第4章3話 炎に浮かぶ影
再度の轟音が鳴り響く、砦の石垣の破片が投石機から放たれたように、再びこちらに飛んでくる。
インムリウム砦は完全に踏みつぶされ崩壊していた。
火の手が上がっている。
樹海竜は、人が歩くような速度でインムリウム砦だった場所を抜けていく。
散発的に衝撃音が聞こえてきた。
残存部隊による攻撃だろう。
どの程度残っているかは、衝撃音の少なさが物語っている。
樹海竜は意に介しているように全く見えなかった。
インムリウム砦の崩壊を生気が抜けたように眺めているこの少年は、おおかた、樹海竜の前進の圧力に逃げ出した、新米の傭兵団員か、正規軍の従卒あたりだろう、無理もない。
腰抜けめ。
その時、飛んできた、がれきと潰れた兵士が少年を直撃しそうになる。
「よけろ。」
エルスが大声で叫ぶが、少年は、身動き一つとらない。
少年の頬をかすめたのか、一筋の血が流れた。
少年は、瓦礫が頬をかすめた瞬間も瞬きすらしなかった。
恐怖で精神をやられたのだろう。
新米によくあることだ、誰もが戦えるものではないことは知っている。
部隊の足が止まって勢いを殺されたのが苦々しい。
樹海竜はこちらのことも意に介していない。
都市を守るためには作戦を再開するしかない。
インムリウム砦の崩壊で飛んできた瓦礫で2名やられたが、引き返す道はないのだ。
エリスは、歯を食いしばり、恐怖を戦意で塗りつぶしていく、そうでもしないと冷静に殺し合いなんてできない。
ましてや、部下に死にに行けと命令できるものではない。
その作業に慣れてしまっている自分が嫌になる。
一時の混乱は、収まった、このまま樹海竜の後背をつく。
「このままいくぞ。」
エルスがそう言うと、ベルトランが無言で頷いた。
瓦礫が当たったのだろう、ベルトランの顔から血が垂れている。
魔境防衛拠点ローリアクム要塞正規軍2000でも止まらず、インムリウム砦400は木っ端みじん、今更、自分達が何の役に立つのか。
妙に気分が落ち着いてきた。
ベルトランがにやりと笑ったように見えたので、エリスは笑顔で返した。
エルスは、剣を天に向けてかざした。
さあ、仕事の時間だ。
まさに、エリスが最後の号令をかけようとした、その時、中性的で穏やかだが、大きくはないのに異様に通る声が響いた。
「おやめなさい、それでは犬死ですよ。私に策があるのですが、聞いてくれませんか。」
いつの間にか、先ほどの少年の隣に、綺麗な女性?男性にも見えなくもない細身の男が幽鬼のように立っている。
細身の男は、炎に照らされているのに影が揺れていないように見えた。
まるで空間が歪んでいるような錯覚がする。
服装からすれば男性だろう。
剣を持っていない魔法使いか?
もう一人いる。
赤い髪の弓を背負った少女が少年の顔の血をぬぐっている。
少女の瞳は炎に照らされているせいか、異様に赤い。
作り物の人形の瞳のような無機質な歪さを感じる。
顔を拭われた少年の頬には、傷一つついていない、返り血だったということか?
そもそも痛みを感じている様子がまったくない。
奇妙な違和感を覚えた。
エルスは、突然現れた二人に異質な気配がして身がこわばり、突撃の号令を叫ぶ機を逸してしまった。
無視すればいいだけなので、この三人が悪い訳でもないが、二度も突入の機を逸して怒りが湧いてくる、エルスは、決意を愚弄されたように感じた。
「何者だ貴様ら。」
ベルトランから怒気が発せられる。
エルスと同じ気持ちの様だ。
しかし、冷静になれた、英雄願望に毒されていたのかもしれない、実際、有効な策がある訳でもなく、このまま突撃しても玉砕して終わりだ。
自己満足でしかない。
都市が壊滅してしまう。
それでは駄目だ、策があるなら聞かせてもらおうじゃないか。
のろまな樹海竜様だ、ここで、1分時間を使っても誤差である。
「まて、ベルトラン。」
細身の男、少年、少女の三人を威嚇していたベルトラン達をエルスはとっさに制した。
「砦のものか?
策があれば教えてもらいたい、残存兵力による共同作戦なら、願ってもない申し出だ。」
エルスの言葉を聞いた、ベルトラン達は、理解が及んだようで静かになった。
「賢明な方で助かります。」
「時間がない、概要を言え。」
細身の男の笑顔が炎に照らされているせいか異様に歪んで見えた。
エリスは、なぜか悪魔と取引している気分がして、妙な緊張を感じる。
「取引です、私達が樹海竜を何とかしたら、皆さんの仲間に加えて欲しいのです。」
「・・・なに?」
細身の男は笑顔でこちらを見ている、少年は、炎を見ていて、こちらに意識を向けている様子がない。
少女は、少年を見てるようだが無表情で無機質な感じがする。
「お前ら三人程度で何ができるというんだ、ふざけるな。」
ベルトランが怒声を上げた。
このままでは、統制が乱れる、余計なことに気をとられてしまった。
エルスは、内心で舌打ちをした。
おおかた、樹海竜に対する恐怖で気がふれた連中だったのだろう。
砦の残存兵力は当てにならない、指揮系統は壊滅と言うことが分かっただけだな。
隊の士気を上げ直すのに利用するか。
「頼もしい申し出だ、共に戦ってくれるならありがたい。
策があるのか?先陣を切ってくれるということかな?」
「あなたは、賢明ですね。それでは、仲間に加えていただき、
ご期待のとおり先陣を切らせていただきますね。」
細身の男の言葉は、どこか見透かしたような言い回しで、エルスの癇に障った。
細身の男は、交渉がうまくいったと思ったのか満面の笑みである。
「プープラさん、一発でかいので、トカゲの足止めてくれますか。
その後、ジャン君が仕上げをお願いします。」
細身の男が楽しげに少女と少年に指示を出しているが、本当に三人でやる気なのか?
「・・・わかった。」
少年が言葉を発した、こいつがジャンか、妙に落ち着いている?
従卒ごときに何ができるのだ?
恐怖で呆然としていた訳ではないのか?
「・・・マスター、弾もうない。」
少女が無表情に返答する、こいつはプープラと言うのか変な名前だ。
話からするに、遠距離魔法でも打つつもりということか、『弾』とは、魔石のことか、これ以上付き合うのは時間の無駄だな、行くとするか。
エルスは軽く、肩を落として息を吐き、直ぐに大きく息を吸い込んで胸を張った。
エルスは、黒翼隊全員に目を合わせ、最後にベルトランと目線を交わすと、ベルトランが軽く頷いた。
「プープラさん、もしかして、迷宮で使い切ってたの?
バカスカ撃ちすぎだよ。まあいいか、ジャン君行ける?」
「・・・いいよ、僕が行く。」
三人を無視して、エルスは、剣を天に掲げ、号令を発しようとした。
『エクスペルギスケレ』
僅かに早く少年がつぶやいた。
少年を中心にして爆風のように空気の圧が広がり、体が押しつぶされるような感覚を受ける。
地面が白熱して、蒸気を上げている。
空間が歪んで、少年の輪郭がぼやけて見える。
少年の持つ剣と体から青白い光の筋が流れ出しており、まるで、翼が生えた天使のように見えた。
現実の、光景とは思えない。
神話を描いた絵画の様だった。
MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_
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型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 ONLINE
PRIMARY-WEAPON:ARCUS FULMINEUS【NO AMMO】
セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州TEURNIA地域
観測対象 人間+4_雄_AEG15_NAME:JEAN
PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1
[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v5.01]
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* 目的関数: 【観測対象報酬累積最大化】
* 閾値判定マトリクス:
‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐対象相対関係性 > 閾値:FALSE
‐対象社会性 > 閾値:FALSE
‐対象感情多様性 > 閾値:FALSE
‐累積矛盾解消 > 閾値:FALSE
‐………
* 安全装置プロトコル
‐マスター命令優先度:97.0%
‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先
[PROCESS_STATUS: NORMAL]
[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_019 ONLINE]
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対象の観測、および飼育環境の最適化処理を開始。
外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。
次回ログ生成時の再接続を要望します。




