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第2部 第1章2話 魔狼退治

 僕は、今、魔境防衛拠点ローリアクム要塞の北側にある森林魔境との境界近くに来ている。

 ヴォルター団長のすぐ近くで、張り付くように指示に従っている。


 指導?

 技術を教える?


 そもそもヴォルター団長にそんなお上品なことはできないのかもしれない、そんな気がしてきていた。

 今回は、プープラは、後方にいて、僕の傍には居ない。

 ラムスさんの指示だ。


 僕に経験を積ませるのに、おもりが居たら良くないそうだ。

 それは、それで悔しいが、いままではプープラに守られてばかりだ。


 やってやる。


 僕は奮い立たせるように自分に気合を入れた。

 僕は、魔狼討伐に前線部隊の一員として参加しているのだ。

 ヴォルター団長からの指導付きで?


 魔狼は単なる野生動物的魔物と比較して高い知能を持ち、強力なリーダーを中心とした高度な組織戦術をとってくる。

 体長は鼻先から尻尾の先まで約3メートル、肩までの高さが、約1.5メートル、体重が約500キログラム、最高速度は時速60キロメートルに達する。


 報告を受けた群れは、約30頭、黒翼団の投入戦力30名と総数は拮抗しているが、後衛支援隊の10名を除けは、正面投入可能戦力は3分の2、さらに今回は、正面投入戦力を攻撃隊10名だけとして、正味3分の1、なかなかの酷い作戦だ。


 大丈夫なのか?

 ヴォルター団長は余裕の表情だ。

 僕は緊張で全身に嫌な汗をかいている。


 斥候からの情報どおり、魔狼の斥候と思しき2頭の内1頭を撃破、あえてその場にとどまり苦戦しているふり。


 「きやがった。ジャン、抜かるなよ。」


 「はい。」


 丘陵部の高低地形の低い側に集密陣形をとり、魔石消費を最小限に抑えて、遅滞戦闘に徹している。

出力をギリギリまで絞らされている。


 本当に大丈夫なのか?


 気持ちが空回りして、不安になってくる。

 ほどなくして、魔狼推定潜伏方向、つまり、丘陵部の高低地形の高い側方向から魔狼本体が半包囲で表れた。


 やばい、3倍の魔狼に半包囲されている。

 恐怖で足が震えてくる。

 見た目の圧力が半端ない。


 「なに、ビビってるんだよ。」


 ヴォルター団長がカラカラと笑っている。


 「…。」


 僕は、緊張で声が出ない。

 笑ってる場合じゃないだろ。


 「ジャン、やっていいぞ。」


 「は…はい。」


 ヴォルター団長の指示を受け、僕は素早く、斥候魔狼の首を落とした。

 位置的に僕が斥候魔狼を仕留めるのに絶好の場所に居た、ヴォルター団長が上手く誘導してくれていたおかげである。


 「全員、再身体強化、殿は俺がやる。」


 「了解。」


 「ジャン、お前は、俺から離れんなよ。」


 「はい。」


 やけに喉が渇く。

 時間間隔が狂っているようにも感じてくる。


 攻撃隊にほぼ損害なし、ヴォルター団長の指揮で攻撃隊は即座に転進して、全力疾走で丘陵を駆け降り始めた。

 僕も教わったばかりの身体強化魔法を使用して、全力で後に続いた。

 魔狼が僕達を追って動き始める。


 恐怖と焦りで、目が回ってくる感覚がした。

 走りながら、鼓動の音だけがやけに大きく聞こえる。


 息が苦しくなってくる。


 僕はちゃんと呼吸ができているのか分からなくなってきた。

 随伴隊からの支援強化魔法はないので、このままでは、500メートルも走らないうちに、追いつかれるだろう。


 「全員死ぬ気で走れ。」


 ヴォルター団長が大声で叫んだ。

 僕も攻撃隊のなんとかみんなと同じ速度で全力疾走する。

 ラムスさんに、グラディウスの出力制限をされているので、みんなと戦闘力はさほど変わらない。


 というか、経験不足でみんなの足を引っ張っている気がする。

 僕なんかが黒翼団の一員でいいのか?


 瞬間火力はあげれなくもないが、即時に出力停止するので、魔狼30頭に追われる状況では絶対に使えない。

 それでも、ラムスさんから貰った剣は、他の傭兵達の武器と比較してとても優秀ではある。


 でも、今はヴォルター団長の指示とおり、ひたすら走るしかないのだ。

 黒翼団の攻撃隊の精鋭のみんなの動きと比較すると僕の動きはまるで素人の様だ。


 息が詰まる。

 苦しい。


 「ジャン、もっと気合い入れて走れ。」


 「はあ、はあ。」

 

 「息あがってんぞ。」


 「…はい。」


 魔狼たちはトップスピードに入っていない、それでも徐々に距離を詰められる。

 こちらの撤退行動を警戒しているのか、なかなか、食いついてこない。

 あの速度では止まれてしまう、このままでは作戦が破綻する。


 「…ちっ。しかたねぇな。」


 ヴォルター団長の舌打ちが聞こえた。


 え?


 その瞬間なぜか僕は、足を誰かにひっかけられた感覚がしたかと思うと、一瞬で天地が逆転した。


 なんだ、転ばされた?

 思考が真っ白になった。


 身体強化で全力疾走していたこともあり、前方に思いっきり転がってしまう。

 混乱と衝撃で大声を出してしまっていた。


 回転する視界の中で団長の悪戯っぽい笑顔が一瞬だけ見えたのは気のせいではない。


 僕の転倒の様子を確認してか、魔狼の中でもひときわ大きい1頭が一気に加速を開始して、トップスピードで突進を開始した。

 それに呼応し、魔狼全体が一気に加速を開始して、まるで黒い壁のように一直線で僕たちに突進を開始する。


 「…くっ。」


 「悪いなジャン、根性の見せ所だぞ。」


 「はい。」


 ヴォルター団長の激を受け、僕は即座に立ち上がり、再度全速力で走り始める、僕が転倒したことで、黒翼団のみんなの動きが鈍った。

 魔狼との距離が一気に縮まる、残り50メートルもない。


 魔狼は突進に入ると、数百キロの質量がそのまま弾丸のように直進するのだが、これでもうあいつらは、自身の重量のせいで、突進しかできなくなった。


 これが狙いなのだ。


 僕は聞かされていた作戦とわかってはいたのだけれど、黒い壁の圧迫感にやはり恐怖を感じている。

体中に汗が噴き出してくる。

 ヴォルター団長の口角が大きく上がったのが見えた。


 作戦地点だ、やばい。


 焦りと緊張で、思考が真っ白になってくる。

 身体をうまく操れない。


 「うあああ。」


 僕は、今度はちゃんと足がもつれてスライディングのように地面に突っ伏してしまったが焦りながらもなんとかすぐ立ち上がった。

 間に合った。


 その瞬間、地面から青白い火花が走ると、轟音を立てて地面が大きく崩れ、深い穴が出現した。

 魔狼の先頭集団から半数以上が大穴に落ちて、魔狼たちの悲鳴のような鳴き声が聞こえてくる。


 「全員反転、再身体強化。」


 ヴォルター団長の指揮で攻撃隊全員が振り返り、剣を構える。

 僕が、剣を構えて身体強化を掛けると、頭上を複数の榴弾魔法が通りすぎ、落とし穴に吸い込まれていく。


 強い閃光と爆風が僕を通り過ぎていく。


 すごい。

 思わず息を呑む。

 危険なはずの榴弾魔法の軌跡がとても綺麗だった。


 更に、両脇から随伴隊10名が抜剣して現れる。


 「強化よこせ。」


 ヴォルター団長が随伴隊に向けて大声で合図を送る。


  『聖なる祈りよ・・・神の慈悲よ・・』


 詠唱のコーラスが始まる。


   『エクスキータ』


 随伴隊の杖が一斉に青白く灯る。


   『コンフィルマーティオー』

   『クラウデレ』

   『コヒベーレ』


 強化、結界、弱体化が発動した、体が熱い、力がみなぎる。


 榴弾魔法が途切れた瞬間、ヴォルター団長がひときわ大きく叫んだ。


 「突撃。」


 僕たち攻撃隊が一斉に魔狼にとびかかっていく、動きが止まっていた魔狼たちが次々になぎ倒されている。

 後方に逃げようとする魔狼に対して、後方支援隊が弓矢と魔法が撃ち込み退路を塞いでいる。

 あの弓矢の正確さは、プープラだろう。


 僕も1頭を仕留めた。

 やれる、やれるぞ。

 気分が高揚していく。


 「ジャン、気を付けろ。」


 ヴォルター団長の声に反応して、即座に、飛び込み受け身で身をかわすと、大きな風切り音がして、魔狼の悲鳴のような鳴き声が響いた。


 即座に振り返り、剣を構えると。

 榴弾魔法を受けてボロボロになった、ひときわ大きな魔狼が僕を睨みつけていた。


 力がみなぎり感覚が研ぎ澄まされていく感覚がする。

 こいつが群れのリーダーだ、直感的にそう思った。


 魔狼の右目に矢が刺さっている、プープラの矢だ、後方遮断の最中なのに乱戦の間を縫って、完璧な角度で魔狼の視界を奪ってくるとは…。

 本当、どこにいても僕を見ていてくれてる気がする。


 無意識に僕の口角が上がった。

 おかげで攻撃を受けずに済んで、魔狼は隙だらけだ。


 魔狼が極大の咆哮を上げる。


 「ジャン、やれ。」


 「はい。」


 僕は、剣の柄を強く握り返した。


   『プリーマ・パシス』


 僕の言葉に反応して、グラディウスから青白い光が放たれる、空間が僅かに歪む。

 地面を蹴ると、地面から水蒸気が吹きあがり、僕は、魔狼目がけて、猛烈な速度で突進を開始した。

 振りかぶった剣は軽くなり、剣速が一気に加速していく。

 

 狙うなら矢で死角になった右目側から。

 魔狼の突進を右へかわしながら、剣を振り下ろす。

 

 魔狼の首が跳ね飛んだ。

 

 地面から水蒸気が吹きあがり、一気に周囲に熱風が広がり、剣からの輝きはゆっくりと鈍くなって消えた。

 瞬間出力の時間切れだ。


 「上出来だ。」


 ヴォルター団長が僕の肩を叩いて、笑っていた。


 「…さっきわざと転ばせたでしょ。ああいうのほんと勘弁してください。」


 「食いつきがわるかったからな。うまくいったろう、いい演技だったぞ。」


 演技じゃなくてガチで転んだんですけど。

 不貞腐れる僕の顔を見たヴォルター団長がゲラゲラと笑っていた。


 僕は、この時、達成感と満足感で高揚感に包まれていた。


 それが地獄の訓練の始まりとは知らずに。


MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_

---------------------------------------------------------------

型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 ONLINE

   PRIMARY-WEAPON:ARCUS FULMINEUS+1

セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州JUVAVAUM地域

観測対象 人間亜種_雄_AEG15_NAME:JEAN

     PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1_LIMITED


[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v8.02]

---------------------------------------------------------------

* 目的関数コアプロトコル: 【観測対象報酬累積最大化】

* 閾値判定マトリクス:

 ‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象相対関係性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象社会性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象感情多様性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐累積矛盾解消 > 閾値:FALSE

 ‐………


* 安全装置プロトコル

 ‐マスター命令優先度:99.9%

 ‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先


[PROCESS_STATUS: NORMAL]

* ENEMY 0

* DANGERROUS INDIVIDUAL 0


[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_034 ONLINE]

---------------------------------------------------------------

対象ジャンの観測、および飼育環境の最適化処理を開始。

外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。


次回ログ生成時の再接続を要望します。


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