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【完結】百合なペットと二人暮らし  作者: くもくも
2章 旅行にはペットも連れて
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11. 記憶の中よりも

◇◇◇◇◇


 これは、わたしがようやく思い出した、あの日の記憶。

 キナコに出会ったあの日の夜のことだ。

 


 なさけなく泥酔した私は、自分のアパートに、出会ったばかりのキナコをなし崩し的に連れ込んでいた。

 着ていたスーツやら下着やらをリビングの床に脱ぎ捨て、特に自信があるわけでもない裸体をあらわにしていた。


「ち、ちょっとおねーさん。居酒屋で話してた私の性癖覚えてます? わたし、我慢できませんよ? いただいちゃいますよ?」


 私に肩を貸してくれていたキナコは、慌てたように自分も服を脱ぎ捨てていった。


 居酒屋での話とやらまでは思い出せない。


 しかも記憶の中のキナコの裸は、残念ながら霞がかかったようにぼんやりしている。

 めちゃくちゃきれいだったことは間違いないだろうけれど。


「うへへ、あなたきれいなからだだねえ。わたしがぺろぺろしてあげるから、むこうのおへやのべっどにいこうねえ」


 うわあ、気持ち悪い発言……。

 しかし間違いなくこんな感じのことを言ったはずだ。この私の口が。


 最悪。



 そこからどうやってベッドに入ったのかはいまいち思い出せないが、相手を押し倒して上になっていたのは私の方だ。

 下になったキナコの、照れているような、困惑しているような複雑な表情に、無性にゾクゾクしたのを覚えている。


「うへへ、あなたはきょうからわたしのぺっとなんだからね! これからまいにち、わたしがきもちよくしてあげるんだから! にゃんにゃんいわせてあげちゃうよ!」


 ほんと最悪! ゲスか私は!

 ペットって、そっち方向の意味だったんかい!


 女同士での経験など全く無かったにも関わらず、なぜか強気に唇を奪おうとした私は、キナコに肩を抑えられ、あと一歩のところでキスを逃していた。


 顔を反らして、目をぎゅっと瞑っていたキナコ。

 そこから先のことは、部屋が暗かったからなのか、ほとんど会話だけしか思い出せない。



「……や、やっぱりだめ。きちんと、恋人になってからじゃなきゃ、こういうことはできません」


「な、なんだよう! さっきまで乗り気だったくせに! あなたは私のペットなの! ペットは恋人以上でしょ! エッチなこともするったらするの! しかもペットは家族以上なんだから、今日からはずっとずーっと、一緒に暮らすの!」


 ……バカか私は。


「じゃあ、おねーさんはわたしの飼い主で、私の恋人にもなってくれるんですね?」


 記憶の中のキナコは、私の顔色を伺うような、少し怖がっているみたいな、不安気な表情をしている。


「だからそう言ってるでしょ! 今日からあなたは私のペットなの! 恋人なの! 家族なの! ほら、早くちゅーさせて! ペロペロさせて!」


 正真正銘のクズ。

 発言がいちいち気持ち悪すぎる。


 だけどその言葉で、キナコがすごく嬉しそうな顔になって、自分から私にキスしてくれたことは

はっきり思い出せる。



 そのあとのめくるめく時間のことは、ぼんやりとしか思い出せないが、キナコにもかなり喜んでいただけたような記憶が……無いわけでもないような。

 もちろん私のほうも、たいそう満足させていただいたような記憶がうっすらと。



◇◇◇◇◇



 時は戻って温泉旅館のお布団の上。


 私ははだけた浴衣のキナコの上から速やかに引き下がり、土下座の姿勢を取っていた。


「キナコ様、たぶん私、最初に会った日の夜のこと、いくらか思い出しました」


 急に土下座に転じた私を見て、キナコは明らかに動揺していたが、首をかしげつつ体を起こし、はだけた浴衣を軽く整えていた。


「き、急にどうしたのつばめちゃん?」


 声からも、キナコの困惑している感じが伝わってくる。


「まず、あの日は本当に申し訳ございませんでした。しかもお酒に溺れていて、その記憶を無くしたこと、重ね重ね誠に申し訳ございません。……ただ、あの日よりもずっと、今の私は真剣に、キナコが大好きです。大好きなんです。ペットとしても、恋愛的な意味でも」


 キナコは何も言わず、照れたような顔でそっぽを向いている。

 私は少しだけ顔を上げて、キナコの顔色を伺っていた。


「……ねえキナコ、確認だけど、私たちって、本当は初日からお付き合いしてた? その、もちろん恋愛的な意味でね」


 私のクズな質問に、キナコはため息をついて、でもどこか少し嬉しそうな明るい表情になって、こちらに向きなおった。


「あんなことしといて、翌朝に記憶がなくなってるつばめちゃんを見たとき、わたしがどんな気持ちになったかわかります?」


 ……申し訳ない。本当に申し訳ない。


 私は上目遣いで、キナコにさりげなくすり寄っていった。


「あの、死なない程度になら、叩いたり蹴ったりしてくれてもいいんだよ?」


「……ふふ、つばめちゃんのばーか。絶対反省してないでしょ」


 キナコはふんわりと笑った。

 優しくて、柔らかくて、暖かい、私が一番お気に入りの表情で。


 そのままキナコは、私の両腕を抑えて、今度は逆に私をお布団に押し倒すと、またキスを、一回、二回、三回と続けた。


 ずっと、こうしたいと思っていた。


「ふふ。でも、もういいよ。全部どうだっていいです。今、つばめちゃんがわたしをちゃんと好きでいてくれてるんだったら、他はどうだっていいよ」


 またキスをする。どちらからというわけでもなく、抑えきれないように、四回、五回。


 キナコは私に馬乗りななったまま、今度は自分から浴衣を脱ぎ捨てた。


 布団の上にふわりと広がる浴衣。

 裸のキナコ。


 いつからか、ずっと、キナコとこうなりたいと思っていた。

 きっと、私だけじゃなく、キナコも。


「ねえつばめちゃん、早くしましょう? ずっと、あの日からずっと、わたしは我慢してたんだよ?」


 息が苦しくなるくらい、キスを続ける。


 私の上に乗っていたキナコが、いつの間にか私の下になっていて、また気づいたら、今度は並んで横になっている。


 いつのまにか私の浴衣もほとんど脱げていて、抱きしめあったキナコと私、裸の体の境界線が消えていくみたいな感覚になる。

 2章はここまでです。


 なかなかPVが伸びなくて心が折れそうです……。どうか哀れな作者をブクマや評価で応援よろしくお願いいたします。

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