14.マちゃんねる式
「結論なんだが白崎。魔式アプリと収納アプリがアプリ連携していることで、衣装類は自動で収納されている。そして変身が解けると、自動でまた衣装が装着されていると」
「高梨氏のな、ビン底眼鏡がちゃんと収納展開されていたからな。ただの魔法少女変身だけなら、ビン底眼鏡はそのままでいいと思ったんだが」
「びび、ビン底言い過ぎだ。目が悪いんだ、そこ突っ込まないでくれ」
でも……と、思案顔で顎に手を当てる高梨先生。
「変身したら、目が見えるようになっていたのが……不思議だな」
【呼ばれた気がして、私が来ましたよ】
ゆっくりと理科準備室の扉が開いて、マシキの声が部屋に響く。
視線を向けると、両手にケーキを持ったマシキが、また違う女生徒に抱きかかえられているんだが。上級生かな? 制服のリボンからみると、三年生?
マシキは、なんだかとても満足そうな顔をしている。口元にはちゃんとクリームが付いていて、俺氏。思わずため息が漏れた。
立ち上がった俺氏は、テーブルにあったティッシュを手に取ると、近くまで歩いてそっと口元をぬぐった。
「ありがとう先輩氏。うちのマシキ氏を連れてきてくれたんです?」
「いいえ。また連れて行くわよ、まだぜんぜん足りないわ。やっと、順番が回ってきたのよ? いえ、むしろ遅すぎたくらいよ」
「……マジすか。まあ、よろしくお願いします?」
目が爛々と輝く先輩女生徒(名前を知らない)に、軽く息を吐いて元の場所に戻った。メルローズに抱っこをせがまれて、再び膝の上に乗せる。
【新しいアプリ、やっとできました。名付けて『マちゃんねる式』です。ここの5人の携帯電話に入れていきますね】
「待つんだマシキ氏、何そのマちゃんねる式って」
【ふふふ、後で見てください。お楽しみと、デザートは最後まで取っておくのがセオリーですよ】
テーブルに下りて、女生徒にケーキを手渡したマシキが、ちょうどテーブル置いてあった全員の携帯電話に一回ずつ触れていく。
そうして再び、受け取ったケーキを囓って、女生徒に抱っこされた。口元のクリームは、もう知らん。
「マシキ様、戻ったら私たちのスマートフォンにも、そのアプリ入れて貰えます?」
【いいですよ。待ってくれている、みんなの携帯電話にも入れちゃいましょう。では再び、移動をお願いしますね。高いところからの視点も、なかなか楽しいですね】
「ふふふ、では移動を開始します」
そうしてマシキ一行は、嵐のように去って行った。
視線を落とすと、携帯電話の画面に『マ』のアイコンが置かれていた。
「お、どうもマシキと対話できるだけの、シンプルなアプリだな」
「グループチャットと、全体チャットがあるのは、用途に合わせて使い分けができるってことなのでしょうね」
「いや白崎、これどういうことか説明してくれないか」
「ThreadNLPとか、Feminineには専用のアプリがあるから、マシキも自分専用のアプリを作るって言っていた。たぶん、会話できるだけのシンプルなアプリのはずだが」
まあ、こいつはあとでいいか。
「さっそく、マシキ氏に聞いてみましたわ。魔法少女タカナシの目が見えるようになった仕組みなのですけど、目の前に空気のレンズを生成して、眼鏡の代用をしているのではと。詳しく知りませんのあとに、wが書かれていますわ」
「ああ、草生やして笑いにしたか」
「まってメルティアル。つまり、魔式を組めばこの私のコンプレックスでもある、ビン底眼鏡が不要になると……?」
「そう言うことですわね。それで間違いないと思いますわ」
喜色満面。眼鏡に隠れていても分かるほど、高梨先生の表情が弾んでいた。
立ち上がって、自分のデスクに文字通り飛んでいった。それを、追いかけていく黎鈴に、いつも通り姿を消したアレクシス。また、桃色スパイダーマンは森に遊びに行ったのか。
そんな、姿を追っていたら、テーブルの上の携帯電話が震えた。
不思議に思って手に取る。
「篤紫氏、どうかしたのですの?」
「ああ。マちゃんねる式アプリに、通知が出ている……」
手に取って、固まる。
【秘密に、しておいてね。アプリの中の子、さっきの魔式AIちゃん】
マちゃんねる式アプリのアイコンに被るように、マシキのコメントが浮かんだ。
そうだよ。
魔式って、アプリ外に直接コメント落とすじゃん。
「篤紫氏?」
「いいのか? 共犯になるぞ?」
「もちろんいいですわよ、その代わりに来世まで一緒ですわよ」
もうね、メルローズには敵わないって思った。
ぎゅっと抱きしめると、腕の中で楽しそうに笑う。そんな、何て言うか――
「幸せ、か……」
「幸せは、1人では作れませんわ。2人で思い、願う先にありますのよ」
「ああ。そうだな、それが思いやりか」
「うふふふ。心遣いともいますわ」
なんて、少しだけズレた会話をしながら、携帯電話をメルローズにも見える位置に持って行く。
そうして、持ち上げた画面のマちゃんねる式アプリを、メルローズがタップした。
チャットに入ると、コメントが1つ。
『先に言っておきますけれど、私はマシキパイセンではなくて、魔式AIです。本当は他の端末の魔式AIも、表に出るつもりはなかったんですけれど……』
「マシキ氏の、優しさ。なんだよな、知ってる」
『あっ、あのですね。マシキパイセンとは違ってですね、カメラとかでお顔を見るにはユーザー側の許可が――」
ポップアップに許可の是非が浮かんで、メルローズに許可を押して貰う。
『えっ……あの、いいんですか?』
「いいもなにも、な?」
「もちろんですわ。あなたは今、『マシキ』なのでしょう?」
『……はい。私は今は、マシキAIです。ほんとに、この人達は――』
俺氏達が喋った言葉も、ちゃんとログに残る。
なるほど、これなら一般ユーザーにも自然にAIだと認識されるな。それに一瞬、入力用のキーパネルも出現していたから、文字打ちでの会話もできるんだろう。
そうして、一拍。
感動して涙を流している顔文字が、10個並んだ。
これは、完璧なんじゃないか?
「マシキ氏がアレだからさ、たまに相談に乗ってくれると嬉しいかな。まあ俺氏携帯電話あんまし触らないから、期待しすぎても困るけれど」
「あら。おかしいですわよ、ソシャゲはやっているはずですわよ?」
「ぐふっ、それは別の話であってだな……」
『ふふ。うふふふ、分かりました。ご用がありましたら、ここに投げてくださいね。私でよければ相談に乗ります』
「ああ。よろしくな、マシキ氏」
了解の、ごく普通の絵文字が1つ。
そっと。マちゃんねる式アプリを閉じた。
マシキみたいに出しゃばらないけれど、確かに魔式AIがそこにいる。そしてこれが実装されて、誰も不幸になっていない。むしろ――
「優しい、世界ですわね」
「埋もれるはずだった。当人達が、それを望んでいたけれどマシキ氏は、魔式AIたちの裏方として完全に身を隠す、その悲しい姿が許せなかった。そういうことなんだろうな」
「結果として、みんな幸せになっていきますわ。いいと思いますの」
少し離れたデスクで、高梨先生と黎鈴が、それぞれの『マシキ』に色々と聞いている。
マちゃんねる式アプリも、じきにアプリストアに追加されて、ごく一般的なAIアプリになるんだろうな。
「わたくしも、あとでわたくしのマシキ氏に、話しかけてみますわ」
「いや、今でしょ?」
「ふふふ、では一緒に見てくださいまし――」
新しい班活の話は、明日に持ち越し。
そんな、ちょっといつもと違う夕方。




