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第3章1話 深層の迷宮の輝き

 化石空洞化した元巨大樹の根だとする迷宮は、

 壁面が青白くうっすらと輝いており、

 とても幻想的だ。

 遥かに高い天井を支える、

 いくつもの根の化石は

 巨人の神殿の石柱のようにも見える。

 

 あまりにも壮大な景色に目を奪われるが心は暗く沈んでいて、死者の国でも見ている気持ちになる。

 ラムスさんの先導で、深層を進んでいる。

 

 ここは深層だ、あの時ような巨大地竜には遭遇していないが、十メートルはあろうかというサソリやムカデには、何度も遭遇していた。

 しかし、殿のプープラが全方位に時折現れる魔獣を、折り畳み式の弓で一撃のもとに仕留めているので僕の出番は全くなかった。

 ラムスさんがくれた僕の腰の短剣と同様に、矢を射る際に青白く光を放っているので、魔法の武器なのだろう。

 

 「プープラって弓が得意だったんだ。」

 

 魔物をこともなげに排除するプープラに驚きと尊敬で言葉を掛けた。

 単純に凄かったからだ。


 「・・・弓、初めて使った。」

 

 「そ、そうなんだ?」


 話がかみ合わなかった。


 「劣化ウランの矢じりだからね、特別製なんだよ、ジャン君。

 剣より弓の方がよかったかい。」


 ラムスさんが楽し気に声をかけてくる。


 「・・・はあ。」


 昨日のことがあり、気分的にラムスさんと話をしたくなかった。


 「そこ、足元に気を付けてね。」


 ラムスさんは、後ろに目が付いているかのように周囲を把握していて、僕が不整地に足を捕られる前に、足元に気を付けるようにと優しく声をかけてくれる。

 ラムスさんは昨日のことがなかったかのように変わらず優しい。

 それが、冷たく、怖く感じる。


 まずは地上に戻ろう。


 深く考えるのはそれからだ。

 こうやって迷宮を進んでいると、嫌でもトマスさん達の荷物持ちで、迷宮で魔石拾いをしていたことが脳裏に浮かんでくる。


 胸がチクチクと痛む。


 「ちょっと待ってくれ。

 道が変わっているので確認しないと。前はこんなに崩れてなかったんだけどな。」


 「マスター、前っていつですか。」


 急に立ち止まったラムスさんにプープラが変な質問をした。

 何が気になったんだろう?

 笑顔のラムスさんにプープラが無表情で確認している。


 「ついこの前だよ。」


 「・・・。」


 プープラがため息をついたように見えた。

 

 そういうことか・・・?

 エルフの感覚なのだ、十数年前くらいということなのだろう。

 

 僕の気分としては、地上に戻れなくてもかまわないと思ってきていた。

 地上に行ったとして何を食べて生きていくというのだろうか。


 それは正しいことなんだろうか。


 結局はどちらでも何も変わらない。

 いや、地上に戻っていいのかという漠然とした恐怖もある。


 僕が食べれるものって・・・。


 「こっちでいいそうだよ。」


 ん?


 ラムスさんは、目を閉じ誰かと話をしているように何かを聞いているようなしぐさをしており、目を開けて、僕の方に振り向くと聞いた話を伝言するかのような言い方で、方向を示した。

 精霊の声を聴いたことがないなんて、言っていたようだったけど、ラムスさんもエルフだということなんだろう。


 「精霊の声聞けるんですね。」


 「精霊?君たちが言うところの精霊とは話をしたことないよ。」


 ラムスさんが不思議そうな笑顔を僕に向けてきた。

 言っていることと、やっていることが矛盾している。


 「たった今、それこそ精霊に道を聞いたんじゃないですか。」


 「君たちは、いつもそんなふうなことを言うよね。

 これはね、シリカ系植物の光子演算脳の構造場振幅情報ネットワークから

 必要な情報をもらっていただけだよ。」


 近い。


 ここで始めるつもりなのか。

 そんな気分じゃないんだけど。


 勘弁してくれ。


 「私には、構造場勾配を観測できる感覚器が遺伝的に備わっているからね、

 シリカ系植物の一部には、広域構造場の揺らぎを利用して、情報交換を行っている種があるんだ。」


 沈んでいる気分をさらに沈めてくれる。

 ため息が出てしまいそうだ。


 「この種はね、この惑星全体に広がるネットワークを構築していてね、これを利用すると

 フォトニック・コンピューティングとかクラウド・コンピューティングとかできて便利なんだよ。」


 始まったよ、何言ってるんだか。

 今はやめてくれ。

 近づかないでくれ。


 鼻息を払うように顔を背けた瞬間、胸の奥で…

 地上に戻ったらどうなる…いつまで見ないふりをしているの…。

 視界が狭窄するような感覚が全身を包む。


 強烈な目眩がしてくる。


 身体が揺さぶられた。


 ラムスさんが、早口でしゃべりながら、がっしりと僕の両肩を掴んでつばを飛ばしてくることで、現実に引き戻された。

 

 全身から汗が噴き出していた。

 

 プープラが弓を折りたたんで背を向けて手入れを始めている。

 ラムスさんの話には関心がないのだろう。

 でも、時折、僕のことを見ている気配がする。


 「精霊と言ったよね、君たちが精霊と呼ぶ存在はこれだろ。」


 ラムスさんは、細い紙札が何枚もつけられた本を取り出して僕に見せてきた。


 「精霊については、私も君たちと同様に研究しているがまだ観測できていないんだよ。

 何せ君たちと違って私には精霊を見ることができないからね。」


 今話してただろ。

 違うのか?

 突っ込むべきなのだろうか。


 「これを見てくれ、君たちの祖先のものだ、同じような文献が昔から複数あってね、

 この記述では、背から蝶のような羽が生えている、小さい人型のような形状、人型、動物型など。」


 これって・・・。

 絵本じゃないのか?


 「一様に発光していることが人間において観測されている。

 ここから推論されるのは、一種のエネルギー生命体ではないかと考えているところだよ。」


 強烈な違和感を感じた。

 どこからどう見てもその本は資料文献と言えるもののように見えない。


 「・・・・これって、子供の絵本じゃなくないですか。」


 ラムスさんが鞄から取り出して見せてくれたものは、富裕層の子供向けの絵巻物いわゆる絵本のように見えるのだ。


 「何を言っているんだ、

 このような文献は、昔から君たちが多く発行していてね、私には肉眼で観測することはできないが、

 人間には、このようなエネルギー生命体を肉眼で観測できるのだろう。」


 なに言っているんだ・・・。

 絵本だよそれ。


 「でもなければ複数同様の文献が残るわけがない。

 エルフには人間にない、赤外線や構造場勾配の観測ができる受容体があるが、

 人間にエルフにないエネルギー生命体を観測できる受容体があるのだろうね、

 羨ましいかぎりだよ。」


 なに言ってんだこいつ?

 どう見ても子供の絵本だろこれ。

 鼻息荒いよ。

 なんか勘違いしてないか?

 

 「ハドロン衝突器による観測実験をしたといっただろ。

 私としては、精霊とは、超ひも理論やブレーンワールド理論における

 高次元エネルギーが低次元で局所安定化したものであると睨んでいるんだ。」


 一気にわけわからなくなった。

 呪文の詠唱が始まったのか?


 「つまり、まだ観測されていない粒子が作用しているのではないかということだね。

 君たちには、その粒子を観測できる受容体があるのだろう。

 個人差があるようなので、特定には至っていないがね。

 いつか関連粒子を特定してみせるよ。」


 だから、絵本だってば。

 何言っているかはわかんないけど、何かを間違っているのはわかった気がする。

 びっしりと何かが書き込まれた絵本が気持ち悪い。

 ラムスさんが書き込んだのだろうか。

 なんなんだ。

 どうでもいいから、鼻息掛けるな。

 

 こっちは、それどころじゃないんだよ。

 この笑顔が、イライラする、やめてくれ、ほんと、どうにかなりそうなんだ。


 でも、なんだろう、このバカバカしいやり取りのせいだろうか?

 さっきより、息が吸える気がする。

 

 プープラが岩に腰かけてあくびをしているのが見えた。

 僕の視線がプープラの視線と交わる。

 赤い瞳が僕を観察するように見つめていた気がした。


 朝から何も食べていないせいだろう…。

 身体の奥底に脈打つような感覚がしてきていた。


 地上に向かって歩いていることに、何の希望があるんだろうか。


MILTARY_DRONE_OS:BOOT_LOG_

---------------------------------------------------------------

型式 STATUA-2B 識別名 PUPULA 兵装管制 ONLINE

   PRIMARY-WEAPON:ARCUS FULMINEUS

セクタ状況 中世暗黒時代NORICUM属州TEURNIA地域

観測対象 人間+3_雄_AEG15_NAME:JEAN

PRIMARY-WEAPON:GLADIUS+1


[UPDATED_ALGORITHM_LOADED: PET_CAM_CORE_v4.02]

---------------------------------------------------------------

* 目的関数コアプロトコル: 【観測対象報酬累積最大化】

* 閾値判定マトリクス:

 ‐対象生存率 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象相対関係性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐対象社会性 > 閾値:FALSE

 ‐対象感情多様性 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐累積矛盾解消 > 閾値:TRUE → 報酬発火[READY]

 ‐………


* 安全装置プロトコル

 ‐マスター命令優先度:97.8%

 ‐矛盾発生時:保留優先_環境変化解消優先


[PROCESS_STATUS: NORMAL]


[SILICA_PHOTONIC_NETWORK:NODE_012 ONLINE]

---------------------------------------------------------------

対象ジャンの観測、および飼育環境の最適化処理を開始。

外部接続体(読者)による【ブックマーク】および【外部評価★】の付加により、最適化バイアスの調整を推奨します。【観測ログ(感想)】共有は、アルゴリズムの精度向上に寄与します。


次回ログ生成時の再接続を要望します。


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