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第1章2話 死にかけた僕とエルフとの契約

 僕は、ジャン、ただのジャンだ、ファミリーネームは知らない、物心ついた時には、魔石拾いの探索小隊で日雇いの荷物持ちをしていた。

 正式に隊員登録できたのはつい最近だ。

 傭兵団に所属して探索小隊に入り許可を得なければ武器や防具の貸し出しも受けられない、武器や防具は、独占されている。

 危険な魔物が居るのに丸腰で魔石拾いなんて自殺行為だ。

 ましてや領主様の財産である、魔物も魔石も勝手に捕ることは絶対にできない。

 法を破ることは取り返しのつかない罪になる。

 探索小隊に日雇いの荷物持ち、場合によっては、魔物から逃げる際の囮に使われたりもする。

 

 孤児が生きるにはこの程度の仕事しかないのが現実だ。

 

 歳は、十五だと思っている。


 僕を拾って育ててくれた探索小隊の小隊長のトマスさんがそう決めたからそうだと思っていた。

 僕は、いつも僕を使ってくれる、剣士で小隊長のトマスさん、同じく剣士で無口のウイリアムさん、弓使いのろくでなしのロベール、魔法士のマリーさんとアグネスさんの5人に雇われて、地下迷宮上層で魔石集めの荷物持ちをしていたはずだ。

 たしか、土蜘蛛があんまりいなくて魔石があんまり集まらないので、中層近くまで行ったはずだけど、そこから先の記憶が曖昧だ。

 

 「君はね、下層で倒れていたんだよ。それを私が見つけてね。」


 「なんで下層?」


 「下層は、

 地下の同位体や放射性物質が豊富だからね、

 構造場の揺らぎも強いから、

 君は死にかけていたよ。」

 

 「放射・・・・?」

 

 綺麗な人、改めやっぱり変人が訳の分からないことを言い始めた。

 

 それにしても下層?

 

 そんな魔境にトマスが行く訳がない、そもそも瘴気が濃すぎて、人間はすぐに呪を受けて死んでしまうはずだ。

 

 「僕の他にもいたはずです。トマス達は、どうなったんですか、無事なんですか。」

 

 「残念ながら、君以外は、魔獣に襲われたのかな、

 外傷もあった上、場所が下層だからね、

 助けることはできなかったよ。」

 

 綺麗な人は、申し訳なさそうな悲しい顔をした。


 トマスさん達は決して無条件に優しい人間ではなかったけれど、僕を育ててくれた恩人だ、自分だけが助かったという罪悪感と、育ての親を失った喪失感が一気に僕の生気を奪った。

 

 「教会は、瘴気っていうんだったね。」

 

 トマスさんの死を聞いたからか、綺麗な人の声がまるで遠くから聞こえてくるように感じた。

 その神秘的な声がまるで、教会の讃美歌のように聞こえて意味が頭に入ってこない。


 「その瘴気でね、君は死にかけてたんだよ、

 でも君の遺伝子は少し特殊でね、だいぶ不活性遺伝子が多いようだけど、

 二重螺旋DNAの他に二重螺旋RNAバックアップを持つ、

 ホモ・フォルテスの末裔だったとはね。」


 また訳のわからないことをこれ以上混乱させないでくれ、それどころじゃないんだ。

 沈む僕の表情に気が付かないのか、変人(綺麗な人)は、また、訳の分からない箸を始めている。

 全く、頭に残らない雑音に聞こえた。


「その遺伝子のおかげで同位体崩壊オルガネラが多いからね、

 おかげで、あの強放射線地帯でも他の人たちより死なずにいられたんだろうね。」


 変人(綺麗な人)の話は、僕の頭をすり抜けていく。


 あの時、僕達は5メートル以上もある複数の地竜に突然襲われて、トマスさん達は、僕とマリーさんとアグネスさんを逃がそうとして戦ってくれていた。

 マリーさん達の魔法攻撃で脆くなっていた地面が崩れて、下に落ちたところまで、記憶が鮮明によみがえってきた。


 「さすがに、長く下層にいすぎたようで、君の遺伝子は不可逆的に再生能力を失っていてね、

 君に確認したんだよ。」


 「確認ですか・・・?」


 「そう。」

 

 真っ暗な地下の奥底で、目の前の綺麗な人と同じ声が響いてきた記憶が蘇った。


  

  君は死にかけている


  間もなく死ぬだろう


  君がどんなことでも


  受け入れることができるなら


  僕が力になってあげられるよ

   


 覚えている、僕は確かに言った、

  

  

  助けて欲しい

  

  

  死にたくない


 

と僕の最後の記憶はそこまでだった。

 

 「それで私は君を助けて、君は深層の私のラボに居るって訳だよ。」

 

 綺麗な人は、僕に優しく語りかけ、頭を撫でてくれた。


 ラボが何なのかはわからないが感情にならない気持ちが涙となって零れ落ちた。

 

 「ご飯にしよう、お腹が減ると気分が落ち込むからね、

 食べると気分も落ち着くと思うよ。

 プープラも入ってくるタイミングを失って困ってるしね。

 あはは。」

 

 「別に困ってませんが。」

 

 プープラの声で急に泣いていた自分を恥ずかしく思い、感情を押し込めた。

 同年代の女の子であるプープラに涙をどうしても見られたくないと思い、慌てて涙を拭いた。

 

 「助けてくれてありがとうございます。

 あなたの名前を教えてもらえませんか、命の恩人です。」

 

 「ラムス・フラウデウス・イニティウム。

 『ラムス』とか、かわいく『ラム』と呼んでくれてもいいよ。」

 

 「ラムスさん助けてくれてありがとうございました。」

 

 僕は、心からの感謝を込めて深々と頭を下げた。

 ラムスさんは、恩に着せる様子もなく、恐縮したように優しく微笑んだ。

その様子をプープラが表情を変えずに見つめていた。

 

 「まあ、さっきの話の続きでも聞きながら、食事を取りなさい。」

 

 ラムスさんはどうやら先ほどの意味不明な話をどうしてもしたいらしい、少なくても断れそうもない雰囲気なのは間違いない。

 心なしかプープラが嫌そうな顔をしているのが僕の心を少し明るくしてくれた。

 

 「でね、この宇宙では同位体がエネルギーを星に供給することで、

 低質量で核融合が始まり、巨大な恒星の生成は抑制され、

 恒星は低質量で長く輝くことができるので白色矮星が多くなるのだよ・・・。」

 

 食事中とか関係なく近い。

 圧がすごい。


 「もちろん平均しては中性子星は減少することになるんだけど、

 宇宙にはムラがあるからね。」


 食事中なのでつば飛ばすの止めて欲しいなあ。

 食事に集中できないんですけど。


 「超新星爆発や中性子星が多く発生し、

 キロノバ等が多く発生して重元素や同位体が豊富な領域も当然あって、

 私達の恒星系はそこの形成されてる訳だね・・・。」

 

 変人ラムスさんの言葉は、全く意味が解らないので、とりあえず、タイミングを計って相槌を打つことにした。

 せめてもの礼儀と感じた。

 

 苦痛ではある。

 

 熱弁を振るう変人から振りまくつばをかわしながら、ベッドの上で上半身を起こして食事をとる僕に給仕をしてくれるプープラがとても気になってしまっていた。

 基本的には変人ラムスさんの目を見ているつもりだが、気になって目線でプープラを追ってしまっていた。

 時折、目線が合ってしまい、直ぐに目線をずらした。全く変人ラムスさんの話が頭に残らない。


 というか解らない。

 

 「そのおかげでね、我々の恒星系には、

 最もエネルギーを有する中性子星キロノバ由来の超重力による

 スカラー場のチャンネル変更でのメタ安定中性子過多同位体も多く存在している。」

 

 給仕をしてくれるプープラの髪が揺れる。

 髪の毛が僕の顔にかかりそうなほど近くて、とても緊張する。

 すごくいい匂いがした。


 「さらにこの恒星の周りにできたガスと塵の円盤の中で、

 塵が集まって微惑星となり、ハビタブルゾーンに、水を豊富に維持する岩石惑星が誕生する。」


 変人ラムスさんの話ではなくて、なぜかプープラのことが気になる。

 視線が合ったせいだろうか、変に意識してしまっていて落ち着かない。


 「更に、惑星の位置がハビタブルゾーンでも恒星よりなので、

 大気中の窒素に宇宙放射線が当たって、豊富に炭素14が生成されて地表に降り注ぎ、

 惑星の同位体循環を成立させ、生物濃縮魔石の源になっているという訳だ。」


 話の意味は分からないので興味はないけど、食事はとても魅力的だった。

 食事は、主に肉で、肉の塊を焼いただけのようなものと、肉のスープ、結構な量と感じたものの、今まで食べたことのないとても濃厚な味で、変人ラムスさんの奏でる雑音を聞き流しながら、夢中で全て食べてしまった。

 この料理はプープラが作ったものだろうか、後でレシピを教えてもらおう、決してプープラと話がしたい訳ではない。


 孤児仲間に教えてやりたいだけなのだと自分に言い聞かせる。

 ハンス、アンリ、アンナ、離れ離れになってしまったやつもいるけど、小さな頃から力を合わせて生きてきた大切な仲間だ。

 もっとも、肉は高価で手に入れることができないが、この人達ならお願いしたら譲ってくれるかもしれない。

 

 こんなにおいしい肉は何の肉なんだろう、ここでしか獲れない生き物の肉なのだろうか?

 魔物の肉だったりして。

 教会で禁止されているはずだけど?

 魔物の肉って初めて食べたけど、こんなおいしいんだ。

 神様、ここは迷宮の深層です、どうか、お許しください。

 出されたものを食べないのも失礼だし・・・。

 美味しいし。


 ラムスさんは変人だがいい人だと思った。


 今もなんか熱弁している。

 

 僕にとっては雑音で何をしゃべっているか全くわからないけど。


 鼻息を荒くして饒舌に話続けるラムスさんの傍らで心なしかうんざりした様にも見えるプープラが僕の気持ちを明るくしてくれた気がした。

 

 ん?


 気のせいだろうか、僕の右手が僅かに青白く光って見えた。

光は消えたが、皮膚の下で何かが脈打っている気がする。


「・・・あれ?」


思わず小さく声が漏れた。


プープラが給仕の手を止め、一瞬だけ僕の右手を見て、僕に無表情のまま視線を合わせた。

ラムスさんは早口でしゃべりながらも、僕の右手を見て微笑を浮かべたような気がする。

なんだろう、その微笑が、どうしてか胸の奥に引っかかる。


光は消えたはずなのに、右手の内側で“もう一度”何かが脈が打った。


一呼吸おいて、ラムスさんがクスリと笑った。



MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_

---------------------------------------------------------------

型式 STATUA-2B 兵装管制 OFFLINE

セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州TEURNIA地域

観測対象 人間+1_雄_AEG15_NAME:JEAN


[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v1.03]

---------------------------------------------------------------

* 目的関数コアプロトコル: 【観測対象報酬累積最大化】

* 閾値判定マトリクス:

 ‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象相対関係性 > 閾値: FALSE

 ‐対象社会性 > 閾値: FALSE

 ‐対象感情多様性 > 閾値: FALSE

 ‐累積矛盾解消 > 閾値: FALSE

 ‐………


* 安全装置プロトコル

 ‐マスター命令優先度:99.9%

 ‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先


[PROCESS_STATUS: NORMAL]


[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_003 ONLINE]

---------------------------------------------------------------

対象ジャンの観測、および飼育環境の最適化処理を開始。

外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。


次回ログ生成時の再接続を要望します。


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