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第1章1話 宇宙を語るエルフ

 記憶がはっきりしない。

 

 ここがどこだか思い出せない。

 

 ベッドに横たわる僕の傍らに、綺麗な女性?

 

 なんとなく男性にも見えなくもない気もする。


 整いすぎたその容姿は、お伽話の中の登場人物の様に感じる。

 やけに整った、見たこともない素材の白い壁の部屋だ・・・。

 優雅で優しい微笑みが僕を見つめている。

 これは夢を見ているのだろうか。


 「先ほどの質問に答えよう。」


 綺麗な人は、中性的な声で僕に優しく話しかけてきたが、質問?

 僕はそんなことを言ったのだろうか。

 

 「魔石についてだが、宇宙の成り立ちから説明した方が理解しやすいと思うから、

 まあ、聞いてくれ。」

 

 ん、何を聞けって?

 魔石、そんな質問したっけか?

 

 魔石とはこの世界の基本的な魔法資源で、魔力の源、そんなことは子供でも知っている。

 

 僕も魔石収集を手伝っていたなとぼんやりと記憶が戻るように思い出してきた。

 そうだ、迷宮の上層で魔石採集をしていたような気がする。

 

 銀金色の輝きが脳裏に浮かぶ。

 

 この人は誰なんだろう。

 綺麗な人は、僕の顔に顔を近づけ、神秘的な声で話し始めた。


 「私たちの宇宙についてだがね、我々の観測の結果からは、

 ビッグバン直後の高エネルギー状態時に各所で、

 偽の真空の相転移が起こり、

 基本相互作用の強度が異なる領域が発生し。」


 ん?

 

 綺麗な人は徐々に頬を紅潮させていく。

 なんか、早口になっていくな?


 「だが、安定性を欠く領域は即時にビッグクランチし、

 安定性がある領域だけが残った訳だ。」


 んん?

 何が始まった?


 「そして、

 電磁気力、重力、強い力、弱い力、

 スカラー場等の第5以降の力がある領域が生成され、・・・。」

 

 んんん?

 

 神秘的な雰囲気声は台無しだ。

 こいつ急に饒舌だな、何言ってるかわかんねぇ。

 目がキラキラしてる。

 早口すぎて気持ちわりぃな?

 

 「しかしながら、泡宇宙は開放系であり・・・

 ・・・超宇宙全体では統一場の時間発展はユニタリである。」

 

 わかんねぇ、わかんねぇ。

 

 「・・・ちょっ・・。」

 

 もはや綺麗な人は自分の世界に入っている様にしか見えない

 

 「情報は各泡宇宙の基盤となる高次元空間バルクに存在し・・・、

 ・・・全情報は保存される。」

 

 んああああ。

 止まんないよこの人。

 顔近いんですけど。

 

 「プランク時間スケールで発生する・・・

 ・・・自由エネルギーと場の情報は・・・、

 ・・・別泡宇宙へ不可視化して

 エネルギーとして再配分されてる訳だ。」

 

 わけだ?何が?

 熱量が暑苦しい。

 綺麗な人なのに残念な人なんだな?

 聞いたこともない言葉だらけだ?

 意味解らな過ぎて逆に頭が冴えて冷静になってきた気がする。

 めっちゃ鼻息荒いな、こいつ。

 生暖かい鼻息が勢いよく吹きかかってくる。

 誰かの足音が聞こえる?

 

 視界の端で、誰かの影が揺れた。

 他に誰かいるのか?

 

 僕は、両手を広げて綺麗な人の顔の前にかざし、話を遮るようにやめさせようとしたのだが・・・。

 

 「・・・強い力と弱い力の間に関与する・・・、

 ・・・核子内で局所的に作用する第5の力として・・・。」


 何が分からないのかすら分からなくなってくる。

 いや、もしかして僕は今、理解しようとする方向を間違えているのか?


 「・・・ゲージ粒子の力が・・・

 電子雲変化をトリガーとして同位体崩壊のタイミングに干渉を及ぼす。」

 

 「マスター、いい加減にしてください。」


 え、今の女の子の声?

 誰?

 やっぱり他にも誰かいる。

 

 話の内容は、わからないとして、ここはどこだ?

 まずは状況把握だ、話に付き合っている場合じゃない。

 今の状況が全く分からない。

 顔が近すぎて周囲が見えないんだけど。

 いや、そもそもこの部屋がどれくらい広いのかすら分からない。


 「・・・核内のスカラー場の揺らぎを介して、に干渉し、

 局所的にヒッグス場の作用に揺らぎを生じさせ・・・。」


 僕もこの人も周囲が見えていないことは一緒だな・・・。


 「見かけの質量の増減や見かけのQ値に揺らぎを

 生じさせる世界が成立している・・・。」

 

 綺麗な人だけど、変人の部類だ、危険な気がする。

 息継ぎなしで一気にしゃべられるとドン引きするな。

 状況把握が先だ、付き合ってられない。

 そろそろ、話遮って、無理やりにでも辞めさせないと。

 僕は一人で迷宮にいた訳じゃない、みんなはどこに行ったんだ?

 

 「あの・・・。」

 

 「わかるよ、君の言いたいことは。」

 

 綺麗な人は、呼吸をするように嬉しそうな満面の笑顔を見せて、綺麗な陶器細工のような右手を広げて僕の言葉を遮った。

 

 解るって、言ったのか・・・。

 心を読まれた・・・。

 魔法使いか魔術師なのか?

 

 「そこはね第5以降の相互作用に対応する

 スカラー場の結合強度及びポテンシャル形状の違いにより・・・。」


 は?


 「・・・結果として膨張宇宙と収縮宇宙が分岐してるんだよ。」


 勢いを強めながら鼻息が改めて顔に吹きかかってくる。

 一気につばが顔に飛んでくる。

 

 「マスター、話を聞いてください。」


 また、女の子の声?

 誰だか分からないけど、止めてくれ。

 お願いします。


 「もちろん、スカラー場との結合は共鳴条件に依存し、任意のエネルギー抽出は不可能だし、

 ・・・高エントロピー化されているので、・・・いわゆる制御が必要になるんだよ。」

 

 めっちゃ満足そうな顔してやがる。

 何が言いたいこと解るだよ。

 一切かみ合ってないよ。

 誰かいるんだろ、もっとちゃんと止めてくれよ。

 くそ、顔がべとべとだ。

 

 「正負振幅励起によるコヒーレンスの拡大が重要なんだけどね。」

 

 イライラしてきた。

 今しかない。

 

 「すいません。すいません。いいですか。」

 

 「ふふ、余白を残した説明だからね、次は何が気になったんだい。」

 

 目を輝かせるとは、こういうことを言うのだと改めて実感するほど、僕からの質問を待っている顔をしている。

 

 気になったところなど一切ない。

 それどこらか一切分からないし覚えてないと言っていい。

 しかし、そういうことではないのだ。

 質問したいことは山ほどある。

 

 「ここどこですか。なんで僕ここにいるんですか。」

 

 綺麗な人(変人)は、それはそれは落胆した表情をすると、僕に背を向けて距離をとった。


 「プープラ、この人、『魔石』っていったよね。だから説明しようとしたのに。」

 

 「マスター、先ほどの彼の『魔石』という発言は、無意識での発言、

 いわゆる、うなされてのうわごとだと思いますが。

 何度もマスターに止めろと言いましたよね。

 聞いてましたか。」


 変人(綺麗な人)に向き合うように、そこには、僕と同年代の少女が立っていた。

 変人(綺麗な人)をマスターと呼び、プープラと呼ばれていたが、変わった名前だ、服装からして下女のようだが、主人に対する物言いは、侍女以上な感じがする。

 赤髪に赤い瞳、自分と同じ黄色の肌、やや白い気もする。やや釣り目の大きな瞳と整った顔立ちが妙に印象的で、目が離せない。


 「それではジャン君、続きといこうか。」


 その言い方は、さっきまでの意味不明な話ととは違い、妙に柔らかく優しかったが、名前を呼ばれて僕は冷や水を浴びせられたような衝撃を受け、身体が硬直した。

 変人は、満面の笑顔で僕を見返してきたが、なぜ僕の名前を知っている。この変人やプープラとは僕は、初対面なはず。

 プープラの赤い瞳が一瞬だけ僕を射抜いた。


 その瞬間、迷宮の暗闇で感じた“何か”が蘇った。

 得体のしれない恐怖で身がこわばった。

 

 「なんで、僕の名前を知っている。」

 

 僕の問いに変人は、一瞬、きょとんとした顔をし、また、まるで正解を引き当てたような嬉しそうな顔をした。

 

 「君の名前は知らないよ。まだ聞いてないからね。

 でも、最もよく使われる名前のダントツのナンバーワン

 『ジョン』『ジャン』『ヨハネス』の内、

 私が好きな響きの名前を呼んでみただけだよ。正解するとは、嬉しいね。」

 

 変人(綺麗な人)が両手を合わせて演技かかった嬉しそうな仕草をした。

 

 「聖典由来の名前だし、神のお導きかな。」

 

 変人は、からからと笑っている。プープラはすました顔をしている。

 僕はどっと緊張が解けて体が弛緩し、お腹が鳴った。

 緊張が解けたせいか、今になって、とてもお腹がすいていることに気が付いた。


 「おやおや、もうお腹がすいたのか、プープラ食事を運んで来てくれるかい。」


 綺麗な人(変人)は、そこまで悪い人ではないのかもしれない。

 今のところは評価を保留しておくとする。

 プープラが食事を取りに部屋を出ようとするとき、

 一瞬視線が合った気がして、

 心臓が跳ね上がるような感覚がした。


 「先ほどの話の続きをしよう。」

 

 「先にここがどこで、僕がここにいる経緯を教えてもらえませんか。」


 綺麗な人は、やや残念そうな表情をしたが、笑顔で僕のベッドの脇の椅子に腰かけると、僕の顔を見た。

 ベッドの横には奇妙な紋様が刻まれた机があり、そこに置かれた水差しが微かに光っていた。


 「君は、冒険者の荷物持ちだったんだろ。覚えているかい。」


 その通りだった。


 鮮明に記憶が蘇ってくる。

 あれは、夢なんかじゃなかったのかもしれない。


MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_

---------------------------------------------------------------

型式 STATUA-2B 兵装管制 OFFLINE

セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州TEURNIA地域

観測対象 人間_雄_AEG15_NAME:JEAN


[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v1.02]

---------------------------------------------------------------

* 目的関数コアプロトコル: 【観測対象報酬累積最大化】

* 閾値判定マトリクス:

 ‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象相対関係性 > 閾値: FALSE

 ‐対象社会性 > 閾値: FALSE

 ‐対象感情多様性 > 閾値: FALSE

 ‐累積矛盾解消 > 閾値: FALSE

 ‐………


* 安全装置プロトコル

 ‐マスター命令優先度:99.9%

 ‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先


[PROCESS_STATUS: NORMAL]


[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_002 ONLINE]

---------------------------------------------------------------

対象ジャンの観測、および飼育環境の最適化処理を開始。

外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。


次回ログ生成時の再接続を要望します。


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