13.収納の機能
「篤紫氏は、今日はどうするのですの?」
「ああ、班活?」
「……あれ? 篤紫さんって、どこかの班に所属していました?」
「いや、してないが? 取りあえず、理科準備室にいこうかな、と」
「ああっ、そういうことですの? それでしたら、わたくしもお供いたしますわよ」
結局、マシキは女生徒集団がどこかに連れて行った。
まああれだ。さっき見つけた『能力値』なんて、携帯電話の謎の項目でちゃんと魔力が減っていたから、問題はなさそう。ほっとこう。楽しんでるんだろうな。
一日の授業を終えて、何だかみんな浮き足立っている廊下を歩く。
渡り廊下から見える校庭では、昼間とは違って普通に、サッカー班と野球班が走り回っているのが見えた。よく見ると手書きの垂れ幕が貼られていて、『班活中は魔式の使用禁止!』なんて書かれている。
なるほどな、スポーツはそういう方向で行くのか。
「高梨氏のところには、新規班活の相談に行くのですの?」
「それもなんだが。いくつか確認したいことがあってだな……」
「魔法少女の増加人数確認ですか?」
「そっちはどうでもいいんだが。とにかく、高梨氏本人に聞かないと、解明できそうにない。肝心のマシキいないし」
専門棟に入り、理科室に近づくと一気に喧噪が遠退いていった。
理科準備室の扉が開いて、魔法少女が4人出てきた。何となく端に避けると、細かい光の粒をたなびかせて、俺氏達の前を通り過ぎていった。
「日本人、ヨーロッパ系二人に、もう一人はアラブ系か?」
「そんな感じですわね。まだ、声が聞こえますわ」
扉に手をかけて、何となく一歩下がった。
「ちょっと中、見て貰ってもいいか?」
「いいですわよ。ラッキースケベになりそうですもの」
「ふふふ、メルローズってこんなに独占欲強いんですね」
「当然ですわ。篤紫氏は、誰にも渡さないですわよ」
「お、おう。どこにも行かないから、抱きつかれるのは嬉しいんだが。頼むから先に、中を見てくんね?」
結局メルローズをお姫様抱っこして、理科準備室に入った。
「ああっ、白崎! 助けてくれ、ほんと……いや待て、口が甘い……」
「ありがとうございます、高梨先生。あとはみんなで頑張ってみます――」
たぶん順番待ちの、最後のグループだったのかな。俺氏達を見て、何かを察したのか変身していないのにもかかわらず、そそくさと理科準備室から出て行った。
いったい、どうしたんだ?
「酷いよな、そんなにビックリしなくてもいいのにな」
「どわっ、アレクシス!? おまっ、いつの間に」
「今だな。何か、いた方がいい気がしたから、俺が来た」
「ははは、まさに野生の勘だな、おい」
抱えた腕の中で、メルローズが可愛らしく笑う。
黎鈴が間をすり抜けて、真ん中の応接テーブルに着いた。そうして俺氏がニコニコ笑顔のメルローズを抱きかかえたままソファーに腰を下ろすと、高梨先生がブラックコーヒーを配ってくれた。
「で、どうしたんだ。まさか、白崎も変身したいとか言うんじゃないだろうな?」
「ははは、まさか。ただ、変身に関する疑問だな。マシキがいないから確認できなかっただけなんだが」
「そういえばマシキがいないようだが、喧嘩でもしたのか?」
「まさか。人気が出すぎて、女子生徒の間で引っ張りだこなだけさ」
「マシキ氏、可愛いですもの。篤紫氏が羨ましいですわ」
相変わらず、何だか甘そうな顔をした高梨先生が、そのまま首を傾げる。器用だな。
「何が引っかかってる。相談には乗る。だが、メルローズは取りあえず、白崎から下りてくれないか」
「お言葉ですが、一考の余地はありますが、お断りいたしますわ!」
「それ、『だが、しかし、断る!』を歪曲しただけな。どこで覚えたんだよ、それ」
「篤紫氏の辞書に書いてありましたわ」
「話が進まんから、話をそのまま進めてくれ。たのむ」
それならと、高梨先生に紙とペンを用意して貰った。
まず、『変身』『着ていた衣服』『魔法少女衣装一式』と書いていく。
こういうちょっと思考を整理する時って、紙に書き出すといいって、父がよく言っていた。たまには、親の言うことを聞いてみようと思ったんだが。
見ていた全員が首を傾げる。
「変身すると、着ていた衣装が消えて、魔法少女衣装一式に着ていたものが変更されるよな?」
「そうだな、プロセスとしては合っているが……」
書いた『変身』から順に矢印を書いて繋いでいく。
さらに下段に、『変身解除』『魔法少女衣装一式が消える』『元の衣装が装着される』と書き記す。そして同じように、矢印で繋いだ。
「衣装は、どこにあったんだ?」
「どこって、魔式で何とかしたんだろう。いや、そうか。衣服は魔式生成物じゃない、か」
「魔式であっても、錬成したものは戻りませんわね」
「ってーとあれか? 魔式は万能じゃない、ってことだな」
「そこでアレクシスは、どうしてドヤ顔なんですか……」
途端に、全員が堰を切ったように喋り始めた。はは、みんな火が入ってやんの。
解明しなくたって、別に困ることじゃない。
でもこれって、一度気になりだしたら夜しか寝られない案件だと思うんだ。実際に俺氏、お昼寝できなかった。メルローズとあやとりしていて。何故なのか。
そして全員が、自分の携帯電話を持って、色々と調べ始めた。
俺氏もと、携帯電話を手に持って。固まる。
【もう、篤紫氏は。普通に聞いてくれれば答えますよ? 離れていても、心は1つ。プリプリプリティ、阿呆少女マシキですよ。ちなみに、文字だと間違いがよく分かりますね】
投げた。
開いていた窓を抜けて、森の奥深くまで飛んでいったのに、腰元に戻ってきた。ちくしょおおぉぉ。
「おおお、落ち着いてくださいままし。わわ、わたくしが何とかいたしますで候ですのよ?」
「落ち着けメルローズ氏。俺氏はいつも冷静沈着だ」
そうして、携帯電話をテーブルの上。みんなが見える場所にスッと押した。
【どもども、可愛いJKに拉致されて、美味しいケーキを頂いている。そう私が――】
投げた。
戻ってくるんだけど。そうじゃない。そうじゃないんだが、分かってるのかこの阿呆少女は!?
深呼吸をして、もう一度テーブルに置く。
【酷いですね。篤紫氏は阿呆ですが、私はプリティ魔法少女マシキちゃんですよ】
「話が、進まんのだが!?」
【ふふふ。いいリアクション家宝にしましょう。ちなみにですが携帯電話の機能と連携していますよ。その名も、収ある鷹が隠しているのは納!】
「ああこれか、収納」
俺氏の携帯電話――は、マシキに占領されているから、メルローズの携帯電話を借りて、アプリ一覧から収納を見つけた。
そして開くと、中は空っぽ。
いつもの癖で設定を開くと、連携アプリの項目に『魔式』と書かれていた。
「どれくらい収納できるんだ?」
【基本は畳1枚分ですね。ちなみにですが、一度収納すると、所有権がつきます。誰かに渡す時は、その所有権を外してから渡してくださいね。では、ケーキ食べてきます、したらな!】
「道民か!?」
神妙な顔つきで頷く黎鈴と高梨先生の横で、大笑いするアレクシス。
腕の中のメルローズは、可愛らしくクスクスと笑っている。
収納か、夢がまた広がるな。




