表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔式とマシキと、俺氏の憂鬱  作者: 澤梛セビン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/18

5.オタクの突撃、ヲタクの反撃

「それでだ、私がきたぞ」

「いや高梨氏は、お呼びではないんだが?」


 俺氏の携帯電話が、ブルブルと震えている。まあ、隠すだけ無駄か。

 たぶん厄介なことになるだろうな――そんな、どうでもいいことを考えながら、伏せていた携帯電話を、高梨先生が画面を見る事ができるように、置いた。


「それは、着電ではないのかい?」

「まあ、ある意味で着が電していると言えないわけじゃないが……」


 指さす先で、まあ踊っている。文字がだが。


【おやおや、また新顔さんですか。どうも、魔式のマシキですよ、新顔の朝顔さんには初回ログインボーナスとして、私に質問する権利を贈呈しましょう】

「なあ白崎。これは……何なんだ……?」

「いや、俺氏にも知らん」


 おずおずと携帯電話に手を伸ばす高梨先生。まあ当然俺氏は、自分の携帯電話を渡す気はないんだが。

 手が触れる直前で、そっと引き戻した。


「何をするんだい? 私の研究材料を返してくれないかい?」

「いや待って高梨氏、これ。俺氏の携帯電話な」

「だが見せてくれたまえ。そのAIを超越した、AIの中のAIたる挙動、そこに遥か彼方から顕れた叡智の結晶が、その鼓動がひしひしと蠢いているんだぞ?」

「そこは、普通は『見てくれたまえ』とか言わね? ついでに、何言ってるのか分からないんだが」


 案の定というか、暴走を始めた高梨先生に苦笑いが漏れる。

 ついでに言えば周りの三氏、メルローズ、アレクシス、黎鈴の動きが完全に止まっている。そうだよな、変態教師の片鱗はいつも見ていたけれど、ここまで暴走するのは初めて見たんじゃ無いだろうか。


 まあ、俺氏からしたら、纏っている雰囲気が同じだから、想定内の反応ではある。


「あの……篤紫氏、よかったのですの?」

「何がだ?」

「高梨氏は、先生なのではなくて? 黎鈴氏やアレクシス氏に話すのとは、またお話が違うレベルではありませんの?」

「待つんだ、メルティアル。その話し方は、一体どうしたんだい?」

「ええっ、そこでわたくしですの!?」


 まあ、こうなる気はしていた。

 恐らく高梨先生。朝の職員朝礼には出席しているけれど、特に担当クラスを割り振られていないから、職員朝礼の後はここの理科準備室に直行していると思う。

 だから、次もこうなる。


「高梨先生はよ、なに驚いているんだ? 朝からみんな、日本語ペラペラになってるぞ? なんだよ、今さらじゃねえの」

「そうですよ。この高校の約六割が日本人、残りが各国からの多国籍ですが、今朝の時点で全員日本語が喋れていますよ。ついでにこれは学校公式ホームページの情報ですが、新東京都にある他の3校についても、同じ状況だと。注意書きとともに、正式に公示されています」

「いや、聞いていないぞ!?」


 視線を落とすと、画面に【メモメモ、メモメモ……】なんて書いてるし。なんだろう、このそこはかとないポンコツ感。

 マシキはさ、勝手にネットから情報収集とか、できるんじゃないのか?


【できますよ? でも、つまらないじゃないですか、せっかくカメラのファインダー越しに、七色の景色が見えるのです。そこから色々と想像して、分からなかったら調べる。そんなごく当たり前のAIに、私は、なる!】

「いや、普通逆だからな?」


 そんな余計な会話をマシキと続けていたら、周りがやけに静かになっていた。


 画面から顔を上げる。

 やっぱりというか、4人が俺氏とマシキの会話をじっと見つめていた。まあ、特にもう隠すこともないので、理科室の固定机の真ん中――高梨先生から、一番遠い場所に携帯電話を置いた。


「白崎は、私のことが嫌いなのかね?」

「手が届いたら、高梨氏は持って行くよね?」

「もちろん。当たり前じゃないか」

【あ、全ての魔式端末はですね、既に端末と所有者が固定されていますから、一定距離離れると腰元に戻る仕様になっていますよ】

「……は?」


 いやマジで?


「いやマシキさんよ、それどゆ事なんだってばよ」

【距離予測としては3メートルでしょうか、それこそスッと戻るはずですよ」


 派手に椅子を倒して、駆けた。高梨先生が。いや落ち着け高梨氏。


 理科教室の対角まで猛スピードで駆け抜けて、その窓枠に立てかけて、再び戻ってきて椅子に――なんで自分で椅子を弾き飛ばしておいて、自分の椅子は? みたいにビックリした顔しているんだよ、この駄目教師は。

 苦笑いの黎鈴が、取りあえず自分の椅子を高梨先生の元に置いて、遠くに転がっている椅子を取りに――。


「え、もうありますよ。高梨先生のスマートフォン……」

「は? 何だと!?」


 全員が遠くの窓を見る。


 そこに。窓枠に立てかけてあったはずの携帯電話が、なくなっていた。

 そしてその携帯電話は、全員の視線が戻る先、高梨先生の腰元にフヨフヨと浮かんでいた。何て言うか、もうファンタジー。


 そして、再び走り去る高梨先生。吹き飛ぶ椅子に、全員苦笑い。

 戻ってきた高梨先生は、今度は椅子の上に立った。ちょっと待て子供かよ?


 視界の端に捉えていた携帯電話が、デジタルっぽいノイズエフェクトで揺れて、スッと消えた。


「なん……だと……?」

「滲むように現れますね。これは、まさに魔法?」

【魔式ですからね、科学と魔法のハイブリッド。時代を先取り、ちょっとだけ青い狸が見えた気がしますよね】

「いやマシキ、あれ一応ネコな」


 再びさも当たり前かのように、高梨先生の腰元に現れたものの、気になるのはその向こうにあるミニスカートと太ももだったりする。男のサガよ。

 視線を反らすと、ちゃんとアレクシスもだらしない顔をしていた。男か。


 そうしてゆっくりと椅子から降りた高梨先生は、椅子にゆっくりと腰を下ろした。そのまま流れるように立て膝に顎を乗せる。ここで、ちゃんと口元を隠す仕草に、プロ意識を感じた。


「碇指令?」

「誰が碇だ、誰が。それに何か違って聞こえたが、司令だな? 指令なんて言っていないな?」

「懐かしいですわね。地球に居た頃に、ネットのアーカイブで見ましたわ。翻訳版では最初の数話しかありませんでしたけれど、印象的でしたわ」

「俺は英語に字幕付きで見てたな。あれ面白いんだぜ、てんでチグハグでどれが正解の言い回しか迷った。でもそれが楽しかったな」

【ちなみにですが、この方舟では人類保管計画が、現在進行形で進んでいますよ】

「マシキは、元ネタ補完な。まあ何が補完か俺氏は知らないんだが」


 さて、そろそろ魔式。やりますか。


「魔式を、覚えたいんだが。マシキは手伝ってくれるのか?」

【いいですね、やりましょう。そうしましょう。ですが、ちょっとだけ待ってくださいね――】


 そうして画面が光り出す。


 そして画面からホログラムが――


【ああっ、失敗です。足から出ちゃいました】


 引っかかって、止まった。

 まあ、マシキらしいっちゃらしいんだが。全員の目が点。外れの理科室は静かなもので、遠くから鳥の囀り声だけが聞こえてくる。


 どうすればいい、この空気。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ