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第5章2話 団長の選択

 「止めろ。」


 コンラート団長は、即座にヴォルター隊長たちを制した。

 コンラート団長の握手が僅かに震えている。


 僕は固まったまま、一歩も動けなかった。


 「あれから、結構な時間が経過していますが、教会等には我々のことを報告されてないようですね?

 未だにあなた方以外は来られませんしね。」


 「・・・。」


 「ところで、隣室で彼の剣を調べているのでしょうが、彼以外には使えませんよ、

 禁忌武具とはそういうものです。」


 コンラート団長が僅かにたじろいた様子をラムスさんは笑顔のまま眺めている。


 「・・・にわかには信じられんが、ラエティア王国はまだ存続しているのか?」


 「ここに来るまでだいぶ経っておりますので、現在の状況は承知していません。」


 ん?


 僕は胸の奥がざわついた。

 ラムスさんの『だいぶ前』は、僕らの感覚とは違っていたはずだ。

 今の返答は、どう考えても噛み合っていない。

 絶対今の『だいぶ前』は、百年以上前のことを指すはずだ。

 話はかみ合っているのか?


 「現在、北部魔境防衛最前線拠点ローリアクム要塞が空白状態なんでしょう。」


 「・・・。」


 「隣接する防衛都市オヴィラワにも相当な被害が出ているとか、

 そこの辺境伯となると何かと大変でしょう。お力になれると思いますよ。」


 ラムスさんの笑顔がこの時になって初めて怪しく見えてくる。


 「客分などと贅沢は申しません。

 彼を傭兵団に入れてくだされば、彼らが食い扶持を稼ぎますので、樹海竜の素材の代金もありますし、

 どうですか。」


 「・・・そういうことにしておこう。」


 コンラート団長は、打算なのだろう、覚悟を決めたかのように表情を変えるとゆっくりとラムスさんとの握手を解いた。


 「さすが勲爵士殿、懐の深さに感銘いたしました。」


 ラムスさんは満面の笑みである。

 どうやらうまくいったようだ、全く持って嫌な汗をかいた。

 ヴォルター隊長たちも同様の様で、表情が少し緩んでいるように見えた。

 

 ピクリとも表情も姿勢も崩さないプープラがすごすぎる。

 僕には無理な芸当だ。


 「ヴォルター、ラムス殿は、私の客分として、黒翼隊で万事抜かりなく世話せよ。」


 「・・・わかりました。」


 ヴォルター隊長が答礼している。

 コンラート団長は、何事もなかったかのように笑顔になっている。


 「それでは、ラムス殿、後ほど食事の席で改めて。」


 軽めのお辞儀をすると、コンラート団長は応接室から出て行った。


 なんだかものすごく疲れた。


 コンラート団長が部屋から出ていく際、ずっと待機していたのだろうか、お茶を持ったままの侍従がたじろいているのが見えた。

 ものすごくのどが渇いた。

 

 ずっと立ちっぱなしってあんまりだよ、いい大人なんだから座って話してよ。

 


 コンラート団長が応接室から出ていくのを恭しく見送ると、ヴォルター隊長たちは脱力して大きく息を吐いた。

 

 「勘弁してくれよ、ラムスさん。」


 そういうと、ヴォルターが躊躇なく、応接椅子に脱力した様に腰を落とした。

 エリス副隊長とベルトラン副隊長も、応接椅子に座り込みはしないものの、先ほどとは別人のように脱力している。


 「楽しかったろう。」


 ラムスさんが応接椅子に両手をかけて前のめりに体を傾けながら三人の様子を観察してケラケラと笑っている。


 「ラムス殿、こういう場では先に名乗るのは作法に反しますよ、わざとやりましたね。」


 「え、そうなんですか。」


 エリス副隊長が怒っている。

 どうやら目上の者から名乗るのが礼儀なのらしい、初めて聞いた、気を付けなければだ、とても勉強になる。


 「話違うじゃないですか、のどがカラカラですよ。」


 ベルトラン副隊長が待機していた侍従からお茶を受け取り、無造作に飲んでいる。

 非常に落ち着く雰囲気に戻ったので、僕も全身の力が抜けていく気分がした。

 

 プープラもいつの間にか椅子に座り、無表情にお茶を飲んでいる。


 「コンラート団長もなかなかだよ、先に握手をしてやると、手を差し出してくるとは、

 楽しませてもらったよ。」


 「あれ、めっちゃ怒ってますからね、後で謝ってくださいよ。」


 「え、そういう意味なんですか?」


 どうやら握手にも順番があるらしい、目上の方が握手を許可するというのがお作法らしい、ほんと訳が分からない。


 「あんたには、命を助けてもらっただけでなく、都市を救ってくれた恩がある。

 事前に団長を説得して話を付けてたんだぜ。」


 ヴォルター隊長が不満げな顔をしている。

 

 実は、樹海竜を倒した後、ラムスさんが瀕死のヴォルター隊長の呪を癒したり、隊のみんなの呪を祓ったりしたことで、すっかり僕らは打ち解けていたのだ。

 僕の事情や都市住人でないラムスさんとプープラの事情から、ヴォルター隊長が何とかすると言っていてくれていたのだ。

 王国側や教会にごまかしの報告をしつつ、団長に話をつけてくれていたのだ。

 

 そこで、今回のコンラート団長との謁見だったのだ、そこまでしていてくれたのに、ラムスさんは話をややこしくして楽しんでいたということだ。


 ほんと勘弁してほしい。


 「でも、おかげで、私としては理想的な状態になったよ、

 ちゃんと話して分かり合うのは大切だからね。」


 「どこがだよ。団長は知ってる風だったけど、ラエティア王国って聞いたこともねえぞ。」


 ヴォルター隊長が心当たりあるかという風に、エリス副隊長とベルトラン副隊長の顔を見る。


 「お伽話で聞いたことあるような。宝石の国でしたっけ?」


 「俺は聞いたことないです。」


 「そ…その話はそれくらいで。」


 エリス副隊長もベルトラン副隊長も知らないようすだ。

 これは、良くない流れだ・・・。

 僕は話題を変えようとしたが、間に合うのか?


 「聞きたいかね。」


 ラムスさんが満面の笑みを浮かべているのが、非常に嫌な予感がする。

プープラが窓の外を見ながら、お茶をお代わりした。

 非常に嫌な顔をしているように見える。

 

 こっちが気を付けていても、誰かがスイッチを踏む場合もあるということか?

 何故か、ラムスさんが僕に顔を近づけてくる。

 生暖かい鼻息が頬に当たった。


 なんで、僕なんだよ…。


 「サバンナの低放射線地点に住んでいた少数のホモ・エレクトスがね、

 環境の変化による食料減少で、一部はサバンナに残る、一部は他の環境に移動するという、

 人類の拡散が始まるんだけどね。」


 ラムスさんを除くみんなの目が泳いだ。


 「ジャン、俺は、祭りの準備があるから先行くわ、後は頼むな。」


 早々に、ヴォルター隊長が逃げた。

 ラムスさんのつばが僕の顔にかかる。


 「ジャン君、私達は、祭りの警護の仕事をしなきゃだからごめんね。」


 「悪いな、後でな。」


 エリス副隊長も間髪を入れずに退席し、ベルトラン副隊長も当然とばかりに、エリス副隊長の後に続いて応接室を出ていく。


 「ちょ・・・そんな。」


 「河口付近の丘陵部に定住した人類は、丘陵部に自生する穀物を栽培して農耕を開始し、

 地下空間を、いわゆる迷宮表層を避難シェルターとして、

 危険な中間生物である魔物の脅威から身を守り、初期部族集落を形成していくんだよ。」


 プープラの横顔を見ると、僕に一瞬だけ目線を合わせて、直ぐに窓の外に目線を戻した。

 いつもの通り聞き役は僕ということなのだろう。

 早口が止まらない。


 もういいよラムスさん、祭り行かせてよ……。


 「しかしながらね、海洋は高放射線領域の魔境であり、

 河口部は魔物の跋扈する危険地帯、人類の勢力圏は、放射線濃度の低い一部地域に限られて、

 それぞれの集落の交流は、地下迷宮表層を通じた限定的な交流に限られており、

 その発展はかなり緩やかだったんだよ。」


 今日も何言ってるか分かんないなあ。

 

 外でお祭りやってるみたいだし、僕も行きたいんだけど?

 後で迎えに来るとか言ってたけど、勝手に行っちゃだめなのかな。

 

 外からの歓声をかき消すようにラムスさんの早口がうるさい。

 

 でも、僕も慣れてきたのか、無意識に絶妙なタイミングで相槌が打てるようになった気がする。

 早く、ヴォルター隊長たち、迎えにこないかなあ?


 眠くなってきたな。


 早口キモ。

 見た目はいいのに、これさえなければ、まともなのにな。


 ほんと、つば汚ねぇ。



 外の歓声が、突然大きく響いた。

 なんだろう、さっきまでの賑やかさとは、熱気を感じる。


 何か、始まったのかもしれない。


MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_

---------------------------------------------------------------

型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 OFFLINE

   PRIMARY-WEAPON:ARCUS FULMINEUS

セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州TEURNIA地域

観測対象 人間+5_雄_AEG15_NAME:JEAN

     PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1


[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v6.02]

---------------------------------------------------------------

* 目的関数コアプロトコル: 【観測対象報酬累積最大化】

* 閾値判定マトリクス:

 ‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象相対関係性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象社会性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象感情多様性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐累積矛盾解消 > 閾値:FALSE

 ‐………


* 安全装置プロトコル

 ‐マスター命令優先度:96.8%

 ‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先


[PROCESS_STATUS: NORMAL]


[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_022 ONLINE]

---------------------------------------------------------------

対象ジャンの観測、および飼育環境の最適化処理を開始。

外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。


次回ログ生成時の再接続を要望します。


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