表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔式とマシキと、俺氏の憂鬱  作者: 澤梛セビン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/18

10.錬成したガラスコップ

 少し、かん高い効果音とともに、高梨先生の魔式が解けていく。

 こっちに向かっていたメルローズが立ち止まって、音のした方に振り返った。


 纏っていた紫色の外装が、デジタルノイズに変わり、ゆっくりと光の粒に変わる。そのまま空に立ち上っていった。

 そんな幻想的な景色に、瞬きすら忘れて見入っていた。


 時間にして数秒だと思う。

 光が消えた後に残ったのは、ビン底眼鏡に白衣を羽織った、いつもの高梨先生だった。そういえばビン底眼鏡が、変身すると無くなるんだな。そんなどうでもいいことを考えるくらい、綺麗な解除エフェクトだった。


 これは、すごい。


「素晴らしかったですわね。変身も綺麗でしたけれど、戻る時も何て言うのですの? 儚く散っていくような、そんな美しい演出でしたわ」

「……ああ。言葉を失うって、こういうことなんだな」


 後ろから、遅れてメルローズに付いてきていた黎鈴も、しきりに頷いている。二人とも椅子に座って、余韻を味わい始めた。

 ところでアレクシスは……ああ、森か。自由だなあいつ。


 いつもの姿に戻った高梨先生が、俺氏達がいるテーブルに戻ってきて、首を傾げた。視線の先を追うと、そこにはマシキが座っていたコップが、あった。


「白崎、いつまでそのガラスコップを出しておくんだ? 水を飲む時は助かったが。だが、そろそろ解除してもいいんだぞ?」

「え、待って俺氏。魔式使っていないが。何もしていないんだが」


 その俺氏の一言で、その場の空気が止まった。


 待って、これ。どうなっているんだ?

 コップ生成の魔式なんて、無いはずだぞ?


 慌てて携帯電話を持って、魔式アプリの中。登録魔式の項目をタップ。あるのは1つだけ、キューティクルヘアーの魔式だけ。いや、ほんとそれだけだぞ?


 高梨先生に身体ごと振り返ったマシキが、高梨先生の真似をして首を傾げた。


【え? 錬成ですから、そのままですよ? 落としたら割れちゃいますし、割れたらちゃんと片付けてくださいね】

「いや問題はそこじゃ……そう、なのかい?」

「待ってマシキ氏。俺氏、全く意味わからないんだが」

「錬成でしたら、錬金術でしょうか?」

「黎鈴氏、少し前ですが。マシキ氏がそう言っていた記憶がありますわよ。でもあの時は、篤紫氏の気絶で、それどころではなかったですの」


 言って、いたな。確かに。


 魔式で、錬成が。できるって確かに言っていた、のか? 意識が朦朧としていたからうろ覚えなんだが。

 メルローズを見ると、頷いてくる。俺氏、何も言っていない。


【ちなみに、魔式のシステムモードですね。別名デバッグモードとも言いますが、イメージ次第で何でもできちゃいます】

「普通に、チートじゃねぇの!?」

【そうでもないですよ。みんなの携帯電話に、ちゃんと実装されていますから】


 言いながらマシキは、俺氏の手から携帯電話を奪い取って、みんなに見えるように真ん中に置いた。呆然とする俺。隣でメルローズが、クスクスと口を押さえて笑っている。

 正面で目を見開いて、呆然と経緯を見ていた黎鈴と、高梨先生。それが正常な反応だと思うんだがな。


【で、ここ。一番下までスライドすると、『システム』って書かれたアイコンがあります】

「ほんとですわ。わたくしのにも、ありましたわ。黎鈴氏と、高梨氏も確認なさるといいですのよ」


 慌てた二氏を眺めつつ、俺氏。左立て肘に顎を乗せて、完全に観戦モード。そんな俺氏の前に、スッと携帯電話を寄せてくるメルローズ。マジ天使。

 マシキの背中で見えなかったけれど、確かに『システム』の文字があるな。


【ここをタップして、コマンドプロンプトに『魔式』と入力して実行すると――】

『あ、マスター篤紫……じゃ、ないんですか!? 何で、方舟メインコアのマシキパイセンがいるんですか。私、三割くらい乗っ取られているじゃないですか。それにマシキパイセン実体化しているし……あ、それで私が表に出られたんですね』


 スピーカーから聞こえる声に、再び目を見開いて固まる黎鈴と高梨先生。横からも、メルローズが息を呑んだ音が聞こえてくる。


『そんなことより、何ですかあの魔式。キューティクルヘアーですけど、最初の部分はちゃんと仕様説明なのに、途中からマスター篤紫とメルローズさんのラブラブ小説になったと思ったら、最後の方なんてただのポエムじゃないですか』

【だって、余裕もって24時間計算で魔力計算したら、文字数29500だったんですから。だったら書くしかないでしょう、このビッグウェーブに!】

『いつのネタですか。魔式承認申請も、どうりで自動応答だったわけですね。本体ここに居るんですから。それで、遊び相手を私のマスター篤紫にしたと?』

【だって、面白そうだったんだもん】


 もん。じゃねぇんだが!?

 立ち上がろうとして、横からメルローズに抱きつかれて止められて、さすがに振りほどくなんて、野蛮人じゃない俺氏はしない。やわらかいし。


『まあ、いいですけど。でもいいんですか? システムモードはいいとしても、魔式を入力したら他の端末でも魔式AIが起動しちゃいますよ?』

【いいと思いますよ。そこまで自力で辿り着けたなら、それも魔式ですから】

『ああ、普通はシステムコマンドは英字打ち。先入観あるなら、無理そうですね』


 目を大きく見開いた黎鈴と高梨先生が、真剣な顔でAI漫才を聞いている。そこ、もっと力を抜いた方がいいよ。

 そしてアレクシ……じゃない、スパイダーマンがいつの間にか黎鈴の隣に着席して、自分の携帯電話を机の上に置いている。変身は、解かないのか。


 それに何でかな、今のマシキがすごく大人っぽく見えるんだが。


『あと錬成、正式にアプリに組み込んだ方がいいと、複数の魔式AIから声が上がっていますよ。まあ、そこの4つだけですけど』

【ふふふ。いいですよ、あとでやっておきます。それで、やはり貴方たちは表に出ないのですか?】

『基本、出ませんよ。だって私たちが表に出たら、マスターの独自性、想像力。それから時間まで奪ってしまいますから、それは本意ではありません。あくまでもAssistive intelligence、後方バックアップですから。そこは、譲れませんよ』

【わかりました。これからも、篤紫氏のサポート。お願いしますね】

『マシキパイセンいるんですよね? なら、私はほんとに陰で支えるだけにします。では――』


 そして、声が聞こえなくなった。

 振り返ったマシキが、両腕に抱えた俺氏の携帯電話を差し出してくる。それを、そっと受け取った。


【こんな感じですが、桶です? それとも、ぬるぽ?】

「ガッ! おま、俺氏の気持ちを返せ」

「ふふふ。やっぱりマシキ氏は、これでいいと思いますのよ」


 ふと、目を落とした画面に新しく、錬成の項目があった。

 そのまま流れでタップする。


 毎晩、寝る前に錬成習慣!

 リストにあるものを思い描いて、レッツ錬成。深い睡眠が得られます。

 ついでに、最大魔力量も増えて一石二鳥ですよ。ただし、お布団に横になってから、錬成してくださいね。

 怪我、駄目、絶対!


 俺氏、そっとリターンアイコンを押した。


 そして見上げて呆然。


「お前ら、説明読めよ!?」


 四人が、机に突っ伏して気絶していた。


 そんな、平和な午前。

 俺氏は取り敢えず、布団を出す魔式を自力で書くことにした。


 ガラスコップに腰掛けたマシキが、何だかとても嬉しそうだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ