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65話:龍王祭の騒動7

暗闇の中、オーランドはゆっくりと拍手を送った。その音が、闘技場のような空間に不気味に木霊する。


「ええ、本当に完璧な推理ですね。そして私も、ある一つの事実を確認できました――」


次の瞬間、空間全体を沈黙が支配し、水滴の落ちる音と足音だけが無限に引き伸ばされたように響き渡った。ロルはオーランドの傍で蠢く触手に全神経を集中させ、いつでも来るであろう攻撃に備えていた。


ふと、何かが圧縮され、極限まで張り詰めるような音がロルの耳を掠めた。


「あなたは下等生物ではなく、『邪魔な生物』だったのですね」


言葉が終わるか終わらないかのうちに、ロルの背後の壁から、岩が弾け飛ぶような爆音が轟いた。


ロルが振り返ろうとしたその刹那、鋭利な触手が再び彼の腹部を貫き、彼をそのまま石壁に縫い付けた。


凄まじい激痛に身体が痙攣し、口から大量の鮮血が噴き出す。


無意識に腕を上げ、再び聖魔法を放とうとする――しかし、何も起きなかった。


「……!」


その瞬間、ロルはかつて自分がクリスに語った言葉を思い出していた。


『魔道具というのは、元々の基礎の上に強化バフをかけるものです。もし最初の数字がゼロやマイナスであれば、いくら強化を重ねても良い結果は得られません』


その言葉は、他ならぬ自分自身に向けられたものだった。魔力を持たない人間は、どう足掻いても、魔力の充填されていない魔道具を使うことなどできないのだ。


『十字架の手袋』に込められていた五発の魔力は、すでに使い果たしていた。今のそれは、ただの古びた手袋に過ぎない。


(……油断した。隠し扉の存在を知らなかったにせよ、この空間は元々オーランドが侵入者を迎撃するために用意した場所だったんだ。事前に地形を調べ、罠を張っていることなど、容易に予想できたはずなのに)


オーランドは意図的に足音でロルの注意を前方に引きつけ、同時に背後の石壁の裏から触手による奇襲を仕掛けたのだ。


先ほど奴が腹を抱えて笑っていたのは、この結末をとうに予見していたからだ。


「マフェロさんの言う通りですよ。これほど見事な推理を披露していただいたのです。私も、ふさわしい返礼をしなければなりませんからね」


オーランドは笑みを浮かべながら、罠に落ちた獲物に向かってゆっくりと歩み寄ってきた。ロルは頭の中で、バックパックの中にまだ使える魔道具が残っていないか必死に思考を巡らせたが、彼の手はすでに力なく垂れ下がっていた。


「マフェロさん、疑問に思ったことはありませんか? なぜ辺境の小さな教会に、本来なら高い地位にいるはずの神父が派遣されているのかを」


確かにそうだ。なぜ辺境の教会に、聖教帝国において強大な権力を持つはずの神父がいるのか。


てっきりオーランド自身が志願して辺境へ赴いたのだと推測していたが、どうやらそういうわけではないらしい。


「教えて差し上げましょう」


オーランドの声は低く澄み渡り、まるで祭壇で聖書を朗読しているかのようだった。


「私のフルネームは――オーランド・エヴァーガーデン。聖教帝国の貴族の一人です。本来なら、私は他の貴族たちと共に、聖教の中心である殿堂に立つべき存在でした……。それなのに、私はあんな荒れ果てた辺境の小教会に追いやられたのです!」


その言葉を口にした瞬間、オーランドは激高し、ロルの腹部に刺さった触手を容赦なく抉るように捻った。激痛が荒波のように押し寄せる。


「なぜだか分かりますか? 理由は至極単純ですよ。私が生まれつき『魔力』に乏しかったからです! たったそれだけの理由で、私は神父の中の汚点として扱われた!」


(……聖教帝国では、人の貴賤を魔力の量で評価しているのか?)


そういった風習がないわけではない。魔法を主体とする別の国家でも、生まれ持った魔力の総量を重んじ、それによって人間の等級を分けるような制度が存在している。


「誰も彼もが魔力を賛美する! 魔力! 魔力だと!」

オーランドは歯を食いしばり、暗闇を引き裂くような声で叫んだ。

「私は、あんな下等生物どもよりも遥かに聡明だ! それなのに追放された! そして奴らは――私よりも無能なゴミ屑どもは、聖教の中心で安う安うとふんぞり返っている! この不公平が、あなたに理解できますか! マフェロさん!」


触手が次々とロルの四肢や胴体に突き刺さり、彼の身体は完全に壁に固定された。


痛みが幾重にも重なり、やがて感覚が麻痺し始めた。ロルの呼吸は短く急迫し、胸が激しく上下するが、十分な空気を肺に吸い込むことができない。


意識が徐々に薄れていく中、彼の瞳に、あの薄亜麻色の巻き毛がようやくはっきりと映った。


皮肉なことに、オーランドの表情は、かつて二人が歓談した時と同じように、ひどく穏やかで優しかった。


「ああ……申し訳ありません。少し感情的になってしまいましたね。だからこそ、私は全ての希望を、龍王祭の伝説に託すことにしたのです。マフェロさんも聞いたことがあるでしょう?」


ロルは無言のままだった。


次の瞬間、触手がさらに深く肉に食い込み、ロルに僅かに残された力で返答することを強要した。


「……慈愛の巨竜が……子供の姿に化けて……群衆に紛れ込むという……あれのことか……?」


「その通り! さすがはマフェロさんだ! 常に要点を正確に掴んでいらっしゃる! ですが、あなたの知るバージョンは不完全なのですよ」


彼の優しい語り口は、まるで教師が子供に物語を読み聞かせているかのようだった。


「慈愛の巨竜は子供の姿に化け、人々に混じって共に祭りを祝う。実はこの伝説には、続きがあるのです。言い伝えによれば、彼女は祭りの最中に一人の幸運な人間を選び、一つだけ願いを叶える機会を与えるのだと」


「……その願いで……自分が生まれつき……強大な魔力を持つように……変えるつもりか……?」


「その通りです! そうすれば、私は聖教の中心へ戻ることができる! 安心してください、私は恩を忘れるような人間ではありません! 聖教の中心に返り咲いた暁には、私がしばらく滞在する栄誉を与えてやったこの小教会にも、すぐに多額の資金を援助してあげますから!」


「……それが……子供たちの誘拐と……何の関係がある……? たかが伝説なら……運に任せるしか……」


オーランドは、さも愚かな質問を聞いたと言わんばかりに、狂ったように笑い出した。彼の表情から優しさは消え失せ、呪いによって鮮血に染まった瞳には、想像を絶する狂熱が宿っていた。


「間違っていますよ、マフェロさん。私は彼女を探し出すつもりなど毛頭ありません――向こうから、私の元へ来るように仕向けるのです!」


彼は両手を高く掲げた。その瞳には、広大な天空が映っているかのようだった。


「もし彼女が本当に『慈愛』の巨竜であるならば、子供たちの泣き叫ぶ声や苦痛を見過ごせるはずがない! 子供たちが毒に蝕まれ、徐々に枯れ果てていく姿を見せつければ、彼女は必ず姿を現す! そして、私の前にひれ伏すことになるのです!」


オーランドの笑みには狂気だけでなく、子供のような純真さすら混じっていた。


(……本当に……ただの狂人だな……)


「すべては完璧です! 私が願いを叶えれば、聖教の中心に戻れるだけでなく、子供たちにもより多くの資源を分け与えることができる! たとえその過程で何人かの命が犠牲になったとしても、それは必要な代償というものです! これほど美しい光景が、他にありますか!?」


オーランドは顔を近づけ、ロルと視線を合わせた。その興奮しきった笑顔は、まるで親に褒められようとする子供のようだった。


「悪いが……その美学は……私には……少し理解できそうにない……」


(諦めろ。そんなやり方で上手くいくはずがない。伝説が真実かどうかはさておき、そんな外道な真似をして、『慈愛』で名高い巨竜が、お前に願いを叶える機会を与えると本気で思っているのか?)


(むしろ、ブートに尊敬され、子供たちに慕われていた『神父オーランド』のままでいた方が、まだ選ばれる可能性があっただろうに)


その言葉を口にしてやりたかったが、彼にはもう、それを声に出す力は残っていなかった。視界はすでに暗転し、周囲の音も途切れ途切れになって消えていく。脳裏に浮かんだのは、暗闇ではなく、花火の残像だった。


(今は……何をしているんだっけ……分からない……そうだ……花火だ……花火を見に行かなくちゃ……約束、したんだから……)


(ライラ……)


「……そうですか。それは本当に残念です」


オーランドは低く溜息をつき、一瞬だけ失望の色を浮かべた。そして、唯一貫いていなかった心臓めがけて、触手を振り上げた。


「私と同じ側の人間として、マフェロさんなら理解してくれると思っていたのですが……」


軽く振り下ろされた一撃が、ロルの胸を完全に貫いた。轟音が下水道全体を震わせ、鮮血が四方八方に飛び散る。


顔に浴びた血をハンカチで不快そうに拭き取ると、オーランドは再び笑みを浮かべた。


「少し時間をかけすぎてしまったようですね。そろそろ慈愛の巨竜をお迎えに行かなければ。これ以上お話しできなくて申し訳ありません。でも、マフェロさんとのおしゃべりは本当に楽しかったですよ――ああ、もう聞こえていませんでしたね?」


壁に磔にされた死体はすでに息絶え、空虚な瞳が漆黒の深淵を見つめていた。オーランドがゆっくりと触手を引き抜くと、死体は水たまりの上へ落下し、鈍い水音を立てた。


「おやすみなさい、マフェロさん」


オーランドは一度も振り返ることなく、声なき屍だけを静寂の下水道に残し、そのまま歩み去っていった。

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