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星と丸の王国  作者: 藤木美佐衛
28/41

第28話 騎士と前歯

 –未知流–


 オーティスの喪が明けるのを待って、慶太と私は再び王宮を訪れた。

 オーティスが馬車で迎えに来てくれた。

「わざわざお迎えすみません」

「いや、僕がいないと王宮に入れないだろ」


 今日のオーティスのいでたちは、小豆あずき色の長めの上着に黒いズボンだった。中にはスタンドカラーのシャツを着ている。黒いリボンは付けていなかった。


 馬車の中で真正面に座られ、私は乗っている間中ドキドキが止まらなかった。

(イケメンすぎる)

 慶太はずっと窓の外を眺めていた。


 ブライスコート伯爵家の馬車の乗り心地は快適だった。王宮までは緩い上り坂を約一時間と二十分。帰りは下りなので確か一時間とちょっとだったはず。


 前にも後ろにも数台の馬車がいたが、渋滞というほどではなく、ずっと同じ速度で運行していた。時々他の馬車とすれ違ったけど、徒歩で移動する人は一人も見なかった。


「この坂を歩いて登る人はいないのですか」

 素朴な疑問を投げかけてみた。

「この道は王宮に行く人か、王宮の下の公爵家に行く人しか使わないからな」


「なるほど、モートデルレーン家に行くにもこの道だったですね」

「その名前は聞くのも虫酸むしずが走る」

 オーティスが顔をしかめた。

「ごめんなさい」

「いや、済まない。君のせいではない」


 城壁の入り口で二台の馬車が入城手続きをしていたので少し待たされたが、私たちはオーティスの顔パスで王宮にすんなり入れた。しょっちゅう出入りしているのだろう。さすが幼馴染みだ。

 

 今回は、初めから国王の私室に通され、すぐにお茶が出された。警備の為か、腰から刀剣を下げた騎士が一人室内に立ったままだった。

 国王はいなかった。先程の馬車の人たちは国王に謁見に来たのかも知れない。何かの報告か、それとも陳情なのかな。


 暫く三人で雑談していると、国王が側近と共に入って来た。

 国王は、ゆったりとしたシャツにピッタリしたズボンにブーツといういでたちだった。王冠とマントは何処かで脱いできたのだろう。


「やあ、待たせたね」

 国王にもお茶が運ばれてきて、側近と騎士は退室した。


 私たち三人は国王と向かい合うように座り直した。

「お母上のことは、ご愁傷様だったね」

「痛み入ります」

「マリエンヌも葬儀には参列出来たんだろ」

「うん、それでいろいろ聞けたから、今日来たんだ」

「話してくれ」



 オーティスは、ルイードを襲った犯人が人買いの男かも知れないという情報と、ロイスと監禁されている三人の奴隷はいずれもモートデルレーン家の領民ではないという情報を伝えた。


「それと、マリエンヌがひどやつれていて‥‥‥」

 オーティスは、声を詰まらせた。

「あれからまた幽閉されていると考えたら、心配と怒りで僕までどうかなりそうだ」

 肩を震わせうつむいて涙を拭ったように見えた。


「オーティス‥‥‥」

 国王は立ち上がってオーティスの隣に来て座り、彼を抱きしめた。

「俺がきっと何とかしてやる」


「ルイード殺しの依頼、人身売買、奴隷監禁、この三つの罪をあばけば、公爵及びクリスタン卿は捕らえて投獄か、王都追放にできる。そうしたらマリエンヌを取り返す事ができるさ」

 国王は自信たっぷりに言い放った。

「ありがとう、ジョリー」

「礼は片が付いた後だ、オーティス」


「早速、段取りだ。おっとその前に」

 国王は、ドアの外に大声で呼びかけた。

「アリアム、いるんだろう。入ってこい」



 –慶太−


 アリアムと呼ばれたのは、先ほどまでこの部屋を警備していた騎士だった。

「アリアムは、俺の片腕だ」

 国王が紹介した。


「お見知りおきを」

 アリアムは言葉少なに挨拶した。歳は四十くらいか、俺たち三十五歳組よりも年上に見えた。俺と未知流も自己紹介した。異世界人ということは、事前に伝わっていたようだ。オーティスは既に顔見知りだった。


 国王はアリアムと共に、再び俺たちの向かいに座った。アリアムは座る前に剣をベルトから抜いて、自分の隣に置いた。


「こいつは、俺の家臣の中でも一番信頼の置ける奴だ。こいつがいろいろ動いてくれるから、事の経緯を話しておこう」


 国王と俺たちは、代わる代わる事件のあらましをアリアムに伝えた。アリアムは、一度も口を挟まずにじっと耳を傾けていた。


「まずは、ルイード司教を襲った犯人を探そう。その人買いの特徴は分かっているのか」

 国王がオーティスに尋ねた。

「マリエンヌが言うには、いつもフードを被っていて顔はよく見えないけど、前歯が一本無いのははっきり見えるらしい」


「俺もロイスに聞きました。六歳の時の記憶だけど、前歯がなかったって」

 俺は、オーティスから話を聞いたあと、すぐに孤児院に行ってロイスに確認していた。


「マリエンヌはいつもって言ったのですか。その人買いは、よく公爵家に顔を出すんですね」

(未知流探偵、さすがいいところに気が付いたな)


「ああ、二、三ヶ月に一度くらい顔を出して、こんな奴隷を買わないかって連れてくるらしい」

「じゃあ奴隷は増えてる?」

「いや、変わらず三人らしい。役に立たない者は買わないんだろ。ああ、でも彼女が幽閉されてからは分からないが」


「あと、ルイードが昨日思い出したんですが、右目が濁っていたらしいです」

 未知流が報告した。

「それは凄い証拠じゃないか」



 ルイードが犯人と対峙たいじした時、左右の目に何か違和感を感じていたのだが、暗かったしそれが何か分からず黙っていた。昨日、礼拝に訪れた地域のご婦人の目を見て違和感の正体が分かり、未知流に伝えたらしい。


「そのご婦人は、片方の目が病気で白く濁っていて、光を反射しなかったのです。それと同じように犯人の右目も光を反射しなかったから違和感を感じたのです」


「身長百六十五センチくらい。前歯が一本なくて、右目が濁っている男、かなり特徴が揃ったな」

 オーティスは、少し元気を取り戻したようだ。


「では、公爵家を見張っていれば、その男を捕えることが出来そうだ」

 ジョルテロア国王陛下はオーティスの方を見てニッと微笑んだ。

「そこは俺に任せろ。コイツがいい働きをしてくれる」

 王様は、アリアムの背中を叩いた。


「捕えたあとは、そいつが犯人かどうかとクリスタン卿の依頼でやったのかを吐かせればいい」

 国王の仕切りで話はどんどん進む。


「犯人かどうかは、特徴の他にも指紋と靴跡で判定出来ます」

 未知流探偵が言った。

「そうだったな。だが本当に分かるのか。拷問で吐かせてもいいんだぞ」

 この時代、それが常套じょうとう手段なんだろう。


「証拠を突きつけて、自白させる方がいいと思います」

「何故だ」

「証拠は不動だからです」

(探偵、カッコいい〜)


「どういう事だ?」

「拷問で吐かせても、拷問されたから仕方なくって言うことが出来るけど、証拠があれば言い逃れはできません」

「そうか。では、犯人を捕らえたら、教会に連れて行こうか」

「そうですね。司教に面通しも出来ますし」


「めんとおし?」

(ほらまた、分からない言葉を使うと説明が面倒じゃん、探偵さんよ)


「司教に犯人の顔を見てもらう事です」

「なるほど、それを面通しって言うんだな。カッコいいな」


 俺はもう、この素直で正直な王様を大好きになっていた。あ、変な意味ではなく。


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