第4章1話 黒鷲傭兵団黒翼隊の戦い
「さすがにでけえな。」
あまりにも圧倒的すぎる光景にバカバカしくもなってくる。
メディタラニアン王国の筆頭傭兵団である黒鷲傭兵団第一戦闘部隊である黒翼隊隊長ヴォルターとして、ここは腹を決めるしかない。
森林内を段丘に沿って移動しつつ、目標の状況を確認する。
目と鼻の先だ。
樹海竜である。
動く山にも見える。
体長三十メートルを超えてるであろう巨体は、人の早歩きほどの速度で前進を続けている。
全身が深い緑色の苔やシダに覆われており、背中には本物の樹木が生い茂り、その隙間から、青白く光る結晶のような金属の鱗が見える。
ただ、生い茂っている樹木などは、ガラスや水晶、金属が植物の形をしているような、無機質で硬質な見た目をしている。
初めて見たが、聞いた話の魔境の植物と見た目が一致している。
魔境の深淵竜なのだろう。
前進するたびに、結晶の粒子が舞っているのか、光を反射してキラキラと輝いていた。
自分の足元の地面がわずかに揺れる。
樹海竜の一歩ごとに、森そのものが揺さぶられているようだった。
ゲルマニア森林地帯から現れたとするそれは、メディタラニアン王国の丘陵要塞都市テウルニアを一直線に目指していた。
位置関係が近かったということもある。
現在の戦力は、
攻撃隊が自分を含めて十人、
随伴隊が十人、
後衛支援隊が十人
の総勢三十名だ。
回廊周辺に出てくる程度魔物だったら本来は余裕の戦力である。
回廊周辺に現れたキマイラを討伐した帰り道でこんな化け物をなんとかしろといわれるとは。
最悪だ。
魔境防衛拠点のローリアクム要塞の正規軍は何をしているのやらだ。
だが何とかしなければならない理由もある、そこが俺たちの帰る場所だからだ。
チェインメイルがところどころほつれており、サレットはへこんで歪んでいる。
魔石も残り少ない、呪の影響が出ている者もいる。
情報も少ない。
隣を並走している副隊長ベルトランを見ると、ヴォルター同様、ブリガンディンはボロボロで、キマイラ戦の身体強化魔法の影響だろう、顔が黒ずんで見えた。
ベルトランと目が合う。
ベルトランの口角が僅かに上がる。
「ヴォルター隊長、そろそろですね。」
「合図は、俺がだす。」
ベルトランが無言で頷いた。
最悪、こいつに引き継いででもやり切ってやる。
何度も繰り返している作戦の応用だ。
後衛支援隊が遠距離閃光魔法で、やつの後ろから目くらましを掛けてくれる。
その魔力拡散に合わせて、攻撃隊と随伴隊が身体強化魔法で強化し背後から一斉に突入する。
随伴隊はすぐさま結界魔法で、攻撃隊に身体強化と戦場安定強化、そして、相手の弱体化魔法をかける。
ここで全攻撃力での一撃。
これで樹海竜がなんとかなるとは思えないが、注意は引ける。
一撃離脱後、誘引開始だ。
誘引方向は、二つ、一つは、丘陵要塞都市テウルニアの逆方向つまりお帰りいただく、こちらに釣れたら、後は森に紛れて逃げれば終わり。
もう一つは、魔境防衛拠点ローリアクム要塞方向、正規軍には悪いがみんなのためだ仕事してもらおう。
この部分は、俺の独断なので後で何言われるか分かったものではないが、丘陵要塞都市テウルニアに行かれるよりはましだ。
まもなく、遠距離魔法が来る時間だ。
「抜刀。」
総勢二十名が一斉に抜刀する。
遠距離魔法が来た。
樹海竜の遥か後方から、複数の光の筋が高速で樹海竜に向かっていく。
いつも通りの流れ。
「…仕事の時間だ、行くぞ。」
ヴォルターは、大声でそう叫ぶと、両足に強化魔法を発動させて、加速し、一気に樹海竜に向かって突進を開始する。
同じようにベルトラン達がヴォルターに続いて突進を開始する。
樹海竜の鱗は岩より硬いって話で、剣で何とかしたって聞いたことはない。
そもそも、こんなところにこんなでかいやつが出てきたことなんてのも聞いたことがない。
なにしに森から出てきたんだよ、ここは人間様の領域だ、森に帰りやがれトカゲ野郎。
きついの見舞わせてやるよ。
呪で焼き切れてもかまわない、鱗をぶち抜いてやる。
樹海竜の頭部の周辺で複数の閃光魔法が破裂して強烈な光を拡散させる。
人間なら粉々になる威力なはずだ。
周辺に光が飽和して世界が真っ白になっていく。
世界がぼんやりと揺らぐ。
目の前に樹海竜のでかいケツが見える、閃光魔法の影響でこちらに気が付いていない。
当然、かすり傷一つない、樹海竜からしたら、蚊に刺されたほどにも感じないんだろう。
「強化よこせ。」
随伴隊に向けて大声で合図を送る。
攻撃隊のやや後方で距離をとっている随伴隊が一斉に杖をかざして呪文を唱え始める。
支援魔法は、ここで残りの魔石を全掛けする。
『聖なる祈りよ…神の慈悲よ・・』
支援隊の詠唱のコーラスが始まる、教会がのたまう長ったらしい詠唱だ、そんなに長いものではないが、残り二十メートル、時間にして残り2秒、やけに長く感じる。
効果範囲と持続時間からして、これが最適解。
『エクスキータ』
随伴隊の杖が一斉に青白く灯る。
『コンフィルマーティオー』
『クラウデレ』
『コヒベーレ』
強化、結界、弱体化が発動した、体が熱い、力がみなぎる。
樹海竜がこちらを見た。
さすがに気が付かれたか。
だが、反応は鈍い。
ここでダメ押し。
『エクスペルギスケレ』
ヴォルターは叫びながら長剣を振りかぶる、渾身の力で柄を握りしめると剣の先端の輪郭がぼやけてほのかに青白く輝く。
魔剣の魔石全掛けの最大出力、過去にここまでやったことはない。
全身の肌がチリチリと焼ける感覚がする。
全力で振り下ろした長剣が樹海竜の後ろ足に衝突する。
ベルトラン達と同時に後ろ脚十か所に刃が当たる。
当たる瞬間、剣は本来の重さより数倍の重さに変わる、俺は最大出力だ。
5倍以上は出ている感触がある。
反作用が腕全体に返ってきて、粉々に引きちぎれそうな激痛が走る。
強化魔法を掛けていなければ一瞬でもげているだろう。
全身に焼ける様な熱さを感じた。
長剣が粉々に砕けた。
樹海竜の鱗に一か所だけひびが入り、辺り一帯に巨大な咆哮が響き渡った。
ダメージが入れられたのは俺だけか。
ひび割れた鱗から青白い光が漏れている。
十分なはずだ。
やってやった。
成功だ。
樹海竜がこちらを見ている。
注意を引けている。
全身から力が抜けていく、力が入らない、目眩がした、吐き気もする。
体が熱い中から焼けるようだ。
掌の皮が溶けている。
意識が飛びそうになる。
いつものことだこれくらい。
こっちにこいトカゲ野郎。
「隊長。」
「全員引け、離脱しろ。」
ベルトラン達が駆け寄ってくる。
ベルトランの顔色が、さっきよりさらに黒ずんで見えた。
こいつらにも限界ってとこだな…。
「誘引役は一人で十分だ、先に行け。」
「そんななりじゃ無理でしょ。」
ベルトランがヴォルターの体を抱き起そうとして青ざめる。
全身が真っ黒に爛れていた。
魔力を使いすぎたのだ、呪が強すぎる。
ベルトランの呪に比べて、遥かに自分は汚染されている。
これは、駄目かもしれない…。
「後は、任せるベルトラン…。」
「何言ってるんですか。」
「お前が隊長だ、早くいけ。」
糞真面目なベルトランのことだ、後はうまくやるだろう。
全身から力が抜けていくような感覚がする。
ヴォルターは、ベルトランの手を払って、血を吐いて地面に倒れこんだ。
作戦通りだ。
後は、このトカゲが食いついてくれさえすれば…。
視界の端が暗く沈んでいく。
まだ終われない。
意識が飛びそうだった。
MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_
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型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 ONLINE
PRIMARY-WEAPON:ARCUS FULMINEUS【NO AMMO】
セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州TEURNIA地域
観測対象 人間+4_雄_AEG15_NAME:JEAN
PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1
[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v5.01]
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* 目的関数: 【観測対象報酬累積最大化】
* 閾値判定マトリクス:
‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐対象相対関係性 > 閾値:FALSE
‐対象社会性 > 閾値:FALSE
‐対象感情多様性 > 閾値:FALSE
‐累積矛盾解消 > 閾値:FALSE
‐………
* 安全装置プロトコル
‐マスター命令優先度:97.0%
‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先
[PROCESS_STATUS: NORMAL]
[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_017 ONLINE]
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対象の観測、および飼育環境の最適化処理を開始。
外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。
次回ログ生成時の再接続を要望します。




