

 

 

 この部屋には窓がない、爽やかな笑顔のラムスさんの言葉に返事をしたものの、朝なのだろうか?

 部屋の天井の中央にある他の天井と違う素材の四角い部分が不思議光を放っていて、眠りについた時と同様に部屋を照らしている。

 あの光る板は、ランプとは全く違う。

 しかも熱を感じない。

 

 魔法の光なんだろうか?

 

 魔法の光でも熱は出ると聞いたけど。

 貴族等の富裕層が使用するという魔道具なのだと思うが、孤児である僕としては見るのは初めてのものだ。

 

 「おかげさまで、すっかり体調がいいです。昨日いっぱい食べたからでしょうか。

 すごく体が軽く感じます。」


 昨日の右手の光や疼きはその後全くなかった。

 あれは何だったんだろう?

 

 「それは良かった。昨日は、話の途中でジャン君が寝てしまったので、

 体調が悪くなったのかと心配したよ。」

 

 ラムスさんは、いたわるように、僕の肩に手を掛けると優しくなでてくれた。

 あんな話を聞かされたらだれでも意識を保てないと思わないのだろうか?

 性別が分からないほど中性的で、透き通るほど綺麗で柔らかい手は、とても暖かかった。


 「マスターが眠くて朦朧状態の病み上がりのジャン様にいつまでも話をやめないからですよ。」

 

 無表情のプープラが抑揚のない、淡々とした口調で突っ込みを入れている。

 随分きつい侍女だな。

 

 「ジャン様、着替えを置いておきますね。」

 

 ラムスさんの背後でプープラが、机の上に着替えを置いて部屋から出て行った。

 部屋から出る際、

 一瞬だけ僕を無表情に凝視したので、

 その向けられた赤い瞳に

 吸い込まれそうになる感覚がした。

 

 「おやおや、ご機嫌ななめだね。

 昨日は、私がジャン君を独り占めしてしまったからかな。

 ここに、人が来ることなんてないから、プープラも君と話がしたいんだよ。

 彼女は結構恥ずかしがり屋さんだからね。

 声をかけてあげると喜ぶと思うよ。」


 僕は赤面していたと思う、実際、プープラと話がしてみたいのは事実だ。

 ラムスさんがくすくすと笑った。

 ラムスさんは、まるで何かを確認するように僕の体の各所をなでたり、軽くつかんだり、し始めた。

 体がこそばゆい。

 

 「なんなですか。やめてください。」

 

 「ごめん、ごめん。

 死にかけの君を助けた際の処置で異常がないか気になってね。どうやら問題ないようだね。」

 

 僕が身をかわしたことで、ラムスさんは、僕の体を触るのを止めた。

 優しい笑顔のままではあるものの、急に漠然とした不安、どちらかというと違和感、それとも恐怖だろうか、昨日の右手の光や疼きと関係があるのかもしれない。


 不思議な感覚が急に込み上げてきた。

 

 「ここって、深層と言ってましたよね?あなたは何者なんですか。」

 

 「朝食を食べながらにしようか、食堂で待っているよ。」

 

 ラムスさんはくすくすと軽く笑い、愉快そうな様子で優しく微笑んでいる。

 

 「部屋の外でプープラを待たせておくよ、ここは広いからね、案内してもらうといい。

 待っているから朝食が冷めないうちに来てくれると嬉しいな。」

 

 ラムスさんは、優しい笑顔のまま、部屋を出て行った。さっきの違和感は何だったんだろう。

 命の恩人に失礼な物言いをしてしまったと後悔した。

 

 ちゃんと謝らなくては。

 


 僕は急いでプープラが準備してくれた服に着替えて部屋を出た。

 着替える前に着ていた、寝間着というのだろうか、確かに薄手の服で日常生活に使うには向かなそうな服ではあったが、僕からすればかなり上等な服と感じた。

 このつるつるとした生地の素材は魔物の毛か皮なのだろうか、見たこともない。

 準備してあった服も、落ち着いた意匠のいわゆる一般的な平民の服ではあるが、使われている生地がとても上等なもので、しかも今まで誰も袖を通していない、新品であると感じられた。

 サイズもぴったりで、孤児の僕がこんな上等な服を着ていいのかと迷いもあったが、ラムスさんとプープラを待たせていると思いなおし、急いで着替えた。

 

 急いで向かわなくては。

 

 「うわ。」

 

 部屋を出ると、扉の前にプープラが立っていた。

僕を見ても表情は変わらなかったものの、赤い瞳が僕を凝視している。

 

 なぜか鼓動が早くなった気がした。

 

 「洗面所に案内します。まずは顔を洗ってください。」

 

 「僕はジャン。昨日から色々助けてくれてありがとう。」

 

 「・・・・。」

 

 ラムスさんは、プープラを恥ずかしがり屋さんとか、『話したがってる』とか言っていたが無表情すぎる。

 

 プープラは無言で僕を先導し始めた。

 そして、自分はなぜか動揺している。

 通路にも窓はなく、天井の光る板が昼間のように空間を白く照らし出している。

沈黙が耐えられないので勇気を出して声を掛けなければ。


 「プープラさんっていうんだよね。よろしくね。」

 

 「・・・・。」


 無言で無表情で返事なし、更に動揺してしまう。

 プープラの名前を初めて呼んでしまったが会話としては変な感じではないはずだ。

 プープラは、足を止めて振り向くと、無言で僕の顔を凝視した。

 無言のままだ。

 

 赤い瞳から目が離せない。


 「ラムスさんが、君をプープラと呼んでいたから。」

 

 「マスターは、私を『プープラ』と呼びますね。ここが洗面所です。顔を洗ってください。」


 どうやら振り向いたのは、洗面所についたからだったようだ、プープラが指示した方向の壁が、ひとりでに開いて豪華な洗面所が表れた。

 これも魔法なのだろうか。

 急いで、顔を洗うと、プープラがふわふわの布を僕に渡してくれた。


 「これは?」


 「タオルです。顔を拭いてください。」


 「こんな上等な布、汚れちゃうよ。」


 「バカなんですか。」


 バカにされた。


 確かに拭くものが欲しかったが孤児の僕には、こんな上等な布を見たのは初めてなんだから、わかるわけがない。

 さすがに少し腹が立って、プープラを抗議の意味を含めた程度の表情で見返すと、一瞬、プープラがくすっと笑ったように見えた。

 

 もちろん、見とれてしまった。

 

 我に返って取り乱しそうになる。

 急いで顔を拭いていたら、取り繕ったように口から言葉が滑り出した。

 

 「プープラって素敵な名前だよね、

 僕の周りはほとんど同じ名前ばかりでさ、ジャンなんて5人もいるし。」


 「・・・。」

 

 プープラの表情が困惑しているのだろうか、きょとんとしている。

 初めて見せる表情に心が乱される。

 表情の変化のせいなのだろう、ますます慌ててしまう。

 

 なんでもいいからしゃべってくれ。


 「プープラって名前で呼んでいいかな。」


 「・・・名前。」

 

 「僕のことはジャンって呼んでよ。」


 「わかりました。」


 「よろしくね。プープラ。」


 「はい。私はプープラです。」


 「なんだよそれ。」


 「私の名前です。」


 無表情のプープラが一瞬だけ嬉しそうに笑顔になった。

 なんだかよくわからないけど僕も嬉しくなった。

 確かにプープラは、ラムスさんの言った通り恥ずかしがり屋なんだろう、少し変わってる感じがするけど全く気にならない。

 

 とても不思議な感覚がした。

 


 案内された広い部屋に大きな円卓があり、朝食だろうか食事が二人分並べられていた、どうやらラムスさんと僕の分だけのようで、プープラは給仕をするのだろうか。

 プープラの仕事なのだろうけどなぜかとても申し訳ない気がしてならない。

 どうせなら三人で食べればいいのに。

 

 不思議なことに、ラムスさんの席の食事は、不気味な濃い水色のスープと真っ黒なパン?のようなもの。

 僕の席には、肉と肉のスープで朝食としては、かなりボリュームがある。

 しかし、とても芳醇な香りがしてなぜか食欲が湧いてくる。


 「さあ、朝食にしよう、プープラさん、彼を席に案内してくださいね。」

 

 ラムスさんがとても機嫌がよさそうだ、侍女であるプープラを呼び捨てではなく、『さん』付けしている。

 さっきのことで気を悪くしてなかったみたいでとても安心した。


 「食べながら話をしよう。私は食が細くてね、

 別メニューなんだ、君の口には合わないものだから、

 別々になってしまって申し訳ない。」


 「そんなことないです。食事ありがとうございます。」


 肉にかぶりつきたい衝動を抑えつつ、僕が想像できる最大限の上品さで食事を始めることにした。

 ラムスさんのおよそ人の食べ物と思えない色合いには全く食欲をそそられない。


 「私が何者かだったかだよね?」


 ラムスさんは優しい口調でいきなり話の続きを始めてきた。

 その言葉に一瞬、心臓が飛び上がった感覚がして、体がこわばった。


 「私はね、

 君たちがいうところのエルフだよ。

 そうでもなければ、このような深層に居る訳ないからね。」


 「・・・エルフ?」

 

 神話に出てくるあのエルフ・・・本当にいるんだ?

 でも、僕が聞かされていたエルフとは、違いすぎる・・・

 

 なんだろう、この違和感。


 え?


 ラムスさんの微笑に合わせて、僅かに右手が疼いた。


 昨日の光とは違う、もっと奥の方で、ゆっくりと脈打つような感覚だった。

 

 プープラが、音もなく僕の手元へ視線を落とした。

 赤い瞳が、ほんの一瞬だけ揺れた気がした。

 ラムスさんは、僕の反応を見ているのかいないのか、 優しい笑顔のまま、スープを静かに口へ運んでいる。

 

 胸の奥が、なぜか熱い。


 右手を握りしめても、その熱は消えなかった。

 僕の身体の奥で、何かが“動いた気がした。

 

 気のせいだと思いたかった。


 でも、そう思い込もうとするほど、熱は強くなっていった。



MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_

---------------------------------------------------------------

型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 OFFLINE

セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州TEURNIA地域

観測対象 人間+1_雄_AEG15_NAME:JEAN


[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v2.01]

---------------------------------------------------------------

* 目的関数コアプロトコル: 【観測対象報酬累積最大化】

* 閾値判定マトリクス:

 ‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象相対関係性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象社会性 > 閾値: FALSE

 ‐対象感情多様性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐累積矛盾解消 > 閾値: FALSE

 ‐………


* 安全装置プロトコル

 ‐マスター命令優先度:99.9%

 ‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先


[PROCESS_STATUS: NORMAL]


[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_004 ONLINE]

---------------------------------------------------------------

対象ジャンの観測、および飼育環境の最適化処理を開始。

外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。


次回ログ生成時の再接続を要望します。


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