第7話 無限の彼方
新たな仲間ガルマを迎え、パーティ名に悩むケルガたち。賑やかな掛け合いの奥で、それぞれが抱える過去が、少しずつ顔をのぞかせ始める。
「――で、結局あの村では何日世話になったんだ?」
リンデンへ戻る街道で、ガルマがそう聞いてきた。
「二日です。ガルマさんの歓迎会が、思ったより盛り上がってしまって」
「そりゃ悪かったな。村の連中が、俺の好物ばっかり用意してくれるもんだから」
「三杯もおかわりしてましたよね、あのシチュー」
「男は黙って三杯だ」
訳の分からない理屈に、ケルガは思わず吹き出した。ガルマが加わってからというもの、パーティの空気は明らかに賑やかになっていた。
「ケルガ、お前も遠慮せずに食ってたじゃねえか」
「美味しかったので、つい」
「いいことだ。育ち盛りは、たくさん食っておけ」
ガルマがケルガの背中をばんと叩く。少し痛かったが、不思議と嫌な気はしなかった。
「それにしても、ガルマさんって本当に誰とでもすぐ仲良くなりますよね。村の子どもたちにまで懐かれてましたし」
「そりゃ長年の経験だ。人当たりの良さだけは、剣の腕より自信がある」
「威張ることじゃないと思います……」
キアが呆れたように言うと、ガルマは満足げに笑った。三人での道中は、これまでの二人旅とは違う賑やかさに満ちていた。
リンデンに戻ると、まずはギルドで登録の更新だった。ガルマもリンデン支部に正式に籍を移し、三人はようやく一つのパーティとして登録される。受付嬢が手続きを進める間、ガルマは物珍しそうにギルドの中を見回していた。
「ここが噂のリンデン支部か。思ったより活気があるな」
「ガルマさんは、今までどこにいたんですか?」
「あちこちだな。定住するのが性に合わなくて、色んな町のギルドを渡り歩いてた。今回は、腰を据えるにはいい町だと思ってな」
「そんなことより、早くパーティの登録しようぜ!」
ガルマは少年のように目を輝かせながら、そう言った。
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【パーティ登録完了】
パーティ名:未設定
メンバー:キア(前衛)、ケルガ(前衛)、ガルマ(盾)
```
「パーティ名、決めないといけないんですね」
「お、いいな。何がいいと思う?」
ガルマに聞かれて、キアが腕を組んで考え込む。
「うーん……『赤鉄の刃』とか、どうです?」
「なんか、ダサいな」
「即答しないでください!」
「なら、ガルマさんは何か案あるんですか」
「俺か? 『豪傑三銃士』とかどうだ」
「ダサ。却下です。」
キアが真顔で突っ込む。二人のやり取りを見ていたケルガは、思わず笑いをこらえるのに必死だった。
「じゃあお前、何か案あるのか、ケルガ」
急に話を振られて、ケルガは少し考えてから答えた。
「――『無限の彼方』、とか」
「お、それいいな」
「安直すぎません?」
「安直の方が覚えやすくていいんだよ」
結局、ガルマの一声で「無限の彼方」に決まった。受付嬢に苦笑いされながらも、正式にパーティ名が登録される。
```
【パーティ登録完了】
パーティ名:無限の彼方
メンバー:キア(前衛)、ケルガ(前衛)、ガルマ(盾)
```
「よし、これで名実ともに、俺たちはパーティだな」
「よろしくお願いします、二人とも」
三人で顔を見合わせ、なんとなく笑い合った。ケルガの胸に、じわりと温かいものが広がる。前世では、こんな風に誰かと同じ目標を持って笑い合うことなど、ほとんどなかった。
せっかくだからと、その足で受けたのは、近くの平原に出没するホーンラビットの間引き依頼だった。角の生えた兎型の魔物で、単体ならさほど脅威ではないが、群れで跳ね回りながら突進してくるため、意外と手こずる相手だという。
「ガルマさんが盾で受けてくれると、こんなに戦いやすいんですね」
「だろ? これが盾役の仕事だ。お前らは思う存分暴れてくれ」
ガルマの盾が的確に敵の攻撃を受け止め、キアとケルガが左右から仕留めていく。最初のうちは互いの間合いを読み違えて何度か剣同士がぶつかりそうになったが、数をこなすうちに、自然と役割が噛み合い始めた。
「キア、右!」
「了解!」
「ケルガ、お前は俺の陰から飛び出せ!」
「はい!」
ガルマの声に従って動くだけで、驚くほど戦いやすかった。誰か一人が指示を出し、残りがそれに応える――そんな単純な連携が、これほど心強いものだとは思わなかった。
```
【レベルアップ】
レベル:11 → 14
『無限成長』EXP倍率:×1.78 → 上昇
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最後の一体を仕留め終えた頃には、三人とも汗だくになっていた。それでも、顔には満足そうな笑みが浮かんでいる。
「連携、悪くなかったですね」
「まだまだだけどな。だが、初日でこれなら上出来だ」
ガルマがそう言って、二人の頭をまとめてわしわしと撫でた。
「ちょ、子ども扱いしないでください」
「悪い悪い。癖でな」
「よし、決まったところで祝杯だ! パーティ結成と初仕事の記念に、今日は俺が奢ってやる」
「ガルマさん、この間村で散々奢ってもらった気がしますけど」
「気にすんな、稼いだ分は使うのが信条だ」
ガルマに連れられて向かった酒場は、冒険者たちで賑わっていた。運ばれてきた料理を囲みながら、ケルガはふと、これまでのことを思い返した。事故で死んで、見知らぬ世界で目を覚まし、たった一人で震えていたあの日から、まだそう長くは経っていない。それなのに、隣にはこうして笑い合える仲間がいる。
(いつか、本当のことを話せる日が来るだろうか)
まだ誰にも話していない、自分の正体。今はまだ、その時じゃない。そう自分に言い聞かせながら、ケルガは目の前の料理に手を伸ばした。
食事も終わりに差しかかった頃、ガルマがふと真面目な顔になった。
「そういえば、道中で小耳に挟んだんだが。黒鉄の森の件、まだくすぶってるらしいな」
「知ってるんですか、ガルマさん」
「噂程度にはな。あの森、昔ちょっとした因縁があってな。詳しくは、また今度話す。今日はめでたい日だ、辛気臭い話はよそう」
それだけ言うと、ガルマは残りの酒を一気に飲み干してしまった。キアと顔を見合わせたケルガは、その背中に何か引っかかるものを感じたが、あえて追及はしなかった。
(この人にも、何か事情があるんだろうな)
振り返ると、ガルマの横顔には、ほんの一瞬だけ、今まで見たことのない翳りがあった気がする。
「――なんです、その顔」
物思いにふけっていたケルガに、キアが小声で聞いてきた。
「いえ、ちょっと。ガルマさんも、色々背負ってるんだろうなって」
「ですね。私たちも、いずれ聞かせてもらえる日が来るといいですけど」
二人は顔を見合わせ、小さく笑い合った。誰かの過去に踏み込みすぎない、それでいて気にかけている――そんな距離感が、今のこのパーティには心地よかった。
夕暮れの酒場を出て、三人並んで宿への道を歩く。今日という日が、悪くない一日だったことだけは確かだった。
〜to be continued〜




