第3章2話 深層の門
「もう少し行くと門がある、ちょっと迂回することになるけどそこで休むとしよう。」
「門?」
トマスさん達から聞いたことがある、中層から下層に抜けるには門をくぐる必要があるって言っていた。
間もなく中層ってことなんだ、あっさりと深層から中層まで来てたんだな。
神様が作った試練の門だ、聖なる加護を受けない者は門の先では強い呪を耐えることができないと言われているはずなのに、いつの間にか門の向こう側にいたなんて、不思議な気分がする。
僕も聖なる加護を受けているということなんだろうか?
今の僕が聖なる加護を受けているとは全く思えなかった。
僕は呪われている。
それはとても巨大な門で、巨大な回廊を塞ぐようにそびえていた。
神の試練に挑むものを選別するにふさわしい威容を持っている。
と言うか、こんな巨大な門どうやって開けるんだろう?
門の両脇には、何かが上下に動いたような深い溝が刻まれていたが、それが何のためかは想像もつかなかった。
「こっちだよジャン君、その門は押した程度じゃ開かないよ、こっちに管理事務所があるはずだ。」
「管理事務所?」
「今は、水は流れていないけど、これはもともと地下運河の水門なんだ。」
こんな、馬鹿みたいに大きな運河とか水門とかが迷宮の地下にあるわけがない。
水が流れていた気配はまるでなく、ただ巨大な壁だけが静かにそこにあった。
これは、神様が作った試練の門のはず、教会で聞かされる神話にでてくる門じゃないのか?
「脇の階段を上った先のはずだよ。だいぶ崩れてるから気を付けてね。」
ラムスさんが指さす方向に階段が見える、門の脇を上っていく感じだ。
立ち止まって、その壮大な巨大構造物の門を見上げてしまった。
初めて見る神の門の壮大さが、僕の気持ちを少しだけ和らげてくれた気がした。
まるで、世界のどこかにまだ救いが残っていると錯覚してしまうほどに。
そんなはずはないのに、ほんの一瞬だけ心が軽くなった。
「…ジャン。」
背中を指でつつかれた。
振り返るとプープラがじっと僕を見つめている。
どうやら立ち止まらずに早く進めと言うことらしい。
慌てて、ラムスさんの後を追った。
「それにしても、凄い門だね…。」
小さく、独り言のように感想が漏れた。
階段をのぼりながら、ついつい門や全体の巨大な構造物から目が離せない。
いったいこんな巨大なものはどうやって作られたのだろうか。
初めて見る壮大な光景に感動していたと思う。
「…そうね。」
「プープラはこれを見たことがあったの。」
「…初めて。」
「そうなんだ、巨大で幻想的でなんか、感動するね。」
素直に感動している僕を見て、プープラが笑ったように見えた。
プープラに謝らなければならないことがある。
昨日のことだ、落ち着いてきたから少しは冷静に考えられた。
プープラは、僕のためにやってくれたのだとは、わかっている。
「昨日は、ごめん。」
「…。」
「全部、ラムスさんに言われて僕のためにやってくれてたことなんだって解ってるんだ…。」
「…。」
「でも、うまく言えないけど、君に悲しそうな顔をさせたことが気になって。」
「…それで。」
「だから、ごめん。」
僕は人で、だから人を食べてはいけないし、食べたくない。
でも、プープラに悲しい顔もしてほしくない。
うまく言えないけど謝りたかった。
「それが私の役目だから。」
「役目?」
「そう、役目。」
プープラがじっと僕を見つめてくる。
真剣なまなざしの赤い瞳の中に僕の姿が映っているのが見える。
プープラにとっては、ラムスさんに指示された命令をこなしているだけのことなのかもしれないけど。
泣きそうになるくらいのことをさせたことが辛かった。
彼女の笑顔が見られるなら、食べるべきなんだろう。
どうしていいのか答えが出ない。
「ジャンが少し元気になってくれてうれしい。」
プープラがほんの少し笑ってくれた。
心臓が跳ねた。
「ここ、ほんとすごい眺めだよ、とってもきれいだよね。」
「…。」
恥ずかしくてプープラの顔が見れなかった。
心配させてしまっていたんだろう。
でも、答えは出せなかった。
本当に自分が情けない。
ラムスさんが『管理事務所?』と呼ぶ場所は、崩れたがれきしかない場所で、そこに何かがあるという雰囲気があるところではなかった。
先に道が続いている訳でもなく、行き止まりである。
なんのために、こんな場所まで登ったのか意味が解らない。
「ここらへんに『監査廊』の入り口があったはずなんだけどなあ。どこだったかな?」
軽い口ぶりでラムスさんがまた、目を閉じて精霊と対話を始めていた。
僕の気持ちと対称過ぎて心が冷えてくる。
大丈夫、もう、突っ込む気はない。
「ここかな。」
え?
ラムスさんが、ごみを払うかのように岩をどけていく、本来重いはずの岩が不気味に動くさまが猛烈な違和感を与えてくる。
僕が手伝おうにもびくともしない。
なんなんだ、現実の重さの感覚が狂っていく。
「…ラムスさん、力持ちなんですね。」
「コツがあるんだよ。」
「…コツなんですか?」
どこかで聞いたセリフだ、重い岩も、巨大な尻尾もコツで何とかなるものなんだろうか?
ラムスさんもプープラもコツと言う、エルフは力持ちな種族なんだろうか?
ラムスさんが軽々と岩をどけていくと崩れた壁の間に通路の入り口が見えてきた。
どうやら入り口が崩れて隠れていたようだ。
精霊から隠れた通路の入り口の場所を聞き、異様な「コツ?」で岩をどけるのは人間業とは思えない。
不気味さと違和感しか感じない。
「…すごいですね。」
「先に進もう、門の向こうの管理事務所とつながっているはずだよ、そこで休憩にしよう。」
ラムスさんはいつも笑顔で楽しげだ。
今はその笑顔を見ても冷たく感じる。
先に進むラムスさんに続いて先を進もうとしたとき、足元の岩に足をとられてよろめいてしまった。
本来重いはずの岩が、水が流れるように動く状況を見ていたせいで、足元の感覚が麻痺して、力加減が混乱したせいだ。
瞬間的に重心がずれて、不快な浮遊感が全身を包む。
「おあっ。」
変な声が出て、反射的に体勢を維持しようにも、間に合わず転びそうになる。
「…あ。」
その瞬間、プープラが僕を引き寄せ、抱きしめて受け止めてくれた。
転ばずには済んだが、体を抱きしめられたことで、僕の体にプープラの胸が当たる感触がする。
全神経が集中したかのように体が硬直して、同時に赤面してしまう。
なぜか、プープラが抱きしめるのをやめない。
ちょっと、何してるの?
「プ、プープラもう大丈夫、ほんと、ありがとう。」
「バカなんですか。」
そういうと、プープラが無表情で僕を解放してくれた。
心地の良い残り香がする。
「いや、ほんと、ありがとう。」
「…そう。」
プープラはそっけない。
無表情のままだが、あの抱きしめの間は何だったんだろう?
心臓の鼓動が高鳴ったままだ。
主要の通路が崩れていたことで迂回しながらとなったが、ラムスさんは、どのルートが正解か解っているかのように難なく反対側に抜けた。
もし崩れていなければ一本道の構造だったと思う。
反対側の『管理事務所』という場所も何もない崩れた場所で、振りむいたラムスさんは、僕に優しく声をかけてきた。
残響のような魔獣の鳴き声がどこからか聞こえてくる。
「さて、ご飯にしようか。」
ラムスさんの声はいつもと同じ優しさを帯びているのに、 その言葉だけが、重く僕の胸に落ちた。
遠くの魔獣の残響が少しだけ、近づいたように、不穏に響いていた。
MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_
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型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 ONLINE
PRIMARY-WEAPON:ARCUS FULMINEUS
セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州TEURNIA地域
観測対象 人間+3_雄_AEG15_NAME:JEAN
PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1
[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v4.03]
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* 目的関数: 【観測対象報酬累積最大化】
* 閾値判定マトリクス:
‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐対象相対関係性 > 閾値:TRUE → 報酬高発火[READY]
‐対象社会性 > 閾値:FALSE
‐対象感情多様性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]
‐累積矛盾解消 > 閾値:FALSE
‐………
* 安全装置プロトコル
‐マスター命令優先度:97.8%
‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先
[PROCESS_STATUS: NORMAL]
[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_013 ONLINE]
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対象の観測、および飼育環境の最適化処理を開始。
外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。
次回ログ生成時の再接続を要望します。




