第10話 従魔ルルンの初陣
小さな従魔ルルンにとって、これが初めての戦い。 パーティ全員で見守る中、新しい力が目を覚ます。
「よし、今日はルルンの初陣だな」
ギルドへ向かう朝、ガルマがルルンの頭を撫でながら言った。ルルンは誇らしげに尻尾を振る。
「大丈夫でしょうか、まだ小さいのに」
「心配すんな。今日の依頼は、村の水場を荒らす小型の魔物の間引きだ。危険度は低い。経験を積ませるにはちょうどいい」
キアの不安げな声に、ガルマが頼もしく答えた。ケルガも頷く。
「それに、ルルンもこの数日、ずっと張り切ってましたしね」
「分かるのか?」
「なんとなく、ですけど。俺の後をついて回る時の足取りが、軽いというか」
ケルガがそう言うと、ガルマは可笑しそうに笑った。
「お前、本当にこいつのことよく見てるな」
「毎日一緒にいますから」
宿の部屋でも、ルルンはいつもケルガのそばで丸くなって眠っていた。小さな寝息を聞いているだけで、不思議と心が落ち着く。そんな毎日が、もう当たり前になりつつあった。
「ルルン、無理はしなくていいからな。危なくなったら、すぐに俺たちの後ろに下がるんだぞ」
諭すように言うと、ルルンは分かっているとでも言うように、小さく鳴いて返事をした。
村に着くと、水場の周りをうろつく小さな魔物たちの姿が見えた。ネズミほどの大きさの、泥をまとった魔物――マッドラットが十数匹、水を濁らせている。
「数は多いが、一体一体は弱い。危険はねえ」
ガルマの言葉通り、三人はあっという間に数を減らしていった。ケルガが『クイックスラッシュ』で三匹をまとめて斬り、キアの『クリムゾンスラッシュ』が残りを薙ぎ払う。見ているだけでも、以前とは比べ物にならないほどの連携の良さが伝わってきた。
「よし、残りはあと数匹だ。ルルン、出番だぞ」
ガルマに促され、ルルンが一歩前に出た。小さな体が、わずかに緊張しているのが分かる。
残る数匹が、ルルンへと牙を向けた。
「ルルン、今だ!」
ケルガの声に応えるように、ルルンが小さな体を低く構えた。全身の毛が逆立ち、額の角がかすかに紫色の光を帯びる。
【スキル発動】
ルルンが新しい技を習得しました
――スパークバイト:弱い雷撃を纏った噛みつき攻撃
「――行け!」
ルルンが地を蹴り、マッドラットに飛びかかった。牙が触れた瞬間、小さな雷撃が走り、魔物が痺れたように動きを止める。すかさずケルガが追撃し、とどめを刺した。
「やった、できた……!」
ルルンは興奮気味に、その場でくるくると回った。
【レベルアップ】
ルルン Lv.1 → Lv.3
「おお、早速レベルが上がったな」
「すごいぞ、ルルン!」
ケルガが駆け寄って抱き上げると、ルルンは嬉しそうに頬をすり寄せてきた。
「私たちより成長早いんじゃないですか、これ」
キアが半分呆れたように、半分感心したように言った。
「幼体は成長が早いって聞くからな。まあ、これからが楽しみだ」
残りのマッドラットも、三人とルルンの連携であっという間に片付いた。
【依頼達成】
マッドラット討伐(十四体) 評価:優良
ケルガ Lv.21 → Lv.23
キア Lv.24 → Lv.25
ガルマ Lv.27 → Lv.28
水場から魔物がいなくなったのを確認すると、村長が涙ぐみながら駆け寄ってきた。
「ありがとうございます……! この水が使えないと、畑も家畜も干上がってしまうところでした」
「お礼なら、この子にも言ってやってください。初めての戦いだったんです」
ケルガがルルンを指さすと、村長は驚いた顔をしてから、優しく目を細めた。
「そうかい、そうかい。よくやってくれたな、小さいの」
頭を撫でられて、ルルンは照れくさそうに身をよじった。村の子どもたちも集まってきて、ルルンの周りはあっという間に人だかりになった。
「モフモフだー!」
「噛んだりしないの?」
子どもたちにもみくちゃにされながらも、ルルンは楽しそうに尻尾を振っていた。その光景を眺めながら、ケルガは胸の奥が温かくなるのを感じた。
村長から改めて感謝の言葉をもらい、依頼を終えた一行はギルドへの帰路についた。歩きながら、ガルマがふと口を開いた。
「ルルンの属性、雷と闇か。珍しい組み合わせだな」
「珍しいんですか?」
「ああ。普通は属性が一つのことが多い。二つ持ちは、将来的にかなり化けるかもしれんぞ」
ガルマの言葉に、ケルガは足元を歩くルルンを見下ろした。小さな体のどこに、そんな可能性が眠っているのだろう。
「ルルン、これから一緒に強くなろうな」
声をかけると、ルルンは任せろと言わんばかりに、元気よく一声鳴いた。その様子に、キアとガルマが思わず笑う。
「本当に、いいパーティになりましたね」
「だな。この調子なら、黒鉄の森の件にも、いずれ向き合えるようになるだろうさ」
ガルマの言葉に、場の空気が一瞬だけ引き締まった。だが、それも束の間、ルルンが元気よく駆け回る姿に、すぐに和やかな雰囲気が戻ってくる。
夕暮れのリンデンへと続く街道を、四人――いや、三人と一匹は、並んで歩いていった。ルルンは時折立ち止まっては、道端の花や虫に興味を示し、その度にケルガたちも足を止めて待つ。急ぐ旅ではないのだから、それでいいと思った。
(ルルンにも、見せてやりたいものがたくさんある)
まだ見ぬ景色、まだ知らない強さ、まだ出会っていない仲間たち。この世界で手に入れたものを、ケルガは一つひとつ、大切に数えていくような気持ちで歩いていた。
リンデンの明かりが遠くに見え始めた頃、ルルンが小さく鼻を鳴らし、ケルガの足元にぴったりと寄り添った。その温もりを感じながら、ケルガは静かに微笑んだ。




