第2部 第1章4話 ペンダントの記憶
ジャン君とプープラちゃん、今日も朝からおままごとのように、初々しくて、胸がキュンキュンしてしまう。
あの無表情で、冷たい昆虫のような赤い瞳、何を考えてるか全く分からない感じなのに、分かりやすいくらいジャン君のことしか考えてない。
私としては、ジャン君はかわいいとは思うけど、でもその程度、やっぱりプープラちゃんがダントツすぎる。
朝の食堂での、プープラの様子に熱烈な視線を送りながら、マルグリッドは、胸元のペンダントに視線を移した。
ドロップ形状の赤い宝石が光を屈折させてきらきらと輝いて見えた。
このネックレスを見ても、何も反応しなかったということは、やっぱり、考えすぎなんだろうな?
マルグリッドは、自嘲気味に微かに鼻を鳴らし、再び初々しい朝の恒例行事を眺め始めた。
「おい、ジャン、今日もお嬢の朝ごはんなのか、うらやましいなあ。」
「あははは。」
ロバートが、いつものようにジャン君をからかい始めている、相変わらず、軽薄で騒がしいやつだ。
ロバートを無視するプープラちゃんかわいい。
「お嬢、俺にも作ってくれよ。」
「…。」
「もう、無視なんてつめたいなぁ。」
ロバート、それ以上プープラちゃんに近づいたら殺すよ。
ジャン君もしっかりプープラちゃんを守りなさい、そもそも、あなたにはもったいないのよ。
ああ、近づいて、撫でたい、愛でたい。
思わず、鼻息が荒くなってしまう。
「マルグリッド、なんかキモイよ、どうしたの?」
「あ、メアリーおはよう、なんでもないわ。」
朝食をとる、マルグリッドの前を、随伴隊に所属するメアリーが呆れた様子で通り過ぎて行った。
マルグリッドは、急いで食事を済ませて、宿舎に戻ることにした。
そう、やることがあるのだ。
今日は、久しぶりの休暇、本当であれば、プープラちゃんを誘って、町に遊びに行きたいところだけど、プープラちゃんは、『ラムス工房』に行かなければならないらしい。
昨日の夕食時に遊びに行こうと誘おうと思ったのに、ヴォルター団長の話を聞いて、鼻血が出るくらい頭にきた。
そこで、こっそり、私もついていこうと思います。
プープラちゃん押しの私としては、今日という休暇を最大限に楽しむため、プープラちゃんを陰ながら愛でて過ごすことといたしました。
プープラちゃんがこっち見た。
マルグリッドの視線とプープラの視線が交わる。
プープラは、特に無表情のままだが、そこがいい。
マルグリッドは、胸が高鳴っていく気分がした。
でも、そろそろ、準備しなくては。
「プープラちゃん、またね。」
「…。」
「お疲れ様です。」
ジャン君しか挨拶してくれない。
そんなところも好き。
マルグリッドは、プープラに手を振り自身の宿舎に戻ることにした。
わざとらしく、ネックレスを揺らして、宝石がプープラの眼につくようにしたのだが、プープラは、ジャン君に視線を戻していた。
ほんとプープラちゃんかわいい。
マルグリッドは、自身の宿舎に戻りながら、改めてドロップ形状の赤い宝石のペンダントを見つめた。
マルグリッドは、胸元のペンダントを指先で軽くなぞる。
その冷たい感触が、忘れかけていた記憶の扉を静かに叩いた。
あの時のことが鮮明に思い出されてくる。
マルグリッドが冒険者となり、新米として探索小隊で魔石拾いを始めたのは13年前のことになる。
あの頃は、魔法士でもなく、木の槍をもって、何とか土蜘蛛を討伐していたのが懐かしい。
そんな底辺の冒険者生活を3年も続けていたとき、私は、たしかにこのペンダントを赤い瞳の少女から貰ったのだ。
あの時、私は仲間と逸れて、迷宮中層で死を覚悟していた。
巨大な擁壁に挟まれた通路、吹き抜ける風が冷たく死を感じさせる。
微かな目眩と吐き気が体力を奪っていく。
静謐でありながら、時折響く魔獣の咆哮の残響が恐ろしい。
風化して摩耗した荘厳な彫刻の柱に圧迫感を覚えた。
彼方まで続く無限のような回廊が逃れられない死を暗示しているようで、孤独と絶望に押しつぶされそうだった。
何日たったんだろう?
迷宮上層で土蜘蛛狩りをやっていて、兄さんの言うことを聞かずに、調子に乗って深く潜りすぎたら、このざまだ。
突然現れた、地竜になすすべもなく、兄たちや仲間は蹴散らされ、散り散りに何とか私は逃げ延びれたものの、今、どこにいるのかも分からない。
食料も尽きた。
喉もカラカラだ。
どんどん、目眩も吐き気も強くなるし、いよいよだな。
まだ、18歳になったばかりでこんなことになるなんて。
死にたくない。
ここは、迷宮の中層の深いところなのだろうか、遠くが陽炎のように歪んでいてよく見えない。
何とか、魔物に見つからないように移動してきたが、疲労なのだろう、身体がだるくて、もう動けそうもない。
なんだろう?
大きな門が見える。
地面に倒れこんで、横顔が地面に触れると、地面から振動が伝わってくるのが感じられた。
魔物が迫ってきてる?
逃げなきゃ…でも、身体がもう動かない。
自分なりに、頑張ってきたつもりだったけど、ここで終わりだな。
兄さんは、無事なんだろうか?
ごめんね、最後までダメな妹で…。
擦れる視界の中に、巨大な蜘蛛の魔獣の姿が迫ってくるのが見えた。
死が迫ってきていた。
十メートルはあるだろう、巨大な蜘蛛が無機質に迫ってくる。
さっきまで死にたくないと思っていたのに、もう、どうでもいい。
そう思った瞬間だった。
え?
陽炎のように揺らぐ回廊の先で、迫ってきていた大蜘蛛の体の中心に突然穴が開いた。
穴が開いた大蜘蛛は瞬間的に揺れるように浮いたように見えた。
大蜘蛛は、一瞬で内部から膨らむようにはじけ飛んだ。
空気が破裂したような轟音が響いて耳が聞こえなくなる。
空気が重たくなったように感じて息ができない。
熱風のような爆風に襲われ、小石などの破片が体に当たってくる。
何が起こったのか分からない。
現実感覚が湧かない。
今の衝撃のせいなのだろうか、白熱して蒸気を上げる地面に照らされて、巨大な門が揺らいでそびえたっているのが見える。
私の背後で何かが地面に落ちて乾いた金属音を立てるのが聞こえた。
「そんなところで寝てると、風邪ひくよ。」
私の背後から少女の声が聞こえる。
幻聴?
迷宮の呪で幻覚でも見ているのだろうか…。
「助けてやったんだ、礼ぐらい言えよ人間。」
また少女の声がした。
足音も聞こえる。
幻聴じゃない。
マルグリッドは、力の入らない体を何とか動かし、上半身を起こして、声のする方向を見た。
なびく赤い髪。
侍女服のような質素な服装に肩掛け鞄の軽装。
奇妙な形状の弓を左手に持ち、右手で服についた土埃を払っている。
首に無造作に掛けられた赤い宝石のペンダントが揺れている。
土埃を払い終わったのか、彼女がゆっくりと顔を上げる。
顔を上げた彼女は、その宝石よりも赤く冷たい赤い瞳をしていた。
白熱する地面に照らし出されて揺らめいて見える彼女は、神々しく、神秘的でまるで教会の壁画で見たヴァーチュースようだった。
「…天使様…。」
「はあ?何言ってんだおまえ。」
少女の声は、乱暴なようで優しくそして無機質にも感じられた。
何でだろう、涙が止まらない。
助かった、助けてくれた、私は生きてる。
「助けてくれてありがとうございます。私はマルグリッド、あなたは…。」
「私は、…んん…あー…型式名だけど、そうだな、スタトゥア2B。」
そう、彼女はプープラちゃんに瓜二つだったんだよね。
マルグリッドは、そっとペンダントを撫でた。
MILTARY_DRONE_OS: LOG_ARCHIVE
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型式 STATUA-2B 兵装管制 ONLINE
PRIMARY-WEAPON:ARCUS FULMINEUS
セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州TEURNIA地域
[PROCESS_STATUS: NORMAL]
* ENEMY 0
* DANGERROUS INDIVIDUAL 0
[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_035 ONLINE]
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