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ハイム道具屋の日常手記 ~巨大都市の片隅の忘れ去られたボロ店舗。今日も『依頼達成率100%』を掲げ、のんびりゆるく営業中  作者: 夜眠
第1章:龍王祭の騒動

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6話:兄妹の日常 1

ソファでスマホをスクロールしているうちに、密かに睡魔が押し寄せてきた。ふと視線を上げて木壁の時計を見ると、針はもうすぐ正午を指そうとしていた。店の中から外を眺めると、強烈な太陽の光が通り全体を焼き焦がさんばかりに照りつけている。


ガラス越しでさえその猛烈な熱気が伝わってくるほどだ。古びているとはいえ、このハイム道具屋にクーラーがあって本当に良かった。


ロルの予想通り、朝のカップルの依頼人以降、店には一人として客が訪れなかった。依頼人も来なければ、魔道具を買いに来る客もいない。


なにせここは下町区との境界という死に体のような立地だ。そもそもこの店の存在を知っている人間すら少ないのだろう。


だが、それはそれで悪くない。客が来なければ、こうしてソファに寝転がってのんびりとサボることができるからだ。


ただ一つ、ある悩みを抱えていることさえ除けば。


そんな怠惰なロルとは対照的に、ライラは報告書の作成を終えると、学校から出された夏休みの宿題を広げ、狭いカウンターでペンを走らせていた。分からない問題にぶつかると、パソコンで熱心に資料を検索している。


そのあまりの真面目さに、ロルの良心はチクチクと痛み始めた。さすがにこれ以上サボっているのは気が引けて、彼は起き上がり、大きく伸びをした。


「ライラ、もうすぐお昼ですよ。何か食べたいものはありますか?」


ロルの言葉を聞いて、ライラはパソコンのモニターの右下で時間を確認し、耳につけていた白いワイヤレスイヤホンを外した。


「うーん……何か食べるものあったっけ?」


ライラは軽く目頭を押さえた。宿題の難問に頭を悩ませていたのか、その眉間には微かな皺が寄っている。


「車の冷蔵庫にまだ少し食材が残っているはずですが。普段のお昼はデリバリーを頼むことが多いですが、今日は私の手料理にしますか? それともデリバリー?」


「デリバリーでいいよ。一応まだ就業時間中だし、わざわざ車に戻って料理するのは良くないでしょ」


「相変わらず真面目ですね〜」


ロルはスマホでデリバリーのサイトを開き、カウンターへ移動してライラの隣に座った。二人で一緒に画面を覗き込む。


「これはどうですか? なかなか美味しそうですよ」


「高すぎるよ。もっと安いのでいい」


ライラはロルの肩に頭を預けながら画面を見つめ、どれにするかひどく迷っている様子だった。


彼女が迷うのも無理はない。ライラはその華奢な見た目に反して、ロルの三倍は食べるのだ。一般人がお弁当を一つ食べるなら、彼女は三つ食べてようやく腹が満たされる。だからこそ、注文する時はいつも値段をひどく気にするのだ。


ロルとしては、ライラには好きなだけ食べさせてやりたいと思っている。なにしろ彼女はまだ成長期なのだから、十分な栄養が必要不可欠だ。


「そういえば、さっき兄さんが鬼人さんに何かこっそり渡しているのを見たんだけど。羽根の腕輪の他にも、鬼人さんは何か注文してたの?」


「おや? ライラ、よく見ていましたね。観察眼が鋭いですよ――ちょっと待ってください、まさかあの獣人のお姉さんにもバレていませんよね?」


「ううん、獣人のお姉さんは気づいてなかったと思うよ」


「ふう、なら良かったです。あの小さな箱に入っていたのは指輪ですよ。鬼人さんは今日、あの腕輪を受け取った流れでプロポーズするつもりだったんです」


「えっ! 本当に!?」


ロルは事もなげに言ったが、ライラはその言葉を聞き逃さなかった。目を丸くして、ひどく驚いた表情を見せる。


「ええ。ですから、あの指輪に関する報告書の心配は無用ですよ。もう私が書き終わっていますから」


「兄さん、面倒くさがりだけど、報告書を書くのだけは私より上手いもんね。ちっとも心配してないよ」


「最初の一言は余計ですよ」


少女はくすっと笑い声を漏らし、珍しく安堵と喜びに満ちた眼差しを向けた。


「本当に良かった……鬼人さん、成功するといいな」


「まあ、成功率は九割九分間違いないでしょう。あの鬼人さん、普段はオドオドしてますが、絶対にここぞという時には男を見せるタイプですよ」


「また兄さんの知ったかぶり?」


「兄さんは知ってるんだよ。」


ライラは未だに疑わしそうな視線を向けたが、それ以上は追及せず、微かに耳を動かして適当に相槌を打つと、再びデリバリーのサイトへと視線を戻した。


「でも、全然思いつかなかったな。魔道具の指輪でプロポーズするなんて、ネットでもあんまり聞いたことないよ」


「そりゃあそうですよ。魔道具の指輪はサイズが小さい分、付与魔法をかける難易度が跳ね上がりますから。おまけに細工も複雑で、微調整を繰り返さなければなりません。相当な腕を持つ職人が作らなければ、大抵はただの役に立たない指輪になってしまいますからね」


「珍しいね。兄さんが魔道具のことをちゃんと覚えてるなんて」


「あれはものすごく高価な品なんですから当たり前ですよ! あのプロポーズの指輪は妖精の羽根の欠片で作られていて、他者の幸福を祈る効果が込められているんです。お値段も相当なものですよ。あの獣人のお姉さんが羨ましいくらいです!」


「兄さんはすぐにお金のことばかり考えるんだから」


「妹よ、お金はとても素晴らしいものですよ!」


ライラはロルの拝金主義な考え方に呆れつつも、パソコンに届いた通知音に気を引かれた。彼女はパソコンに向き直り、誰かへの返信を打ち始めた。


「だって、私たち最近すごく金欠じゃない。全部兄さんが考えたあの看板のせいだよ。『成功率100%の万事屋』なんて、どう考えたって詐欺にしか見えないもん」


「可愛い妹よ、あれでも兄さんが知恵を振り絞って考え出したキャッチコピーなんですよ。もう少し手心を加えて批判してくれませんかね」


「じゃあ、もし兄さんが通りすがりにあの看板を見たらどう思う?」


「どう見ても詐欺ですね。絶対に無駄金を使うのはやめなさいと妹に忠告します」


ライラがジト目で無言の圧力をかけてきたため、ロルは慌てて弁明した。


「待ってください! でも私が言っていることは事実ですよ! うちの依頼成功率は正真正銘の100%なんですから!」


苦しい言い訳ではあるが、実際、ロルがハイム道具屋で働き始めてから現在に至るまで、十五件の依頼を受けてきた。途中で様々なトラブルに見舞われることはあっても、最終的にはすべて完璧に依頼を達成しているのだ。


「それは否定しないけど……でもこのままだと、今月の帳簿は完全に赤字だよ」


ライラは心配そうに深いため息をついた。


そう、この仕事は普段はとても楽なのだが、問題がある。ロルは決してハイム道具屋のオーナーではなく、ただ雇われている一介の店員に過ぎないのだ。


だからこそ、いくら普段が暇だろうと、一定の営業ノルマというプレッシャーは存在する。それが現在のロルにとって最大の悩みの種だった。


「そ、それは……兄さんがなんとかしますから! 安心してください、私はよく失敗をやらかしますが、最終的にはいつもなんとかなっているじゃないですか!」


「まあ、それも本当なんだけどね……。分かった、兄さんを信じるよ。それより――」


ライラはメッセージの返信を終えると、机に広げていた宿題を鞄にしまい始めた。


「マリーナさんから、今日中に帳簿の報告に来るようにって。兄さん、心の準備はできてる?」


その偉大なる名前を聞いた瞬間、ロルの顔面から血の気が引き、声は情けなく震え始めた。


「え? な、なんでそんな急に? こ、この前行ったばかりじゃないですか?」


「兄さん、あれはもう一ヶ月前の話だよ。さっきマリーナさんからメッセージが来て、今日中に必ず顔を出すようにって」


マリーナ――彼女こそがハイム道具屋の真の所有者であり、ロルの雇い主である。


一年前、マフィロ兄妹がエイブダムに流れ着いたばかりの頃、二人に仕事を与えてくれた大恩人だ。彼女のおかげでライラも学校に通えるようになったのだが、しかし——。


「マジですか? どうにかして行かずに済ませられませんか……? 今日はひどく体調が悪いとか言って……」


「兄さん、そんな小細工がマリーナさんに通用すると思う?」


(本当に、彼女だけは恐ろしすぎるんですよ!)


しかし、心の中でどれほど拒絶しようとも、現実というものは無情にも人に運命を受け入れさせるのだ。


「夕方から、何か依頼の予約は入っていませんよね……?」


「今のところ、何もないよ」


最後の希望はあっけなく海のもくずと消え、ロルは無力なため息をつくしかなかった。


「……今日は店仕舞いにしましょう。準備ができたら出発しますよ……」


「うん、分かった……。死なないでね、兄さん……」


「そんなこと言わないでください! 本当に自分が死地に赴くような気分になってきますから!」


くすくすと笑うライラを横目に、ロルは観念して店の鍵をかけ、彼女と一緒にキャンピングカーへ戻った。そしてエンジンをかけ、中町区の繁華街へと向けて車を走らせたのだった。

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