第4章2話 死兵の行軍
後はトカゲ野郎がどっちに行くか、そう考えた時だった。
樹海竜の尾が辺り一帯を薙ぎ払い、爆風が広がった。
不意打ちだった、黒翼隊が紙きれのように宙を舞う。
強化魔法が継続していなければ全滅だった。
もっとも無事済む威力でもない。
樹海竜はヴォルターを一瞥すると、蠅でも払ったかのように進路を変えずに進み始めた。
こいつは、俺たちのことを見ていない?
まるで、目の前の自分達に興味がないようにも感じた。
ヴォルターの心が一気に冷える。
「トカゲ野郎、こっちだバカ野郎。」
出せる限りの大声を張り上げるが、樹海竜は意に介さない。
教会は竜を神の使徒として神聖視し、人間を上回る知性を持つと説くが、だったら
こいつは何なんだ。
何が目的だ。
我々を滅ぼすつもりなのか。
「…ベルトラン、生きてるか?」
「…なんとか。」
「あの糞トカゲにもう一度ぶちかましてやる。剣を貸せ。」
「なにいってんですか、いったん撤退しましょう。魔石も残っていません。」
そんなことは、わかってる。
所詮は傭兵、命令一つで使いつぶされる安い命にしか過ぎない。
丘陵要塞都市テウルニアの貴族や富裕層はとっくに逃げているだろう。
だが、市民はほとんど逃がしてもらえない、周辺都市に避難民全てを食べさせられる食料備蓄はないからだ。
避難民を受け入れれば、数日で食料をめぐって争いが起こることになるだろう。
丘陵要塞都市テウルニアの被害の程度にもよるが、餓死者が相当数出ることになる、逃げれる人数には上限があるということだ。
時間稼ぎすらできていない。
投入された戦力が少なすぎる。
増援もなしの転用即時投入だ。
しかも黒翼隊だけとは違和感がある、他の傭兵団や正規軍の動きが鈍い。
正規軍戦う気があるのか怪しいもんだな。
このままでは大勢死ぬことになる。
「くそったれ、黙ってよこせ。」
ヴォルターはそのまま倒れこんで動かなくなった。
気を失ったのだ。
「…隊長、一人ではやらせませんよ。まずは、体勢を立て直します。」
ベルトランはヴィクターを肩に抱えると、辺りを見回して叫んだ。
「走れ、後衛支援隊と合流後、追撃戦だ、急げ。」
損耗三割、もう一回は行ける。
そう、もう一回は…効果があるかどうかを別にしてなのだが。
「負傷者を忘れるな。立て。」
腹の底から声を出すものの、ベルトランも立っているのがやっとのほどだ。
合流地点まで1時間、そこから、馬車で移動を開始して、樹海竜に追いつくのに1時間、やつはのろまだが、都市には到達しているかどうかというところだろう。
丘陵要塞都市テウルニアは、メディタラニアン王国第二の都市、黒鷲傭兵団の本拠地がある。
家族がいる。
何としてでも止めてやる。
そこがみんなの帰る場所だからだ。
樹海竜の巨体がゆっくりと遠ざかっていく、踵をかえして合流地点に向けて走り出した。
樹海竜の動きから推測したのだろう、後衛支援隊は、即座に移動を開始しており、斥候のハンナが移動するベルトランを見つけ、予想より早く合流することができた。
後衛支援隊指揮官エリス副隊長が馬から降りて駆け寄ってくる。
「ベルトラン、ヴォルター隊長は無事か。」
「生きてる、…だが、呪が重い、このままでは…。」
「…くそ。」
エリスの顔が苦々しく苦痛に歪む。
彼女自身も、閃光魔法の使用で、半身が黒ずんでいた。
「ベルトラン、負傷者を馬車へ、動ける者は馬に乗れ、移動しながら魔石を補充してもらう。」
「わかった。」
彼女は優秀だ、黒翼隊の参謀でもある。
ここまで早く合流できたのもエリスの機転のおかげといえる。
エリスは、この作戦には反対だった、時間稼ぎの捨て駒だと。
エリスは、気を失って動かないヴォルターの顔を見つめた。
顔が黒く爛れている。
隊長も捨て駒だってことは解っていただろう、いつもそういう人だった。
この人は、みんなを庇って、団のためにと、いつも無茶をする。
本当にバカだ、死んだらなんにもならないじゃないか。
「準備でき次第、出発する、急げ。」
「エリス、策はあるのか?」
「ああ、テウルニアの正規軍300と傭兵団100がインムリウム砦に集結している、
そこで迎え撃つらしい。」
エリスは、ベルトランに吐き捨てるように返答した。
インムリウム砦は、丘陵要塞都市の北側の最終防衛線として、入り組んだ丘陵部の蓋をするように位置する小規模ながらも強固な砦だ。
「ローリアクム要塞からの援軍はないのか?」
「そんなものはない、既にローリアクム要塞は失陥している。」
「…2000はいたはずだ、しかも正規軍だぞ。常駐の傭兵団だって100名以上は居るはず…。」
ベルトランは絶句した。
とっくに全滅…。
動かなかったのではない、もう動ける者がいなかったのか…。
ベルトランも冗談で副隊長をしている訳ではない、自分たちに命令が来た時には既に魔境防衛最前線拠点のローリアクム要塞は抜かれていたということか。
「…ウイルナムやセレイヤからの増援は?」
「ある訳ないだろ。」
ウイルナムは丘陵要塞都市テウルニアの東側に位置する第一の都市、つまりメディタラニアン王国の首都であり、正規軍500名、直下の傭兵団も多数要している。
商業都市セレイヤは南東に位置する第三の都市、正規軍300名、傭兵団もいる。
そこが増援を出さないなら、南部の農業都市アクイレイアも西部の鉱山都市アングトゥムも増援を出すことはないだろう。
エリスもベルトランも苦々しい表情のまま無言で馬を走らせた。
こんな時、ヴォルター隊長ならなんと言ったのだろう。
ひたすらに馬を走らせた。
樹海竜との戦闘から既に2時間以上が経過している、気だけが焦るがこれ以上速度を上げると馬が持たない、エリスは焦燥感で口が乾いてくる気がした。
丘陵地帯の地形のせいでインムリウム砦が見えてこない、樹海竜がなぎ倒していったと思われる、樹木だけがその進路と破壊力を示している。
あの丘を越えればインムリウム砦は目の前のはずだ。
エリスは大きく息を吸い込んだ。
「全員聞け。」
エリスが叫んだ。
「私の合図で、全速突入、全員魔石全投入、強化、結界、弱体化最大出力、頭部に集中攻撃、
全員、死兵となれ、以上だ。」
全員が鬨の声を上げる。
稜線に黒煙が立ち上っている。
兵士の叫び声がかすかに聞こえてくる。
鈍い衝撃音が聞こえてくる。
間に合ったのか?
エリスは、ベルトランと視線を交わし、同時に二人が大きく息を吸い込んだ。
「突撃。」
二人の声に合わせて、全員が抜刀し、更に大声で叫び声をあげる。
速度が上がり、インムリウム砦が視界に入る。
その瞬間、地面が震え、衝撃波のような鈍い音が響き渡った。
インムリウム砦にまたがった樹海竜が青白く光り、砦の半分が紙細工のように吹き飛んだ。
砦の塔がゆっくりと崩れ落ちていく。
城壁の瓦礫と一緒に兵士が宙を舞っていた。
瓦礫が黒翼隊に襲い掛かり、数名が直撃を受けて吹き飛ばされている。
衝撃に反応して馬が混乱し、進軍が止まる。
「全員回避。」
エリスは絶叫した。
暴れる馬を落ち着かせるさなか、一人の少年が、じっと崩れる砦を見つめている姿が視界に入った。
その少年だけが、まるでそよ風の中にでもいるように微動だにしなかった。
砦から立ち上る火に照らされ、コントラストが強く、影がやけに暗く見える。
腰には古めかしい古式の剣を下げている。
砦の者か?
エリスは混乱の中で奇妙な違和感が、喉の奥に張り付いた。
少年だけが…この地獄を、他人事のように眺めていた。
MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_
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型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 ONLINE
PRIMARY-WEAPON:ARCUS FULMINEUS【NO AMMO】
セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州TEURNIA地域
観測対象 人間+4_雄_AEG15_NAME:JEAN
PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1
[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v5.01]
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* 目的関数: 【観測対象報酬累積最大化】
* 閾値判定マトリクス:
‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐対象相対関係性 > 閾値:FALSE
‐対象社会性 > 閾値:FALSE
‐対象感情多様性 > 閾値:FALSE
‐累積矛盾解消 > 閾値:FALSE
‐………
* 安全装置プロトコル
‐マスター命令優先度:97.0%
‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先
[PROCESS_STATUS: NORMAL]
[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_018 ONLINE]
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対象の観測、および飼育環境の最適化処理を開始。
外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。
次回ログ生成時の再接続を要望します。




