72話:お礼
「そして次の問題ですが、これが今回の尋問で、罪人オーランドが唯一回答を拒否した点になります。牧師であるブートや誘拐された子供たちをどう思っているかと尋ねた際、彼は沈黙をもって回答としました」
この件については、ロルもエイヴァから送られてきた三百件以上の迷惑メッセージを通して、すでにある程度の状況を把握していた。
今回オーランドに誘拐された子供たちは、事件の真相を何一つ知らなかった。途中で多少の波乱はあったものの、元々大した量の毒を注入されていなかった子供たちは、解毒剤を打たれた後、無事に教会へと戻り、龍王祭の最後を飾る盛大な花火を共に楽しむことができたそうだ。
あの夜空を彩った燦爛たる花火が、彼らの心に落ちた誘拐の影を少しでも和らげてくれることを願うばかりだ。
オーランドの件について、教会の牧師やシスターたちは「オーランドは病気のため、エイブダムに残って治療を受けなければならなくなった」と統一した見解を示していた。
そして、唯一真相を知るブートは、エイヴァに向かってこう語ったという。
『たとえそうだとしても、オーランド様が私の恩人であることに変わりはありません。私は今後もエイブダムへ頻繁に足を運び、彼を説得し続けます。その時……またここに泊めてもらうことはできますか?』
ブートの揺るぎないその態度に、ロルは安堵の笑みを漏らした。
実のところ、ロルはオーランドがあの辺境の教会を完全に蔑んでいたわけではないと考えていた。呪いに蝕まれ狂気に陥った中でさえ、彼の頭の中にあったのは、自身の目的の他には「子供たち」のことだけだったのだ。
その点においては、ブートも同じだった。もしオーランドが本当に彼らのことを全く気に留めていなかったのなら、子供たちをそのまま路上に放置して死なせればよかったはずなのだ。
龍王祭の前日、三階の廊下で彼が語った言葉は、決して嘘ではなかったとロルは信じている。
オーランドには確かに、子供たちを守りたいという決意があった。ただ、その決意が、自身が貴族であるという傲慢さと、他者から長年受けてきた差別による悪意に影響され、徐々に歪んでしまっただけなのだ。
そして最後には、取り返しのつかない深淵へと自ら歩みを進めてしまった。
かつて自分を引き取ってくれた漂流者の養父は、ロルに向かってこう語ったことがある。
『人と人との関係っていうのは、自分でマフラーを編むようなものだ。心を込めて編めば編むほど、寒い時にそのマフラーは暖かくなるんだ』
(オーランド神父。たとえあなたが認めたくなくとも、これもまた、あなたが自身のその手で編み上げたマフラーです。どうかこれから訪れる厳しい冬の中で、それをその身に纏うことができますように)
「最後に、あの未知の『呪いの人影』について触れた際、罪人オーランドが突如として感情を崩壊させたため、今回の尋問は打ち切られました。次回の尋問については現在協議中です」
オーランドの心に消えないトラウマを植え付けてしまったことには多少の申し訳なさを感じるが、相手も同じようにロルに下水道でのトラウマを植え付けてくれたのだから、これでお互い様だろう。
今ロルが居心地の悪さを感じているのは、祭が「呪いの人影」と言及した際、意図的に語気を強めたからだ。
「以上が、本事件に関するすべての内容です。報告は以上となりますが、何か質問はありますか?」
「いえ……非常に分かりやすかったです……」
祭が手元のファイルを閉じると、二人の間に沈黙が降りた。沈黙の理由はいくつか考えられる。そもそも、二人はそこまで親しい間柄ではないからだ。
しかし、この事件を共に乗り越えたことで、ロルは祭との距離が以前よりも縮まったと自負していた。今沈黙が流れている最大の理由は、間違いなく自分の身に宿る「呪い」が彼女にバレてしまったことにある。
ロルは、呪いの件を祭に打ち明けるべきかどうか決めかねていた。現在、自分の呪いを知っているのはマリーナとライラだけ……いや、今はそこに祭とチョコも加えなければならない。
チョコはおそらくマリーナから事情を聞かされたのだろう。しかし祭が知ったのは――完全なる事故だった。
二人の関係性からすれば、無理に隠さずとも特に問題はないかもしれないが、彼が目を覚ました後、ライラから彼女たちがどうやって逃げ延びたのかを聞かされていた。
祭が命懸けでライラを守り抜いてくれたことに、ロルは深く感動していた。だからこそ、今こうして黙っていることに罪悪感を覚えてしまう。彼女にだけなら、話しても……いいのだろうか。
「……祭さん――」
「チョコ隊長は、あなたが抱えている呪いについては一切言及しませんでした。ですから、私もこれ以上追及するつもりはありません」
ロルが言い終わるより早く、祭が口を開いて彼の言葉を遮った。彼女はファイルを鞄にしまいながら、静かに言葉を続けた。
「誰にでも、口に出せない秘密の一つや二つはあるものです。あなたに私へ答える義務はありません」
祭の言葉を聞いて、ロルは確かに安堵の息をついた。しかし、少女が次に取った行動は、彼の想像を遥かに超えるものだった。
少女は身を屈め、その三角形の狼耳を、ロルの胸元にそっと押し当てたのだ。
いつもの長袖とは違い、今日のロルは薄手の白いシャツを一枚羽織っているだけだった。祭の暖かな体温が、硬直した彼の身体に直接伝わってくる。
ロルの顔は一瞬にして真っ赤に染まり、どうしていいか分からず完全に狼狽した。
「ま、祭さん……!? あ、あの、えっ?」
ロルの顔から火が出そうなほどの慌てぶりとは対照的に、祭は極めて冷静だった。彼女はその跳動する心臓の音に静かに耳を澄ませ、ロルからは見えない角度で、今にも泣き出しそうな、それでいて安堵に満ちた笑みを浮かべた。
(生きている……本当によかった……)
誰にも聞こえないほどの吐息のような声でそう呟くと、彼女はすぐに立ち上がり、くるりと背を向けた。素早く衣服の乱れを整え、指を首筋のツボに押し当てると、瞬く間にいつもの厳格な表情へと戻った。
「ですが、もしもいつか、あなたがそのことについて話す気になった時は、私は……とても嬉しく思うでしょうね。失礼しました、面会時間は終了です。そろそろ職務に戻らなければ」
「あ……はい。祭さん、お忙しい中お見舞いに来ていただき、本当にありがとうございました」
部屋を出る直前、祭は入り口のドアの前で足を止めた。そして不意に振り返ると、背筋を真っ直ぐに伸ばし、両足を揃え、指先を耳の横にピタリと添えた。
「祭さん?」
「負傷者数名、命に別状なし。死亡者、ゼロ」
祭の声は、今まで聞いたどんな時よりも澄み渡っていた。
「事件の規模から考えれば、これは奇跡としか言いようのない結果です。私は――連邦警察の一員として、あなたに心からの感謝と、最大の敬意を表します」
その美しい顔には、微かな微笑みが浮かんでいた。その光景に、ロルは思わず目を丸くし、一瞬呼吸をするのすら忘れてしまった。
「ロルさん、本当にお疲れ様でした。私もこの事件の功績に見合うだけの立派な警察官になれるよう努力します。次回もまた、よろしくお願いしますね」
今回のような連邦の威信を高められる絶好の機会において、連邦政府がその功績を、一介の道具屋の店員などに与えるはずがない。
だからこそ連邦は、当然の権利とばかりに、この大事件の解決を祭の手柄としたのだ。大事件を解決したことで、今後上層部から彼女に向けられる期待は、増えることはあっても減ることはないだろう。
だが、祭ならきっと大丈夫だ。
「私個人としては、次回がないことを切に願いますよ」
ロルはいつもの自信に満ちた笑みを作り、彼女と共におかしく笑い合った。その後、彼女も大型バイクに跨り、中町区へと続く道を颯爽と駆け抜けていった。




