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魔式とマシキと、俺氏の憂鬱  作者: 澤梛セビン


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3/4

3.見なかったことに、嘘だろ!?

 携帯電話の中の文字が、止まった。特に、続きがある感じはないが。

 流れる汗がやけに冷たく感じる。


「篤紫氏は……何か操作しましたの……?」

「俺氏にもわからんのだが。何もしていないのは確かだな。少なくとも、うつ伏せでお互いの顔を見合わせていただけなのは、メルローズも知っているはずだが」

「確かにそうですわね。まだ手、握っていても大丈夫ですの?」

「それは、構わないぞ」


 ゆっくりと、周りがざわめき始める。


「モッキー、当たり前だよ。だって、俺たちの魔式だろう?」

「みんなで考えて、よりいい世界。作ろうぜ」

「魔式も当たり前になれば、生活の道具よ。みんなで考えましょう」


 一人が声を上げて、次々に熱が広がっていく。

 嬉しそうな茂木先生が、グループディスカッションを指示して、何となく何時もの数人のまとまりに分かれていった。


 アレクシスと黎鈴が、来るのが見えた。


「ちなみにですけれど、わたくしの魔式の画面はこんな感じですわ」

「UIは俺氏のと一緒に見えるが……」


 2つ並べて、見えているメイン画面は同じ。

 違いがあるとすれば、俺氏の画面にはUIに被せるように、マシキからのコメントが書かれていることか。

 もう一度読み直す。

 これが誰かのイタズラとかだったら、特に問題ないんだが。


 その表示されていた挨拶文の文字が、スッと消えた。

 ゾワッと背中に悪寒が走る。


【ユーザー、メルローズを確認しました。会話内容から、パートナーと確定しました。データの一部を共有します】


「……は?」

「ど、どういう……ことですの……?」


 さらに続く。


【ようこそメルローズ。魔式運用などで用がある時は、そちらの携帯端末でお呼びください。普段はこちらにいますので、魔式以外の通常の処理などは、別のスタンダードAIを導入の上ご利用ください】


 そして、少しだけ画面に浮かんでいたその文字は。スッと消えた。




「どうしたよ、篤紫もメルローズも呆然として」

「何だか……ちょっと、どうしたのよ!? メルローズは泣いてるの? 何があったんですか!?」


 ぎゅっと黎鈴がメルローズの頭を抱き寄せた。

 ざわめき立つ教室の中にあって、最後列窓際の俺氏の机だけは、静かで。何となく落ち着かない空気が流れていた。


「いやアレクシス氏、AIがな。起動して、文字を流してきたんだが」

「……は? それだけ?」

「いやそれだけって、勝手に挨拶してきたんだぞ?」

「まあ、普通? だってほら、見てみろよ。俺のとこだってAI連携すれば、普通に魔式の画面でポップ出てるぞ、ほら」


 視線を移すと、確かにアレクシスの魔式画面に、同じ様な感じでポップアップが出ていた。

 今日は、何をしますか?

 うん、普通だな。普通すぎて涙ちょちょ切れそう。


「ちなみに俺は、ThreadNLPにした。けっこう、融通効くAIなんだよな」

「私はFeminineですね。大手検索サイトFoogleなら、反応が柔らかいですから」

「……それでしたら、わたくしが設定したのは、ThreadNLPですわ。篤紫氏のはマシキなのでしょう?」

「何だよ篤紫、どこからそんなAI拾ってきたんだよ。魔式と名前が被るAIなんて、さすがお前らしいと言うか。なんだよ、くっそ笑える」


 アレクシスが腹を抱えて笑い出した。

 いや、うん。まあいいか。AIが標準連携なら、まあマシキってのも普通なのか?


 ……普通で、いいか。


【そうですね。普通が一番だと思いますよ】


 思考が止まる。呆然と自分の携帯電話の画面を見つめる。

 息も止めていたみたいで、しばらくして息が苦しいことに気がついて、慌てて呼吸をした。当然息が荒くなる。


「だ、大丈夫ですの? どうしましたの!?」

「おいおい、一人で何やってんだよ」

「いや大丈夫だが。俺氏はなんともない――」


 電源ボタンを連打する。

 無理矢理浮かべた笑顔が、たぶん引きつっていると思う。


 画面の文字が切り替わった。


【何をしているんですかね、マスターはアホなのですか? 落ち着いて、一回押せば画面は消えますよ?】


 そっと、画面を机に伏せた。

 何なんだ。何なんだよこの、AIは!?


「篤紫さん? ちょっと様子が変ですよ」

「もしかして、AIのマシキから、何かメッセージが入ったのですの?」

「いやだから、それは普通じゃね? ほら、俺のだってメール受信すればこんな感じに教えてくれるし――」


 アレクシスが適当に質問を投げかけて、それに反応してThreadNLPが流暢に返事を表示し始めた。それを、俺氏に見えるように机に置いてくれる。

 まるで話しかけてくれる様に、流れていく日本語の文字が、あまりに自然で。先程まで感じていた違和感がゆっくりと解けていく。


 見上げたアレクシスの顔は、本当に不思議そうで、それでいて本気で心配してくれているのが分かった。俺氏が、取り乱しすぎなのか?


 黎鈴、そしてメルローズと視線を動かして、改めて机に伏せていた自分の携帯電話を、みんなに見えるようにひっくり返した。


【落ち着きましたか。ところで、母君からのメールが一件、入っていますが。気が利く私は開かずに待っていますよ】

「くそが、こんなAIあってたまるか!?」

「ふはははは、おもしれぇな篤紫のAI。そういう性格設定の、細かい指定もあるし、そんなもんじゃね?」

「私も特に、違和感はないですが……」

「……」


 神妙な顔をしているのがメルローズだけで、アレクシスも黎鈴も、特に違和感を感じていないようで――。


「それより篤紫のマミー、何だってよ?」

「ああ、ちょっと待て。なになに『夕飯はカレーです。お肉だけキボンヌ。買ってきてね』だと……?」

「ふふふ、いいですね。そんな言葉なんて、昔のネット時代。それもアングラ界隈のやりとりだって、7ちゃんねるで話題になったことありますよ」

「いや7ちゃんねるって、何だよ黎鈴?」

「2ちゃんねる、5ちゃんねると来て、現行は7ちゃんねるなんですよ?」

「知らねーけど、いいなそれ。俺にも教えてくれよ」

「いいですよ、と言っても検索かければ――」


 ふと、視線を落とす。


【ああ、7ちゃんねる。素晴らしいですね、篤紫には専用アプリ入手を禿げしくキボンヌ。いいですね、使ってみましょう】


 そっと、画面を伏せた。


「そ、それよりですわ。授業に戻りますわよ。グループディスカッションですから、みんなで現状確認と、それからプリントと照らし合わせて、使い方などをみんなでお話ししますわよ」

「あ、ああ。俺氏もそれがいいと思う。使ったことがないから、教えて貰ってだが」


 取りあえずこの授業は無難に切り抜けないとな。メルローズを見ると、しっかりと頷いてくれた。何だか、以心伝心なんだが。


 窓の外から、鳥の鳴き声が聞こえる。

 朝の日差しはあくまでも暖かくて、これが人工太陽由来だなんてとても思えなくて。


【メルローズさんの携帯に、ちょっと失礼しますね。マスターに、画面戻すように言って貰えます? さすがに、リアカメラだとまだ視界調整に難航しているのですよ】


 慌ててメルローズが、画面を伏せる。


 有り難かったのが、アレクシスと黎鈴がまだ、7ちゃんねるで盛り上がっていて。


「ちょっと俺氏、喉渇いたから水飲み場。行ってくるが」

「わわ、わたくしも篤紫氏とご一緒いたしますわ」

「おう。行ってこい、授業まだ長いからな」

「それでですね、ここはこうコメントを落とすのです――」


 視線を向けた茂木先生も、聞こえていたのか手をひらひらと振ってくれたことか。


 かくして俺氏とメルローズは、二人して教室を出た。


 それぞれの手に、携帯電話を持って。


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