↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/35

第5章4話 祭りの中の2人の少女

 広場には、多くの屋台が出ていて、都市のみんなに食事を振舞っている。

 その中を走る僕には、目に入る食事から、どれも酷い異臭がしてきて、僕だけが異物であるように感じられた。

 

 こんなことって…。

 どうして…。

 みんなの視線が怖い、逃げなきゃ。


 「ジャン。」

 

 どこか聞き覚えのある声だが、思い出せない、聞き覚えのある声に名前を呼ばれたことで、金縛りにあったかのように反射的に立ち止まってしまった。


 体が強張る。


 「やっぱり、ジャンだったんだ。」


 嬉しそうな少女の声がする、僕は緊張と恐怖で振り向いた。


 「最初は、誰かと思ったよ、まさかジャン本人だったとはね。」


 串焼きの屋台の少女が明るく笑いながら僕に近づいてくる。


 「なんて顔してんの。まさか私のこと忘れたの? アンナだよ。」


 「ア、アンナ?」

 

 彼女はアンナ、僕と同じ、鉱山都市アングトゥムの孤児だったアンナだ。

 1年ほど前に、下女として住み込みの働き口が見つかったという話をして以来会っていなかった。

 丘陵都市テウルニアで働いていたとは知らなかった。

 

 今日はお祭りだからだろうか、長い栗毛の三つ編みにシロツメクサとマリーゴールドで飾ったリボンが付けてある。

 やや丸顔で愛嬌のある素朴な少女で、鼻筋と頬に少しだけあるそばかすの笑顔が人懐っこくてとても印象的だった。

 歳も近かったこともあり、彼女とは小さいころから、一緒に雑用仕事をこなしたりしていた仲だ。

 急に居なくなってしまったことで、落ち込んでいたのをトマスさん達にからかわれた記憶が蘇る。


 「すごいね、ジャン、まさかうちらを助けてくれた英雄が泣き虫ジャンだったとはね。」

 

 アンナがケタケタと笑っている。

 かなり小さい頃の話を持ちださないで欲しい、でも、おかげで少しだけ、落ち着いた気がする。

 

 「…ガキの頃の話だろ。」

 

 僕は、そう笑って返した。

 もう会うこともないと思っていたアンナに会えたことがとても嬉しかった。

 

 「ジャン。」

 

 背後からプープラの声がした。

 いつの間に来ていたのだろう、思わずビクッと体が反応してしまった。


 「…プープラどうしてここに?」


 「…誰。」

 

 赤い瞳が、暗がりの中でゆっくりと細くなる。

 プープラが無表情でアンナを凝視しているので、なんか変な雰囲気がした。

 

 「初めまして、うち、アンナといいます。ジャンの幼馴染なんですよ。」


 え?なに?

 

 どういうつもりかわからない?

 アンナは、僕の右腕に抱き着くように組んでプープラに自己紹介をした。

 

 「…幼馴染。」

 

 プープラの赤い瞳が一瞬大きく見開かれたような気がしたが、無表情のままだ。

 なんか怖い。


 「…傭兵団の人?」


 アンナがなぜか腕を組んだままだ。

 確かに仲が良かったが、1年ぶりに会ったばかりなのにぐいぐい来るのはなぜだろう。

 

 「…。」

 

 プープラは、無表情に僕とアンナを見ている、目線が怖い。

 

 「彼女は、プープラ、迷宮で僕を助けてくれたんだよ。」


 「…そうだったんだ、よろしくねプープラさん。」

 

 プープラが何もしゃべらないので、間が持たなくて思わず僕がプープラのことを紹介してしまった。

 なんかしゃべってくれよ。

 

 「…ジャン。」

 

 「はい。」

 

 やっとしゃべってくれた。

 

 「…バカなんですか。」

 

 なんで。

 

 アンナがケラケラと笑っている。

 意味が分からないけど、なんかプープラの機嫌が悪いようだ。

 

 「さすが英雄、モテモテだな。」


 威勢のいい男性の声でゲラゲラと笑い声が屋台から聞こえてきた。


 「アンナの言うとおり、ほんとに幼馴染だったんだな、驚いたよ。」

 

 「言ったとおりだったでしょ。」


 「俺が悪かった、これは俺のおごりだ、貰ってくれ、一番いい肉だぜ英雄。」

 

 威勢のいい屋台の男性は、そういうと、僕とプープラとアンナに焼き立ての串焼きを一本ずつ渡してくれた。

 

 「大将、うちも食べていいの?」


 「今日は、祭りだからな、それ食べたらさっさと仕事に戻れよ。」


 「大将、かっこいい。」


 「うるせぇよ。」


 大将と呼ばれる体格のいい屋台の男性が豪快に笑っていた。

 アンナが笑顔ではしゃいでいる、本来孤児とは祭りでも仕事がある、アンナの仕事先がとても良いところだったということがこの雰囲気からも伝わってきて、とても幸せな気分になってくる。

 アンナが勢いよく串焼きを頬張っている、孤児にとっては肉なんてめったに食べれない高級品だ、無理もない。

 

 しかし困った。

 右腕をアンナに組まれている。

 そして、いつの間にか左腕を無表情のプープラに組まれていた。

 

 身動きができない。

 

 プープラがどういうつもりかわからないが、さっさとプープラは串焼きを食べてしまっている。

 プープラが何か食べるのを初めて見た気がするが、両腕に伝わるプープラとアンナの柔らかい感触が僕の思考を麻痺させる。


 「ジャン、串焼き食べないの、めっちゃおいしいよ。」

 

 アンナが体を押し付けるように腕を組み直してきた。

 アンナの言葉に、一瞬にして血の気が引く思いがした。

 

 僕には、串焼きから腐敗した脂の匂いしかしない。


 まずい、まずい、まずい。

 

 このまま、食べずにこの場をやり過ごさなければと焦るが、両腕をプープラとアンナに押さえられて、どうすることもできない。


 「いい歳して、食べさせて欲しいのか?。どうなんだ?」

 

 アンナは、僕の手から串焼きを取り上げると、僕の顔に串焼きを近づけてきた。

 たぶんからかって遊んでいるのだろうけど、串焼きを口に入れられたら、絶対に吐いてしまう。

 なんでそんなことするんだよ、大将やアンナに対して失礼だし、何よりも僕自身がそんなところを見られたくない。

 

 「あーん。」

 

 アンナがニヤニヤしながら、ゆっくりと串焼きを口に近づけてくる。

 鼻から強烈な脂の腐臭がして吐き気がしてくる、全身が硬直する。

 

 やめてくれ。

 どうしても、ダメなんだ。

 見られたくない。


 「ジャンは、お腹いっぱい。私がもらう。」

 

 「あーっ。」

 

 目をつぶっていた僕にアンナの悔しそうな声が聞こえる。

 目を開けると、プープラがアンナから串揚げを取り上げて食べていた。

 

 助かった。

 

 安堵感で全身の力が抜けていくような気がする。

 

 「ジャン、団長が呼んでた、もう行かないと。」


 「・・・あ、ああ。」

 

 これは、たぶんプープラの嘘だろう、でもこの場を離れる理由としては理想的だ。

 

 「アンナ、ごめんもう行かないと。」


 「そっか、残念、今度、遊びに来てよ、うち、西区のパン屋で働いてるからさ、

 親方の店、おいしいんだぜ。」

 

 アンナは、そう言うと名残惜しそうに組んでいた腕をほどくものの、僕の右手を握ってくる。

 

 「必ずいくよ。」

 

 串焼きを食べれなかったこともあるし、久しぶりに会ったアンナに隠し事をしている罪悪感からひどく申し訳ない気持ちだった。

 串焼きを食べきったプープラも組んでいた腕をほどいて僕とアンナを無表情で見ている。


 「またな、ジャン。」


 は?


 アンナは、不意打ちのように僕の頬に軽く唇を当てると屋台の方に走って言った。


 なにが起こったの?

 

 僕は、何が起こったか理解できずに、一瞬呆然としてしまった。

 隣でプープラの瞳が大きく見開かれているのに気が付いて、プープラの顔に視線を向けると無表情に戻った。

 なんとなく、見られたくないものをプープラに見られた気がして罰が悪い。

 プープラと目が合うと、プープラが僕のことを無表情にじっと見つめてくる。

 

 「・・・バカなんですか。」

 

 とてつもなく機嫌が悪いみたいだ。

 こんなプープラは初めて見た。

 

 祝宴は、各所で大騒ぎが始まっている、僕が居なくても誰も気にしないだろう、プープラと共に、人通りの少ない道を選んで黒鷲傭兵団本部に戻ることにした。

 


 途中、プープラは、人気のない裏路地に突然立ち止まった。

 

 「どうしたの?」

 

 プープラの顔色が悪い、体調でも崩したのだろうか?

 プープラは、僕に背を向けると、突然、地面に串焼きの肉を吐き出した。

 

 咀嚼していたように見えていたのに?

 丸呑みしていたかのように、吐しゃ物はそのままの状態のように見えて、違和感を感じた。

 

 「・・・・ジャンと似たようなもの、私も食べれない。」


 「・・・えっ?」


 「食べたふりして飲み込んだだけ。ジャンも練習して。」

 

 怪しく光るプープラの赤い瞳が僕のことを凝視している。

 僕と同じようなもの?

 たしかに、今までプープラが食事をしているところを見たことはなかった。


 「ジャンの食べれるものは、私が準備するから大丈夫。」


 「・・・食べれるもの?」


 「・・・ジャンは、食べるふりを覚えて、じゃないと危険、怪しまれる。」

 

 食べれる物とは、どういう意味なんだ。

 今までの以外に食べれる物があるということなのだろうか?

 

 確かに、このまま、みんなと一緒の際に、一切食事をしないのは怪しまれる。

 その点については、プープラの言うとおりだ。


 「・・・食べれる物って?」


 「・・・ジャンが辛くならずに食べれる物。」

 

 無表情のプープラがなぜか少し悲しそうに見えた。

 地上に出て以来、ふさぎ込んでいた僕のことをずっと心配してくれていたんだろう。

 

 迷惑をかけてばかりだ。

 

 その上、普通の食事を食べれないのに、無理に代わりに食べてかばってくれた。

 食事も何とかしてくれようとしている。

 

 「ありがとう、プープラ。」

 

 僕はプープラに心から感謝した。

 プープラは、一瞬だけ微笑んでくれたように見えた。

 

 僕は、黒翼隊に居ていいんだと思えた。


MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_

---------------------------------------------------------------

型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 OFFLINE

   PRIMARY-WEAPON:ARCUS FULMINEUS

セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州TEURNIA地域

観測対象 人間+5_雄_AEG15_NAME:JEAN

     PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1


[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v7.01]

---------------------------------------------------------------

* 目的関数コアプロトコル: 【観測対象報酬累積最大化】

* 閾値判定マトリクス:

 ‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象相対関係性 > 閾値:TRUE → 報酬高発火[READY]

 ‐対象社会性 > 閾値:TRUE → 報酬高発火[READY]

 ‐対象感情多様性 > 閾値:TRUE → 報酬高発火[READY]

 ‐累積矛盾解消 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐………


* 安全装置プロトコル

 ‐マスター命令優先度:96.8%

 ‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先


[PROCESS_STATUS: CAUTION]

* ENEMY 1

-ANNA: 人間_雌_AEG15_CHILDHOOD FRIEND?/GIRLFRIEND?

* DANGERROUS INDIVIDUAL 0


[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_024 ONLINE]

---------------------------------------------------------------

対象ジャンの観測、および飼育環境の最適化処理を開始。

外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。


次回ログ生成時の再接続を要望します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。