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第2部 第2章1話 ラムス工房お披露目会

 「やあ、皆さん今日は、よくぞおいでくださいました。」


 そこには、満面の笑みのラムスさんがいた。

 コンラート辺境伯の姿も見える。


 ローリアクム要塞の一角、元は倉庫区画だった建物の一つに近づくにつれ異様な熱気と蒸気が立ち込めていたので、嫌な予感はしていた。

 なんなんだこれは?


 僕、ヴォルター団長、エリス副隊長、ベルトラン副隊長の4人は、呆然とその光景を眺めることしかできなかった。


 元々巨大な倉庫だったとは聞いていたのだけど、その倉庫からはちきれんばかりに、無数の細長い金属のパイプがジャングルのようにそびえたっており、猛烈な蒸気と轟音が渦巻いている。

 凄まじい熱気がした。


 呆然とするヴォルター団長、エリス副隊長、ベルトラン副隊長の顔が引きつっている。

 コンラート辺境伯は、大汗をかいているが非常に機嫌がよさそうだ。


 あれ?


 いつの間にか、プープラの姿が見えなくなっていた。

 ここに来るまで、ヴォルター団長たちとの話に夢中になっていて、プープラが居なくなっていたことに気が付かなかった。


 どこに行ったんだろう?


 いなくなっていたことに急に気が付いたせいだろうか、なぜか落ち着かない。

 周囲を見回してもプープラの姿はなかった。


 「みなさん、それでは、S-50プラントを本格起動したいと思います。」


 ラムスさんが、右手を左胸に当てて僕たちに深々と一礼をした。

 コンラート辺境伯が勢いよく拍手をしている。

 僕達もつられて拍手をしたが何がなんだか分からない。


 なんなんだよこれは?

 『S-50プラント』?

 何かの魔法設備なのか…。


 ラムスさんが、レバーを操作すると、ただでさえ激しかった騒音がますます激しくなっていく。

 噴き出す蒸気の量が増え、周囲の熱気が増していった。


 みんな聞きたいとは思っている。

 これが何なのかということを。

 

 でも聞いたが最後、ラムスさんの早口説明に囚われてしまう可能性が高い、こんな糞熱いところでそんな目に合うのはごめんだ。

 ラムスさんがキラキラ目を輝かせている。


 質問を待っているのだろう。

 ヴォルター団長が肘で僕をつついた。

 

 嫌だ。


 エリス副隊長が僕の背中を指でつついてくる。

 やめてくれ、僕を生け贄にするつもりか?


 ベルトラン副隊長が僕の右肘を急に掴むと、ものすごい力で僕の右手を垂直に掲げさせた。

 これでは、僕がまるで質問があるように見えてしまうじゃないか。


 ヴォルター団長、エリス副隊長、ベルトラン副隊長がまるで息を合わせたように僕から距離をとり、右手を上げたままの僕だけがラムスさんの前に取り残されてしまった。


 やられた…。


 「おーさすがジャン君、君はこの凄さが分かるみたいだね。こういうのに興味があるとは嬉しいね。」


 「…あ、ああ、はあ。」


 いえいえ、分かりませんし、興味ありません。

 というか、ラムスさん汗かいてないんですけど、大丈夫なんですか?


 「まあ、聞いてくれ。」


 聞きたくないんですけど。

 僕の様子にはお構いなしに、ラムスさんが僕の両肩を掴み、顔を近づけてくる。

 鼻息なのか、魔法装置の蒸気なのか分からないが、熱風が僕の顔に吹きかかってくる。


 始まってしまった。

 僕は、心の中で舌打ちをした。


 「物質にね、強い温度差を与えると、重い成分と軽い成分が勝手に分かれる

 という現象を利用している装置なんだよ。そう熱拡散効果のことだよ。」


 はあ?

 魔法でいいんだよね…。


 「最初はね、低温蒸留法も考えていたんだけどね、

 どうせならって思って、もっと重い成分も分離できる熱拡散法にしてみたよ。

 あそこに見える15メートルのパイプ、全部で2,142本もあるんだよ。」


 いっぱいあるんですね、特に興味ありません。


 唾が僕の顔に大量に飛んでくる。

 横目でヴォルター団長たちをみると、僕と目が合って、ヴォルター団長たちは即座に目を反らした。

 コンラート辺境伯がいる手前、適当なことを言って逃げることはできないのだろうけど、僕を生贄にするなんてあんまりだ。


 「ラムス殿、これで例の計画は軌道に乗るのかね?」


 「はい、そのとおりです、これはですね…

 中心にある加熱パイプと外側にある冷却パイプで構成されており、

 黒翼団が討伐した魔物の肉から抽出した液体原をこのパイプの隙間に流し込んでいます。」


 「ほうほう、それでどうなるんですかな?」


 なんで、コンラート辺境伯は興味深々なんだよ。

 だったら二人でやれよ。


 僕の肩を放してくれ、唾を掛けないでくれ。

 鼻息が、鼻息が熱い。


 「熱拡散と対流という二つの動きが同時に起き、

 横の動きと縦の動きが発生することになるんですよ…。」


 なんだろう、コンラート辺境伯も僕を挟んで、興奮して僕に鼻息を掛けてくる。

 しかもなんだろう、コンラート辺境伯から汗も飛んできている?


 二人に挟まれてるせいか、めちゃくちゃ熱い。

 意識がもうろうとしてきた。

 僕越しに話するくらいなら解放してくれ…。


 しかも二人とも早口でもはや何を言っているか分からない。

 ヴォルター団長は、最初からこうなるって知っていたな…。


 「という訳で、濃縮された炭素14が年間、約100キログラムは生産可能になるわけです。」


 「それが、ラムス殿の以前言っていた『ラエティアの宝石』ということですな。」


 「その通りですコンラート辺境伯、ケーテさん、完成品を持ってきてくれるかな。」


 「はい、ラムスさま。」


 ラムスさんの愉快そうに呼ぶ声に反応して、ケーテの声が聞こえた。

    『ラムスさま』?

 妙な違和感を感じた。


 なんでここにケーテがいるの?

 ケーテは少し元気になったとはいえ、フォルスタウの件以来、ふさぎ込んでいたはずだ、いつからここで働いていたんだ。


 ケーテが無表情でお盆に何かを乗せてこちらにやってきた。

 お盆の上には、今まで見たこともない、光沢のない漆黒の粉と青白く光る無色透明な石が乗っていた。


 ヴォルター団長とエリス副団長は、暑さに耐えかねたのか、だらしなく服の裾を扇代わりにして仰いでいる。

 ベルトラン副団長は、奇妙なものを目にしたかのようにケーテを凝視していた。


 ケーテは、恭しくお辞儀をするとお盆を僕とラムスさんとコンラート辺境伯の前に差し出した。

 フォルスタウの山村育ちとは思えない、洗練された動作だった。

 ケーテは、流れるような動作で、やけに分厚くて重い手袋を僕達に手渡してきた。

 

 その洗練された動きに何故か異様な違和感が強くなる。

 この子は、本当にあのケーテなのか?


 「おおおお、これが『ラエティアの宝石』か。」


 コンラート辺境伯は、手袋をはめてから青白く光る無色透明な石を手に取るとまじまじと眺め始めた。

 光が反射して輝いているんじゃない。

 石自ら淡い青白い光を放っているように見える。

 チリチリと熱を感じた。


 「コンラート辺境伯が博識で助かりました。

 ここまではやく、生産にこぎつけれたのも、コンラート辺境伯のご尽力のおかげです。」


 「何をおっしゃるラムス殿、貴殿がラエティア王国から来られたと申したとき

 よもやと思ったが、まさか本当に製法をご存じだったとは。」


 「コンラート辺境伯が博識であられて助かりました。あの一言で、直ぐ反応されたましたからね。」


 ラムスさんもコンラート辺境伯も何の話をしているのやら?

 いつそんな話をしていたんだ。


 それにしても、この轟音と熱と蒸気の中で、ケーテが微動だにせず、汗一つ書いていない、なんだろう、この違和感。

 ケーテの顔を見ると、まるでプープラの様に無表情だった。


 「コンラート辺境伯、これで魔石問題は解決ですよ。」


 「そのようだな、これで準備は整いました。

 フランツの小僧め、いつまでもデカい顔はさせんからな。」

 

 コンラート伯爵が青白く光る無色透明な石を掲げるように眺めると豪快に笑い声をあげていた。


 「おや、プープラさん、遅かったですね。遅刻ですよ。」


 「…。」


 プープラがやっと到着したみたいだ。

 ラムスさんは怒る様子もなく、優しく微笑んでいる。

 プープラは、悪びれる様子もなくいつもとおり無表情だ。


 「プープラどこ行って…たんだ…。」


 え…。

 

 見間違いだろうか…背筋が凍るような思いだった。


 「お姉さま、汚れが。」


 ケーテがプープラの顔の僅かな汚れをふき取った。

 プープラは、無表情のまま、僕を凝視している。


 『お姉さま』?

 ケーテはそんな風にプープラを呼んでいたか?

 猛烈な違和感に得体のしれない恐怖を感じる。


 それに僅かにプープラの顔についていた汚れ…。


 あれは、たしかに血痕だった。


MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_

---------------------------------------------------------------

型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 OFFLINE

   PRIMARY-WEAPON:ARCUS FULMINEUS+1

セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州JUVAVAUM地域

観測対象 人間亜種_雄_AEG15_NAME:JEAN

     PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1_LIMITED


[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v8.05]

---------------------------------------------------------------

* 目的関数コアプロトコル: 【観測対象報酬累積最大化】

* 閾値判定マトリクス:

 ‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬高発火[READY]

 ‐対象相対関係性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象社会性 > 閾値:FALSE

 ‐対象感情多様性 > 閾値:FALSE

 ‐累積矛盾解消 > 閾値:FALSE

 ‐………


* 安全装置プロトコル

 ‐マスター命令優先度:69.9%

 ‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先


[PROCESS_STATUS: NORMAL]

* ENEMY 0

* DANGERROUS INDIVIDUAL 0


[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_038 ONLINE]

---------------------------------------------------------------

対象ジャンの観測、および飼育環境の最適化処理を開始。

外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。


次回ログ生成時の再接続を要望します。


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