6.ホログラムの魔式
【改めまして、みんなのアイドル。マシキです】
俺氏の携帯電話の画面から、何だか中性的な容姿のホログラムが立ち上がった。マシキの声が、携帯電話のスピーカーから聞こえる。どうも、さっきの失敗は無かったことにしたらしい。
一旦足を引っ込ませて、頭だけぴょこんと出す。その後、一気に画面から飛び出したマシキは、何というか魔法少女だった。魔法少女……なのか? 衣装だけだと思うけれど。
「……か、可愛いですわ。何なのですの、篤紫氏の携帯電話にはこんな機能が付いておりますの?」
「残念ながらメルローズ氏、俺氏の携帯電話には、そんな高尚なものは付いていないが?」
「いやすげーな、篤紫の携帯。俺のでもこれ、できるのか?」
【アプリを入れれば、できるようにはしますよ? アプリ自体は現在創意制作中で、もう少しでできますけどね】
「これは、凄すぎです。まさに未知との遭遇……」
そんな俺氏達とは対照的に、未だに立て肘に顎を乗せていた高梨先生。大きく息を吸い込んだ声が聞こえたと同時に、激しく立ち上がった。再び吹き飛んだ椅子が、壁にぶつかって転がる。
静まりかえる、理科室。
「いや……いやいやいや、待って欲しい。ほんと、ちょっと待ってくれないか、どうしてこのスマートフォンで、こんな。いやほんと、これ何なんだ!?」
【駄目ですよ高梨先生。いかなる場合においても、狂師たるもの、生徒の前では毅然とした態度を取って、素晴らしい凶師でいなくてはいけないのですよ?】
「何故喋る。何故動く。何故、自立稼働している!?」
【これが魔式です。そしてそう、私がとってもプリティ。マシキです】
「意味ガッ、わからんのだが!?」
まあ、高梨先生。それが正常な反応だとは思うよ。
ついでに、文字だと分かったけれど、音声――スピーカーから聞こえる、少し合成っぽい声だと、さっきまでと違って文字の違いが分からない。
きっとマシキ、また文字違いで喋っていそうなんだよなぁ。
【意味も何も、これが魔式ですから。まず、『AIをホログラムで実体化させる』っていう、魔式を組みます】
「え、マシキ。これって、まんま魔式なん?」
【そうですよ? 基本的に魔式は、携帯電話からしか起動できないのです。携帯電話をかざして、この紋所が目に入らないかー、ってやるわけですね】
「すげーなそれって、何か昔のヒーローアニメの主人公みたいだな。変身とかもできるんか?」
「さすがにアレクシスさん、それは無理じゃないですか?」
【できますよ。そのための魔式ですから、先に起動条件を全部魔式アプリに登録しておけば、変身できますよ。いよいよ、仮面ライダーアレックシッスの誕生ですね】
「うおおおお、スパイダーマンにもなれるとか、胸熱だなおい!」
マシキとアレクシスで、ヒーロー像がズレているんだが。
まあそもそもだ、日本ヒーローの仮面ライダーの知名度は、アメリカだとそんなに無いんじゃないかな。さっそく携帯片手に、マシキに色々聞いているけれど、まあこれが本来の目的だからいいか。
視界の端で、そそくさと椅子を取りに行った高梨先生を見つつ、さてどうしたものかと思案していると、脇を軽くつつかれた。
「どうした、メルローズ氏?」
「篤紫氏はいいのですの? わたくしの携帯で、一緒に魔式のお勉強いたしません?」
再び立て肘に顎を乗せた高梨先生。じっと、マシキとアレクシスの掛け合いを観察し始めた。
首を傾げるメルローズの頭に、そっと手を乗せる。
「マシキがあれだからな。お願いしても、いいか?」
「ええ、もちろんですわ。一緒に、新しいわたくしたちの魔式考えますわよ」
「メルローズさん。私もご一緒させて貰ってもいいですか?」
「もちろんですわ。黎鈴氏も一緒にやりますわよ」
そっと撫でると、目を細めるメルローズが、何だか尊い。
まあ、黎鈴の温かいものを見る目に、恥ずかしくなって手を引っ込めたんだが。
「あっ……」
「そこでメルローズさんが残念そうな顔をするのまでが、ワッセットですよね」
「何だよ黎鈴氏、そんなに褒めるなよ。恥ずかしいんだが」
さて、仕切り直して始めますか。
まず魔式アプリのメイン画面は、当たり前だけれど二人とも同じだった。機種が違うから、画面の大きさに合わせて、多少の配置は換わっている感じ。
あらためて見るとメルローズの携帯電話、俺氏のと色違いだったんだが。
「黎鈴氏は、折りたたみタイプなのですのね」
「画面が大きくなるのが、有り難いのですよ。ただ、こんな仕様なのでカバーが付けられないんですけどね」
【あ、それでしたら、もうカバー必要ないですよ。壊れませんから】
「マシキは、アレクシス氏の方はもういいのか?」
【終わりました。もう窓から出ていきましたよ?】
視線を向けると、窓際で外を見ている高梨先生。その向こうの森に、スパイダーマンがいた。いや何だあのカラーリング、何でピンクと緑なんだよ!?
手から糸を出して、木々の間を立体機動している。すごいな、確かにスパイダーマンだわ。
ふらりと。窓から離れた高梨先生が、俺氏達の机まで戻ってきて、ゆっくりと椅子に座った。瞳が揺れている。
「なあ、白崎……」
「どうした高梨氏。魔法少女にだって、なれるぞ? そう、魔式ならだが」
「……なりたい。やり方教えて」
「無理だな。俺氏は知らない、だがマシキなら何とかなると思うぞ?」
【個別レッスンですか? どんと恋です。メロメロにしちゃいますよ】
そっと、俺氏の携帯電話を横に移動させると、高梨先生も同じだけずれていった。これでいい。これ以上聞かれても、答えられないし。
「ところで、壊れないってどういうことでしょうか?」
【魔式端末になったと同時に、不壊属性も付くのですよ。逆に、端末の機種変更が今まで通りにできなくなっちゃいますけど。ちなみに、充電要らずなので地味に便利ですよ】
「なるほど……」
うん。俺氏、仕組みが全くわからん。
高梨先生に説明を始めたマシキを横目に、再び三人で顔をつきあわせる。
「取りあえず、私たちのAIもホログラムにしてみませんこと?」
「メルローズさんだと、ThreadNLP。私はFeminineですね、面白そう」
「俺氏に選択肢が無いのは、地味に笑えるんだがな」
そうして三人で考えてみる。
魔式名はそれぞれ、ThreadNLPを立体ホログラムにする、Feminineを立体ホログラムにする。
新規魔式登録から、魔式名を登録すると、簡単に登録はできた。ただし――
「なん……だと……?」
「消費魔力20万、維持コストが秒間1000ですわ。篤紫氏は、それを言いたかっただけですわね」
「私たちの最大魔力が1万ですから、そもそも使えません」
確かにまだ細かい説明を記述していないから、魔法名だけだとここが基準になるんだろうけど。いや、さすがに俺氏もビックリ。
想定以上の消費魔力、思わず三人で顔を見合わせた。
そうして、一つずつ使用条件を記述していくと、それに合わせて消費魔力と維持コストが減少していく。これが、魔式。
創作の中の魔法だと、逆に条件を増やして難しくしていくと、それに比例して消費魔力が跳ね上がっていたはず。魔式だと、条件が全く反対になるのか。
「できましたわ」
「私も、できました」
顔を見合わせて頷く。
「ThreadNLP、顕現ですわ」
「Feminine、起来っ」
「おおおっ」
二人の携帯電話の画面から光が立ち昇った――




