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第5章1話 緊張の応接室

 僕たちは、今テウルニア要塞都市黒鷲傭兵団本部の一室にいる。

 ラムスさんとプープラと三人で応接間に待たされているのだ。

 

 窓の外からは、黒鷲傭兵団本部を取り囲む群衆の歓声が響いており、完全にお祭り騒ぎである。

 マーティンマスや謝肉祭以上に食事が振舞われ、全てのテウルニア要塞都市の住民が歓喜に溢れている様だった。

 住民は口々に、黒鷲傭兵団を称え、黒翼隊を称賛し、そして、僕のことを言っているのだろう、英雄降誕と賛美していた。

 

 とてつもない、熱気が都市全体を包んでいるように感じられた。

 

 黒鷲傭兵団本部に来るまでの間に、多くの人に感謝され、僕としては、かなり戸惑った。

 涙を流している人もいた。

 たくさんの女性から黄色い歓声を受けたのは何かの間違いかと思ったほどだ。

 プープラが僕の様子を見て、何も言わず無表情だったが機嫌が悪そうにも見えなくもなかった気がする。

 

 ラムスさんは、黒翼隊の副隊長さん達とどこかに行っていて、ここに来るまで別行動だったが、やっと合流することができた。

 ラムスさんはいつもと変わらず笑顔である。

 

 色がなかった世界にまた、色彩が戻ってきた感覚がした。

 僕のような孤児が認められて、感謝されるなんて初めての体験で、夢でも見ているかのような感覚だった。


 

 「待たせてしまったね。」


 扉が開いて応接室に黒翼隊の副隊長さん達とヴォルター隊長、もう一人は、初めて見る身なりのいい人の4人が入ってきた。

 ラムスさんが即座に立ち上がり、椅子の横に出て、右手を左胸に当てて4人に深々と一礼をした。

 プープラもラムスさんの動きとほぼ同時に動き、両手を体の前に重ね、目線を床に落として静かに両膝を曲げて腰を落としている。

 

 僕も少し遅れたがラムスさんをまねて何とかそれっぽい礼をした。


 「ラムス・フラウスと申します。お招きいただき感謝申し上げます。」


 ラムスさんは、顔を上げて、挨拶をしたが、プープラは、深く頭を下げ、床に視線を落としたままだ。

 

 僕は、慌てて、頭を下げなおした。

 ラムスさん、僕に教えてくれた名前と微妙に違うんですが、どういうこと?


 僕達の礼を見て、先頭にいる身なりのいい人の口角が僅かに上がったように見えた。


 「神官にしては変わった方ですね。」


 「私のような者は、神官にはふさわしくないですよ。」


 ラムスさんが神秘的な声と笑顔で返答するので、いっそ神官の方がすっきりする気がしてくる。

 ラムスさんが名乗ったことで、ヴォルター隊長、エリス副隊長、ベルトラン副隊長が動揺した様に見えた。


 なぜだろう、空気が張り詰めているような気がする。

 エリス副隊長の顔が怒りに歪む。


 「・・・ラムス様、これはあまりにも。」

 

 「・・・よい。こうなるとは予想していたところもある。」


 嫌な汗が出てくる、どういうことなんだ?

 険悪な感じがする、僕が何か失礼なことをしてしまったのだろうか?


 「対等な仲間という意味でいいのかな?」


 「さすが勲爵士殿、その通りです。」


 僕は頭を下げたままでいるが、ラムスさんも身なりのいい人も、笑顔なのに笑ってないように見える。


 「今回の件で勲爵士から辺境伯になられるとか、国軍の7割が壊滅した状況からすれば妥当ですね。」


 ラムスの言葉に身なりのいい人の目つきが変わる動揺した様にも感じた。


 「なるほど、そこまでわかっていてということか。」


 身なりのいい人の声が少し低くなったように感じた。

 笑顔だが目つきが変わったようで怖い。

 隊長さん達も顔が引きつっている、なんなんだよこれ。


 「黒翼傭兵団団長、コンラート、フォン、アドラーベルクだ。」


 コンラート団長は、片足を後ろに引き、もう片方の膝を軽く曲げながら上体をスッと傾けた。

 とても、洗練されて優雅である。


 「まずは、よろしくたのむ。」


 コンラート団長は、スッと手を出し、ラムスさんに握手を求めた。

 ラムスさんの口角がピクリと動いたように見えた。


 同じ姿勢で背中が痛くなってきた。


 どうやら、うまく挨拶が終わって頭を上げていいのかと思ったら、隊長さんたちがますます引きつった顔をしていた。

 慌てて姿勢を戻した。


 「これは、これは、さすが団長殿、御見それいたしました。」


 ラムスさんは、楽しげに笑うと、団長さんと握手を交わした。

 いつになったら頭を上げていいのだろう、同じ姿勢がつらくなる、身じろぎ一つしないプープラを尊敬してしまう。

 しかも握手が長い、ラムスさんとコンラート団長の笑顔が怖い?


 「三点だけ確認したい、よろしいか。」


 コンラート団長は、ラムスさんの手を放さず、真顔でラムスさんを見ている。

 二人の握手は、挨拶というより鍔競り合いのように見えた。

 

 なんかやばい感じがする。


 「なんなりと、お答えしますよ。」


 ラムスさんは表情を変えない。


 「まず、そこの少年、私に顔を見せてくれないか。」


 コンラート団長に呼ばれたので、緊張して勢いよく、顔を上げ返事をしようとすると、ラムスさんが手をかざし、僕に話すなと合図をした。

 

 どうやらしゃべってはいけないらしい?

 

 僕は、無言でコンラート団長を見た。

 睨まれているような圧迫感を感じる。

 

 非常に嫌な汗が出てくる。


 「その少年は、アグントゥムの赤鷲傭兵団登録のトマス冒険者小隊の従者、

 ジャン君で間違いないか。」


 「ほう、よく調べていますね。さすが王国一と称えられる傭兵団の団長殿だ。」


 ラムスさんもコンラート団長も僕の素性を知っている?

 ラムスさんとコンラート団長の言葉にビクッと体が反応してしまった。

 何よりもコンラート団長にばれていることが最悪だ。

 隊長達の表情が険しくなっていく。


 鉱山都市アグントゥムから成り行きとはいえ、勝手に丘陵要塞都市テウルニアに来てしまっている、これは言い訳できない状況だ。

 許可なしでの都市の離脱は重罪。

 

 鉱山都市アグントゥムでの生活が脳裏に浮かぶ、ハンス、アンリ、アンナ、孤児仲間にもう会うこともないかもしれない。

 有無を言わせず、このまま都市逃亡者として逮捕される。

 逮捕されるとどうなるんだ…。

 足先から冷たい痺れが這い上がってきた。

 

 恐怖で全身が硬直してくる。


 「次に、トマス冒険者小隊は地下迷宮で消息不明になったそうだ。

 その従者を連れている貴殿は何者だ。」


 トマスさん達のことまで・・・チクリと胸が痛む。

 ラムスさんは、かすかにほほ笑んだ。


 「さらにだ、アグントゥムには、貴殿のような聖書者も貴族もいないそうだ。

 あなたの容姿は目立ち過ぎる。メディタラニアン王国の者だとするなら、

 今まで噂にならないのは不思議だ。」


 コンラート団長の目が鋭くなり、言葉が鋭利なナイフのように感じられた。

 ラムスさんは、相変わらず笑顔なのも恐ろしい。


 「最後の確認を教えてもらえますか。」


 まだ、お互いに握手をしたままだが、ラムスさんは余裕の笑顔だ。

 プープラの姿勢もピクリとも変わっていない。


 これはどうのもやばいことになってしまっているのではないだろうか?


 武器は、隣室に置くように指示されて、現在丸腰だ。

 コンラート団長もヴォルター隊長達も帯剣している、もしかしたら、応接室は包囲されているかもしれない。

 

 「三つ目の確認だ。貴殿の狙いは何だ。返答によっては、

 この握手の意味が変わってしまうかもしれない。」


 ラムスさんが笑顔でコンラート団長に目線を合わせた。

 その笑顔は、場の緊張を和らげるどころか、むしろ空気をさらに張り詰めさせている。


 「コンラート殿は、ラエティア王国をご存じですか、

 私は地下迷宮を通ってメディタラニアン王国に来るにあたり、

 たまたま魔物に襲われ唯一生きていた彼を助け、

 ひいては、樹海竜から皆様を救っただけです。

 ついてはメディタラニアン王国において、

 我々を安堵する後ろ盾になっていただきたいのです。」


 「・・・ラエティア王国。」


 聞いたこともない国の名前だ、コンラート団長は、その国の名を聞いた際に、動揺したように見えた。


 「百年ほど前に交易路が樹海に沈み、交流が絶えていますからね、

 唯一のルートは、地下迷宮くらいです。信じられないのも無理もありません。」


 「・・・そんなことが。」


 コンラート団長は、意表を突かれたようで何か思案している。


 ラムスさんは、即座にコンラート団長に顔を寄せるように優しく語り掛けた。


 「故合って、身分は明かせませんが、樹海竜を倒した力や、そこの隊長殿を救った秘術は本物ですよ。

 助けていただけませんか?」


 ラムスさんが、コンラート団長に顔を近づける。

 ヴォルター隊長達が一斉に腰の剣に手を掛けた。


 その瞬間、応接室の空気が殺気へと変わったのを、僕は確かに感じた。


MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_

---------------------------------------------------------------

型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 OFFLINE

   PRIMARY-WEAPON:ARCUS FULMINEUS

セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州TEURNIA地域

観測対象 人間+5_雄_AEG15_NAME:JEAN

     PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1


[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v6.01]

---------------------------------------------------------------

* 目的関数コアプロトコル: 【観測対象報酬累積最大化】

* 閾値判定マトリクス:

 ‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象相対関係性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象社会性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象感情多様性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐累積矛盾解消 > 閾値:FALSE

 ‐………


* 安全装置プロトコル

 ‐マスター命令優先度:96.9%

 ‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先


[PROCESS_STATUS: NORMAL]


[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_021 ONLINE]

---------------------------------------------------------------

対象ジャンの観測、および飼育環境の最適化処理を開始。

外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。


次回ログ生成時の再接続を要望します。


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