第6話 新たな仲間
盾役を探す旅の先で出会ったのは、豪快で面倒見のいい男だった。三人目の仲間が加わり、パーティはさらに賑やかになっていく。
「――行ってみましょうか、例の村」
ギルドの掲示板の前で、キアがそう言ったのは数日後のことだった。以前から気になっていた「盾役募集」の依頼書は、まだそこに貼られたままだった。
「まだ見つかってないんですね、盾役」
「田舎の村ですし、なり手が少ないんだと思います。私たちで様子を見に行きましょう。もしかしたら、ケルガの――」
言いかけて、キアは自分の言葉に少し驚いたように口をつぐんだ。
「あ、いえ。ケルガ君の、目に留まる人がいるかもしれませんし」
ケルガも一瞬驚きを隠せなかった。
「今、ケルガって……」
「き、気のせいですよ」
誤魔化すように早足で歩き出すキアを、ケルガは笑いながら追いかけた。
村までの道のりは、街道を外れて森を抜ける道だった。歩きながら、キアがぽつりぽつりと村の情報を教えてくれる。
「あの村、確か農作物が名産で、リンデンにもよく卸してるんですよ。最近、周辺に魔物が増えてるって噂もありましたし、盾役が見つからないのも、そのせいかもしれませんね」
「そんなに危ないんですか」
「うーん、深刻ってほどではないと思いますけど……着いてみないと分かりませんね」
その言葉が、まさかすぐに現実になるとは、まだこの時のケルガは思っていなかった。
半日ほど歩いて辿り着いた村は、想像していたよりずっと騒がしかった。柵の外で、何人かの村人が武器を手に構えている。
「な、なんですか、これ」
「――魔物?」
柵の向こうから、猪のような巨体の魔物が二頭、土煙を上げて突進してくるのが見えた。村人たちの悲鳴が上がる。
「危ない、下がって――」
誰かの声が響いた瞬間、大きな盾を構えた男が村人たちの前に躍り出た。歳は二十代半ばだろうか、日に焼けた肌に、がっしりとした体格。
「そら、こっちだ! お前らは下がってろ!」
男が大声で叫びながら、突進してくる魔物の正面に立ちはだかる。盾が地面に深く突き刺さり、衝撃を真正面から受け止めた。
「ぐっ……!」
押し込まれながらも、男は決して倒れなかった。両足を踏ん張り、盾の縁から魔物の突進をわずかに逸らす。地響きのような衝突音が、村中に響き渡った。
「今だ、援護を頼む!」
「――キアさん、行きましょう!」
考えるより先に、ケルガはウィンドバイトを抜いて駆け出していた。キアもすぐ後に続く。
「二頭目は私が! ケルガ君は、あの人の援護を!」
「了解です!」
二頭目の魔物にキアが斬りかかる横で、ケルガは盾を構えた男の援護に回った。だが、一頭目の魔物は思ったより素早く、盾で受け止められてもすぐに体勢を立て直し、二撃目を仕掛けようとしていた。
「そこだ、隙が出る!」
男の声が飛ぶ。よく見ると、確かに魔物の後ろ足に一瞬の力みが見えた。ケルガはその隙を逃さず、横腹めがけて踏み込んだ。
「――クイックスラッシュ!」
一閃が魔物の脇腹を裂いた。悲鳴のような鳴き声を上げて魔物がよろめく。その隙に、男が盾を押し返し、力の限りの体当たりで魔物を弾き飛ばす。倒れ込んだ魔物の首元に、男自身の腰の剣がとどめを刺した。
「よっしゃあ!」
もう一頭も、キアの剣によって地面に沈んだ。戦いが終わると、村の広場に静けさが戻ってくる。村人たちから、安堵のどよめきが上がった。
「助かったぜ、二人とも!」
男が豪快に笑いながら近づいてきた。汗だくの顔には、屈託のない笑みが浮かんでいる。近くで見ると、盾を持つ腕には古い傷跡がいくつも刻まれていた。長く戦ってきた証だと、ケルガは何となく分かった。
「俺はガルマ。この村の護衛依頼を受けてる冒険者だ。お前らは、リンデンのギルドから来たのか?」
「はい。私はキア、こっちはケルガ君です」
「ケルガです。助かりました。」
「いやいや、助かったのはこっちだ。二頭同時は、さすがにきつかったからな。お前、剣筋いいな。動きに無駄がねえ」
「あ、ありがとうございます」
初対面の相手にあっさりと褒められて、ケルガは少し戸惑った。だが、その言葉に嫌味はなく、素直に受け取っていいのだと分かった。
ガルマは自分の盾を軽く叩いた。表面には、深く刻まれた紋様が浮かんでいる。
「これは『不落の盾』。師匠から譲り受けたもんだ。まだこいつに見合う働きができてるか怪しいがな」
「かっこいい名前ですね」
「だろ? ――で、お前ら、なんでこんな村まで来たんだ?」
「実は、盾役を探してる依頼を見て」
キアがそう説明すると、ガルマは目を丸くしてから、豪快に笑い出した。
「そりゃ奇遇だな。俺も、そろそろ腰を落ち着けてパーティを組みたいと思ってたところだ」
「本当ですか?」
「ああ。ただ、俺は面倒見がいいのが取り柄でな。危なっかしい後輩がいると、放っておけない性分なんだよ」
ガルマの視線が、ケルガに向いた。
「そこのケルガ、動きは悪くないが、まだまだ隙が多いな。さっきの一撃も、踏み込みが甘い」
「うっ……」
「まあ、これから鍛えりゃいいさ。おい、キア。お前もいつまで『ケルガ君』なんて他人行儀な呼び方してるんだ? パーティ組むなら、もっと砕けていいだろ」
「え……」
突然話を振られて、キアが目を丸くする。
「そう、ですね……。じゃあ、これからは――ケルガ、でいいですか?」
「はい!もちろんです!」
少しくすぐったそうに笑うキアを見て、ガルマが満足げに頷いた。
「よし、決まりだ。俺はガルマ。今日からお前らのパーティに、ちゃんと入れてもらうぞ」
差し出された大きな手を、ケルガはしっかりと握り返した。
その後、村長がわざわざ広場まで出てきて、三人に深々と頭を下げた。
「本当に、ありがとうございました。ここ最近、魔物の出没が増えて困っていたんです。おかげで村のみんなも安心できます」
「いえ、たまたま通りかかっただけです」
「たまたまでも、助けてもらったことに変わりはありません。よかったら、今夜は村で夕食でも」
村長の申し出に、ガルマが真っ先に手を挙げた。
「そりゃありがたい。俺、腹ぺこなんだ」
「ガルマさん、こういう時くらい遠慮してください」
「遠慮したら飯が冷めるだろうが」
キアが呆れたように言うと、ガルマはけろりとした顔で言い返した。そのやり取りに、ケルガは思わず声を出して笑ってしまう。
「――なんだ、笑いすぎだろ」
「すみません。何だか、もうずっと前からの知り合いみたいで」
「そりゃ光栄だな」
ガルマがにやりと笑う。村人たちの温かいもてなしを受けながら、三人は広場の隅で改めて顔を見合わせた。
「――正式に、パーティ結成ってことでいいんですよね?」
キアが確認するように言うと、ガルマが豪快に頷いた。
「もちろんだ。よろしく頼むぞ、キア、ケルガ」
「よろしくお願いします」
夕暮れの村に、料理のいい匂いが漂い始める。三人での旅が、こうして始まった。




