第3章3話 エルフの女騎士
『管理事務所』とラムスさんが呼んだ場所に、ラムスさんが荷物を下ろし、プープラは大き目の石を三つ並べて、即席の竈を作っていく。
プープラは、これまでに倒していた魔獣から僅かに切り取っていた素材を肩に掛けている大きな袋から取り出した。
大蜘蛛の糸線とサソリのハサミの付け根から切り取った脂身だ、プープラは、本来なら貴重な爪や針、甲羅などには見向きもしなかった。
回収できた魔石は、ラムスさんが持っている。
もっとも、ほとんどの魔獣がプープラの攻撃で爆散するので、回収できた魔石は、数個だとは思う。
ラムスさんが糸線と教えてくれたそれは、白濁した半透明な色をした細長いボトルのような形をしていて、内部には、球状の袋が何個も詰まっているのが透けて見える。
サソリの脂身は、ほんのり青みがかかっており、不透明な黄色や薄緑色をしていて気味が悪い。
まさか、それを食べるつもりなのか?
昨日のことがあって、朝食を食べなかったからだろうか、これはこれで、別な意味で食べたくない。
「…プープラ、まさか、それ食べるの?」
「…バカなんですか?」
プープラは無表情まま僕に返答し、そのまま無造作に糸線を両手でつぶすと、ボトルの先端から糸のようなものが噴き出した。
噴き出した瞬間は、粘着性があるように見えたものの、空気に触れると直ぐに硬化して、乾燥した繊維状になった。
プープラは、その糸の束をさらに解し、地面の砂と一緒に揉んで、念入りに水分を取っている。
「マスター、ライター貸してください。」
「ジャン君に合わせて、火打ち石とか、魔法を使いなさいよ。」
「…めんどくさい。」
ラムスさんが、やや呆れた顔をしながら微笑している。
プープラは、ラムさんがプープラに向けて放り投げた、小さな道具を振り返りもせずに左手でキャッチしている。
ライター?
魔道具のことなのだろうか、初めて聞く名前だ。
乾いた金属が擦れる小さな音がしたかと思うと、三点竈の中で、解した糸の束が、勢いよく炎を上げた。
ああそうか。
食べるためではなく、火を起こしていたということなんだ。
プープラは、サソリの脂身をつぶして、トロみのある液体を絞り出し、糸と混ぜてから、竈にくべていく。
最終的には、脂身の絞りかすも投入していた。
炎が勢いよく燃えていた。
ポットのお湯が沸き、カタカタと蓋を揺らしている。
プープラが大事そうに包んであった食材鞄から取り出していた。
それが、視線に入った時、胸が締め付けられるように心臓が跳ねた。
香草と混ぜてあるのか、先ほどの蜘蛛の糸線やサソリの脂身と違って、とてもいい匂いがする。
身体の奥底から湧き上がるような脈動がする。
全身、特に右腕が疼くような感覚がする。
「おや、お客様だね。」
ラムスさんが楽しそうに声を発し、僕達がやってきた『監査廊』側ではなく、これから向かう『管理事務所』の外の方に目線を向けた。
足音が複数聞こえる?
誰か来る。
ここは、下層と中層の境目のはず、普通の探索者では、瘴気と呪の影響で足を踏み入れることのできない領域のはず。
人間…じゃないのか…魔物。
僕は、剣に目線を落として確認すると、剣の柄を握りしめた。
「ラムス、ここで何をしている。」
女性の声がして、『管理事務所』の中に、ゆっくりと3名の武装した騎士が入ってきた。
一人は女性?なのか、どこか中性的な気もする。
ラムスさんと同じ銀色の透き通るような髪。
白磁器のような滑らかで白い肌、青空を思わせる深い碧眼。
何よりも長細い尖がった耳をしている。
エルフ…なのか?
もう一人は、男性だろう。
身長は2メートル近くもある、大男だ。
漆黒の竜の意匠の兜、光沢のある漆黒の鎧、僅かに濡れているように艶めかしく、それでいて無機質な竜の鱗を感じさせる。
ブリガンダインやフルプレートアーマーとは似ても似つかない。
ギャップもジョイントもない関節、身体のラインに沿った身動きのできなそうな形状、いや、鎧自体が変形しながら動いているように見える?
竜の意匠の兜のせいで、表情は見えない。
巨大な両手槍を持っていて、圧倒的な強者の威圧感を感じる。
最後の一人は、少女だ。
赤い髪に、赤い瞳、プープラと瓜二つの容姿…。
貴族が着るような意匠の黒いドレスでありながら、膝下から足が見えていて、黒い騎士と同じ質感のプレートが張り付けてある。
ドレスアーマーとでも言うのだろうか。
両手にそれぞれ禍々しい形状の長剣をそれぞれ持っている。
プープラと同じく無表情だ。
息が詰まるような圧迫感を感じる。
いや、死の恐怖すら感じる。
全身が硬直して、身動き一つできない。
プープラが調理の手を止め、僕の前に立ち塞がるように立っていた。
プープラと黒ドレスアーマーの少女がどちらも視界に入る。
どこから、どう見ても同一人物にしか見えない。
なんなんだよ、この人たち。
「お久しぶり、レグラ嬢、見てのとおり、お昼御飯ですよ。」
ラムスさんが、優しく微笑んだ。
レグラと呼ばれた、エルフは、癇に障ったのか、眉を吊り上げた。
「貴様の立てこもっていた戦艦は、今頃、別動隊が制圧している、もはや貴様は無力だラムス。」
「いいです、差し上げますよ。」
「なに…、何が目的だ、ラムス。」
なんだよ、何が始まったんだ…。
このエルフの人、なんかめっちゃ攻撃的なんだけど。
黒騎士も黒プープラは、無表情で動かないのも不気味すぎる。
僕は、言葉を発することも息をすることもできない。
剣の柄を握る手が僅かに震えた。
黒騎士の視線が僕に即座に突き刺さる。
瞬間的に、プープラが腰を落とした。
周囲が帯電したように青白く輝き僅かに歪む。
「レグラ嬢、私、ここを出て行こうと思いましてね、
地上に行くところなんです。ラボを手放すんですから、貴方の目的は達成された訳じゃないですか。
現段階での有形力の行使は違法ですよ。」
「フラウデウス学派を見逃すとでも思っているのか。」
「オーマ帝国では、思想の自由が認められていたはずですけど、私、なんか悪いことしましたか?」
「記録上はな…何もしていないことになっている。」
レグラと呼ばれるエルフは、苦々しい表情を浮かべた。
ラムスさんは、優しく微笑むような言い方だが、ある意味挑発しているんじゃないかとも感じる。
フラウデウス学派?
『ラムス・フラウデウス・イニティウム』ってラムスさんの名前だよな?
そもそも学派ってなんなの。
オーマ帝国?
初めて聞く言葉だ、国の名前なのか?
「どちらにせよ、今までどおり監視に留めておいてくださいよ、ラボも差し上げます。
私は何もしませんよ。私を拘束したいなら、正式な文書を提示してくださいね。
今のやり取りは任意ってことなんでしょ。これ以上は、協定違反になりますよ。」
「…テオドリック、スタトゥア、行くぞ。」
「レグラ嬢、せっかくだから、お茶でも飲んでいきますか?」
「…死ね。」
吐き捨てるように暴言を吐き、嫌悪の表情でラムスさんを一瞥した。
レグラと黒騎士、黒プープラの3人が、『管理事務所』から出て行った。
空間の圧力が一気に抜けたような感覚になる。
圧倒的強者の圧を感じた、特に黒騎士は異常だった。
今になって全身から汗が噴き出してきた。
「ラムスさん、今の人達誰なんですか・・・。」
「古い知り合いだよ、私の追っかけみたいな人たちだね。」
ラムスさんがケラケラと笑って、発光する紫色のお茶?を飲んでいる。
まるで、何事もなかったかのように…。
そもそも、あんな装備見たこともない、それこそ、教会の壁画に描かれている様な見た目だった。
古い知り合い?
追っかけ?
言っている意味が分からない、世界には僕の知らないことが多すぎる。
「今の人ってエルフなんですか?耳長かったですよね。」
「そうだね、だいたいのエルフはあんな耳してるよ、
私みたいなフラウデウス学派でもない限りね…。」
え?
僕はその言葉の意味を理解できなかった。
ただ、ラムスさんの声の奥に、 いつもの柔らかさとは違う『冷たい何か』が混じっているのを感じた。
「さあ、気を取り直してご飯にしようよ。」
肉の焼ける香ばしい、いい匂いがした。
プープラが皿を僕の前に置いた。
香草の匂いが強く、空腹が強く刺激される。
さっきよりも全身が強く疼いた。
MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_
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型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 ONLINE
PRIMARY-WEAPON:ARCUS FULMINEUS
セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州TEURNIA地域
観測対象 人間+3_雄_AEG15_NAME:JEAN
PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1
[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v4.04]
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* 目的関数: 【観測対象報酬累積最大化】
* 閾値判定マトリクス:
‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐対象相対関係性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐対象社会性 > 閾値:FALSE
‐対象感情多様性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐累積矛盾解消 > 閾値:FALSE
‐………
* 安全装置プロトコル
‐マスター命令優先度:97.8%
‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先
[PROCESS_STATUS: CAUTION]
* ENEMY 0
* DANGERROUS INDIVIDUAL 3
-REGULA : COMMANDER
-THEODRIC : CATASTROPHIC-CLASS
-STATUA-3A: SISTER MODEL
[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_014 ONLINE]
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対象の観測、および飼育環境の最適化処理を開始。
外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。
次回ログ生成時の再接続を要望します。




