第11話 洞窟の奥に潜むもの
初めての洞窟探索、そして初めてのDランク依頼。着実にランクを重ねる四人の先に、まだ見ぬ何かの気配が待っていた。
「おい、見ろよこれ」
ギルドの掲示板の前で、ガルマが一枚の依頼書を指さした。「Dランク以上推奨、山岳地帯の洞窟探索、鉱石採取と魔物討伐」と書かれている。
「Dランク推奨……俺たち、受けられるんですか?」
「お前は今Dランクのすぐ下、Eランクの上位だ。俺とキアはCランク。パーティとしてなら十分受けられる」
ガルマの言葉に、ケルガは思わず拳を握った。これまでの依頼とは明らかに格が違う。
「行ってみましょう。ルルンも、そろそろ洞窟みたいな場所にも慣れさせたいですし」
キアがそう言うと、足元のルルンが任せろとばかりに鳴いた。
「よし、決まりだな。……とはいえ、洞窟か。じめじめしてるのは苦手なんだよな、俺」
「依頼書見た時は、あんなに乗り気だったのに」
「乗り気なのと得意不得意は別問題だ」
ガルマが真顔で言い切るのを見て、ケルガとキアは思わず顔を見合わせて笑った。
リンデンから半日ほどの山道を登り、辿り着いた洞窟は、入り口からすでに冷たい空気が漂っていた。
「灯りを頼む」
ガルマが腰の袋からランタンを取り出し、火をつける。橙色の光が、ごつごつとした岩壁を照らし出した。
「思ったより広いですね」
「鉱脈が複雑に走ってるんだろうな。足元に気をつけろよ」
慎重に進む三人と一匹の足音が、洞窟の中に反響する。壁には所々、淡く光る苔のようなものが生えていて、幻想的な雰囲気を漂わせていた。
「綺麗ですね、これ」
「触るなよ。綺麗なものほど、だいたい毒がある」
ガルマの忠告に、キアが伸ばしかけた手を慌てて引っ込める。しばらく歩くと、ルルンの耳がぴくりと動いた。
「――何か来ます」
キアの声と同時に、暗闇の奥から複数の影が姿を現した。コウモリのような翼を持つ、小柄な魔物の群れだった。羽音が反響し、数えきれないほどの数に聞こえる。
「ケイブバットか。数は多いが、一体一体は弱い」
「多いって、どれくらいですか」
「――数えてる場合じゃなさそうだな」
ガルマの言葉通りではあったが、洞窟という狭い空間での集団戦は、これまでとは勝手が違った。四方から飛び交う影に、視界が絶えず乱される。
【スキル発動】
『無限成長』EXP倍率:×2.20 → 戦闘継続中
「上から来ます、気をつけて!」
天井から急降下してきた一体を、ケルガは『クイックスラッシュ』で斬り落とした。だが、死角から別の一体が肩口を狙ってくる。
「くっ……!」
「後ろだ、気ぃ抜くな!」
ガルマの『アイアンバッシュ』が、ケルガに迫っていたケイブバットを弾き飛ばす。間一髪のところで、傷は浅く済んだ。
「ありがとうございます、ガルマさん」
「礼はいい、集中しろ」
キアの『クリムゾンスラッシュ』が、残りの群れをまとめて薙ぎ払う。ルルンも負けじと、宙を飛ぶ一体に向かって『スパークバイト』を放った。雷撃に痺れた魔物が地に落ち、とどめをケルガが刺す。
【レベルアップ】
ケルガ Lv.23 → Lv.25
ルルン Lv.3 → Lv.5
戦いが落ち着くと、奥の壁に青白く光る鉱石の脈が見えてきた。
「これが依頼の鉱石か。思ったより立派だな」
ガルマが丁寧に鉱石を採取していく。その間、ケルガはふと洞窟の奥に目をやった。暗闇の先に、何かもっと大きな気配があるような気がしたのだ。
「――どうした?」
「いえ、気のせいかもしれません。何となく、奥に何かいる気がして」
「賢明な勘だな。だが、今日の依頼はここまでだ。欲張って深追いするのは、一番やっちゃいけねえことだぞ」
ガルマの言葉に、ケルガは素直に頷いた。前世のゲームでも、欲を出して深追いした先には、大抵ろくな結末が待っていなかった。
「いつか、あの奥まで行ける日が来るんでしょうか」
「来るさ。今日みたいに、一歩ずつ進んでいけばな」
ガルマの声には、根拠のない気休めではない、確かな実感がこもっていた。採取を終え、三人と一匹は洞窟を後にした。入り口から差し込む夕日が、やけに眩しく感じられた。
【依頼達成】
鉱石採取・ケイブバット討伐 評価:優良
ケルガ ランク:E → D
「Dランクか。順調に来てるな」
「ガルマさんとキアさんのおかげです」
「違えよ。お前が強くなったからだ。胸張れ」
ガルマに背中を叩かれ、ケルガは少し照れくさくなった。足元では、ルルンが誇らしげに尻尾を振っている。
「ルルンも、もうレベル5ですもんね。立派な戦力です」
「お前が褒めると、調子に乗るからほどほどにしとけ」
キアの言葉に苦笑しながらも、ガルマの目は優しかった。
夕暮れのリンデンへ戻る道すがら、キアがふと呟いた。
「このパーティ、本当にいい感じに回ってますよね」
「だな。この調子で行けば、いずれあの森にも立ち向かえるようになるだろうさ」
ガルマの言葉に、ケルガは洞窟の奥で感じたあの気配を思い出していた。まだ見ぬ何かが、この世界のどこかで静かにうごめいている――そんな予感を抱えたまま、一行は家路についた。
ギルドでの報告を終えた後、四人はいつものように食堂で遅い夕食をとった。今日採れた鉱石の一部は、ガレンの店に卸すことに決まり、代わりにケルガのウィンドバイトを一段上の品質に手入れしてもらう約束も取り付けた。
「次の依頼も、楽しみですね」
「だな。明日はもっと派手な依頼を探すか」
ガルマが悪戯っぽく笑うと、キアが「ほどほどにしてくださいね」と呆れたように返す。そんな二人のやり取りに、ケルガは静かに笑った。足元で丸くなったルルンも、満足そうに目を閉じている。小さな積み重ねの先に、確かな未来が見え始めていた。




