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第6章5話 救援と脱出

 「ケーテ、無事か。外がやばい、早く逃げよう。」


 「ケーテ、大丈夫。」


 「やばいよ、やばいよ。」


 玄関の戸が突然開き、少年2人と少女1人の集団が勢いよく家の中に入ってきた。

 少年の一人は、痩せていて背が高い。

 元は農機具の鎌だろう、横向きの刃を柄に対して真っすぐ垂直につけ直した、戦鎌を持っている。


 もう一人の少年は、僕よりやや背が低いが太っていて、干し草フォークを持っている。


 少女はケーテとほぼ同じ背格好だ、たぶん元は鉈だろう、柄を持ちやすく片手で握りやすい長さに切り詰めた刃物を握りしめていた。


 即座に、ベルトラン副隊長、ロバートさん、マルグリッドさんが動く。

 一瞬の出来事だった。


 ベルトラン副隊長は、素早く剣の刀身を戦鎌の少年の首に充て、左手で少年から手元から戦鎌をテコの原理で捩じり取る様に引きはがして、遠くの床に投げた。

 戦鎌の先端が床にぶつかりしなるような金属音が響く。


 ロバートさんは、干し草フォークの三又に剣を引っ掛け、時計回りに回転させて、先端を足元に移動させると、右足で力強く踏んで、干し草フォーク少年から、干し草フォークを引きはがすと、そのまま右足で遠くの床に蹴とばし、喉元に切っ先を突き付けた。

 勢いよく蹴とばされた、干し草フォークが壁に突き刺さり、共振するような鈍い音を発している。


 マルグリッドさんは、大杖で少女の鉈を手元から叩き落すと、杖の鉤部分を少女の首に充てると、そのまま壁に押し付けた。

 息がしづらいのだろう、少女が苦しそうにうめき声をあげていた。


 「君たちは、何者かな、人間ですか。」


 ベルトラン副隊長が冷たく質問した。

 両目が鋭く、強烈な殺気を発している。

 たぶん、答えを聞く気はないのだろう、違和感を確認しているだけだ。


 外で、馬が暴れているのか、激しいいななきが響き続けている。


 「だめ、待って。」


 立ち上がったケーテが部屋全体に響く大きな声を発した。

 ベルトラン副隊長を鋭く睨みつけている。


 「アンネル、ハンス、ハインは大丈夫なはずよ、剣を下ろして。」


 ケーテの言うとおりかもしれない、異様な住民たちとは違いすぎる。

 たぶん、外の異常に気づいて、ケーテを助けに来たのだろう。

 ベルトラン副隊長は値踏みするようにケートを凝視した。


 「ケーテの言うとおりだ、俺らはまともだ、外がやばいんだ、ほんとうだ、信じてよ

 早く逃げないと。」


 「ケーテのいうとおりよ、私たちはケーテを助けにきただけなんだってば。」


 「本当なんだって…。」


 ベルトラン副隊長から喉元に剣の刀身を押し当てられている少年たが震える声で懇願した。

 3人とも涙目になっている。


 「たしかに、時間がないですね、詳細は移動しながらにしましょう。」


 ラムスさんはそう言うと、一瞬目線を外に向け、直ぐにみんなを見回し優しく微笑んだ。

 外の異様な集団は、ゆっくりと包囲を縮めてきていた、先頭集団は、もうすぐそこまで迫ってきているように見える。


 「まだ、馬は無事だな、確保だ。」


 ベルトラン副隊長が叫ぶと、ロバートさんとマルグリッドさんが、素早く家を飛び出した。


 ロバートさんは、怯えて暴れている馬の後方から一直線に走り寄り、馬の蹴りをかわすように、片手を馬のお尻にあてると、両足を開いて、曲芸師のように飛び乗った。

 飛び乗った馬の綱を引いてなだめると、素早く、馬を繋ぐ縄を剣で切断し、馬を連れてこちらに戻ってくる。


 マルグリッドさんは、玄関の前に立つと、大杖を地面に突き立てた。


  『フォルクトゥス・インプルスース』


 マルグリッドさんが呪文を唱えると、大杖が青白く発光し、即座に1メートルほどの光の球体が形成される。

 空間が僅かに歪んだかと思った瞬間、球体は勢いよく拡大し、ドンと急激に圧縮された空気が広がるような圧力を感じたかと思うと周囲を取り囲む住民たちを突き押すようになぎ倒した。


 耳鳴りがする。

 鼓膜が張ったような感覚がして気持ち悪い。


 「ジャン、つば飲み込みなさい。」


 「へ?」


 プープラに教えられたとおり、つばを飲み込むと幾分ましになった。

 魔法を使う前にちゃんと教えて欲しいと思った。


 「ベルトラン、この先どうする。」


 「まずは、安全な場所まで後退する。

 囲いを突破して、町の中心を抜けて、ユバヴァウム交易都市方面に向かう。」


 「あたしらだけなら大丈夫だけど、荷馬車は無理じゃない。見てよ、路が松明の光でいっぱいだわ。」


 馬の鞍に跨るベルトラン副隊長は町の中心部方面を眺めて苦々しい表情を浮かべていた。

 御者席に立って、ベルトラン隊長の見ている方向を見ると、町の中心に続いていた道が揺らめく松明で埋め尽くされているのが見えた。


 これの突破は無理だろ。

 僕は、剣を抜いて固く握りしめた。

 足の震えが止まらない気がする。


 「ジャン、御者席では座って、危ないでしょ、バカなんですか。」


 「そ、そうだけどさ…。」


 御者席に座り、手綱を持つプープラは、無表情で淡々としている。

 恐怖とかないのだろうか、いまそれどころじゃないだろ。

 それとも、僕があまりにも頼りなく見えたのだろうか?


 「この家の裏手に道があるんだ、直ぐ近くの坑道跡に続いている、

  まともな人はみんなそこに避難してるんだ、そこに向かってくれ。」


  荷台にいる、三人組の内の痩せ型長身少年が叫んだ。


 「ハンスの言うとおりにして、

 坑道には荷馬車も入れるし、入り口には、門があるから安全のはずよ。」


 「私に続け。」


 ケーテが続けざまに叫んだことで、ベルトラン副隊長が、180度向きを変えて、大きな声で叫ぶと馬を走らせ始めた。

 あのノッポはハンスって言うんだ。

 みんな、なんかカッコイイ、なんだろうもやもやする。


 「いいですね、やっと目的地に行けますね。」


 ラムスさんがとてもご機嫌だ。

 まあ、この人はいつもなんだかんだいってご機嫌だ。

 プープラも無表情で淡々として無表情で荷馬車を操作している。


 ケーテとアンネルが抱き合って無事を確かめ合っているように見える。

 ハンスが戦鎌を構え、ハインが干し草フォークを構えて、ケーテとアンネルを守るかのように周囲を窺っている。

 姫君を守る騎士のようだ。


 ベルトラン副隊長が馬に乗って先頭を走っている。

 ロバートさんは、馬に乗って殿を務めている。

 マルグリッドさんは、荷馬車に並走して、周囲を警戒している。


 僕はまるで荷物のような感覚になってしまった。

 英雄ともてはやされたからといって、直ぐになんでもできるようになるわけじゃない。

 僕は、御者席にしがみつくように座って、真っ暗な風景を眺めることしかできなかった。


 プープラが僕に視線を合わせた。

 速度を増した荷馬車の振動で髪が揺れる。


 「揺れが酷くて、振り落とされそう、私を支えていて。」


 プープラが棒読みで、要求を伝えてくる。

 落ち込んでいる僕の様子を見て、仕事をくれたのかもしれない。

 実際、振り落とされそうな振動だ。


 僕は、プープラの肩に腕を回して密着し、御者席から振り落とされないようにプープラの身体を支えた。

 

 プープラの体温を感じる。

 プープラが嬉しそうに笑ったように見えた。

 これは、必要なのだろうか?

 

 僕はため息が出てしまった。



 坑道に入ると、直ちに門を閉めた。

 かなり分厚い木製の門だ。

 現在は、閉鎖されているそうで、入り口から十数メートル部分が、ワインやチーズ、ハムやソーセージの共同保管庫になっている。

 

 奥に進むと、鉛だろうか分厚い扉で固く封印されていた。

 逆に、坑道の奥から魔物が襲ってこないという安心感があっていい。

 

 ある意味、避難するなら理想的な場所なのかもしれない。

 

 坑道倉庫内には、僕達の他に、老婆が1人、青年男性が1人、中年女性2人、幼児が2人、乳幼児が1人の7人が避難していた。

 もう、フォルスタウの町には、まともな住民は、ケーテ達を含めて、11人しか残っていないということなのだろうか?

 

 僕は、ベルトラン副隊長とともに、交代で門の見張りを行った。

 夜が明けても、町の住民は押し寄せてくることはなかった。

 

 仮眠を取ろうと思って、坑道倉庫の奥に行くと、住民が集まっている。

 何かあったのだろうか?

 徹夜で一睡もしなかったせいか頭がはっきりしない。


 「アンネル、大丈夫、どうしたの。」


 ケーテがうずくまるアンネルの背中をさすっているのが見える。

 アンネルが、苦しそうに呻いていた。


 「…何があったんですか。」


 「…寒い、寒いの、苦しい…助けて。」


 意識ははっきりとしているようだが、明らかに様子がおかしい。

 住民の様に生気がない訳ではないが、顔色が真っ青だ。

 嫌な予感がする。


 ベルトラン副隊長達も様子に気が付いたのか、駆け寄ってくる。

 ラムスさんが優しく微笑んだ。


 「変体が始まるよ、脳に迷い込まずにちゃんと延髄から脊髄にかけて寄生してるから、

 完全変体すると思うよ。間近で見るのは初めてみるから楽しみだね。」


 全員が息を呑んだ。

 

 僕は背筋が冷たくなった。

 嫌な汗が流れてくる。

 アンネルの身体が、ゆっくりと膨らんでいるように見えた。


 ラムスさんだけが楽しげにアンネルを眺めて微笑していた。


MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_

---------------------------------------------------------------

型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 ONLINE

   PRIMARY-WEAPON:ARCUS FULMINEUS

セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州JUVAVAUM地域

観測対象 人間+5_雄_AEG15_NAME:JEAN

     PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1


[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v7.06]

---------------------------------------------------------------

* 目的関数コアプロトコル: 【観測対象報酬累積最大化】

* 閾値判定マトリクス:

 ‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象相対関係性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象社会性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象感情多様性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐累積矛盾解消 > 閾値:FALSE

 ‐………


* 安全装置プロトコル

 ‐マスター命令優先度:96.4%

 ‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先


[PROCESS_STATUS: NORMAL]

* ENEMY 5

-MANTICORE_INTERMEDIATE HOST_SUCCESSFUL CASE

* DANGERROUS INDIVIDUAL 0


[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_029 ONLINE]

---------------------------------------------------------------

対象ジャンの観測、および飼育環境の最適化処理を開始。

外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。


次回ログ生成時の再接続を要望します。


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