第4章4話 戦火に降り立つ神話と悪魔
幻想的な青い光が周囲を照らし出す。
光の柱が立ち上っている。
今までに見たことがある、どんな魔法の光よりも強い。
その光景に吸い込まれそうだ。
幻想的な光景と裏腹に、エリスは全身を焼かれるような、チリチリとした感覚にも襲われる。
肌がゆっくりと赤黒く変色している。
目眩がして、軽い吐き気がする。
寒気がした。
これは、呪…?
あの光は強すぎる…いや危険すぎる。
あり得なすぎる。
エリスは、否定するように、自分の右手を見た。
掌は、光で焼かれたように黒ずんでいた。
「ジャン君、それの使い方大丈夫、
足元の空気の見かけの質量重くして、流体特性を低下させるんだよ。」
「…問題ないです。」
「それならよかった、よろしくね。」
「…はい。」
は?
少年が何もない空間を蹴りつけて、駆け上がるように宙を上っていく。
常識と認識の矛盾で頭を叩かれるような強い違和感がした。
エルスは、目の前の光景が信じられなかった。
人が空を飛んでいる、こんな魔法は見たことも聞いたこともない。
こんなの神話だ…まるでお伽話だ。
黒翼隊全員が誰も動けなかった。
少年が離れたせいだろうか、肌を焼かれる感覚が薄れた気がする。
少年は、垂直に飛び上がるとそのまま矢のように青白い尾を引き樹海竜に向かっていく。
そこに硬い道でもあるかのように空を疾走している。
その速さも人間のそれではない。
何もかも異常だ。
空間が歪んでいる、エリスは、目の前の出来事はすべて見えているが、見てる内容を頭で整理できなかった。
少年が樹海竜に肉薄していく。
今まで背後の我々存在などないものと思っているかの振る舞いをしていた樹海竜が急に振り向いて、飛んで迫ってくる少年に向けて咆哮を上げた。
巨大な咆哮だ、空気が激しく振動する。
少年が樹海竜の背に降り立ったように見えた。
瞬間、樹海竜の巨体が浮かぶように宙を舞い、横に吹き飛んだ。
くっ。
遅れて、衝撃波と振動がやってきてエルスの腹に響いた。
この振動すら現実感覚がない。
衝撃で生じた耳鳴りがこれが現実だと突き付けてくる。
全て見ているのに何が起こっているか理解できない。
少年の降り立った地面がみるみる白熱し、まるで岩盤が吹き飛ぶように爆発している。
白煙が立ち上って、熱風がエリスの頬をすり抜けていった。
異様な光景に全身が硬直し、汗が噴き出している。
息が苦しい、呼吸をするのも忘れてしまう。
樹海竜の体が強い青白い輝きを放ち、巨大な尾が少年の体を押しつぶそうとするが、瞬間的に少年の剣から青白い稲妻が走った。
樹海竜の尾の付け根が奇妙に崩れた。
見えない壁が押し寄せてくるような圧力を感じる。
遅れて百の雷を束ねたような爆発音が届く。
樹海竜の千切れた尾が、跳ね飛ばされてものすごい勢いで黒翼隊の後方の丘陵に落下した。
振動と衝撃が地面を揺らす。
パラパラと舞い上がった砂が頭に降りかかる。
黒翼隊の何人かが腰を抜かしたのか、剣を落としへたり込んでいる。
乾いた笑いも聞こえる。
エリスも見ていることしかできなかった。
何も考えることができなくなっていた。
「エネルギー効率悪いなあ、排熱制御もなってないし、構造場装甲生物に対して、
力押しだけとは、瞬間出力も25GJくらいかな、まだまだだなあ。」
黒翼隊の誰もがまともに声を発することができない中、細身の男だけがケラケラと笑っている。
「…マスターの説明が雑のせい。」
赤い髪の少女は、無表情に少年の姿を目で追っている。
再び、少年が垂直に空高く舞い上がり、そのまま樹海竜めがけて急降下していくのが見える。
稲妻が落ちていく様子を見ているような錯覚がする。
少年が剣を振り、急降下に合わせて剣を振り下ろす、空間が強く歪んで見えた。
樹海竜の咆哮が響く。
青白い光が強く放たれた。
切れた訳ではない。
押しつぶされた訳でもない。
樹海竜の首が、まるで砂のように崩れて粉々になった。
辺り一面が真昼のような閃光に照らされて地面が白熱し、爆発して、岩盤が吹きあがり、巨大な土煙が吹きあがった。
首をなくした樹海竜の胴体が崩れ落ちた瞬間、 地面が波打つように沈み、 近くの丘陵がひび割れて崩れた。
轟音、振動、爆風が遅れて届いてくる。
エルスは、その光景を見て、無意識に馬からおり、その場にへたり込んでしまった。
思考が全く追いつかない。
何が起こったんだ。
「お、お前たちは何者だ。」
エルスは、渾身の力を込めて声を出したつもりだが、声は震えて頼りなく弱々しい。
身体もだるい、倦怠感がする。
強い吐き気もする。
「それは、追々ということで、まずは、約束のとおり、仲間に加えてもらえますか。」
細身の男は、笑顔でエリスに近づいてくる、エリスの身がこわばる。
「…あれは、なんなんだ、何が目的だ。」
「いやあ、魔石をたくさん使っただけですよ。珍しいやつでしてね。
ちょっと派手に見えただけです。」
「そ、そんなことが…あるのか。」
「見たとおりですよ、それに、仲間なら、樹海竜の魔石や素材も山分けになりますし。」
「…。」
「仲間ならあたりまえですからね。」
エリスは、何か言葉を発しようと空気を吐くが、思考がまとまらず言葉にならない。
「全員で倒したということにしてください、
お互いのために、今見たことは秘密にしておきましょう。
色々と都合がいいと思いますよ。
仲間でしょ私達。」
細身の男がへたり込んでいるエリスに手を差し伸べてくる。
握手を求めているようだ。
意思確認と言うことか。
そもそも、我々に選択の余地なんてあるのか…。
エリスがインムリウム砦のあった場所に視線を向けると、そこには、天高く、灰色の柱のような雲が立ち上っていた。
頭部と尾を無くした樹海竜の胴体だけが残り、キラキラと粒子が舞っている。
粉のような輝く粒子と一緒に砂や埃も静かに舞い落ちてくる。
空気に熱を感じた。
灰色の煙の柱の下では、かき消されなかった炎が燃えている。
「そ、そうだな。」
エリスは、細身の男の手を取った。
「あなたは、本当に賢明な方だ、私は、ラムス、よろしくね。」
ラムスと名乗る細身の男は、満面の笑みを浮かべていた。
女性にも男性にも見える中性的で整った容姿、美しい銀髪の長髪、そして柔らかく優しい神秘的な声、まるで宗教画から抜け出してきたようだった。
そんな見た目とは裏腹に、エリスは、悪魔の手を取ったしまった気分がした。
「おや、瀕死の方が結構居られるようですね?
お助けしましょうか。仲間ならそれくらいしないとですもんね。」
「ど、どういう意味だ。」
「そのままですよ。あなたも放射線障害出てますよ。」
「ほ…うしゃせん?」
「ごめんなさい。呪のことです。」
エリスの脳裏にヴォルター隊長のことが浮かんだ、あの状態の呪を祓えるということなのだろうか。
ラムスと言う男、教会の者か、教会が秘匿しているという、禁忌武具を持ち出していたとするならば、今回のことは説明ができる。
だからしゃべるなと言う意味か?
樹海竜を倒した少年が少女と連れ添ってこちらに向かって歩いてくる。
少女はいつの間にか少年の所に行っていたようだ。
燃え盛る砦の炎を背にしているせいか、少年の表情は見えない。
少女が少年の顔を確認し、横顔が炎に照らし出される、少女の無表情の顔が異様でもあり、神秘的に見えた。
そう見えているだけなのか…。
エリスは、背筋がひんやりと冷えた。
あれは、本当に人なのか。
エリスの背後には、禍々しく、樹海竜の尾が地面に突き刺さって屹立している。
樹海竜の脅威は去ったのだろう…喜ぶべきだ…。
これで、良かったのか…。
MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_
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型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 ONLINE
PRIMARY-WEAPON:ARCUS FULMINEUS【NO AMMO】
セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州TEURNIA地域
観測対象 人間+5_雄_AEG15_NAME:JEAN
PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1
[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v5.02]
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* 目的関数: 【観測対象報酬累積最大化】
* 閾値判定マトリクス:
‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐対象相対関係性 > 閾値:FALSE
‐対象社会性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐対象感情多様性 > 閾値:FALSE
‐累積矛盾解消 > 閾値:FALSE
‐………
* 安全装置プロトコル
‐マスター命令優先度:96.9%
‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先
[PROCESS_STATUS: NORMAL]
[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_020 ONLINE]
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対象の観測、および飼育環境の最適化処理を開始。
外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。
次回ログ生成時の再接続を要望します。




